艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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1章が鎮守府全体にまつわる大イベントと時間毎の反応を書きました。
2章は発生するイベント毎に、そこに関わる人々を描きました。
3章ではもっと一人一人に近づいて描写する予定です。
あくまで予定です。大事な事なので2度(ry

そもそも、完結と言った後で足して良いのだろうか?
書いて、誰も気づかなかったらどうしよう?
別の小説として仕立てるべきだろうか?それが気付かれなかったら申し訳ないじゃないか。
しれっと3章書いた方が良いのか?
いっそこのまま終わりと言い張るか。でもこんなに沢山の感想と評価を頂いては・・・
(最初に戻る)

迷いに迷った私に放ったリアル友人の一言。
「もう観念して3章書きなよ」

ソウデスネ。

というわけで、皆さんのノリに驚きつつ喜んでおります。
ありがとうございます。
間違いなく3章は、皆様のおかげで始まります。



第3章 それぞれの時間
時雨の場合(1)


時雨はふと書類から顔を上げて、外を見た。

クリアな海、カラッと晴れた空、真っ白な砂浜。

こんな事を言うと北の方や本国の鎮守府の皆様に申し訳ない気もするが、飽きた。

あまりにも変わり映えしない。

まるで窓ガラスに描かれてるんじゃないかというくらい、毎日同じ景色。

違う所を探す方が難しい。あ、今日は入道雲が1つある。

 

鎮守府どころか深海棲艦や大本営まで巻き込んだ「姫の島」事案から1年。

皆すっかり元通りの運用に戻っていた。

時雨はここ、ソロル鎮守府で事務方という職務についている。

事務方とは言うが、仕事は事務作業や外部への手配に留まらない。

鎮守府では艦娘、妖精、任務娘、売店や食堂の従業員等、大勢が動いている。

誰かと誰かの間に立って交通整理をするという、いわば鎮守府のよろず相談役である。

そんな仕事だから、職務上知ってしまう秘密も多岐に渡る。

各種発注内容、個人の嗜好、果ては提督が脱走した後の宿泊先まで。

ゆえに事務方の長である文月からは

「職務上知りえた秘密を外部に漏らしてはいけませんよ。特に青葉さんには絶対に」

と、言われていた。

 

11時半。

 

時雨は両腕を前に伸ばし、ぎゅうっと背伸びをしてから席を立った。

後30分で昼だが、朝からぶっ通しで仕事をしていたから少し休憩したいと思った。

事務所を出て給湯室をひょいと覗くと、サーバーにコーヒーが残っていた。

あっ、良かった。貰っちゃおう。

食器棚から、底に「しぐれ」と書かれたカップを手に取る。

こここっとコーヒーを注ぎながら、時雨はつらつらと思い出していた。

 

 

 

3年前。ソロル鎮守府に引っ越してすぐの頃。

 

提督が

「誰か事務方の応援を引き受けてくれないか?忙しくなりそうだから頼むよ~」

と呼びかけながら歩いてたのは、前の鎮守府からこの地に引っ越してきた直後の事だった。

時雨は丁度荷解きが済んで休憩していたのだが、真っ直ぐ提督に駆け寄って手を挙げた。

挙げた手が提督の目前に迫ったのと、時雨の並々ならぬ気迫に気圧された提督は、

「あ、ありがとう時雨・・・何か怒ってるか?」

と聞いた。

時雨はじっと提督を見つめると

「引き受けるよ。今すぐに」

と言った。

今度こそヘマはしない。敷波と同じ職場で働くんだ。

 

 

 

7年前、旧鎮守府での事。

 

時雨と敷波は同じ駆逐艦で、着任時期も重なったのですぐに仲良しになった。

同じ艦隊で出撃する事も多く、同じようにLVを上げ、休日が合えば一緒に出掛けたりしていた。

そんなある日、艦娘達の間を1つの噂が流れた。

提督が何日も指示を出していない、死んでしまったかもしれないというのだ。

確かにここ数日、提督が指示し、指揮を執る出撃は一切行われていない。

それに、演習や遠征も本来は日替わりの筈だが、ずっと同じ、基本的なパターンで繰り返されている。

提督の出張や脱走でたまにある事ではあったが、最近提督が外出や脱走したという話もない。

それになにより、秘書艦達が落ち着かない様子でドタバタ走り回っている。

4日前の大雨の夜に提督が長門に土下座していたという噂も微妙に信憑性を帯びてきた。

死んだって・・・まさか何かの責任を取って自決したのか?

艦娘達は今後を不安に思い、同時に聞こえてきた話に青ざめた。

提督が居なくなると鎮守府は取り潰され、所属艦娘は記憶を奪われ、一人一人バラバラに再配属される、と。

時雨と敷波はその話を、食堂で興奮気味に語る白露から聞いた。

白露が去った後、敷波はナポリタンをフォークでくるくる絡め取りながら言った。

 

「ふん!冗談じゃないよ!折角ここまで頑張って来たのにさ!ねえ時雨!」

 

時雨もこくりと頷いた。

「噂が嘘だといいね・・・ところで、そんなに絡めて食べられるのかい?」

「おおっ」

改めて巻き直してから、はむっと口に入れる敷波を時雨は見ていた。

敷波と折角友達になれたのに、離れ離れになるのは嫌だ。ここの記憶が無くなるのも嫌だ。

時雨は時計を見た。今日は夜の遠征当番だから準備しないといけない。資源集めだから帰りは夜中になる。

こんな日は出来れば敷波と行きたいけど、今月は班が違ったから仕方ない。

「僕はそろそろ遠征だから・・・行ってくるね」

「いってらっしゃい!お土産はチーズケーキで良いよ!」

「・・・孤島の資源鉱山のどこにチーズケーキを売ってる店があるのか教えて欲しいな」

「えー、あるかもしれないじゃーん」

「本当にあったら怖いじゃないか」

「しょうがない。じゃあ土産話で我慢するよ~」

「いつもの場所へいつも通りの遠征だよ。そんなに土産話もないよ・・」

「巨大怪獣が出て来たとかさ、隕石が降って来たとかさ」

「土産話の為にそんな経験をしたくないよ」

敷波はニッと笑うと、

「そりゃそうだ。じゃ、気を付けてね~」

と、手を振って送り出してくれた。

 

数時間後。

帰港した時雨は、掲示板に新しい紙が貼られている事に気付いた。

それは筆頭艦娘の長門から全艦娘に向けた通達であった。

時雨は読み進め、最後の1行で目を見開いた。

 

当鎮守府所属の艦娘は、当面の間、下記原則を遵守すること

一.出撃する海域と対象者は全て秘書艦の指示に従うこと

一.高速修復材は使用禁止。修理は指定時間を待つこと

一.軽巡・駆逐艦・潜水艦は別途通知する新班編成にて、遠征任務を主に行うこと

 

尚、増加する事務作業に対応する為、事務方として下記の専属要員を配する

事務方は出撃や遠征等、従来の職務を免除する

 

 事務長 文月

 事務員 不知火、叢雲、敷波

 

 

時雨は補給もそこそこに駆逐艦寮の階段を駆け上がると、敷波の部屋のドアを叩いた。

ガラガラとドアが開き、眠そうに眼を擦る敷波が出てきた。

「あれ・・時雨?なに?チーズケーキ買ってきてくれたの?」

「違う!じ、事務員て何だい!?」

敷波はちらりと部屋を見返した。そこにはすやすやと眠る同室のメンバーが居た。

「んー、ちょっと外行こうよ」

 

寮を離れ、食堂の奥の岸壁まで歩いた後、敷波は話し始めた。

「えっとね時雨、これは内緒にしてほしいんだけど」

「うん」

「今ね、提督は、生きてるけど、全くお仕事してないんだって」

「・・・びょ、病気・・なのかい?」

「病気というより、あまりのショックで寝込んじゃったらしいんだ」

「ショック?」

「第1艦隊が、ほぼ壊滅したらしい」

 

時雨は開いた口が塞がらなかった。あの高練度の第1艦隊が?一体何があったというんだ?

敷波は続けた。

 

「第1艦隊の壊滅も痛いけど、提督が寝込んだ事がバレると大本営が取り潰しに来るらしい」

「え・・・」

「そうならないように、表向き、提督が指示をしているように見せかけなきゃいけない」

「そ・・そうだね・・」

敷波は人差し指をピッと立て、顔を近づけ、小声で続けた。

「具体的には、出撃、演習、遠征の指示と、提督の事務仕事を滞りなくこなさないといけない」

「元々、提督が基本的な指示をし、手続きを秘書艦や艦娘が手伝うのは認められてる」

「だからうちでは、外には手伝ってるって言いながら、指示自体から艦娘がやるんだって」

「指示内容は前から提督の仕事を見てた文月が考えて、私達は諸手続きを手伝う」

「これが事務方計画なんだよ」

時雨が口を開いた。

「でっ、でもっ、何で敷波がやるんだい?艦娘は他にも沢山居るじゃないか」

敷波は時雨を見返しながら言った。

「だってさ、事務方計画が失敗したら私達みんな離れ離れなんだよ?」

「う、うん」

「私は時雨と離れたくない。友達だって事を忘れたくない。その運命の采配を他人任せにしたくない」

「!」

敷波はニカッと笑った。

「だから、アタシがいく。さっき文月に誘われた時、そう言って即答したの」

時雨はまっすぐ敷波を見返した。

「じゃ、じゃあ、僕も行くよ。僕だって!」

すると、敷波は肩をすくめた。

「文月がね、轟沈を確実に避けつつ出撃をこなし、資源も並行して回復させたいって言うんだ」

「うん」

「具体的には出撃は重巡以上で近海を、軽巡、駆逐艦、潜水艦は遠征に特化させるつもりらしい」

「・・・」

「それで、遠征組の休息を考えるとこれ以上事務方は増やせない、キツいけど頑張ろうって言われた」

「・・・」

「時雨の気持ちは嬉しいけど、事務方を増やすのはダメって言われると思う」

時雨は本当に先程まで行っていた遠征が恨めしく思えた。

何でこんな大事な時によりによって・・一緒に居たら無理矢理でも志願したのに!

泣きそうになる時雨に、敷波は慌てた。

「でっ、でもさ!別に特攻隊員になったわけじゃないし!」

「・・・」

「同じ敷地内には居るし、オフが重なれば遊べるし!」

「・・・」

「なっ、泣かないでよ時雨ぇ・・・」

時雨はぐいと腕で涙をふくと、

「・・・もし、事務方が疲れたら僕に言って。いつでも、どんな時でも、交代するから」

と言った。

敷波はにこりと笑うと、

「うん」

と答えた。

 

 


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