艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

15 / 526
file15:引越ノ混乱

4月1日朝、ソロル本島

 

「やーれやれ、やっと到着したわー」

夕張がどさりと荷物を浜辺に下ろす。

 

昨晩、提督を送り出した後。

深夜まで及ぶ壮絶な部屋取り合戦の果てに、艦娘達はソロル本島への移動を開始した。

めいめいの自分の部屋の荷物を背負った訳だが、ここで普段の物持ちの良さが仇となる。

ちなみに店を持つ間宮と鳳翔の荷物は戦艦や重巡など、余力のある物が分担して運んだ。

日頃からおまけしてもらってるからと、こういう所で恩返しする律儀さである。

 

元々女の子ゆえに荷物は多い傾向だが、その中でも特に凶悪なまでに荷物が多いワースト3が

3位:赤城(主に食料)

2位:島風(なんか雑多なもの)

そして栄えある1位が夕張であった。

ちなみに夕張の荷物を占めるのは「データ」である。

発射試験や過去の戦闘シミュレーション結果から、艦娘達から耳にした噂話まで。

「もうそんなデータ要らないでしょうに」

と言われても

「いや、なんかの役に立つ筈。いや、きっと。多分。かもしれない・・・」

と、ブツブツ言いながら捨てないのだ。

おかげでただでさえ遅いのにさらに5ノットも下がってしまった。

苦笑いしつつ妙高と那智が前後に居てくれたのは、単独で居ると危険だからだ。

「ご、ごめんね妙高さん、那智さん」

「ここからは陸地よ。大丈夫?」

「うっ、が、頑張ります・・・」

「全く仕方ないな。1つ貸せ。持ってやろう」

那智は無口だが、ちゃんと見ているしこういう優しさもある。

意外と鎮守府内で好かれている。宝塚歌劇団の男役みたいだからという理由は伏せられているが。

なるほど、確かに男役だ。

夕張は持っているデータの1つを「信憑性がある」に格上げした。

少し離れた所ではまさに珍妙な出来事が起きていたが、それはまた後で。

 

「ぷはーひーしぬー」

15分かけて浜から運び入れた夕張は、足を放り出して口で息をしていた。

「荷物、置いておくぞ」

「あ、那智さん、ありがとうございました」

「これに懲りたら少しは整理するといい」

「うー」

自室としてあてがわれた家は狭いけれどちょっと南国風で木の香りもありオシャレだった。

でも、と夕張は天井を見る。

雨漏り大丈夫かしら?ハードディスクに水がかかったらデータが消えちゃうもの。

「あ、データといえば、深海棲艦の新しい攻撃法。解析続けなきゃ」

そういって仕事を始める夕張に、妙高が

「ジュース置いとくから、休憩するときにでも飲んでね」

といい、ドアを閉めていった。

ありがとうございます。今、超喉渇いてます!

紙パックに入ったレモンジュースをずごごごっと吸いながら、キーを叩くのであった。

 

一方、工廠長は詳細な地質調査結果を元に、資材や工事期間を見積もっていた。

ふむ、丘の上は良いが、資材備蓄庫と交渉部屋が難題だ。

地下洞窟を加工するにしても、鉄筋コンクリで補強しないとこの仕様の値には届かん。

よし、説明してくるか。

 

その頃。

真剣そのものの目で部屋を見回す長門の姿があった。

ぬいぐるみの新しい隠し場所は吟味に吟味を重ねなければならない。

噂は早いうちに消しておかねば。戦艦としての立場というものがある。

他の荷ほどきは全てその後だ。

ぬいぐるみを抱きしめながらああでもないこうでもないと早2時間が経過していたのだが、

「おい、失礼するぞ長門」

「きゃあああああああああああ!」

「なんだなんだ!?着替え中か?」

「ひ、あ、こ、工廠長か、工廠長だな?」

「ああ、そうだが、出直そうか?」

「い、いや、いい。大丈夫だ。入ってくれ」

「解った」

そしてドアを閉めると、声を落として

「長門、ぬいぐるみはどこに仕舞うかと言い過ぎだ。開いた窓から外に聞こえていたぞ」

と、囁いた。

長門の顎がかくんと下がる。

終わった。

隣の家は、青葉だ・・・・

 

「というわけだから、鎮守府全体の完成は4月14日頃になる」

「あぁ・・・」

「それまで大丈夫か、と、聞きに来たんだが・・・」

「あぁ・・・」

「1足す1は?」

「あぁ・・・」

工廠長は立ち上がった。ダメだ。腑抜けてる。

まぁ、事務方の文月に了承を取っておけば良いだろう。

 

文月の部屋は綺麗に片付いていた。

出されたお茶を啜りながら、先程と同じ説明をしていく工廠長。

文月は「それが最善なら、それでお願いしますです~」といった後、

「ところで、どうして長門さんに言わないんですか?」

と、付け加えた。

「いや、長門がな、ぬ・・・」

工廠長は口を閉じた。まだ命は惜しい。

「ぬ、なんですか?」

「い、いや、なんでもない。なんでもないんだ」

「工廠長さん?」

「はい?」

なんだろう、この威圧感。

「この前、霧島さんのまぶたに目を描いたこと、ちゃんと謝りましたか~?」

ぶっとお茶を吹く。何故?何故知ってる!?

きりきりきりと文月を見ると、間近に迫っていた。にこにこしたまま。

「ひっ!?」

「ぬ、なんですか?」

「い、いや」

「仕方ないです、ちょっと霧島さんに」

「勘弁してください」

「ぬ、なんですか?」

すまん、長門。私はバカンスを楽しみたい。それまでは生きていたい。

「お話します」

「素直な態度は長生き出来るのですよ~」

 

 





私は長門教に入信していますが、文月教の信者でもあります。
嘘ではありません。

夕張「ちょっと!これじゃ私ダメオタクじゃん!片付け出来てるとかも書きなさいってば!」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。