艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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file94:姫ノ島(21)

 

11月27日13時 姫の島指揮官室

 

通信のブザーが鳴った。

「姫様」

「何カシラ?」

「敵ノ大艦隊ガ入リ江ノ入口ニ集マリマシタ」

「深海棲艦ハ居ルカシラ?」

「確認出来マセンガ、艦娘ダケデ50隻以上イマス」

「ソウ」

姫は目を瞑った。いよいよ鎮守府の艦隊で総攻撃に出たか。

ふふふ。待っていた。ここが最後の地になるとは思わなかったけれど。

姫は館内放送のスイッチも入れた。

「皆、予定通リ、迎撃作戦ヲ開始シナサイ。コレガ最後ノ戦イヨ」

そして一息置くと、

「全艦焼キ払エ!航空機モ全テ撃墜シロ!跡形ナク潰セ!機関長ノ敵討チヨ!」

これに、島全体の妖精が呼応し、島を揺るがす程の咆哮となった。

 

 

同時刻 第2防空壕(作戦指令室)

 

「てっ、提督!大本営の主力隊と思しき艦娘達が!」

提督は悩みの底から、古鷹の声を聞いてはっと顔を上げた。

すぐさま通信を切り替えた。

「いっ、五十鈴さん!主力隊の攻撃開始ですか!?」

「やっとつながったわね提督。そうよ。今から始めるわ!」

「我々も相当被害を被ってます。あと2艦隊しか居りません」

「大丈夫。私達が残りの勢力を始末してあげる!」

「充分気を付けてください」

「ありがとう。では後で」

 

 

五十鈴の指示は切れ間の無い連続攻撃だった。

戦艦1隻、重巡1隻、軽巡3隻が1班を組み、10班を作る。

各班は所定のコースを航行して砲撃し、帰投。

ポイントは5班が5コースで同時にこれを行い、残る5班は再装填等を行う為、後方で待機する。

攻撃と準備を絶え間なく切り替える事で、島には連続攻撃を与え続ける格好になる。

空母は入り江内側すぐの位置で旋回し続け、絶えず艦載機を発進、着艦、整備、そして発進を繰り返す。

ただし、砲兵力の弱体化と流星の装甲に賭け、確実に爆撃出来るよう、高度は2500mに下げていた。

作戦が開始され、最初の5班が出陣した、まさにその時。

 

 

島から黒い煙が立ち上った。

 

 

艦娘達は、少なくとも最初は、そう思った。

 

 

目を凝らす戦艦達。

発艦した航空機にどこから出た煙かと問う空母達。

 

 

しかし、その時間さえも致命的だった。

 

 

最初に気付いたのは、島と距離を詰めていた第1班の戦艦だった。

彼女は五十鈴に悲鳴にも似た声で緊急警報を発した。

 

 

同時刻 第2防空壕(作戦指令室)

 

防空壕の監視窓から外の様子を見ていた加古は、一瞬目を疑った。

そして、首だけ振り向くと提督を呼んだ。

何故なら足が震えて提督の所まで歩いていけなかったからだ。

「て、てて、提督・・・」

「どうした加古?顔色が真っ青だぞ?」

「そ、外に、航空機が居る」

「そりゃ主力隊の大攻勢が始まってるんだから居るだろう。どうした?」

加古は自分の頬をバシバシとひっぱたくと、金切り声をあげた。

「違う!敵の!信じられない位バカデカイ爆撃機の大編隊が居るっ!」

提督は窓に駆け寄ると、危ないと制する古鷹を振り切って外を見た。

そこには信じられない光景が広がっていた。

提督は通信機のマイクを引っ掴み、叫んだ。

「五十鈴!五十鈴!艦隊を湾の外に出せ!大至急!全滅させられるぞ!」

しかし、五十鈴はその頃、主力隊との通信で忙殺されており、提督からの通信には気付かなかった。

気付いたとしても、全ては手遅れだった。

 

 

大型爆撃機。

それは姫の自信作だった。

絶対的な装甲、柔軟な作戦追従性、圧倒的な破壊力を実現する為の機体。

島のレーダーと協調出来る装備を持ち、優に24時間以上飛行出来、どこまででも追っていく。

最新鋭の攻撃機が総重量6tであるのに対し、大型爆撃機のそれは80tに達する。

8発のターボプロップエンジンを同調させる事は至難の業だが、島の妖精達なら可能だった。

この機体は新開発の2000kg爆弾を26発搭載出来、最短15秒で全弾投下出来る。

この爆弾は海面突入時に誤爆しない信管が組まれており、海上海中問わず攻撃可能だった。

つまり、厚い装甲の戦艦だろうが海底に潜む深海棲艦だろうが、どこに居ようと知った事ではない。

投下すなわち相手の轟沈を意味するのだ。

姫はこの機体に「ピースメーカー」の愛称を与えていた。

我々を火の海に沈めた艦娘も、深海棲艦も皆滅ぼして、妖精に平和な世を取り戻す為の切り札。

だが、もう我々は動く事は出来ない。全てを轟沈させる事は不可能になった。

ならば。

大型爆撃機300機が持つ7800発、計15600tの爆薬をありったけの憎悪を込めてくれてやる!

 

 

主力隊の艦娘達が煙と思ったのは、この大型爆撃機と、護衛の攻撃機が離陸する姿だった。

あまりにも大量で、あまりにも大型であったが故に、航空機と認識出来なかった。

 

 

勝負は、たった20分で終わった。

姫の、一切文句のつけようのない完全勝利だった。

近づいていた艦娘達に爆弾の雨が降り、反撃も出来ないまま次々轟沈していく姿。

主力隊は程なく統制を失い、大パニックになった艦娘達は入り江の狭い入口に殺到。

我先にと脱出を図った艦同士が前後左右から衝突。

身動きが取れなくなった艦娘達の上空を、爆弾の黒い影が塗りつぶしていった。

程なく、黒い影は巨大な赤い炎に変わった。

爆撃機が全弾投下した後も、湾の入り口は轟沈した艦娘達が放つ光が延々と上がり続けていた。

 

姫は窓からこの光景を眺め、静かに微笑んでいた。

最後の最後に勝利したのは我々だ。

あの艦数なら100発も落せば十分だった。

しかし、これが最後。華々しくやりたかった。

実に美しい弔いの花火だった。

艦娘も、深海棲艦も、二度とこの世に迷い出るな。

その時、通信のブザーが鳴った。

 

「爆撃隊長ヨリ姫ヘ、艦娘ノ全轟沈ヲ確認」

「オ疲レ様。貴方達ハ最高ノ仕事ヲシタワ。アリガトウ」

「・・・機関長ニ、報告デキルデショウカ」

「勿論ヨ」

「・・・デハ、コレカラ帰還シマス」

「エエ」

 

爆撃隊との通信を切った途端、再度ブザーが鳴った。誰だ?

「ハイ」

「姫!艦娘ト、深海棲艦ガ、現レマシタ」

一瞬の空白の後、姫は目の前の景色がぐにゃりと歪んだ気がした。

まさか・・・撃ち漏らしたなんて・・・・もうダメだ。全部使いきった。

掠れた声で返した。

「・・・ドコカラ来タッテ言ウノ?地獄?」

「シッカリシテクダサイ!艦娘ハ湾ノ中央部ニ位置シ、深海棲艦ハ島ノ港カラ次々登ッテキマス!」

「・・・モウ航空機ハ無イワ」

「私ハ、攻撃隊6班ノ班長デス」

「?」

「攻撃機ノ6班カラ12班ハ先程離陸シキレズ待機中デス。我々ハイツデモ発進デキマス!」

姫の瞳に光が戻った。

「ホント!?」

「ハイ!我々攻撃機450機ニ命令ヲ!」

姫はカッと目を見開くと、言った。

「全機発進セヨ!島ノ全エリアデノ戦闘行動ヲ許可スル!上陸スル奴ヲ優先!全テ吹ッ飛バセ!」

「ハハッ!」

 

 


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