艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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file14:調査隊ノ誤算

4月1日朝、鎮守府通信棟

 

「では、予定通り車列でこちらに向かっているのだな」

「そうよ。中将は専用車で後ろから2台目。調査隊は先頭から3台に乗ってるわ」

「到着は予定通りか?」

「その筈よ。ところで、長門」

「なんだ?」

「明日の話、予定通りで良いのかしら?」

「うむ。仮の場所ですまないがお越し願えるか?」

「ええ、中将の許可も頂いてるから大丈夫。綺麗な海は楽しみだわ」

「ああ。よろしく頼む」

 

スイッチを切ると長門は通信室の扉に鍵をかけた。

棟を出ると、一度見上げた後、おもむろにインカムに話しかけた。

「青葉、衣笠、準備は済んでいるか?」

「万端であります」

「よくやった」

「恐縮です!」

「予定では残り15分前後だ。古鷹の合図を待て」

「承知しました!」

長門は鎮守府の海の端で、整列する一団に声をかける。

「皆、良く聞いて欲しい。これからの流れは皆理解しているな?」

「はいっ!」

一人の艦娘が歩み出て口を開く。

「あ、あの、長門さん」

「なんだ?」

「えっと、この辺りでうつ伏せに寝ていればいいんですよね?」

「そうだ」

「この塗料、油臭いです」

「潤滑油だからな。すまないが少し勘弁してくれ」

「記憶喪失の人って、動きも変えたほうが良いのでしょうか?」

「いや、嘘をついたり演じる必要は無い。皆知らぬものは知らぬのだからそのまま応じよ」

「これで、先輩方を守れるのですね」

「そうだ。皆、後で落ち合おう。くれぐれも頭部の保護を忘れるなよ」

「はいっ!」

長門は鎮守府に続く道路を見た。この鎮守府は周りに何もない。

調査団よ、せいぜい腰を抜かすが良い。

提督棟を、工廠を、資材置き場を見る。

さらばだ。世話になった。最後がこのような形になりすまない。許せ。

インカムに再度話しかける。

「古鷹」

「はい」

「どうだ?」

「捕捉してます。ほぼ計画通りです」

 

ガタガタと揺れる車に舌打ちしながら、大本営直轄鎮守府調査隊の隊長は後部座席に座っていた。

ちっ。まだ着かんのか。田舎道め。

そして、葉巻の煙を口に含み、勢い良く吐き出した。

運転手が僅かに咳き込むと、運転席を蹴り飛ばした。

「おい、嫌味のつもりか?」

「いえ、滅相もありません。隊長殿」

「ちっ」

運転手は心の中で溜息をついた。葉巻は臭い。さっさとコイツを運んでしまいたい。

帰りも乗せるのが憂鬱だ。

 

「長門さん」

「古鷹、どうした」

「少し車速が上がりました。準備は出来ていますか?」

「あぁ。大丈夫だ。2分前と30秒前、10秒前から数えてくれ」

「了解」

 

中将は車窓から外を見ながら、昨晩、大和から聞いた計画を思い出していた。

「そ、そういう筋書きか。思い切ったな」

「調査隊に正面切ってやるには、これが最速でした」

「うむ、解った」

「中将、どうぞお気をつけて」

「大和。今までの事も含め、すまなかった。許せ」

大和はにっこりと笑った。中将と大和はしっかりと握手した。

そして後続のトラックをミラー越しにちらりと見た。

普段は好かん連中だが、こういう時は頼りになる。

この事件は我が海軍の恥であり私は処分されるだろう。だが、それでも。

中将は、前の車列をにらみつけた。

「病巣は、切って捨てる」

 

「古鷹から青葉、衣笠へ」

「青葉です!」

「到着2分前です」

「了解!」

長門はインカムの声を聞き、遠くに見える鎮守府を睨んだ。

既に海沿いに居るLv1の艦娘達は、防爆ヘルメットを被ってうつ伏せになっていた。

 

「10、9、8、」

青葉と衣笠は、万年筆ほどの大きさのスイッチを取り出し、後ろ端のカバーをあけた。

ずっと肌身離さず持っていたスイッチだ。

カバーの下から赤いボタンが出現する。

 

「2、1、今です!」

青葉と衣笠は、一緒にスイッチを押した。

 

急ブレーキを踏んだ車内では、調査隊の隊長が前の座席にしこたま頭をぶつけ、うめいていた。

シートベルトなぞ必要になるような運転をする奴が悪いと日頃からしていなかったのだ。

怒りで顔が青白くなっている。

 

「き、き、貴様ぁぁぁぁぁ!」

「隊長!鎮守府が!道路が!」

「なん・・・だと?」

 

慌ててドアを開け、後から駆け寄ってきた隊員と鎮守府のほうを見る。

鎮守府から大きな火柱が立ち上り、2度目の爆発が起きていた。

位置からすると工廠付近だ。

 

隊長が慌てて中将の専用車に駆け寄る。

中将の横の窓が僅かに開く。

「中将殿!鎮守府内で爆発がありました。い、如何されますか?」

「提督不在では指揮が取れん。直ちに我々が向かう。憲兵にも伝えよ」

「は、はっ!」

隊長が後続のトラックの運転席に向かって話している様子を見ながら、中将は窓を閉めた。

「上空からの飛来物に注意し、鎮守府に車を進めよ。到着次第消防に連絡せよ」

中将の運転手は急停止した後、先に見える鎮守府の火柱に呆けていたが、はっとしたように

「か、かしこまりました!」

と言った。

 

消防が火を消し止めたのは、それから3時間ほど経ってからだった。

重大事故という事で消防の査察団がすぐに現場検証を始めた。

鎮守府は工廠内で最初の爆発があり、次いで弾薬庫で2度目の爆発が起きた。

工廠、弾薬庫、いずれも建物は元の姿を留めないほどの激しい爆発だった。

事情を聞くと、艦娘達はほぼ全員提督を夜中まで見送った後、そのまま岸壁で眠っていたらしい。

そのおかげで爆発地点の反対側に居り、装甲表面が飛んできた破片で傷ついた者が数名居る程度だった。

しかし。

「ちゅ、中将殿、大変であります」

青ざめた顔で隊長が話しかけてきた。

「聞こうか、隊長」

「調査の結果、艦娘らがいずれもLvが1に下がっております」

「なんだと?」

少しは私も演技出来ているだろうかと、中将は思った。

その落胆がどういう意味かきっちり調べ上げてくれる。

「もう1つ」

「まだあるのか」

「響だけが見当たりません」

「あの子は提督がソロルに連れて行ったのでは?」

「艦娘達の話では、響は昨晩、艦娘達と離れるのを嫌がり、今朝迎えに来るとしたようであります」

「ふむ。ではどこに?」

「それが、全く掴めないのです」

「た、隊長!」

調査隊員と消防の査察団がどやどやと駆け寄ってきた。

「これを見てください」

「12cm砲の一部だな。」

「ここです」

そこには小さく「6307鎮守府、響」とある。

6307は、響の居た前の鎮守府だ。

消防の査察団が言葉を継ぐ。

「破片は最初の爆発があった工廠の傍、提督棟に刺さっておりました」

調査隊員が続ける。

「あと、工廠内火薬庫のドアに、12cm砲の砲弾跡がありました」

隊長がキッと向く

「バカモノ!そういうことは後で話せ!」

「も、申し訳ありません!」

「つまり、響君が砲撃し自害した、という事かな?」

中将がまとめると、隊員はうなづいた。

「その可能性が、最も高くなります」

「隊長」

「は、はい」

「貴様が昨日提案した事、忘れてはおるまいな」

「は・・」

「鎮守府を壊滅され不安定になり、涙ながらに加賀を頼る響君を一人引き離すよう提案したのは、君だ」

「くっ」

「また、艦娘全員がLV1に退化しているというのは調査せねばならんな」

隊員の一人が驚いたように口を開く。

「えっ、それじゃ転売計画が」

隊長が殴りつけるが、時既に遅し。

「今の言葉、どういう意味だ?」

隊長がしどろもどろになって答える。

「い、いや、その」

「憲兵諸君」

「はっ!」

「大本営直轄鎮守府調査隊の隊長以下全員をこの場で逮捕し、徹底的に調べ上げろ!」

「ははっ!」

隊長は数歩後ずさる。

「くそっ!来るな!来るなチクショウ!」

憲兵隊が取り囲む。

「抵抗する気か!」

隊長が海に向かって走り出そうとしたその時。

ふいに、隊長の体から力が抜け、がくりと崩れ落ちた。

ターンという銃声が届いたのは、その後だった。

運転手が中将を突き飛ばして上に覆い被さる。

「ふ、伏せろ!狙撃だ!狙撃だあああ!」

しかし銃声は、その1回限りだった。

「コレダカラ、人ナンゾニハ任セラレヌ」

1つの影が煙立つスナイパーライフルを仕舞うと、そのまま海中に没した。

騒ぎが静まると、残る隊員はトラックに連行されていった。

中将は服の埃を払うと、海を見た。

狙撃者の居る方角には海しかない。

隊長以下全員を捕らえる計画と聞いたのだが・・・・




あれ?シリアスっぽくならないや。

隊長「死に損かよ!化けてやる!」

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