艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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file93:姫ノ島(20)

 

11月27日昼 姫の島指揮官室

 

姫は状況を整理する為、主要メンバーを招集した。

だが、その瞳には力が無かった。

朝日を見ていた頃は間違いなく勝利を、それも圧倒的な勝利を確信していた。

しかし、入り江に入った途端、文字通り暗転した。

あんな攻撃を一体誰が予想出来たというの?チートにしても酷すぎるじゃない!

何の攻撃も無いと入り江の中程まで突入した時、突如周囲の山が崩れ、巨大な岩が次々飛んで来た。

飛来物が余りにも多すぎてレーダーが索敵上限数を超えて計算機がパンク。

再び砲台は手動制御を余儀なくされたが、岩が当たれば砲台の装甲はまるで歯が立たず潰された。

結果、砲台の破壊と共に砲兵が次々と犠牲になってしまった。

姫は危険を承知で爆撃機を駐機場から格納庫に仕舞わせた。1機でも生き残らせる為の賭けだった。

しかし、その格納庫もやられた。

更に自慢の砲台は無残に壊れ、あちこちで火の手が上がっている。

機関主任とは鎮守府に乗り上げ、推進系と思われる大爆発があって以来、連絡が取れない。

そういう事なのだろう。

無事機関長と会えたかしら。ごめんね。私も、やる事をやったら行くからね。

姫は机の足元にある木箱をちらりと見た。

コン、コン。

「ドウゾ」

「航空隊長、整備班長、砲兵班長、参上イタシマシタ」

「早速ダケド、状況ヲ教エテクレル?」

整備班長が他の二人に黙礼で断りを入れてから、話し出した。

「ハイ。現在、滑走路Aハ敵方ノ攻撃ニヨリ基礎部分マデ崩壊。修理ニ数日カカリマス」

「C滑走路ハ山崩レノ土砂ニヨリ1/3ガ埋没。ヨッテ使用出来ルノハB滑走路ダケデス」

「格納庫ハABCノ3ツガ破壊サレ、DEノ2ツハ無事デス。駐機場モ1カ所ヤラレマシタ」

「コレラデ攻撃機300機ト爆撃機100機ガ失ワレ、残ハソレゾレ900機ト300機デス」

「通常榴弾ハ全テ高性能爆薬榴弾ニ変換シタノデ、コレ以上ノ補充ハ不可能デス。以上デス」

姫は頷いた。

「ワカッタ。次ハ砲兵班長、報告ヲ」

「ハイ。砲台ハ主ニ巨岩ト土砂崩レデ被害ヲ受ケ、現在マデニ計450基ガ使用不能デス」

「残ル砲台150基モ配置ノ偏リヤ旋回ニ支障ガアッタリト、通常ヨリハ弱体化シテイマス」

「レーダーハ復旧サセマシタガ、被害ヲ受ケテオリ精度ガ半分程度ニ落チテイマス。以上デス」

「ワカッタ。次ハ航空隊長、報告ヲ」

「ハイ。整備班長ノ報告ニモアリマシタガ、攻撃機900機ト爆撃機300機ハ準備完了シテイマス」

「タダ、現在ハB滑走路シカ使エナイノデ、一気ニ飛ビ立ツノガ難シクナッテイマス」

「敵ノ正確ナ現在位置ガ掴メテオラズ、闇雲ナ空爆ヲスルニハ範囲ガ広スギテ困難デス」

「既ニ爆撃機、攻撃機共ニ爆弾モ燃料モ満載シテイマス。以上デス」

「アリガトウ」

姫は思案した。

島は鎮守府に深く乗り上げ、崩れた土砂まで被り、もはや自力で海に戻るのは不可能だ。

ここが最後の戦いの場だ。

主火力である爆撃機はほとんど温存されている。他の被害を考えればありがたい。

ただ、滑走路が幾らなんでも1本では厳しい。

鎮守府に乗り上げてからも敵の攻撃は止むどころか一層激しくなった。

あのおっさん提督の生死は解らないが、全部終わってから死体を探せばいい。

そう。最後に勝つのは私達だ。

当時でさえ世界最強と謳われ、今まで鍛え続けた我々の技術力が1鎮守府ごときに負ける筈はない。

「砲兵班長」

「ハイ」

「レーダーヲ水平方向モ含メテ半球状ニ7000m圏内デ復旧出来ナイカシラ?」

「ソレナラスグニ可能デス。今マデノ方式ヨリ精度ガ落チマスガ」

「ソレデ良イワ。整備班長」

「ハイ」

「何トカC滑走路ヲ暫定デモ復帰シテホシイ。攻撃機ダケデモ離着陸出来ルヨウニ」

「・・・解リマシタ。航空隊長」

「ナンデショウ?」

「タキシングガ増エマスガ、島ノ外側カラ中心ニ向カッテ離陸シテクダサイ」

「・・・何トカシヨウ。タキシング中ノ空爆ガ怖イナ」

「ソレハ我々砲台ガ援護スル」

「ヨロシク頼ム」

「デハ、ソノ方向デ」

姫は航空隊長を見た。

「敵艦ガ総攻撃ニ出テクレバ即時大型爆撃機デ対応。攻撃機ハ護衛ニ徹スル事」

「モシ1500時マデニ出テコナイナラ、敵本陣ヲ攻撃スル。マズハB滑走路ヲ使ッテ攻撃機ヲ発進」

「準備ガ整ッタ攻撃機カラ赤外線反応ガアルトコロヲ中心ニ順次爆撃」

「攻撃機ガ発進シ終エタラ爆撃機モ飛バス。同ジク赤外線ヲ参考ニ爆撃スルコト」

「敵本陣ガ解ラナイ内ハ爆弾ヲ各機3発ハ温存スル事。見ツケタラ」

姫は一旦言葉を切ると

「全力デ敵本陣ヲ潰シテ。他ハ無視シテ良イ」

と言った。

航空隊長はその意味を理解した。隊員達が帰還する事はないだろう。

だが、そう悲観する事もない。帰って来れたところでこの島も間もなく終わるのだから。

「解リマシタ」

姫は全員を見回した。

「砲兵ハ飛行場護衛ト対空攻撃、航空隊ハ空爆。整備班ハC滑走路ノ修理、頼ミマス!」

「ハイ!」

 

 

11月27昼過ぎ 大本営通信棟

 

「・・・じゃあ、やっと揃ったのね?あ、ご、ごめんなさい」

「いえ、私も正直そう思いますので・・・」

思わず五十鈴は「やっと」と言ってしまい、詫びた。

主力隊は混成部隊。戦艦10隻、重巡10隻、空母8隻、軽巡30隻に及ぶ大編成だ。

しかしそれゆえに、足並み、つまり船速が揃わなかった。

戦艦だけでも金剛型の高速戦艦と提督の鎮守府から来た伊勢や日向といった低速型が混ざっている。

加えて、これだけの艦を一気に装備換装出来るドックは大本営でも持っていない。

ゆえに、順番に整備しては送り出し、次の艦娘を入れる事になった。

この為、真っ先に出発した艦と最後に整備が終わって出発した艦では相当な時間差が生じた。

そして最後尾の到着を待っていた結果、昼を越えてやっと揃ったという訳である。

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・・・」

伊勢は可能なら大の字に寝っころがりたかった。それくらい全速力で走ってきた。

しかし、スタートがほぼ最後だったが故に、どうにもならなかったのだ。

「ひゅ、日向、大丈夫?」

ちらっと日向を見て、伊勢は息を飲んだ。

あれっ?普通!?

少し顔が赤いだけで息も切れてない日向を見て、思わず聞いてしまった。

「なんで!?」

「強化型タービンと缶を入れたからな・・」

「ずっ、ズルい!」

「最後に低速型が出航するのだぞ、少しでも早く着く為に装備するのは当たり前だろう?」

「だったら・・・言ってよ・・・」

「当然付けていると思ったのだ・・・許せ」

日向との会話で少し落ち着いた伊勢は、五十鈴からのコールに気付いた。

「五十鈴よ、伊勢、応答して頂戴」

「はい、伊勢です!」

「これから主力隊の作戦を開始するわよ。貴方達も作戦通りしっかり務めて頂戴」

「私達、本当に予備で良いの?」

「ごめんなさい。正直言えば計画外だったから、予備班にしか入れられなかったの」

伊勢は経緯を思い出した。

日向と二人で各鎮守府を説得して更なる応援を求めると言ったのを、五十鈴が

「既に相当数の支援を受けてるの。通常戦闘も行う以上、これ以上は厳しい。辛いだろうけど解って」

と、言われ、

「貴方達の装備を無制限で入れ替えるから好きな物を言って。そして主力隊予備班に加わって頂戴」

と、代替策で提示されたのである。

伊勢は溜息を1つ吐いた。

まぁ、主力隊が全滅したら私達も行く事になる。この大艦隊が沈むとは思えないけど。

「解った。じゃあ頼むわ」

「よし!主力隊、作戦開始よ!」

伊勢は通信を終えると、日向だけに聞こえるように言った。

「何というか、鎮守府のすぐ傍に居るのに、隠れて待機なんて、ね」

日向は伊勢の肩を叩いた。

「きっとこれも運命なのだろう。我々が仕事出来る時に精一杯仕事しよう」

「じゃあタービン貸して」

「・・・・タービンだけだぞ」

「やった!あ、そこの洞窟でちゃちゃっと交換しよう!」

「そもそも、ドックじゃないところでタービン交換なんて出来るのか?」

「うちの妖精達は賢いから大丈夫!」

「まったく・・・」

溜息を吐きながら、日向は同じく予備隊だった隼鷹と飛鷹に向かって言った。

「すまない。ちょっとそこの洞窟で整備をしてくる」

隼鷹がニッと笑った。

「アタシ達も行くよ。時間あるんだし、座って艦載機の整備したいんだよね」

飛鷹は持ち場を離れる事に抗議の意思を示したが、皆が行くのではと肩をすくめて着いて行った。

 


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