艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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file92:姫ノ島(19)

11月27夜明け1時間後 姫の島A滑走路上

 

「ハ、班長・・・ナンデスカ、コレ?」

「俺モ・・解ラン・・・」

整備班員達は班長と刺さったミサイルに少しずつ近寄って行った。

なんというか、ボーリング場の巨大モデルみたいだ。滑走路がレーンで、立ってるのがピンで。

いやいや、A滑走路のど真ん中でふざけてる場合じゃない。

・・・・・あ。

班員達は次第に事態を飲み込んで我に返った。

ここは滑走路じゃないか。

こんなものが立ってたら航空機が離発着出来ない。至急撤去せねば!

整備班長はメモを取り出した。この変な物をどうやって撤去しよう?

思案しながら近寄っていった彼らは異変を感じた。

何だか妙に暑い。

ふと見ると、ミサイルが刺さった付近のアスファルトがちゃぷちゃぷと波打っている。

「!?」

更によく見るとミサイルの先端から白い煙が出ている。

「タッ、退避!退避!」

爆発するかと思い、慌てて一目散に逃げ出して伏せたが、いつまで経っても爆発は起こらない。

恐る恐る振り返った時、ギギギィという音と共にミサイルの1本が折れた。

土埃と共にアスファルトの「飛沫」が飛んだ。

整備班長ははっとして駆け寄った。

ミサイルが地中に埋まった部分が真っ赤に灼熱し、溶けた為にミサイルが折れたのだ。

灼熱部分がどれだけ基礎にめり込んでるか解らないが凄まじい熱量だ。

アスファルトは水溜りのように液状化している。

急激に加熱された事で基礎がミシミシと音を立てている。

このままでは基礎の鋼材が溶けて液状化現象を起こしてグズグズに歪んでしまう。

飛行機がバウンドして離着陸出来なくなるか、車輪のサスペンションが折れてしまう。

ここは滑走路の中央地点だ。半分の距離では攻撃機の離発着でさえギリギリだ。

何とかしないと滑走路が使い物にならなくなる。

整備班長は呟くように、

「ハ、ハヤク・・」

と言いかけたが、その頭上をまたミサイルが飛んで行くと、さらに滑走路の奥にズンと刺さった。

背後でもズンという音がして、振り返ると反対側にも刺さっていた。

ズン、ズン、ズン。

滑走路の前1/3、中央、後1/3の地点に次々とこの変な物が飛んできては刺さっていく。

整備班長はぽかんと口を開けた。手に持っていたペンが落ちた。

静かに、確実に、A滑走路が回復不能に陥っているのを理解したからだ。

表面の修復とは異なり、刺さった周囲も含めて基礎から掘り起こしてやり直さねばならない。

そう考えてる内にもミサイルは次々飛んできてズンズン刺さっていく。

こんな広範囲では全部作り直しだ。最低3日はかかる。

C滑走路もダメな以上、まともなのはB滑走路のみだ。

あ、まさかコイツらB滑走路までやる気じゃないだろうな!?

 

 

「あっ、またやっちゃった」

どちらかというと、普段試射していたのは三隈の方で、最上は作る役だった。

だから最上は操縦ミスが多く、この発言を聞いても

「どうしたんです?」

と、三隈は気楽に聞き返した。慣れっこというより、こんなので驚いてたら付き合えない。

「最後の3発、立て続けに砲台に当てちゃったよ」

三隈は最後の1発まできっちり滑走路に設定すると、ゴーグルを取った。

「別によろしいのではないですか?私の分はちゃんと立てておきましたし」

「そっか、ありがとう三隈」

「最上さんも撃ち終えたのでしたら、提督の所でお会いしましょう」

「うん、終わったよ」

 

最上が当てた砲台では大騒ぎになっていた。

今まで自分達を避けるように飛んでいたミサイルが急に向かってきたからだ。

最初は警戒していたが何回も器用に避けていくので、もう来ないと思い込んでいた矢先だった。

ミサイルは砲台の装甲が弱い真横から着弾、滅茶苦茶に幾つもの砲台を貫通していった。

しかし、最後に刺さった砲台でも何故か爆発しなかった。

中に居た砲兵は衝撃に驚き、不発弾だと安堵した。

だが、刺さったミサイルの先端が次第に赤熱して溶解し始めた。

砲兵はミサイルを見て、滴下する先を目で追ってあんぐりと口をあけた。

そこにあったのは、よりによって高性能爆薬榴弾だったからだ。

高温の金属なんて被ったら誘爆してしまうが、狭い砲台の中で榴弾の置き場所はそこしかない。

手で抱えられるような重さではないし、もちろん溶けた金属を受ける事なんてもっと無理だ。

砲兵は信管を抜こうと手を伸ばした途端、信管の先に1滴目がジュッと音を立てて垂れた。

すぅっと血の気が引いた2秒後。

「・・タッ、退避!退避ィィィ!爆発スルゾォォォ!」

砲兵達が全力で飛び出した数十秒後、ついに高性能爆薬榴弾に引火、砲台は内側から大爆発を起こした。

周囲の砲台は防爆装甲があったものの、ミサイルが貫通して脆くなっており、次々と瓦解。

3発のミサイルにより、砲台30門が使用不能に陥った。

 

 

11月27日昼前 第2防空壕(作戦指令室)

 

敵を森の中から砲撃した長門隊。

長門隊に応戦しようとした敵の背後をついた加賀隊。

どちらも序盤で華々しい成果を上げたが、最終的な被害は甚大だった。

長門隊は最初に意表を突く以外は特に策が無く、陽動である事から強装甲の艦娘達で編成していた。

一方、加賀隊は攻撃即撤退の戦略であり、艦隊への大きな被害は想定していなかった。

これに幾つか不運が重なった。

まず、島が大き過ぎた。これにより加賀隊の出撃位置と島が想定よりかなり接近した。

加賀は出航直後に島との距離が近すぎる事に驚きながら、赤城と相談し、急遽島と別方向に発艦させた。

これで距離は稼げたが、目標高度までは登れなかった。

さらに加賀は砲台が一斉かつ正確に長門隊に向いたのを見て、全機に最短ルートで行くよう指示を変えた。

これらにより、五十鈴の高度に関する警告が活かせなかった。

更に、大本営が流星を揃えたのとは異なり、通常の彗星だった為、機動性でも大きく劣っていた。

結果、主に3つの被害を受けた。

1つ目は別の砲台群に彗星達が早い段階で気付かれ、爆撃地点に着く前から対空一斉射を受けた。

2つ目は航空機の飛行ルートを辿られ加賀隊自体が発見されてしまい、発艦中から砲撃された。

3つ目は彗星の攻撃を免れた残存砲台が撤退中の長門隊を再捕捉、砲撃したのだ。

これらの結果は直ちに提督の元に飛んで来た。

「提督!長門隊から報告!」

「うむ」

「長門隊は砲台計100門、C格納庫を機体ごと撃破、ただし反撃で全員が大破しました」

「わ・・解った。よくやった。もう充分である。深追い無用、防空壕に戻れと伝えよ」

「はい!」

「提督!加賀隊から報告です!」

「あ・・ああ」

「砲台を150門破壊、航空機ごと格納庫を1つ撃破、しかし探知され反撃に遭いました」

「被害は?」

「加賀、赤城の航空隊は全滅、加賀が大破、赤城も中破、他は無事です」

「解った。充分な成果である。急ぎ防空壕に戻れ、以後予定していた出撃は中止だ。」

「はっ!」

言葉は発し終えた提督は歯を食いしばった。

出撃する者には全員ダメコンを持たせている。

島はあれだけ火の手が上がり、座礁し、土砂崩れまで被っている。

なのに長門隊も加賀隊も予想以上の深手をたった1回の出撃で負わされた。

一体どれだけ強い火力を持ってるんだ?

それに、まだ入り江に入って来てから敵の航空機は黙ったままだ。このままでは済むまい。

工廠長の臼砲はすべて使い切った。

我が鎮守府の攻撃隊は後、金剛班と扶桑班を残すのみだが、扶桑班は元々予備班で総合火力は小さい。

今回は軽巡以下は出れば死にに行くような物だと、全艦に裏方の作業を命じている。

それは現状を考えれば間違いなかったであろう。

更に、盲点だったが、島が鎮守府を全て押し潰した為にドックが粉砕され入渠が出来なくなった。

つまり、1度中破以上になれば出撃不能になってしまう。

戦闘が終わるまで防空壕が見つからず、艦娘達を守り切ってくれる事を祈るしかない。

あるいは敵に身を晒すのを覚悟で裏の海から修理妖精を乗せてソロルのドックを目指すか、だ。

提督は首を振った。それは危険が多すぎる。

深海棲艦達は先に戦艦隊と整備隊が島の残砲台を掃討する切り込み隊を演じ、駆逐隊が中央まで特攻する。

開始の合図は提督にゆだねられている。

計画では金剛班を後方支援として出撃させつつ合図を送る予定だった。

現状は計画よりはるかに悪い。轟沈者が出なかったのは奇跡と言ってもいい。

本当に計画通り進めて良い状況なのか?

後、敵戦力はどれだけ残っているんだ?

大本営の主力隊は本当に来るのか?来るのなら今すぐ来てほしい。

 

 

 


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