艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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file90:姫ノ島(17)

11月27夜明け1時間後 第2防空壕(作戦指令室)

 

 

第2防空壕。

工廠長は幾つかの防空壕を、この半島全体に点在させていた。

先程まで古鷹達が居た第1防空壕は、通信棟と正面入り口の間の地下にあった。

現在作戦指令室が置かれてる第2防空壕は、鎮守府から離れた、小高い丘の中腹の森の中にあった。

空爆となれば動けない建物なんて的になるだけだと、提督が鎮守府の全建物を捨てる決断をしたのである。

鎮守府はCの字型の入り江の最も奥(左)に位置している。

深海棲艦達はCの字で言う右に、艦娘達はCの字で言う上下にある防空壕にいた。

防空壕は半地下の構造で、上には必ず森がある。これは電探で検知されにくいようにする為だった。

さらにご丁寧な事に、鎮守府の寮や提督棟には艦娘の形をし、カイロを巻いた人形が置かれていた。

つまり鎮守府全体を囮に仕立てたのである。

 

「五十鈴さん」

「あら提督・・ぷふっ、良く眠れたかしら?」

「いや、あまり寝てないです。長門を付き合わせてしまいました」

「トイレに?ねぇ、トイレに?手は繋いだ?ねぇねぇ」

提督はすぐさま意味を察すると、顔をしかめた。

「・・・・長門、言ったのか?」

「黙秘する」

「バレバレじゃないか・・・まったく。ところで、相手の兵装は解りましたか?」

「偵察隊の報告では、島の外周部には砲台が密集してる。その数およそ500から600」

「うわぁ・・・大量だな」

「滑走路は3本、2本は進行方向前後、1本は斜めよ」

「空母の配置と似てますかね」

「そうね。あと、斜めの滑走路の先の島の外周部に小さい港がある」

「そこが深海棲艦の出入り口なんですね・・どれだけ出てくるのやら」

「駐機場は2箇所、格納庫は5箇所あるけど、駐機場の1箇所と格納庫1つは偵察隊が仕留めたわ」

「やりましたか」

「犠牲は大きかったけどね・・・」

「航空勢力がどれくらいか解りますか?」

「格納庫に何機入ってるか見えてないけど、4桁はいそうよ。あと、今までは攻撃機しか見ていないわ」

「強力な爆撃能力のある機体が居る筈なんですけどね」

「今の所は見てないわ。あと、島の中央部、滑走路脇には砲台とは違う建物が2つあるみたい」

「そこが本拠地っぽいですね。解りました。霧島、図面は書けたか?」

「はい!」

「では開始前最後の作戦会議に入ります」

「頑張って。私達も状況を見ながら入り口側から攻撃に加わるからね!」

 

提督の作戦はシンプルな攻撃の積み重ねだった。

提督はニッと笑った。絶対に予想外だと自信を持って言える。

うちの子達を絶対に沈めない為には、敵の予想の裏をかききる必要がある。

どれだけ後ろ指を差されようが勝ち戦にしてこそ意味があるのだ。

「提督!島が!入り江の入り口に見えました!まっすぐ鎮守府に向かってます!」

一呼吸置くと、提督は言葉を返した。

「島が入り江中央に来るまで待機。誰も何もしてはいかんぞ」

「はい」

「ロ級さん、待っててくださいね」

「ウン、頼ム」

 

 

11月27夜明け1時間後 姫の島

 

「入リ江ノ入リ口ニ到着!」

機関主任からの報告を、姫は窓のすぐ内側で聞いていた。

鎮守府の周囲はそびえ立つ切り立った崖が続くCの字型の入り江だ。

それにしても。

鎮守府はもう目視出来る程なのに、朝以来戦闘ゼロのままだ。

あれがあの鎮守府の面々の総力だったのか?

だとしたら随分間抜けなものだ。

姫はニヤリとした。

待ってろ、建物ごと踏み潰してやる!

「機関全速!鎮守府全域ニ上陸スル為航行速度ヲ上ゲマス!」

 

 

 

11月27夜明け1時間後 第2防空壕(作戦指令室)

 

「提督、島がまもなく半分を超えます」

「合図してくれ」

提督は工廠長から貰った発射装置の蓋を開け、スイッチを入れた。

発射ボタンがキラキラと光り、まるで宝石箱のようだった。

「5・・4・・3・・2・・1・・今!」

プチッ。

提督は一番右、入り江入り口側に設置された砲台の全ボタンを押した。

一瞬遅れた後、臼砲の大きな発射音と地面の底から来る揺れに襲われた。

「な!これが発射音か!?地震みたいだな・・・凄まじい・・・」

 

提督が発射ボタンを4つ同時に押した事で、1発3トンの塊が160発、発射される筈だった。

だが実際は工廠長が危惧したとおり、岩盤砲門の瓦解等で、発射出来たのは半数ほどだった。

しかし、それでも240トンの鋼鉄で包まれた岩石が島に降ってきたのである。

次々着弾する「弾」は、爆発こそしないものの、その質量に存分に物を言わせた。

島全体を傍目に解るほど上下させ、砲台をアルミホイルのように易々と押し潰したのである。

姫は目を白黒させた。大地震!?

「ナッ!?何!?一体何ガ起キタノ!?機関主任!」

だが、機関主任は目の前の光景が信じられなかった。

 

「3・・2・・1・・今!」

プチッ

ド・・・ズズズン・・・・

 

「3・・2・・1・・今!」

プチッ

ド・・・ズズズン・・・・

 

3列目まで撃ち終わった時点で、平均発射成功率は4割、そのうちの8割が着弾した。

つまり、計460トンの岩石が島に降ったのである。

島が単なる地面ならめり込むだけで終わるが、実際は航行機関を備えた機械である。

よって、島の内部では様々な問題が噴出していた。

「機関主任!第2ガスタービン停止!軸ガ歪ミマシタ!切リ離シマス!」

「機関主任!主変速機ノ制御システムニ異常!反転ギヤガ使用不能デス!」

「機関主任!操舵システムニ異常!直進ノママ固着!補助調整舵シカ動カセマセン!」

「機関主任!燃料パイプライン損壊!居住空間ニ燃料ガ溢レテマス!」

次から次へと来る問題に機関主任は忙殺されていた。

状況をまとめて姫に報告しようにも、それを上回る頻度で故障が増えていく。

「機関主任!過積載警報!島ノ重量ガコレ以上増エタラガスタービンガ吹ッ飛ンジマウ!」

機関主任は航行系システムのモニターを眺めて悟った。これはもうだめだ。

姫に緊急連絡を入れた。

「姫様」

「機関主任、状況ハ?」

「制御不能デス。コノ島ハ、メインエンジンガ爆発スルマデ直進スルシカナクナリマシタ」

「ソウヨネ。解ッタ。鎮守府ニ上陸出来ルヨウ最善ヲ尽クシテ」

「了解デス!総員!手動デ補助調整舵ヲ操作スルゾ!」

 

「提督」

「なんだ」

「島は航行速度を上げ、鎮守府に真っ直ぐ向かってます。このままだと、止まらない可能性が」

「どういうことだ?」

「鎮守府に座礁してしまう可能性が高いです」

提督は背筋が凍る思いがした。さすがに島ごと上陸してくるとは予想していなかったからだ。

「良いですか!3・・2・・1・・今!」

「あっ!」

提督の手が滑り、4行2列を同時に押下してしまった。

ド・・・ズズズン・・・・ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

地面の揺れが鳴り止まない事に、提督達は顔を見合わせた。

1分程経過した後、ようやく揺れが収まった。

状況を確認しようと外を見た長門が叫んだ。

「て、提督!」

「なんだ!」

「鎮守府背後の山が・・崩れている」

「なんだと!?」

「あ、あと、島が・・・鎮守府の上に乗り上げている・・・あ」

「なんだ!?」

「崩落した山の土砂が、島に覆い被さったぞ。あれでは動けないだろう・・・」

その時、ズズンという爆発音がした。

「何か見えるか!?」

「島の後部端から火の手が上がっている。内部機関が火災を起こしているのかもしれないな」

入り江の山々に仕掛けられた砲門は800箇所に及んだ。

発射が成功しなくても、大量の火薬で岩盤にダメージを与える結果となり、爆発で小規模な地震が頻発。

結果、入り江のあちこちで大規模な土砂崩れが発生。

入り江の中央部のあった高い崖が崩れた土砂で埋め立てられ、Cの左半分と右半分に分かれてしまったのである。

一番犠牲になったのは目標の通り推進機関だったが、土砂崩れ等も含めると200門の砲台が崩れ去っていた。

やっとの事で格納庫からはいずり出た整備班長は、部下に指示をした。

「生キ残ッテイル爆撃機ト攻撃機ヲ至急駐機場ヘ。急ゲ!」

 

「よし!長門隊、出陣だ!」

「任せろっ!」

 

長門隊の目的は残存する砲台の破壊を進める事と、陽動だった。

艦娘は海上でなければ戦えないと思い込んでるだろうと言い、陸から砲撃して混乱を誘う予定だった。

しかし、ほぼ全速力で座礁し、機関系が大爆発を起こしたとあって、既に島の中は大混乱だった。

長門隊の面々は薄いリアクションに戸惑いながらも慎重に狙いを定め、第2目標である砲台を撃破していった。

が、その途中で次々と航空機が出てくる格納庫を発見し、砲撃を指示。

やがてC格納庫から出火し、程なく航空機に誘爆していった。

砲兵班長は必死になって長門隊の居所を見つけると、そこに砲を向けるよう指示した。

その時。

Cの字の下の位置から、加賀隊が爆撃機を発艦させていた。

加賀が放った爆撃機は完全に砲の死角である背後を突く形となり、なす術もないまま100門が失われた。

また、この空爆隊は格納庫Aまで始末し、攻撃機150機と爆撃機50機を出撃不能に陥らせたのである。

 


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