艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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file89:姫ノ島(16)

 

11月27夜明け15分後 仮設鎮守府作戦指令室

 

「よし、全員赤外線ゴーグル、ヘルメット、防爆チョッキを忘れるなよ。始まったら装着出来んからな!」

「提督っ!」

艦娘達に指示を飛ばしていた提督は、息を切らして駆け込んできた古鷹を招き入れた。

「どうした!」

「て、偵察隊が攻撃を敢行、7500m上空から空爆を実施、開戦状態に突入しました」

「そうか、やはりな」

「当初1時間は戦果をあげたものの、突然敵の反撃が激化。3式弾のような対空兵器で相当数が撃墜」

「・・・うむう」

「五十鈴さんからの言伝は4つ。」

「1つ目は7500m上空の攻撃機を中隊単位で殲滅させる力があること」

「2つ目は敵は囮として攻撃を弱める事があり、絶対深入りしてはいけない」

「3つ目は主力艦隊は策を再検討し、鎮守府正面海域に入った後で背後から攻撃する」

「最後は、敵がここに来るのは日の出1時間後という事です」

提督はふんすと息を吐いた。

「よし、古鷹!良く伝えてくれた!」

提督が全く落ちこまない事に古鷹はおやっと思ったが、

「は、はい!ありがとうございます!」

提督は工廠長を見た。

「やはり、今の案の通りで良さそうですな」

「そうじゃの・・こんな攻撃を予想する司令官はおるまい」

「後は、相手が入り江にすんなり入ってくれる事を願うのみですね」

「うむ。入ってくるかは相手の司令官の冷静さ次第。相手の砲火力が予想を超えておるのがいささか心配じゃの」

「ええ・・・よし古鷹、すまんが引き続き五十鈴との通信を聞いていてくれ!」

「はい!戻ります!」

「それから、そろそろ作戦指令室を第2防空壕に移すぞ。古鷹達も通信設備を持って今の防空壕から移ってこい」

古鷹は作戦を思い出し、地図を再確認した。

「解りました。私達も通信機器を持って第2防空壕に移動します!」

「うむ。現地で会おう」

 

 

11月27夜明け30分後 姫の島指揮官室

 

空爆は高性能爆薬榴弾の自動一斉射で応じ始めると、急に静かになった。

レーダーで見ていた砲兵班長曰く、爆撃機は射程圏外へ素早く引き返し、攻撃機は四方に散ったらしい。

混乱して統制が取れなくなったのだろう。爆撃機は怖気づいたか?

いずれにせよ、撤退数は飛来数より明らかに減ったそうなので、高性能爆薬榴弾は有効という事だ。

一方で攻撃機は機銃のみにしても役に立たなかった。

あの攻撃機でさえあのザマでは、旧型機なんて離陸出来たかさえ怪しいものだ。変えておいて正解だった。

しかし・・・

上昇速度を爆弾の搭載量と引き換えにした落ち度は認めるが、あんな高々度で飛んでくるなんて詐欺だ。

攻撃機が劣性である以上深追いは禁物。機体から増槽を下ろし、小型爆弾だけ搭載させている。

さっきの攻撃は艦娘が放った航空機だけだったが、艦隊戦となれば・・・・

そうだ、被害状況は確定しただろうか?

「整備班長」

「ハイ!」

「航空系ノ被害ハ?」

「B格納庫ガ爆破サレ、駐機場デノ被弾分ト合ワセ、攻撃機150機ト爆撃機50機ノ破壊ヲ確認シマシタ」

「滑走路ハ?」

「爆弾ガ数発着弾シマシタガ、後15分デ修理完了シマス」

「滑走路修理完了時ニ連絡ヲ」

「ハイ。ソレカラ後1ツ」

「ナニ?」

「高性能爆薬榴弾ヲ、先程ノ戦イデ7割消費シマシタ」

姫は絶句した。あれがなければ・・空爆に太刀打ち出来ない。

「エ、エット」

「現在急ピッチデ通常榴弾カラ変換中デス。タダシ通常榴弾7発デ1発ナノデ、後1回ガ限界デス」

「変換ハ、後ドレクライ必要?」

「30分デ間ニ合ワセマス」

「・・・オ願イ」

スイッチを切り替える。

「砲兵班長」

「ハイ」

「被害状況ハ?」

「25門使用不能ニナリマシタ。残リ575門デス」

「修理ハ?」

「平常時デ1日カカリマス。戦闘中ハ不可能デス」

「マァ、600門中575門動イテルナラ大丈夫カ」

「降ッテキタ爆弾ノ数ノ割ニハ、当タリマセンデシタネ」

「ソウネ」

「タダ、コチラモ10000mマデレーダー範囲ヲ広ゲタノデ、命中率ガ下ガッテイマス」

「ドレクライ?」

「ザット見テ4割デショウ」

姫は目を瞑った。5000mまでの設定なら通常榴弾で9割に迫っていた。

高性能爆薬榴弾は通常榴弾の7倍の資源を食いつぶす。

だから現在は単純に言って14倍のペースで資源を消費している。

高々度爆撃を高性能爆薬榴弾で撃退出来るのはあと1回が良い所だ。それでも通常の28戦分なのだから。

・・・もし敵がこの後オーバーロード作戦で来たら終わりだ。

そうなる前に、是が非でも短期決戦で。

あのオッサン提督だけは仕留めてやる。

その時、部屋のドアがノックされた。

「入リナサイ!」

「姫様、アノ、キ、機関主任デス。機関長代行トシテ、指示ヲ伺イニ参リマシタ!」

「解ッタワ、ヨロシク頼ムワネ」

「・・・ガッ、頑張リマス!」

「早速ナンダケド、奴等ノ拠点ニハ予定通リ着クノカシラ?」

「ハイ。航行系ニ一部損傷ガアリマスガ、修理シナガラデモ速度ハ維持デキマス」

「ソウ」

「ア、アノ、機関長カラハ、入リ江ニ入ル前ニ停止シ、姫様ニ確認シロト言ワレテマシタ」

姫は天を仰いだ。その通りだ。入り江の外に留まり、空爆で弱体化してから突入する筈だった。

しかし。

姫は握りしめた拳をわなわなと震わせた。

そんな小賢しい事をする時間はなくなった。

鎮守府だけをピンポイントで攻めてやる。

艦隊決戦なんて誰が決めた?そもそもうちは島。セオリーなんて知らないわ。

私から機関長を奪った事を死ぬほど後悔させてやる!

「機関主任」

「ハイ!」

「入リ江ニ入ッタラ敵鎮守府マデ真ッ直グ進ミ、シッカリ乗リ上ゲテ」

「エッ!?」

「可能ナ限リ敵鎮守府ノ建物ヲ押シ潰スノ。」

「シ、島デ特攻デスカ!?」

姫はにっこり笑った。

「モチロン航空機ノ発艦ヤ砲撃ニ影響ガ出ナイヨウニ、アト、戦闘後ハ海上ニ復帰出来ルヨウニ、ヨ」

若い機関主任は安堵の表情を見せた。姫は気が狂ったのかと思ったが、違ったようだ。

それにしても何て斬新な攻撃方法だろう。

「承知シマシタ!早速対応致シマス」

「ヨロシク」

ドアが閉まると、姫は無表情になった。今は戦争中。そう。戦争中。

奇策が好きみたいだから応えてあげる。島で鎮守府の建物を押し潰すのは予想してないでしょ?

私だって今思いついたんだから。

それに・・・

姫は窓の外を見た。

島が陸に乗り上げたら機関部はタダでは済むまい。恐らく航行不能になる。

事実上の特攻命令だ。機関長が聞いたら拳骨で叩かれるだろう。

それでも、確実に仕留められる短期決戦はこれしかない。

姫は時計を見た。到着まで後30分。

 


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