艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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file86:姫ノ島(13)

 

11月27日1時 仮設鎮守府作戦指令室

 

「ふわああああ・・・ねみい」

「もう!加古!提督の前なんだから、ちゃんとして!」

「良いよ良いよ古鷹。それに加古。真夜中にすまない。」

提督は経緯を説明した。

「それで、私達が通信棟に居れば良いんですね?」

「いや、これから通信施設だけをこの地下の防空壕に移す」

「移せるんですか?」

「高い棟なんて真っ先に空爆されるからな。携行型の通信機器だからな。大丈夫だ。」

「ありがとうございます」

「二人でついてて欲しい。インカムで届いてない時はどっちかが知らせに来てくれ。」

「解りました。他に質問はない?加・・・古・・・」

提督と古鷹の目線の先には、見事な鼻提灯を膨らませて寝ている加古の姿があった。

「ちょ、ちょっと、加古」

つんつんと古鷹がつつくが全く起きない。

「こいつの肝っ玉の太さは・・変わらんな」

「そうなんですか?」

「深海棲艦の時はレ級だったが、確証の持てない艦娘化に第1号で飛び込んだからな」

「へー・・・うふふふふ」

「う・・うぅ・・」

「ん?うなされてる?」

「・・ちゃんと・・・聞いて・・・スカート引っ張らないで・・変態・・むにゃ」

途端に古鷹の鋭い眼光が提督に刺さる。

「・・・提督・・・セクハラ、したんですね?」

「ちっ!ちがっ!私は何もしてないぞ?それに艦娘に戻した直後に古鷹の所に連れてっただろ!」

「そうですけど・・・」

「大体、高雄達も一緒だったじゃないか!私は無実だ!」

「・・・・」

「なんでそんなジト目で見るんだ。それにそもそも寝言じゃないか」

「まぁ、そうなんです・・けど・・ね」

「私の目を見ろ古鷹!そんな事をするような人間に見えるか?」

「・・・・まぁ」

「?」

「提督の場合、無いですね」

「・・日頃の行いって大事だな。おい、加古、そろそろ起きてくれ」

「・・・んあ?」

「んあ、じゃない。話聞いてたか?」

「後で古鷹から聞くから・・・・・zzz」

「大丈夫かな・・・」

「とりあえず、このまま防空壕に連れて行きますね。ここの下ですよね」

「ああ。私は触らない方が良さそうだから、後から通信設備を持って行くよ」

「お願いします」

「長門、起きてるか?」

「ん、すまない、うたた寝をしていた」

「ちょっと手伝ってくれ。通信施設を防空壕に移す」

「解った」

 

 

11月27日夜明け2時間前 偵察隊

 

「皆、準備ええか?」

整備妖精が口を真一文字に結び、敬礼する。

龍驤は艦載機リストを破り捨てた。もう偽造する必要もない。

やっとここまで来た。

龍驤が大本営で受け取るよう指示された機体は震電だった。

震電の限界高度かつ高速で島の上空に到達、そのまま速度を落として機体下部のカメラで空撮し帰投。

後は艦隊ごと全力で大本営に戻る。そういう任務だった。

今回の出撃には震電・流星・紫電改しか使わないと、大本営に着いた時に言われた。

その為、大本営の倉庫には、各艦娘が持参し、換装された航空機が雑多に置かれていた。

龍驤は眉一つ動かさず、大本営の兵装妖精に偽造書類を手渡し、天山を「返却」として受け取った。

そして天山用の800kg爆弾と、ありったけの防御装甲を引っ掴んできた。

命令違反なんて百も承知だ。出航前、五十鈴も、偵察隊旗艦の霧島も再三再四、

「偵察のみよ偵察のみ。敵討ちは主力艦隊が絶対やるから!私達は情報を集めるの!良いわね!」

と言われ、龍驤はその度に

「んーもう、耳にタコが出来るわ。堪忍してやあ」

と、返したが、龍驤は決して承知したとは言わなかった。

そう。龍驤は大本営に呼ばれる前から覚悟していたのである。

ウチの大切な友達を葬り去ったド阿呆には、熱い灸を据えてやらなあかん。

出航前、龍驤は妖精達にささやかな復讐計画を打ち明け、志願兵を募った。

だが、龍驤から降りる妖精は居らず、むしろ普段より多かった。

今、龍驤も、乗艦する妖精達も、復讐という1つの目的の為に総力を挙げて動いていた。

ある意味、姫の島に集う妖精達より純粋でまっすぐな怒りの炎だった。

龍驤自身、万一姫の島に気付かれたら、妖精を他の艦に預け、自分は囮になるつもりだった。

化け物かなんか知らんが、あのド阿呆の寝ぼけ眼に鉄槌を下したる。絶対に。

「・・・・・」

瑞鳳は龍驤を見ながら、妖精からの報告を聞いていた。

どうも僚艦の龍驤の様子がおかしい。

それは偵察隊皆が思っていたけど、言うと解ったといった風情で手を振るので、それ以上言えなかった。

しかし、旗艦の霧島と僚艦の榛名は信じていなかった。

五十鈴とぎりぎりまで交代の調整をしたが、何故かどうしても代役が見つからなかった。

(調整を命じられた事務員を龍驤が軟禁していたのだ)

仕方なく出航したが、榛名は瑞鳳に

「絶対あの子は何か企んでる。掴んだら知らせて」

と、耳打ちした。

瑞鳳は妖精をやりくりし、なんとか交代で見張りをつけた。

報告によると、龍驤は一晩中煌々と明かりを点け、整備作業らしき音が聞こえていたそうだ。

確かに震電は物凄く繊細な機体だから、整備に時間はかかる。

だが、瑞鳳も43機積んでいるが、未明には終わらせ、妖精達を休ませていた。

5機の違いでそんなに時間が違う訳がない。

しかし、妖精は嫌な単語を発した。

もし爆装をするなら、夜を徹して行わねば間に合わない、と。

だが、瑞鳳は首を振った。震電の爆装なんてせいぜい60kgx4だ。

12000mの高さから島に向けて60kg爆弾を落としても風で流されるから碌に当たる訳がない。

それに、当たってもほとんどダメージなんて与えられない。

特攻するには震電は脆すぎるから、途中で全て撃ち落される。

こんな事も解らない程に龍驤が取り乱しているようには見えなかった。

ふと、瑞鳳は気付いた。

取り乱してるんじゃない。冷静に、物凄く強い意志を持って動いてる。

どう考えても可能性はない筈なのに、胸騒ぎが押さえられなかった。

その時。

「龍驤、瑞鳳!全機発艦開始!各小隊揃い次第偵察行動に移れ!多数で固まるな!」

霧島の発艦命令が下った。

瑞鳳の妖精達は対応に追われ、瑞鳳も目を放してしまった。

その様子を見て、龍驤は笑みを浮かべた。ついに、時が来た。

「さぁ仕切るで!攻撃隊、発進!」

龍驤は自分史上最速のペースで天山を発艦させた。気付かれて強制停止される前に、1機でも多く。

最初に異変に気付いたのは頭上を飛んでいく天山を見た島風だった。

「あ、あれっ!龍驤?偵察機って天山なの?」

「はよ!はよいけ!ほれ!」

「りゅ、龍驤!?あんた何持って来たの!?」

「島風ぇ!邪魔や邪魔!発艦の邪魔するといてまうで!」

「い、五十鈴!五十鈴!緊急事態!龍驤が命令違反で天山を発艦中!これから強制停止させます!」

「榛名、待ちなさい!」

榛名を制し、五十鈴は通信室で唇を噛んだ。やはり龍驤は命令に納得していなかった。

流星や紫電改の在庫数はくどいほど調べたが、天山はノーチェックだった。

だが、天山だって手続きが要る。恐らく書類を偽造したのだろう。

そこまでの命令違反を重ね、堂々と発艦させた。覚悟を決めている。

だが、と五十鈴は思った。

妥協出来るギリギリまで思いを遂げさせ、被害を最小限にすれば、主力艦隊の露払いにもなる。

命令変更は最小限にしなければ混乱してしまう。

龍驤が正常な判断力を維持しているか。分の悪い危険な賭けだった。

だが、五十鈴は維持しているほうに賭けた。

それは、他でもない龍驤だからゆえだった。

 


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