艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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file82:姫ノ島(9)

11月26日午後 仮設鎮守府作戦指令室

 

各隊で細かな所を相談しているところで、作戦司令室のドアがノックされた。

「誰だ!」

「あの、良いかな?」

「おや、最上。どうした?」

「今回の相手は地上兵器もあるんでしょ?ちょっと良い物があるんだけど」

「なんだ?」

「僕がずっと前に作ってたこれ、使えないかなと思って」

最上が艤装から取り出したのを見ても、提督は何か解らなかった。

「なんだいそれは。やけに長い徹甲弾だな」

「これは有線誘導式の艦対地ミサイルだよ。地上に設置された建物や砲台を爆破する為に作ったんだ」

「有線誘導って事は・・・撃った後も制御出来るのか?」

「うん。最大で着弾5秒前まで制御出来るから、少しの範囲なら途中で目標変更出来る」

「凄いな」

「ミサイルは60発あるけど、発射台が2つしかないんだ。あと、僕と三隈しか撃った事がない」

「・・・・」

「だから、僕達にこれで攻撃する役割をくれないかな?」

「・・・有線誘導という事は、制御中はミサイルの実物を見続けないといけないのか?」

「ミサイルにカメラがあるからその映像を見るんだよ。」

「飛距離は?」

「そこが欠点。線の長さしか誘導出来ないから最大制御範囲は2km、飛距離も3kmってトコ」

「発射台はどれくらいの大きさだ?」

「これだよ。3連魚雷の発射機構と同じくらいかな」

「よし。工廠長」

「ん?」

「防空壕を、入り江の数箇所に作ってください」

「そこから撃たせるのか。確かに厚い防御の中で誘導操作する方が良かろうな」

「あは。防空壕から発射台の先だけ外に出すのかい?ミサイル陣地みたいだね」

「見つかった後の事を考えて幾つか作っておきたいが・・・」

「移動出来る事を考えたら、一人当たり3か所もあれば良いと思うよ」

「今から出来るかな?」

「ま、いけるじゃろ。やれやれ、また出発か」

「すいません。お願いします」

「敵がこう回って入り江に入ってくるとして、どこら辺が良いかの、最上」

「・・・ここと、ここと、この辺り」

「なるほどの。よし、行くか」

「うん!提督、ありがと!」

「最上と三隈はそれぞれ1カ所立ち会ったら帰って来てくれ。作戦詳細を説明する」

「解った」

 

 

11月26日夕刻 仮設鎮守府通信棟

 

「ふふ、そうか。やはりな」

「予想済って事ね。こちらは念の為にって再確認したんだけど」

長門は五十鈴から、姫の島が航行速度を上げた事を聞かされた。

「現在の速度を維持するなら夜明け頃って感じね」

「解った」

「先程、うちの大隊も出発したわ。あ、さっきは決まってなかったから言わなかったけど」

「なんだ?」

「正規空母に積んだのは、震電と流星よ」

長門は絶句した。

震電。

後部にプロペラを持つ独特のフォルムを持ち、兵装の少なさと引き換えに高度12000mまで登れるという。

しかし、確か・・・

「震電は開発中じゃなかったのか?」

「だから作り終われるか微妙だったの。無理なら紫電改を送るつもりだったんだけど」

「どちらもうちでは見た事も無い」

「震電なら時速700km出せるから、彩雲より逃げ切れる可能性が高いわ」

「そ、それはそうだな・・」

「あと、流星は他の攻撃機と違って防護装甲が厚いから、多少撃たれても耐えられるわ」

「良く間に合ったな・・」

「大本営を舐めないで頂戴。それに、航空機開発部が物凄く頑張ってくれたの」

「なぜだ?」

「彩雲の仇討ちだって」

「・・・そうか、そうだな」

「というわけで、大本営から愛を込めて大隊を送ったから、楽しみにしてて」

「解った」

「そっちはやっぱり艦隊決戦で行くの?」

「最終的にはな。全て終わったら話す」

「楽しみにしているから、終わったら絶対報告に来る事。良いわね?」

「そんなに念を押さずとも、特攻する計画は無くなったから安心するといい」

「やっぱりそういうつもりだったのね」

「やりたくて計画した訳じゃないぞ」

「まぁ、あんな化け物から指名されたら覚悟は要るわよね」

「だが、そんな事をしなくても何とかなりそうだ」

「じゃあ、次の通信は戦闘中かしら?」

「その前に、未明に1度だけ良いか?」

「良いわよ。相手の最終状況を知らせられるかもね」

「・・うむ」

「長門」

「なんだ?」

「まだいつもの長門じゃないわ。正直に言いなさい」

長門は溜息を1つ吐くと、

「・・・どれだけ準備しても勝てる確証が持てない。正直、こんなに怖いと思ったのは初めてだ」

「・・・。」

「深海棲艦の1部隊は上陸して刺し違える覚悟を決め、そういう計画をしている」

「・・・。」

「だがそれさえも、我々や残る深海棲艦達の行動が相当上手に運んで初めて開始出来る」

「・・・。」

「報告書を読むほど、敵の実力の高さがのしかかってくるんだ」

「・・・。」

「そして、姫は本気だ。どこまで逃げても絶対に追ってくるだろう」

「・・・。」

「不安で押し潰されそうだ。だが、作戦指令室で口にすれば実際にそうなってしまいそうで怖いのだ」

「・・・」

「私は、臆病か?」

「・・・無責任な事は言いたくないから、はっきり言うわね」

「うむ」

「まず、私が今の貴方の立場なら、同じ事を思うでしょうね」

「そう・・・か」

「だから、私ならこうするわ。長門」

「うん」

「提督に正直に言いなさい。作戦指令室で、他の人が居ても良いから」

「なぜだ?」

「きっと提督も、他の人も、怖さを押し殺してる」

「そう・・かな」

「そして、他にも怖がってる人が居るって解れば、状況は一緒でも安心するものよ」

「・・・」

「安心すればいつもの判断力が帰ってくる。思い通りに体が動く。そしたら作戦が上手く行く可能性が上がる」

「・・・。」

「僅かな可能性かもしれない。でも、私も貴方に死んでほしくない」

「・・・。」

「こんな非常時よ。やれる事はやってみない?」

「・・解った」

「じゃあ、次の通信で結果を知らせてね」

「そっ、そんなに早くか!?」

「当たり前じゃない。作戦が始まってからじゃ遅いわよ?」

「う・・うう・・・解った」

「いってらっしゃい!」

スイッチを切ると、長門は長い溜息を吐いた。

作戦指令室に戻る足は鈍かった。

本当に弱音をさらけ出して良いのだろうか?

しかし。

立ち止まると、長門は自分の足が震えている事に気がついた。

これではいつもの力は出せないだろう。

一か八か、五十鈴を信じてみるしかない。

 

 


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