艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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file79:姫ノ島(6)

 

11月26日昼前 仮設鎮守府作戦司令室

 

「モシモシ」

ガガッと言う雑音の後に聞こえた綺麗な声に、東雲は緊張しながら返事をした。

「モッ、モシモシ!」

「貴方モ可哀想ナ経験ヲシタワネ」

「貴方モ、トイウ事ハ・・・」

「私達モソウ。艦娘ト深海棲艦ノ戦闘ノ巻キ添エデ殺サレタワ」

「・・・オ名前、聞イテ良イデスカ?私ハ東雲ト言イマス」

「良イ名前ネ。私ハ名前ガ無イノ。デモ、姫ト呼バレテイルワ」

「ジャア、姫様デ」

「イイワヨ」

「姫様ハ、毎日何ヲシテイルノ?」

「ウーン・・・ソウネ」

「・・・」

「艦娘トカ深海棲艦ヲ見ツケタラ、力任セニ踏ミ潰シテルワ」

ぴくり、と動いたロ級に、そっとル級が手をかけ、頷いた。

ロ級は黙って頷き返したが、口惜しそうな目をしていた。

「ソ・・・ソレハ、巻キ添エノ復讐?」

「ソウネ。貴方ハ復讐シタクナイノ?」

「私ハ、傷ツイタ子達ヲ治シタカッタンダケド、深海棲艦ニスルシカ方法ガ判ラナカッタノ」

「ソイツラハ、貴方ヲ酷イ目ニ遭ワセタノニ?」

「私ハ建造ドックノ修繕妖精見習イダッタノ。ダカラ本来スル仕事ヲシタイ」

「ソッカ」

「姫様ハ何妖精ダッタノ?」

「何、トイウノデハナイワ。鎮守府ノ大勢ノ妖精ガ1ツニナッタノ」

「スゴイ!」

「凄クハ無イワヨ・・・マァ、アリガトウ」

「一人デハ寂シクナイデスカ?」

「ココニハ大勢ノ妖精達ガ居ルワ。格納庫ノ子達モ、砲台ノ子達モ、航空隊ノ子達モ、ミンナネ」

「ミンナデ、復讐ヲスル為ニ、一緒ニ居ルノ?」

「ソウヨ。全員、同ジ考エ」

「・・・・」

「貴方ハ・・コチラニ来テ一緒ニ復讐スル気ハ、無イワヨネ」

「ウン。ゴメンナサイ」

「イイノヨ」

そして、一息の間を置いてから

「ソコニ居ル人達ト、私達ニ戦イヲ仕掛ケルノネ?」

工廠長は目を見開いた。映像まで流れている?馬鹿な!

「目ヲ剥イタ、髭ノオジイサンハ、妖精ノ長ネ。ソノ隣ガ司令官カシラ?」

東雲はとっさに壁の方を向いた。すると、

「東雲チャン、皆ノ方ヲ向イテ。見エナイワヨ?」

自分の視界を通じて伝えてはならない事が伝わった事に、東雲は震えだした。

工廠長は優しく言った。

「東雲、わしの責任じゃ。良いから姫の言う通りにしなさい。」

東雲は工廠長を見ると、双眸に涙を一杯に溜めた。

「ゴ、ゴメンナサイ・・・ゴメンナサイ・・・・」

「アラアラ、泣ク事ナンテ無イワヨ。」

「さ、東雲、おいで」

「ゴメンナサイ。ゴメンナサイ」

工廠長は東雲を抱き上げると、そっと頭を撫でた。

提督は頷いた。全て合ってる。ブラフじゃない。

「姫、貴方の身の上に起こった事は確かに酷過ぎる。しかし・・」

ついに耐え切れず、ロ級が叫んだ。

「俺ノ戦友ノヌ級ガ、オ前達ヲ攻撃シタノカ?違ウダロ!八ツ当タリスルナ!」

「・・・アノ時マデ、私達ハ鎮守府デ手ヲ貸シテイタダケヨ。巻キ添エニシナケレバ良カッタノヨ」

「今、我々と戦って何になるんだ?」

「何ニモナラナイワ。私達ハ死ンデルンデスモノ」

「我々は今、深海棲艦を艦娘や人間に戻す試みをしている」

「・・・・」

「艦娘が深海棲艦に戻せる事は解ったし、次は東雲も戻す。貴方達にも協力してもらえたら我々は」

「別ニ戻リタクナイワ。協力シテモ、惨イ死ニ方ヲスルダケナンダカラ」

「それなら、妖精に戻って鎮守府には戻らず、これから幸せを探すのじゃダメか?」

「貴方達ノヨウニ、前向キニ幸セヲ掴モウトシテル人達ッテ、イライラスルワネ」

「もっと話をする時間をくれないか?」

「コノ気持チ、ドウスレバ貴方モ解ルカシラ・・・ソウネ、決メタワ。」

「何をだい?」

「次ノ標的、貴方達ニスルワ。ドコマデ逃ゲテモ絶対ニ仕留メテアゲル」

ロ級がわなわなと震えながら返した。

「仕留メルノハ、俺達ダ!」

「アハハハハハッ!言ッタワネ。イイワ、コッチカラ行ッテアゲル」

「えっ?」

「通信シテルノニ、発信源ヲ特定出来ナイトデモ思ッタノ?」

工廠長は天を仰いだ。原理的に考えれば探知は可能だが、途方も無く難しい筈だ。

映像の件といい、逆探知といい、自分の遥か上の腕を持っている。

「君達はわしとは比較にならない程の腕の持ち主なんじゃな」

「アラ、腕ヲ褒メテモラウノハ久シブリ。悪クナイワ」

「惜しい。余りにも惜しい・・・なぜ君達のような優秀な妖精が死なねばならん・・・」

「エエ、理不尽ヨ。ソシテ終ワッタ事。ダカラ、話モ終ワリ。明日ノ朝ニハ着クカラ楽シミニシテテ」

そこで通信は切れた。

 

東雲はカタカタと震えていた。

「ゴ、ゴメンナサイ。通信ヲ切ロウトシテモ切レナクテ、目モ瞑レナカッタノ」

「その位はあの姫ならするじゃろうし、指示したのはわしじゃ。怖い思いをさせてすまなかった。」

「ウウン、工廠長サンハ悪クナイ」

「少し、顔色が悪いな。休みなさい。睦月、部屋まで一緒について行ってあげてくれないか」

「うん。行こ!」

睦月が手を引いて東雲と出て行った後、工廠長は厳しい表情になると、提督を見た。

「提督、明日の朝というのを信用してはならん」

「ええ。もっと早いでしょう」

「既に移動を開始しているとして、準備せねばなるまい」

「大本営の支援は間に合わないし、鉢合わせする可能性が高い。キャンセルしておきましょう」

「奴は力任せに踏み潰すと言ったが、一方で高度な知能がある事も見せていた」

「ええ」

「だが、高い知能を持つ手合いほど、単純な罠や想定外の事態に弱い」

提督はふむと考えた後、

「長門」

「なんだ?」

「ル級達が鎮守府を一斉砲撃した時、どうやって対応した?」

「私は直接見ていない。対処したのは古鷹だ」

「呼んできてくれ」

「ああ」

 

「お呼びですか?」

「少し前の記憶になるんだが、ここに前の鎮守府があった時、一斉攻撃からどうやって逃れた?」

「土管通路です」

「土管通路?」

「裏の海から海中通路を掘って、工廠の中に土管でつなげたんです」

「ほう」

「元々は資材運搬用でしたけど、伊19と伊58が私達を曳航してくれて」

「一気には無理じゃったろ?」

「はい。何回か往復しました」

「その間、艦娘達はどうしていた?」

「提督棟と工廠の間の敷地に隠れていました」

「他には?」

「効果があったかは解りませんが、兵装を幾つか敷地内に撒いておきました」

「それは、どういう目的で?」

「私達が轟沈して、兵装が飛び散ったと思って貰う為にです」

「なるほど」

「他には何もしていません」

「解った。どうもありがとう」

「はい、失礼します」

パタン。

「反対側の海に逃げる地下通路は作っておいて良さそうじゃな」

「1600人分と、潰れた場合を考えると複数本掘った方が良いでしょう」

「あと、防空壕を作っておくかの」

「相手が航空爆撃で来るなら有効でしょう」

「奴は我々を艦娘と深海棲艦と思っておるから、艦隊決戦を想定するじゃろう」

「あ」

「どうした?」

「長門、文月を呼んでくれ」

 

「どうしたんですか、お父さん」

「文月、陸軍に連絡は取れるかな?」

「取れますけど、何を言うんですか?」

「高射砲や大砲台を大量に抱える陣地を、陸軍が攻める際の兵器を知りたいんだ」

「そして、その兵器を貸してもらうんですね。いつまでですか?」

「この鎮守府の近くの敷地に設置したい。昼までとか言って可能だろうか?」

「・・・急いで聞いてきます」

「加賀、ついて行って状況を説明してやってくれ」

「解りました。」

 

 


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