艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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file77:姫ノ島(4)

 

11月25日午後 旧鎮守府跡地

 

「偵察機による探査完了、異常反応なし。球磨、多摩、上陸開始して」

「了解」

山城の指示に応えた球磨と多摩はかつての鎮守府に素早く上陸していった。

集中砲撃を受けてから時間が経過した旧鎮守府は、すっかり草が生い茂る荒れ地と化していた。

ゆえに無いだろうとは思いつつも、念の為索敵をかけたのである。

提督は工廠長を見た。

「ほぼ更地というか荒れ地だが、どれくらい建物が建てられるかな?」

「残っている基礎次第だが、最悪は平屋だけじゃろう。しかし本当に跡形も無くなったのう」

二人の会話を隅の方で聞いていたル級がそっと近寄ってくると

「ゴメンナサイ」

と謝った。

「まぁ、誰も怪我しなくて良かったよ」

「もし鎮守府に妖精達が居たら恐ろしい事になったかもしれん。良かったのう」

「どういう事です?」

工廠長は遠い目をしながら言った。

「伝承では、昔現れた鬼姫は殺された妖精達の強い怨念から生み出されたと記されておる」

「・・・」

「そして、東雲が戻した艦娘の話を聞くと、轟沈時に強く怨念を持つ者ほど強力な深海棲艦になっておる」

「艦娘の頃の艦種と深海棲艦での艦種が異なっているのは恨みの強さでしたか」

「うむ。鬼姫の伝承と符合する所があるじゃろ」

「そうですね」

「陸奥がル級になったのも、私に対する強い怨念があったからだろうしな」

「・・・当時ハネ。戦イデ沈ムノハ覚悟シテタケド、ソレデモ諦メキレナカッタ」

「覚悟のある1人の艦娘でもそうなのじゃから、攻撃されるとは思ってない妖精なら尚更じゃろうよ」

「・・・」

「わしは、妖精こそ最も大切に扱うべきものじゃと思っておるよ」

「そうですね。色々当たり前と思っていますが、妖精達が協力してくれるからこそ成り立っている」

「うむ。それに・・」

「それに?」

「世界一可愛いしの」

提督とル級がずずっとつんのめった所に、通信が入ってきた。

「こちら球磨、東エリアの索敵完了。誰も居ないと言うか・・・単なる野原だクマ」

「多摩、西エリア探索完了。敵は居ないにゃ。こっちは地面がぼっこぼこで歩きにくいにゃ。」

工廠長は顔をしかめた。

「基礎も絶望的かもしれんのう」

「よし、上陸を開始する。工廠長の指示に従って再建作業を手伝うぞ!」

 

 

 

11月25日夕刻 仮設鎮守府

 

「いや、ほんと、人手が沢山あって良かったよ」

「人というか、ほとんど深海棲艦じゃがの」

報告の通り、地面は砲撃によって凹凸が激しかった。

工廠長が急遽土木作業用の道具を作り、全員で地ならしを実施。

妖精達のお墨付きをもらった後、工廠長が仮設の鎮守府を作ったのである。

提督はロ級を向いて言った。

「作業の協力に感謝します。おかげで日暮れに間に合いました。ありがとう」

ロ級はついっと横を向きながら

「ヌ級ノ敵討チニ必要ダカラ、手伝ッタダケダ・・・」

と言った。

「さて。鳳翔さん、間宮さん」

「はい」

「夕食は作れそうかな?あと、今後の食糧計画は」

「調理器具も材料も揃っているので大丈夫ですが、ただ」

「ただ?」

「元の鎮守府で想定していた規模の15倍近い状態なので、全員が一同に食事をするのは無理です」

「おおう」

「あと、鎮守府には1年分の備蓄がありましたが、それを駆使しても1ヶ月もちません」

「・・・おおお・・」

「あまり時間は、残されていませんね」

ロ級が口を開いた。

「イヤ、1ヶ月モ費ヤシタラ、取リ返シガツカナクナル」

リ級が頷いた。

「ソウネ。ロ級ノ言ウトオリ、1ヶ月後ナンテ想像モシタクナイワ」

提督はリ級に聞いた。

「どういう事だい?」

「私達ハ、アノ敵ヲモンスタート呼ンデイルケレド、過去ニ出タモンスターハ、必ズ成長シテタノ」

「成長?」

「エエ。現時点デ誕生カラドレダケ時間ガ経ッテイルカ解ラナイケド、時間ガ経ツホド・・・」

ロ級が言葉を継いだ。

「攻撃モ防御モ強クナル。部下ヲ増ヤス場合ガアル」

「モ、モンスターは、部下も作れるのか?」

「ソウ。ダカラ出来ルダケ早ク、ソレモ1回デ仕留メタイ。」

「出し惜しみをすれば手遅れになるという事か。よし、工廠長、通信施設は?」

「もう出来ておる、昔の位置じゃ」

「長門、ついてきてくれ」

「うむ」

 

「せ・・成長・・する?」

中将は提督の報告を聞き、やっとの思いで答えた。

今時点でさえ遠征に出かけた艦隊が丸ごと消し飛ばされる程の強さなのに、更に強くなる?

五十鈴がマイクを取った。

「提督、五十鈴よ」

「聞こえてます」

「史実でも鬼姫討伐に出た艦娘達は、夥しい深海棲艦と戦い、雲を突くような本体の姿に足が震えたとあるわ」

「・・・」

「現在が移動する島、という事は既に成長しているのでしょうけど」

「まだ大きくなるって事ですね」

「可能性が高いわね。あと、今日の昼に索敵指令を発したのだけど・・・」

「はい」

通信機から一瞬の静寂の後

「提督、落ち着いて聞いてほしいのだが」

「なんでしょう?」

「鬼姫はソロル島近くの岩礁に、腰を落ち着けたようなのだよ」

提督も長門も絶句した。後半日遅かったら・・・

「逃げて正解だったでしょ?少しは感謝して欲しいわね」

「・・・ありがとうございます、五十鈴さん」

「そんなに落ち込んだ声を出さないで。とりあえず、相手の位置は今は掴めてる」

「充分に距離を取った海上6カ所から電探で確認し続けているから、動けばすぐに解る」

「敵は深海棲艦を従えてるのでしょうか?」

「いや、現時点で深海棲艦反応は鬼姫だけだ」

「支援はどうでしょう?」

「それが・・な・・・」

「遠征組の被害があまりにも大きかったから、どの鎮守府も尻込みして手を上げようとしないの」

「大本営から君の鎮守府まで資源を搬送する護衛とか、兵装供与には多数手が上がってるんだが」

「・・中将、出来るだけ補給を大量にお願いします。少なくとも今頂いている分の15倍以上」

「君の所の艦娘はせいぜい60~70、受講生を入れても100という所だろう?」

「その通りです」

「今から慌てて艦娘を作ってもLV的に戦力にならんだろう?」

「・・・中将、ええと、落ち着いて聞いてください。」

 

「し、深海棲艦・・・1500体だと・・・」

「はい」

「それが、今回の討伐に手を貸すと言うのか?」

「はい」

「・・・資源は共通で良いのか?」

「確認したところ、合わない者もあるそうですが、各自加工出来るので平気だと」

中将は溜息をついた。

「・・・皮肉なものだ」

「と、仰いますと?」

「深海棲艦を討伐する為に用意した資源を深海棲艦が使い、鎮守府に代わって鬼姫を討伐するのか」

「あ、あの」

「うん?」

「私は人間ですし、長門達艦娘も居るのですが・・・」

「あ、いや、そうだな。すまん・・い、五十鈴!謝っておるではないか!すまん!悪かった!許せっ!」

「まったく・・・ごめんなさいねぇ。後でしっかりお仕置きしておくから」

長門と提督はごくりと唾を飲み込んだ。中将、御冥福を祈ります。

「ところで、それだけの大部隊だと、いつまで統率が取れるか解らないわね」

「そう思いますし、敵の成長を考えると、1ヶ月以内に決着しないとダメだと思います」

「理想は半月以内ね。必要な兵装を言って。最優先で送るわ」

「明日の午後にはとりまとめて送ります」

「了解よ。船団を仕立てておくわ。くれぐれも無茶はしないでね」

「はい。あと、作戦を立てる為、今までの消息不明の経緯や、探査結果を提供してもらえますか?」

「とりあえず食料を積んだ定期船を2時間後には出航させるから一緒に乗せるわ。明日の朝には届くと思う」

「助かります。それでは」

「御武運を」

 

「では、決まった事を皆に伝えようか。長門、しんどいだろうがもう少しだけ手伝ってくれ」

「解っている。作戦は明日、情報が届いてからだな」

「ああ。今日は夕食を取って、眠って、移動の疲れを癒そう」

「今朝の事が遠い昔に思えるな」

「全くだ」

提督と長門は視線を交わすと、ふふっと小さく笑った。

 

 


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