艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

122 / 526
file76:姫ノ島(3)

11月24日深夜 某海域 戦艦隊本拠地

 

「ナ、ナニソレ!冗談ジャナイワ!」

ボスのル級に至急会いたいと、リ級達が駆け込んできたのは、真夜中といって良い時間だった。

資源掘削で疲れている隊員達はすやすやと眠っていて起きもしない。

連日、順番に鎮守府に送り届けていたが、艦娘化はまだ緒に着いたばかり。

最後の隊員と一緒に艦娘に戻るのは1年先か、でも確実に戻れるから良いと思っていた。

しかし、息を切らして駆け込んできたリ級達から聞かされた、モンスターの存在。

それが場合によってはここに、そして鎮守府に達する可能性があるという。

「トニカク、一刻モ早ク、コノ海域カラ逃ゲナキャダメ。提督達モ危ナイワ」

「解ッタ。隊員達ニ緊急警報ヲ出スワ」

そこに。

「二人トモ、頼ミガアル」

声の方を振り向くと、ロ級が立っていた。

「一番ノ親友ガ、殺サレタ。コンナ事ヲ言エタ義理ジャナイガ、仇討チヲ助ケテクレナイカ?」

リ級がロ級に質した。

「アンタ、マサカ、モンスターニ一戦交エルツモリ?」

「ソウダ」

「全隊員ヲ殺スツモリナノ?正気?」

「ヌ級ダッテソウ言ウト思ウ。デモ、ヌ級ノ仇ヲ取リタインダ。ドウシテモ!」

ル級はロ級がぼろぼろと涙を流してる事に気がついた。

「一番ノ親友ッテ、言ッテタワネ」

「アア」

「・・・・考エガアル。チョット待テル?」

「チョットッテ、ドレクライダ?」

「数日ッテトコ。モチロン無駄死ニハサセナイ」

「ナァ、相手ガ成長スル前ニ叩カネバ勝ツチャンスハ下ガル。数日ハ致命的カモシレンゾ?」

「ソレデモ、カカルカラ」

リ級は話が飲み込めないという様子でル級を見た。

「ル級?アンタ、提督ニ何テ言ウツモリ?確実ニ死ヌワヨ?」

ル級はニヤリと笑った。

「コノ影響ハ、私達ダケジャ無イ筈ヨ。ロ級。オ願イダカラ私ニ預ケテ」

ロ級は迷ったが、戦艦隊員150体の存在は余りにも大きかった。

「・・・解ッタ。デモ、出来ルダケ早クシテクレ」

「ジャア、駆逐隊隊員モ鎮守府ニ来テ。攻撃シチャダメヨ?」

「ハア?艦娘ガ協力シテクレルワケナイジャナイカ。余計ナ被害ガ出ルダケダ」

「アノ鎮守府ダケハ別ナノヨ。隊員達ハイツ揃ウノ?」

「明朝6時ニ招集ヲカケテアルガ・・・」

「揃ッタラ一旦ココニ来テ。皆デ行キマショウ」

そこでリ級が声を上げた。

「アマリ群レテ行動スルノハ危ナイワヨ」

「ソウナノ?ウーン」

リ級が溜息をついた。

「解ッタワ。私達ガ駆逐隊ヲ鎮守府マデ誘導スルカラ、戦艦隊ハオ願イネ」

ロ級がリ級を見た。

「オ前モ協力シテクレルノカ?」

リ級はふんと鼻を鳴らした。

「ル級ノ為ヨ、ル級ノ」

ロ級もふふんと鼻を鳴らした。

「アッソウ。ジャア私モル級ノツイデニリ級ニ力ヲ借リルヨ」

ル級とタ級は溜息をついた。

この二人が揃うといつもこうだ。根っから憎んでる訳ではないようなのだが。

 

 

同時刻 鎮守府通信棟

 

「彩雲を木っ端微塵にし、艦隊が非常警報も発信出来ないほど短時間で轟沈させられた、というんですか?」

大本営からの緊急通信との連絡を受けた提督は長門を連れて通信棟に入り、中将から驚愕の事実を知らされた。

「そして非常に悪い事に、襲撃された時間軸を辿ると、敵は君の海域に向かっている可能性が高い」

「それは、深海棲艦なんですか?」

「解らない。言える事は彩雲のパイロットが言い残した、航行する島、という事だけだ」

「航行する、島・・・」

「とにかく、君の鎮守府に緊急撤退命令をかける」

「え?撤退するんですか?」

「一時の間だ」

「し、しかし、軍が逃げては・・・」

「守るべき市民が居るなら別だが元々無人島だろう?君を失うわけにはいかない。帰って来るんだ」

「いつです?」

「明朝0800時には出立したまえ・・・んお?」

「どうしました?」

「提督、聞こえる?五十鈴よ」

「はい、聞こえます」

「情報が少なすぎるんだけど、可能性としては伝承にある鬼姫の可能性が高いわ」

「鬼姫?」

「極端に強い大型の深海棲艦、といえば良いかしら。つまり1鎮守府じゃ到底太刀打ち出来ないって事」

「・・・・。」

「今、こちらで攻撃体制を整えてるの。隣接海域の鎮守府から報酬付きで討伐命令を出す予定よ」

「ならばうちの鎮守府を前線基地にしてはどうです?」

「他の鎮守府からそこに行くのに後3日はかかるわ。その間に攻撃されたら一瞬で灰よ。言う事を聞いて。」

「な、ならば、旧鎮守府はどうでしょう?」

「旧?」

「そうです。元の鎮守府があったところに、建物だけ建てるのは短時間で出来ます」

「うーん・・まぁ遠くなるといえばそうだけど・・大本営との中間位だし・・・」

「お願いします。見捨てたくないんです」

「何を?」

「我々を信じてくれている、深海棲艦達をです」

「提督、艦娘の身の安全の確保が最優先だぞ」

「そ、それは・・・その通りですが・・・」

中将は溜息をつくと、

「解った。ならばまずは旧鎮守府へ避難しなさい。」

「はっ、はい」

「旧鎮守府近海では、他の鎮守府からの偵察機も含めて、索敵を常時行う」

「はい」

「もし鬼姫が出没したら、その時は大本営に来てもらう。良いね?」

「ありがとうございます」

「あっきれた。本当に中将は提督に甘いのね」

「例の、君の鎮守府に居た子の事が気がかりなんだろ?」

「はい・・・」

「会えると良いな。我々も最大限早く体制を整える。必ず討伐隊が行くまで持ちこたえろ。命令だ」

「解りました!」

スイッチを切ると提督は長門に全艦娘非常召集命令をかけさせ、工廠長に連絡を入れた。

今から全力で準備しても、命令通り0800時の出発が限界だろう。

 

 

11月25日0700時 鎮守府工廠前の浜辺

 

「後どれくらいだ?」

「9割完了という所だ。補給を完全に行いたい」

「勿論だ」

提督は長門と指揮を執っていた。特に受講生の艦娘達は不安げな表情を隠そうともしない。

そこに。

「なっ、何あれ!」

「きゃああああ!」

提督と長門が振り返ると、夥しい数の深海棲艦達が一斉に浮上してくるところだった。

「提督!隠れろ!」

庇おうとする長門を提督は制した。

「待て!陸奥だ!全員砲撃するな!停止!」

 

「なるほど、皆で逃げてきたんだな。良い判断だ」

「モウ少シ遅カッタラ、スレ違イニナルトコロダッタナ」

「間に合って良かったよ」

「急ニ大勢デ来テシマッテスマナイ」

「緊急事態なんだ、仕方ないさ」

ロ級や駆逐隊の隊員達はぽかんとした表情でやり取りを見ていた。

リ級やル級は普通に接しているが、あれ、鎮守府の提督と艦娘だよな?

どういう関係なんだ?敵じゃないのか?

「じゃあ、旧鎮守府に移動する。工廠長!」

「なんじゃ?」

「申し訳ないけど、旧鎮守府に着いたら至急・・・」

「建物を建てるだけならあっという間じゃよ。任せておけ。さっさと行こう」

「解った。長門!」

「良いぞ!全艦補給が済んだ!」

「よし!それでは全体移動開始!」

 

こうして世にも奇妙な、艦娘と深海棲艦の大集団は、一路旧鎮守府を目指して出航したのである。




カナ違いを直しました。毎度すいません。
さらに誤字までありました。ほんとにすいません。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。