艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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●作者からのお知らせ●

これから記す姫の島シリーズは戦闘による残酷な描写が出てきます。
そういうのパスという方はシリーズが終わった次からご覧ください。

お知らせでした。



file74:姫ノ島(1)

 

11月24日昼 大本営

 

「・・・一体何があったと言うんだ」

中将は各班から上げられた信じがたい報告に頭を掻きむしった。

数日前から、遠征に出かけた艦娘が帰って来ないという鎮守府からの悲鳴が大本営に集まりだした。

消息不明となった海域に大本営所属の駆逐艦を送って捜索したが、そこには海原があるばかり。

事態を重く見た大本営は捜索隊に彩雲を満載した空母を編入、飛行限界距離まで広域探査を命じた。

やがて、その1機から、

「し、島が・・海上を・・航行している・・ありえない・・・」

という奇妙な連絡を送ってきた直後に消息を絶った。

大本営は敵方の大型空母と判断。

直ちに近隣の鎮守府から艦爆300機、空母6隻、戦艦3隻、重巡10隻の大編成を送り込んだ。

しかし、海面を漂う彩雲の主翼の片側が見つかった以外は、空母どころか深海棲艦の1体も居なかった。

持ち帰った主翼は穴だらけだった。

中将に報告に来た分析班長は、ビニール袋に入った弾を1つ、中将に手渡した。

「主翼の桁に食い込んでいた弾頭です」

「重いな・・」

「これが主翼1枚に62箇所も撃ち込まれ、ほぼ全弾貫通していました。翼は一瞬で揚力を失ったでしょう」

「・・・」

「命中率と彩雲の回避能力を考えれば地上から数十基で一斉射されたとしか思えません。機銃ではありえない」

「・・・」

「彩雲の乗務員は最後に、島があると言っていたそうですね」

「・・ああ」

「それが事実なのでしょう。とてつもなく重武装で、移動する、島。」

「あ、ありえないだろう・・・」

「しかし、それしか考えられない。新手の深海棲艦かもしれません」

「浮砲台どころじゃないぞ」

「史実にある、要塞か、それ以上かもしれません」

中将はごくりと唾を飲み込んだ。

「これから大将に報告する。君も来てくれ」

「はっ!」

 

 

11月24日夕方 某辺境海域

 

「フンフーン」

海底に横たわったまま、ヨ級は大好きな昼寝に興じていた。

このヨ級はカ級と2体で一緒に行動していた。最小単位の軍閥と言っても良い。

海域で資源が豊富なエリアは強い深海棲艦がひしめいており、当然資源争いが活発に行われている。

この2体は考えた結果、海域の中でも辺境といわれる最も資源の少ない所に腰を据えた。

資源が少なければ元々やってくる深海棲艦も居らず、来たとしてもすぐに補給が切れて長期的な争いにならない。

そして、迷い込むタンカーや鋼材運搬船の周りを遠距離狙撃し、慌てて逃げる際に落とす僅かな資源を拾う。

潜水艦が極めて資源消費が少なく、2体しか居ないからこそ出来る生き方であった。

「ネェ、変ナ音シナイ?」

近くで寝そべっていたカ級が声をかけた。確かに小さな地響きがする。

ヨ級は音が来る方にソナーを打った。やけに質量が大きい。しかも近づいて来ている。

カ級と顔を見合わせ、ソナー発信地から離れると、海底の丈夫な洞穴の陰に身を隠す。

地震だとすれば激しい水流が来た時にしがみ付ける物が要るし、巨大な敵なら戦いになるのは御免だ。

そして様子を伺っていた2体は悲鳴をあげそうになり、すんでの所で互いの口を押さえた。

かつて見た事が無い程の巨大な物体がずるずると海面を通過していく。

少なくとも船舶と呼べる大きさではない。まるで、そう、島のようだ。

だが、海底からも見える兵装や発している光が深海棲艦である事を示していた。

通り過ぎて十分な時間が経ってから、二人はそっと手を放した。

「ナ、ナア、アレハナンダッタンダ?」

「解ラナイケド、アンナ大キイノ見タ事ナイヨ」

「カ、海上ハ、ドウナッテルンダロウ?」

「止メナヨ。見ツカッタラ洒落ニナラナイカモヨ?」

それでもヨ級は恐怖に興味が勝った。

不安そうに見上げるカ級を置き、ヨ級は潜望鏡を目一杯伸ばし、先端をギリギリ海面に出した。

見えた映像が一瞬理解出来なかったが、理解するとそのままの格好で沈んできた。

「ド、ドウシタノヨ?大丈夫?」

カ級がそっと声をかけ、肩に手を置くと、ヨ級がガタガタと震えているのに気が付いた。

「ア、エ、エエトネ」

「ウン」

「軍基地ガソノママ、深海棲艦ニナッテル」

「ハ?」

「ナ、何テ言エバ良イカ解ンナイケド、本当ニ、丸ゴト」

「ジャア港トカ鎮守府トカガアルノ?」

「滑走路モアッタ」

「冗談デショ!」

「ホントダッテ!見テキタラ良イジャン!」

「嫌ヨ!気付カレタラドウスルノヨ!」

バシャシャシャシャ!

何かが海水を叩く音がした。

顔を上げた二体が見た物は、通り過ぎる爆撃機の影と、迫り来る多数の爆雷だった。

 

「爆撃機275ヨリ姫ヘ、海底ニ居タ深海棲艦2体ヲ処理」

「ゴ苦労様。モウ少シ捜索シテ、他ニ居ナケレバ戻ッテラッシャイ」

「ハイ」

通信を終えると人影が立ち上がり、部屋の窓から外を眺めた。間もなく日が沈む。

かつて、ある島に、1つの港湾基地と建設中の飛行場があった。

しかし、深海棲艦と艦娘が島全域で壮絶な戦いを行った結果、島は丸ごと火の海に包まれた。

港湾基地と飛行場に居た妖精達は逃げ場を失い、巻き込まれて死ぬ事に怒り狂った。

怨念はかつての島、施設、妖精達、そして1体の深海棲艦として具現化した。

深海棲艦は妖精達から姫と呼ばれた。

島は姫の気の向くままに彷徨った。

先程通信してきた爆撃機が帰還し、格納庫で給油と整備が開始された。

厚いコンクリート製の格納庫には偵察機から大型爆撃機まで様々な機体が所狭しと並んでいた。

基地の周囲には、かつて島にあった木々に代わって高射砲や大砲が林立していた。

水中にも地上にも数多くの電探が設置され、常時動いていた。

島に居る妖精達は金色に輝き、たった1つの目的の為に昼夜問わず働いていた。

艦娘も深海棲艦も、我々を無差別に攻撃した敵。存在する一切を焼き払う。

タタタタタタ・・・

島の北側に設置した高射砲の一部が空の1点に向かって撃ち始め、程なく止んだ。

姫は見向きもしなかった。自動攻撃ユニットが撃ち漏らす筈もない。

通信が入った。

「偵察機1機ヲ撃墜。元艦ヲ攻撃シマスカ?」

丁度、水平線に日が沈み、急速に暗くなる時だった。

姫はニヤリと笑うと、通信に答えた。

「確認ガ居ルノ?今ハ逢魔ガ時。地獄ノ釜ニ放リ込ンデアゲナサイ」

「ハハッ!」

唸るように低い音で重々しく飛び立つ大型爆撃機とキーンという高い音を立てる攻撃機が3機。

4機を1つとする数編隊が次々と滑走路から飛び立っていった。

 

 




ここで出てくるモンスターは、「離島棲鬼」をベースにした「離島棲姫」とでも言えば良いでしょうか。
完全に架空の存在です。良いですか、架空の存在ですからね。
もしここ見てても本当に作らないでくださいね運営さん!
春イベだって資源不足でE2終わらなかったんですから!

というメタ情報。

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