艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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file72:隊員達ノ決断

11月12日午前 某海域

 

ざわめく戦艦隊の隊員達を前に、ル級は副砲を1発発射した。

無論空砲だが効果はてきめんだった。

ル級は咳払いをすると、説明を続けた。

「トイウ訳デ、レ級ハ見事ニ艦娘ニ戻ッタワ」

「ダカラト言ウ訳ジャナイケレド、私モ艦娘ニ戻ロウト思ウノ」

「ソレデ、皆ニコレカラ3ツノ事ヲ言ウワネ」

「1ツ目ハ、成仏スル意志ノアル子ガ居ルナラ、整備隊ニ頼ンデアゲル」

「2ツ目ハ、私ヤ、レ級ト一緒ニ、艦娘ニ戻ル挑戦ヲシタイ子ガ居ルナラ、一緒ニ行キマショウ」

「最後ハ、残ル子達デ新シイ隊ト、ボスヲ決メテ欲シイシ、決マルマデ私ハ残ルカラ安心シテ」

「マズハ、ドノ道ニスルカ、手ヲ上ゲテ貰ッテ良イカシラ?」

全員の顔を見渡した。

「成仏ヲ希望スル子ハ?」

カ級が素早く数えると、耳打ちした。

「大体20体位デス」

「ヨシ、ジャア次、艦娘ニ戻リタイッテ子ハ?」

カ級は数えるのを諦めた。

「ホトンド全員デス」

「ジャア最後、ココニ残ルッテ子ハ?」

しーん。

レ級のアドバイスがあって良かったとル級は内心ほっと息をついていた。

あのまま悩んでいたら想定外の事態にパニックになったかもしれない。

「ジャア、成仏ヲ選ンダ子ハ・・」

「アッ、アノッ!艦娘希望ニ変ワッテモ良イデスカ?」

ル級はカクッとつんのめったが、

「解ッタ。良イワヨ。ジャアモウ1回採決ヲ取ルワネ。成仏希望ノ子!」

あれっ?

カ級が目を凝らした後、ル級に振り向いて首を振った。

「エ、エト、ジャア残ルッテ子!」

おおう。

やはりカ級はしばらく探したが、ル級に振り向いて首を振った。

「ジャア・・・全員艦娘希望ナノネ?」

こっくりと隊員達は頷いた。

「解ッタワ。ソレジャア艦娘ニ挑ム為ノ話ヲシマス。ヨク聞イテ頂戴!」

 

 

同時刻。

リ級とタ級は整備隊の隊員達を集めていた。

「彼女」は消滅したと伝え、整備隊の役割が終わった事を理由に隊を解散する事を伝えた。

同じく安住の地が無くなる事への不安の声が上がった。

これに対して選択肢を提示したところ、こちらでは7割が成仏を希望した。

また戦って深海棲艦になるのはこりごりだという。

なるほど、それはそうだとリ級は思ったのだが、タ級がうっかり、

「艦娘ニ戻ッタ後、解体ヲ許サレレバ、人間ニナレルゾ?」

と言ったので、結局半々の割合になってしまった。

「ア、余計ナ事・・・言イマシタカネ」

リ級はふうと息を吐くと

「マァ、事実ダカラ良イワヨ。隠ス事デモナイシ」

と言った後、再び隊員達に向かって

「ジャア、成仏スル子モ、艦娘希望ノ子モ、最後ノ手伝イヲシテ頂戴!」

と言った。

 

 

11月13日午前 岩礁

 

「そういえばさあ」

夕張がテーブルを拭きながら言った。

「何、夕張ちゃん」

「もし、この前の方法で艦娘希望の子達が全員来ちゃったら、この小屋も終わりなのかな?」

鳥海が手を止めた。

「そっか。深海棲艦を生み出していた東雲ちゃんもここに居るわけだしね」

「じゃあ研究班も解散かなあ」

「東雲ちゃんの安定化も済んじゃったしね」

「東雲ちゃん、ほんと睦月ちゃんと仲良いよね」

「姉妹のように毎日楽しそうに遊んでるものね」

「今まで辛かったんでしょうから、沢山楽しんで欲しいわね」

「そうだねえ」

「アタシは、結構この仕事好きだったなあ」

「そうね。研究室も貰えたし」

「夕張を少しは真艦娘に出来たと思うしな!」

「えー」

「最初のうちは1周がやっとだったランニングも、最近は10周出来るじゃないか」

「そりゃあ毎朝怒られたし、最近は飛龍さんや蒼龍さんまで来るんだもん。嫌でもやるわよ」

「体動かさないと鈍っちゃうもん!」

「朝の空気の中で走るの気持ち良いじゃない!」

「3時のアニメ見逃してばっかりですよ・・・録画してるけど」

「だけど、だいぶスタイル良くなったわよね?」

「えっ!?うそ!ほんと!?」

「うん。夕張ちゃんお腹引っ込んだよ」

「そっか・・・頑張った甲斐がありました!」

「頑張ったのアタシなんだけど・・・まぁ良いや」

「島風も随分片付け出来るようになったわよね?」

「片付けないと榛名さんと鳥海さんがガスマスクして火炎放射器持って来るんだもん」

「物があるから片付かないだけですよ。全部燃やしてしまえばスッキリ」

「すいませんすいませんちゃんと片付けます」

「でも、最近は散らかす事も減ってきたわよね。押入れも含めて」

「査察が抜き打ちの上に厳しいんだもん。普段から気をつけるようになるよ~」

「良い事です」

「ま、まぁ、片付いてるって便利だよね」

「あら、島風からそんな台詞が聞けるなんて。それだけでも研究班の意味がありますわ」

「班長まで~」

皆がくすくすと笑い出したその時、水面がゴボゴボと泡立った。

「あら?」

愛宕が振り向くと、そこにはリ級とル級の姿があった・・・のだが。

「ちょ!なんでそんなに泥まみれなんです!?」

 

「ス、スマナイ。アリガトウ」

摩耶達がリ級達をぬるま湯で洗い、タオルで拭くと、鳥海が温かいお茶を出した。

「それで、どうしたんです?カレーはお昼からですけど」

「引キ渡シスケジュールヲ調整シヨウト思ッテ」

「ああ、艦娘希望者さんて事ね?」

「ソレモアルシ、海底資源ノ事モアル」

「昨日ノ午後カラ試掘ヲ始メタンダガ、何ガ要ルカト思ッテ」

「色々試料ヲ持ッテ来ヨウト思ッタラ、汚レヲ落トス時間ガナクナッテナ」

ル級が持ってきた麻袋を開けて、テーブルに出し始めた。

「マズハ定番ノ、鋼材トボーキサイトダ。火薬モ僅カナガラ調合デキル」

「私達はメタンハイドレートデ活動シテルケド、原油ハ掘リ当テテナイカラ燃料ハダメ」

「変ワッタ物トシテハ、コレダ」

そういうとル級は幾つかの宝石を取り出した。

「わっ、綺麗!」

「海底鉱山カラ取リ出シタ。サファイアト、アクアマリンダ。」

「文字通りアクアマリンね」

「宝石ヲ磨ク事ニ長ケテイル隊員ガ数人居ルカラ、欲シケレバ磨カセル」

「後ハ海草ヤ魚介類ナラ豊富ニ渡セルガ」

「どうだろう?提督呼んでこないと解んないね」

「解った。待ってろ!呼んでくる!」

 

「気にしなくて良いのに」

本日の秘書艦である加賀と一緒にやってきた提督は開口一番そう言ったが、加賀は

「ですが、鋼材と弾薬は改造並みに消費する事が解っています。補給は大事」

「まぁそうだけどね。無理して帳尻合わせようとしなさんなよ」

ル級とリ級は肩をすくめると

「提督ッテコウナノヨネ」

「コナヲカケルナッテ言ッテルノニネ」

「マァ、キットコノママナノヨネ」

リ級は蒼龍の方を向くと、

「コブラツイストハ、ホドホドニネ?」

と言ったが、蒼龍はふんと鼻を1つ鳴らしただけだった。

「しかし、海底鉱山の宝石は大粒だねえ」

提督は宝石を光にかざしながら言った。

「海底ダカラ人間ガ掘ッテナインダロウ」

「そう考えると、人間って勝手な存在だよねえ」

「マァ、哲学的ナ話ハサテオキ」

「そうだね。結論から言うと魚介類は大量に貰っても余らしてしまうと思うんだ」

「デショウネ」

「ただ、戻った艦娘が移転先が決まるまでの間の食料として助かる。だから人数分程度貰えないだろうか?」

「隊員達ノ食糧補給トイウ意味ネ。解ッタ」

「鋼材と弾薬は先程加賀が言ったように艦娘に戻す作業で必要になる」

「ソウネ」

「だから持ってきてくれるのは嬉しいのが本音。だから無理しない範囲で頼みたいな」

「メタンハイドレートモカ?」

「メタンハイドレートなあ。LNGならコージェネの燃料に使えるけど・・・」

夕張が言った。

「メタンハイドレート突っ込めば良いんじゃないですか?」

「そんな簡単に装置が受け入れてくれるのか?」

「あたし改造出来ますよ?」

数秒の沈黙の後。

「・・・本当か?」

「ええ。だってガスタービンですもん。燃えりゃ何でも良いんです。ゴミでもアルコールでも何でも」

「凄いな・・じゃ、じゃあ、持ってきてくれるなら持って来てください」

「大丈夫。任セロ」

「後は・・これか」

提督はサファイアの塊を再び持ち上げた。

「使い道・・という意味ではゼロなんだけど、個人的に好きだなあ」

リ級がくすっと笑うと

「ジャアソレモ、磨ク時間ガアッタラ持ッテ来テアゲル」

「まぁ、これは最下位の順位で良いよ。ところでお二人さん」

「何ダ?」

「大体何人位ってのは解ったのかな?」

ル級とリ級が顔を見合わせた。

「ソレガ・・・」

 

 


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