艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

117 / 526
file71:レ級ノ結果

11月11日朝 工廠

 

「工廠長」

「おぉ提督か。二人は順調じゃよ」

提督は本日の秘書艦である扶桑を連れて様子を見に来たのである。

「こんな珍しい事は滅多に無いから、バッチリ録画してます!」

夕張が案の定撮影に熱中してたので、提督と扶桑は顔を見合わせて苦笑した。

「レ級達は岩礁に来るんだろう?一応迎えに行ってやれよ」

「大丈夫!摩耶さんが行ってくれます!」

「夕張さんは?」

「レ級さんが艦娘になるまで録画しっぱなしです!」

「よく体力がもつな・・・並みのカメラマンを越えてないか?」

「邪魔しないでください提督!」

「わ、解った解った。そう怒るな」

その時、島風がそっと声をかけた。

「夕張ちゃんはホ級の時の雪辱を晴らすんだって、碌に寝ないで撮影してるんだよ」

「じゃあ撮り終わったらバッタリ行きそうだな」

「研究班の皆もそう言ってる。だから明日の早朝ランニングと片付けは無しだって」

「明日1日で足りるのかな?」

「島風は金曜日の朝まで起きないと思ってる」

「それが正解だろうなあ」

島風と提督は夕張を見て溜息をついた。良い子なんだが。

 

 

11月11日午後 工廠

 

「オッケー、来タヨ~」

「ヨ、ヨロシクオ願イシマス!」

対照的な二人だなあと提督は思った。

もう艦娘に戻る事を確信しているレ級と、心配で仕方ないといった風情のタ級。

そして。

「良いわよ良いわよ!さっきHDD積み替えたばっかりだし!準備万端よ!」

夕張、倒れるなよ。

そこに睦月と東雲が手を繋いで現れた。二人とも緊張の色が隠せないようだ。

提督が聞いた。

「二人とも、無理はしてないかな?日付は遅らせる事も出来るよ?」

顔を見合わせる二人だったが、同時に頷いたあと、

「大丈夫です!」

「ガンバリマス!」

と言ったのである。そこに工廠長が、

「念の為、午前中に普通に艦娘を製造してな、その後東雲に深海棲艦にさせたんじゃよ」

「へっ?」

「そしてそのまま、東雲に戻させて問題ない事を確認しておる。だから初めてではないんじゃ」

「なるほど」

「その子はあまり乗り気ではなかったんでの、睦月の近代化改修に使わせてもらった」

「解りました」

「あと、この通り熟練妖精も全員待機しておる。相当な事態にも対応出来るぞい」

ふと見ると、ピシリと敬礼しながら妖精達が整列している。

「これは頼もしいですね。じゃあ、始めましょうか」

「あ、そうだ。レ級さんとやら」

「ナンダイ?」

「艦娘に戻った時、艦種が変わるかもしれんぞ」

「ソウナノ?」

「どういう事です工廠長?戦艦の深海棲艦なら戦艦の艦娘になるのでは?」

「そこはわしも驚いたんじゃがの、午前のケースでは重巡の艦娘がイ級になったんじゃよ」

「へ?」

「で、戻すと重巡なんじゃよ」

「ええっ!?」

「じゃから、結果として同じ事もあるのじゃが、基本は元の艦娘に戻るって事じゃ」

「ほぉ。レ級さん」

「ナンダイ?」

「君は艦娘の時、何て呼ばれてたの?」

「僕ハ・・・加古ッテ呼バレテタヨ」

「おお、まさに違うケース」

「ソウイエバ、ソウダネ。重巡ダッタ」

「というわけで、加古に戻る可能性が高い。それは承知しておいてくれ」

「ソッカー、大和トカニナレタラ嬉シイナッテ思ッテタンダケド」

レ級はぺろっと舌を出した。

提督はタ級に囁いた。

「お茶目さんだよね、レ級って」

「オ茶目デハ済マナイノヨ。良イ子ナンダケド」

「ちょっとリ級さんに似てるよね」

「ヤッパリソウ思ウ?私モソウ思ウ」

その時、背後の海面からざばあっと水柱が立ったかと思うと、ル級とリ級が姿を現した。

ル級はかなり興奮しており、リ級は今回もなだめ役だ。

「レ級!アンタ!」

「ゲッ、ル級!」

「コンナ大事ナコト、報告位シナサイ!」

「イヤァ、戻レナカッタラ恥ズカシイジャン」

「戻ッタラ帰ッテ来レナクナルデショ!」

「・・・オオ!」

「オオ、ジャナイ!マッタク!」

「マァマァ、ル級サン、間ニ合ッタンダシ」

提督は再びタ級に囁いた。

「ほんとだ」

「デショウ?イツモコウナノ」

はぁ、と二人は溜息をついたが、夕張が痺れを切らしたように、

「さぁ始めましょうか!レ級さん!位置について!」

レ級はにこっと笑うと

「オッケーオッケー、ドコデドウスレバ良イノカナ?」

睦月が地面に書かれた青い輪を指差すと、

「兵装以外の荷物を置いて、あの中心に立ってください」

「兵装以外ノ荷物ッテ?」

「お金とかハンカチとか」

「・・・ナンカ入レル物クレル?」

「はっ、はい!」

それから5分間。

「エエト、コレモ違ウヨネ。コレモ私物カ。エエト・・・」

どこに仕舞ってあったというくらいの私物が籠から溢れる勢いで積みあがった。

タ級がついに苦言を呈した。

「アンタネ・・・」

「ダッテ!急ニ言ウカラ」

「ドンダケ私物持ッテルノヨ!」

「全部大事ナ物ダモン!」

「良イカラサッサトシナサイ!」

提督は摩耶に囁いた。

「島風や夕張のお仲間は深海棲艦にも居るんだな」

ふんすと摩耶は鼻を鳴らし、

「艦娘になったら徹底的に鍛えてやるよ」

と言った。

10分後。

ようやく私物を出し終えたレ級は円の中心に立ち、

「オ待タセ~」

と、手を振った。

「じゃあ、いきますよ~!」

東雲と睦月が手を繋いだまま言うと、二人は目を瞑った。

東雲がぼうっと青白く光り、その光がレ級の周りを球のように包み込んでいく。

「レ級カラ・・・艦娘ニ・・・」

「落ち着いて、1つずつ・・・大丈夫だよ・・・」

二人は目を瞑ったまま、小さな声で会話し続けた。

見守る者達にとって長い長い時間が過ぎた。実際は10分位だろうか。

やがて、球の光が弱まり、消えた後には

「・・・おぉ、目が冴えてきた。力がみなぎってきたよ!」

と、腕をぶんぶん振り回す加古の姿があった。

「成功、じゃな」

ぽつりと工廠長が呟いたのを合図に、一同はわあっと盛り上がった。

「オメデトウ!レ級!艦娘に戻ったね!」

「無事戻ッテ良カッタ。安心シタワ!」

「やったね!今度こそ、今度こそちゃんと録画したよ!」

「夕張ちゃん・・雪辱を果たしたね」

「ありがとう、島風ちゃん・・・これで寝れる・・・zzz」

「おい!ちょっ!ここで寝るな!」

高雄が東雲達のところに行った。

「大丈夫?疲れてない?」

「ええと、東雲ちゃんは?」

「平気」

「じゃあ二人とも平気です!」

「そう。それなら本当に良かった。でも今日はゆっくり休んでね。」

「うん!」

「アリガトウ。アノ、私」

「何かしら?」

「コ、ココニ居テ、良イノ?」

「工廠長!提督!」

「ん?」

「なんじゃ?」

「東雲ちゃんが、ここに居ても良いのかって聞いてるわよ?」

「当たり前じゃ」

「居て良い、じゃなくて、居て欲しい。東雲さん、お願い出来るかな?」

「ハッ、ハイ!アリガトウゴザイマス!」

「睦月」

「はい!」

「これからしばらくの間、東雲さんと二人で深海棲艦を元に戻す仕事が続く」

「はい」

「疲れたら休みを入れる。しばらくは様子を見ながら少しずつやっていこう。無理は禁止。良いね?」

「・・提督」

「なんだい?」

「睦月は、やっと、睦月しか出来ない事で役に立てそうです」

「そうだね。睦月が頑張ったからこその現在だよ」

「その未来をくれたのは、提督と、響ちゃんです」

「・・・そっか」

「提督、ありがとうございます!私頑張ります!ちゃんと役に立ちます!」

「その前に、私の可愛い娘って事を忘れないでくれよ?」

「うん!」

「東雲さんも、決して無理しないで。何かあったら睦月なり研究班なり私に言いなさい」

「解リマシタ」

「東雲さんの住まいは引き続き工廠長に任せて良いのかな?」

「無論。今まで使ってた部屋をそのまま使ってくれて良いぞ」

「エッ!アンナ快適ナ部屋ヲ使イ続ケテ良インデスカ?」

「構わんよ」

「嬉シイデス!アリガトウゴザイマス!」

睦月と東雲が手を取り合ってぴょんぴょん飛んでいるのを横目に、提督はル級とリ級に話しかけた。

「リ級さん、本当に長い事かかって、しかもうちで解決出来なくて申し訳なかったね」

「トンデモナイ。提督ガ居ナカッタラ、コンナ話ニナラナカッタ」

「これでやっと、私はリ級さんに1つ借りが返せたね」

「コチラモ借リダラケダケドネ」

「整備隊の子達はどうするの?一緒に戻るかい?」

「希望ハ聞クケド、オ願イスル可能性ガ高イワ。ソウデナケレバ戦イタクナイナンテ言ワナイト思ウノ」

「そうだよね」

「戦艦隊ト合ワセルト400近クナルノガ心配ネ」

「まぁ、長期計画でやって行こう。陸奥、いやル級」

「ドッチデモ良イワヨ」

「ありがと。リ級としばらく、そちら側での交通整理というか、順番調整を頼めるかな?」

「勿論。ソレカラ提督」

「なんだい?」

「定期的ニ海底資源ヲ持ッテクルワ。徐々ニ隊員ガ減ルカライツマデ出来ルカハ解ラナイケド」

「掘ッテクルッテ事?」

「ソウ。戻スノニダッテ経費ハカカルデショ」

「ナラ、ウチモ手伝ワセルワ。オ願イスル身ダシ」

「無理しなくて良いからな」

「大丈夫。戻レナクナルノハ嫌ダカラ」

タ級がそっと近づいてきた。

「ア、アノ、レ級ヲチャント戻シテクレテ、アリガトウゴザイマシタ。」

「それは睦月達に言ってあげてくれ。喜ぶよ」

「後デ言イマス。ソ、ソレデ、アノ、順番ハ後デ良イノデ、ワ、私モ」

「だって、リ級さん。整備隊からの希望者第1号じゃない」

「アラ、1号ジャナイワヨ?」

「えっ?」

「1号は、ワ・タ・シ」

提督とタ級はずずっと滑った。

「ボス!イキナリ居ナクナラナイデクダサイネ!」

「エー、タ級ニ任セテサッサト戻リタ~イ」

「ダメエエエエ」

「・・・冗談ヨ。最後ニ一緒ニ戻リマショウネ」

「ハイ」

ル級も頷くと、

「私モ最後マデ残ル予定ダ。先ニ部下ヲ頼ミタイ」

と、頭を下げた。

「解った。私達も最大限早く、確実に艦娘へ戻す」

リ級が言葉を継いだ。

「モシ最初カラ成仏ヲ選ビタイ子ガ居タラ言ッテネ。ソレハ私達デ出来ルカラ」

「そうなんだ」

「エエ。今マデモ悩ミガ大キ過ギル子ハ、ソウシテキタカラ」

「リ級も色々大変だったんだな」

リ級は提督を見た後、

「女ノ子ニ、コナカケテバカリダト、マタ、コブラツイスト食ラワサレルワヨ?」

と言いながら、くすっと笑ったのである。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。