艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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file69:「彼女」ノ姿

 

11月9日早朝 提督室

 

「うーん」

提督は眠い目をこすりながら、工廠の端を双眼鏡で覗いていた。

傍らには長門と、研究班の面々が揃っていた。

「夕張」

「はい」

「こっから見て、いつもの子達か解る?」

夕張は手渡された双眼鏡に目を凝らしていたが、

「正直、外観では何とも。ただ・・・」

「ただ?」

「工廠長とえらく盛り上がってます。」

「は?」

「工廠長が大笑いしてますから」

提督は頭をガリガリと擦ると、

「長門」

「うむ」

「赤城と加賀に発艦準備を済ませた状態で待機命令。第1艦隊を召集。」

「そうだな。万が一敵ならその位でないと厳しいな」

「ただ、他には一切言うな。ややこしくなる」

「うむ」

 

「ほほう、面白い事を考え付いたな!誰の案じゃ?」

「僕ダヨ」

「そういう柔軟な発想は大事じゃ。案外行けるかもしれんぞ!」

「ダヨネ!コレガ上手クイケバ皆ハッピージャナイ」

「おぬしも人間に戻りたいのか?」

「ウン!」

「うちで働く気があればいつでもワシを訪ねてくるが良い。採用するぞ」

「ヤッタ!モウ就職先決マッチャッタ!」

その様子を見ていた提督と第1艦隊、それに研究班の面々は肩から力が抜けた。

なんか警戒して損した気がする。

「工廠長」

「おっ!提督!遅かった・・・って、何で皆揃ってるんじゃ?」

「人騒がせな・・・曜日も時間も場所も違ったら偽者かと思って警戒するっての」

ジト目で見る摩耶に対してタ級が

「デスヨネ・・・ゴメンナサイ。リ級ト、レ級ガ聞イテクレナクテ」

と、頭を下げると、

「ソウ言エバソウネ。リ級ヤ、タ級ッテダケナラ沢山居ルモノネ」

「早ク相談シタカッタンダケド、余計ナ迷惑カケチャッタネ。ゴメン」

と、3体揃って頭を下げた。

ふうと一息ついた後、提督が口を開いた。

「まぁ、いつものリ級さんとタ級さんみたいだけど、そちらのレ級さんは?」

「先日相談シタ、ル級ノ部下ナンダ」

「ほう。じゃあ今日はレ級さんの相談なのかな?」

「あー、ここで話すのも寒いし、工廠の事務所に入らんか?」

「研究室の方が近くないか?」

「すみません。機材が多くてこの人数は・・・」

「夕張・・また何か買ったのか」

「ちょっ!ちょっとだけ!ちょっとだけだから!」

「そのうち特別査察する必要がありそうだな。榛名と一緒に」

「焼き払わないでください!」

 

「うーん、「彼女」の設定を変えて操作する、かあ」

提督が話をまとめると、夕張は悔しそうに指を鳴らしながら

「その方向性は全く考えて無かった。考えたのレ級さん?天才ね」

「イヤァ、参ッタナア」

「でも、工廠長さん」

「なんじゃ」

「その、「彼女」の操作方法なんて・・・」

「言っておくがワシはまったく知らんぞ。今映像を見て初めて存在を知ったからのぅ」

「ですよね」

リ級が溜息をついた。

「ソンナ都合ノ良イ技術ヲ持ッテル子ナンテ・・・」

その時。

「こっ!工廠長さん!ご無事ですか!?助けに参りましたっ!」

バタンと勢いよく開いたドアの方を見た面々はギョッとなった。

睦月が見た事も無い兵装で身を固めている。

頭には暗視ゴーグル付きのヘルメット、服は白黒のダズル迷彩に防爆らしくモコモコとした凹凸がある。

右足にはガトリング砲、左足には噴進砲、背中にはやたら大きなミサイルを背負っている。

どれか1つでも発射されたら部屋ごと木っ端微塵になりそうだが、何より覚悟を決めた睦月の雰囲気が怖すぎる。

異様な迫力にリ級達はさっと両腕を上げた。

「ノー!撃タナイデクダサーイ」

「私達抵抗シマセーン」

「降参シマース」

提督は手を振りながら、

「なんで訛ってるんだよ3人とも。睦月、心配ないよ。いつも来てる子達だったから」

それを聞いた睦月は一瞬固まった後、へちゃっと座り込んでしまった。

「よ、良かったあ・・・兵装が無駄になって良かったですぅ」

提督が不思議そうに聞いた。

「ところで、どれも見た事無いんだけど、それなんて装備?」

「へ?」

「今、睦月が持ってる装備だよ。そんなのあったっけ?」

「いえ、無いですよ。発子ちゃんに相談して急いで作ったんです」

「発子ちゃん?」

「あ、ええと、装備開発の装置に居る子です」

「工廠長、あれって完全に機械じゃなかったの?」

「いや、わしも初耳じゃ。睦月、機械の中に妖精が居るのか?」

「ううん。装置そのものが意志を持った子というか、妖精そのものというか」

「そうなのか?」

「うん。ずっと操作してたら向こうから挨拶してくれたの。だから今は毎日お話してるよ」

提督とリ級は顔を見合わせた。もしかして?

「睦月、お願いがあるんだけど」

「何ですか提督?」

「ちょっと、会話出来るか試して欲しい子というか、機械が居るんだよ。」

「え、ええ、良いですけど」

そこまで言うと提督はぶるるっと身震いをした。

「あっ、防寒肌着着てくるの忘れてた。寒い」

長門がそれを見て

「ここは暖房もあまり入ってないからな。部屋に戻るか?」

「そうしよう。すまないが皆、後を頼めるかな?」

「解ったわ。じゃあ睦月、私達と一緒に深海棲艦の拠点に行きましょう!」

「ええっ!?」

「そこにその機械があるのよ」

「あっ、そういう事ですね。わっ、解りましたっ!」

 

「うっわー!すっごーい!大きいですねー!」

「シー、静カニ。他ノ深海棲艦ガ起キテクルト面倒ダカラ」

「あ、ごめんなさい」

研究班の面々と睦月は、リ級達の案内で整備隊の本拠地、「彼女」の元を訪れていた。

まだ深海棲艦達が活動をするには早い時間であり、使用予定も無い事という事で急遽案内したのである。

そして、「彼女」をしげしげと見ていた睦月は

「寂しそう」

と、ぽつりと言った。リ級は驚いたように

「エ、解ルノ?」

と聞いた。やり取りを聞いていた夕張はそっとカメラとマイクを装備しながら、

「合ってるんですか?」

「エエ。イツモハ、モウ少シ後マデ、私ガツイテルカラ」

「そうなんだ・・睦月ちゃん、ええと、発子ちゃんみたいに妖精さんがいるのかな?」

「うん。あの中に居るよ」

と、青く光る部分を指差した。

「その子は、どんな姿をしているの?」

「んー、えっとねー」

というと、睦月は「彼女」に近づいていき、しばらく会話すると、とてとてと帰ってきた。

「今来てくれるって」

「来る?」

「うん」

その言葉に反応するかのように、「彼女」の光がどんどん強くなっていく。

やがて輝きが収まると、駆逐艦のような被り物をした小さな女の子が台の上に居た。

睦月はとてとてと女の子に駆け寄ると、手を引いて戻ってきた。

「この子だよ」

全員が目をぱちくりした。こんな小さな子がこの海域で深海棲艦を生み出し続けていたのか?

「え、えっと、地上に来る事は出来るのかな?」

「ダ、大丈夫・・デス」

「タ級」

「ハイ」

「部下ヲ集メテ、コノ敷地ヲ封鎖。誰ニモコノ事ヲ知ラレナイヨウニ」

「ソウデスネ、行ッテキマス」

「急イデ。アト、レ級サン、悪イケド、ル級ヲ呼ンデキテ」

「オッケー!」

「配置ガ済ンダラ、全員デ小屋ニ移動シマショウ。長居ハマズイワ」

「解りました!」

程なく封鎖が済み、ル級が合流したのを受け、一行は岩礁に向かったのである。

 


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