艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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file62:ル級ノ再会

11月6日夕方 岩礁

 

「あっ、提督っ!お疲れ様ですっ!」

夕張がいち早く気付いて手を振った。

「すみません。今日はよろしくお願いしますね」

「こちらこそ、何か思いついたら発言してくれて良いからね」

「今日は何があっても録画しますからね!」

「わ、解った。解ったから興奮するな。心臓に悪いぞ?」

「ガルルルルルルル」

「すっかり撮影マニアになってしまったなあ夕張・・」

「提督、長門さん達は護衛ですか?」

「ああ。ちょっと今回は相手が相手なんでね」

「タ級さんもかなり強いんですけどね」

「そういやそうだ。こりゃ一本取られたな」

長門がジト目で見た。

「曲がりなりにも提督なんだから、護衛位は常に従えて欲しいものだが」

「曲がりなりにもってのがすっごい引っかかるなあ。一応提督だよ?多分」

「もっと酷いじゃないか」

「あ、来た」

見ると、リ級とタ級に加え、カ級に支えられたル級が姿を現すところだった。

 

「提督、ゴメンナサイネ」

「リ級さん、今回はかなりの難題だねえ」

「私モ、ドウシタラ良イカ解ラナクテ」

「そうだろうなあ」

 

ル級は提督の声にぴくんと反応した。そして提督と長門を見るなり目を見開いた。

カ級をどんと後ろに突き飛ばすと、よろめきながらも怒りの目で主砲を提督に向ける。

長門が素早く提督の前に立ちふさがり、主砲をル級に向ける。

扶桑達はあっという間にル級とカ級の周囲を囲む。

余りの展開にタ級はひるんだが、すぐに長門に背を向けて、ル級の前に立った。

リ級は驚きながらも、ル級に精一杯穏やかに話しかけた。

「ル級、コノ人ハ敵デハナイワ。私達ノ相談ニ乗ッ」

「コイツハ私ノ敵。元、私ノ司令官ダ」

日は黄昏色に燃え、海風が次第に強くなってきた。

 

誰一人、主砲1つ動かさなかった。空気がキーンと張り詰めていく。

提督は瞑っていた目を開けた。

さっきのル級の言葉。

ル級が戦艦という事。

だとすれば、可能性は1人しか居ない。

提督はかすれた声を発した。

 

「陸奥・・・お前なのか?」

 

ル級は怒りに満ちた目で提督の方を睨んだ。

「ソノ名ハ捨テタ。今ハル級ダ」

「轟沈する悪夢とは、北方海域の事だな?」

「ソレ以外ニ沈ンダ事ハ無イノデナ」

提督は、静かに岩場に正座し、

「陸奥。あれは私の過ちだ。この通り、詫びる。」

そういうと、深々と頭を下げた。

 

1分以上経っても、提督は頭を下げ続けていた。

次第に、ル級の主砲がブルブルと震えだした。

「ナゼ、私ヲ裏切ッタ・・・」

「ナゼ、アノ時進撃サセタ!」

「ナゼ!夜戦マデ進メタ!」

「ドレカ1ツデモ!シナケレバ!私ハ!轟沈セズ!深海棲艦ニモ!ナラナカッタ!」

提督が土下座をしたまま、途切れ途切れに返した。

「・・・私は・・・私は・・・ダメコンを積んでいると・・・思った」

「嘘ダ!積ンデタラ沈ム筈ガナイ!」

「そうだ・・あの時、私は・・、私は間違えて、第2艦隊に積んでたんだ」

「ナッ・・・」

「気づいたのは・・・陸奥が・・お前が・・沈んだ時・・だったんだ」

「・・・」

「すまない・・どれだけ謝っても償えるものではない事は解ってる」

「・・ソウダ・・・私ガ、私ガ、今マデ、ドレダケ苦シンダト思ッテルンダ!」

「1年近く、夜眠れなかったと聞いた。そんなに苦しい思いをさせて、本当に、本当にすまない」

「スマナイデ済ムカ!冗談ジャナイ!」

「その通りだ。本当に、その通りなんだ・・・」

提督は絞り出すような声で答えていた。

その時、日向がル級に声をかけた。

「なあ陸奥、私を覚えているか?」

「モチロン」

「提督はな、あの日の後、自らのミスを責め続け、本当に自分を追い込んでいったんだ」

「・・・・」

「私は今も覚えている。まるで死霊が取り憑いたようにやつれていったのを」

「・・ダカラ許セト言ウノカ・・」

「そうではない。事実を知って欲しい」

「・・・・」

蒼龍が口を開いた。

「あ、あのね、私はその時の蒼龍じゃないんだけど、提督に深海棲艦から艦娘に戻してもらったの」

「・・・・」

「その時提督は言ってた。陸奥さんが苦しんでるなら、他の艦娘に被害が出る前に討たれても良いと」

「・・ソレナラ、何故長門ノ影ニ隠レテイル!!卑怯者!!」

「あたしが絶対にダメだって言ったからよ。」

「・・・ナニ?」

「提督がすべき事はル級さんに、さらに仲間を殺したと傷を刻ませる事じゃない」

「・・・・」

「ル級さんの傷を解ってあげて、癒してあげる事だって、あたしが言ったの」

「・・・・」

長門が口を開いた。

「陸奥。久しぶりだな」

「姉サン」

「あの日、第1艦隊の旗艦だったのは誰だ?」

「ソレガドウシ」

「答えろ陸奥!」

「・・・ネ、姉サン、ヨ・・・」

「そうだ。では、現場での旗艦の仕事はなんだ?」

「・・・!!ソ、ソレハ違ッ!!」

「ええいうるさい!提督も勘違いが甚だしいから説教した!答えろ陸奥!旗艦の仕事は!」

「・・・カ、艦隊ノ、砲撃ヤ、行動、ヲ、指示、スルコト」

「そうだ。解ってるじゃないか。私はお前にあの時、岩山の右を回れと言ったのだ」

「・・・デ、デモ、姉サンハ」

「言ったのだ!違うか!」

「イ、言ッタケド・・・」

「その結果、お前は敵の魚雷をまともに2発も食らった!提督のせいじゃない!私のせいだ!」

提督が顔を上げ、長門の背中に向かって言った。

「長門、違う。進撃させたのは私だ。ダメコンを積んでると信じて行かせたのは私だ」

ル級以上の怒りの炎に満ちた長門が振り向いて提督を睨みつける。

「また蒸し返すか提督!我々が充分強ければダメコンなんぞ必要ないと言っただろ!」

「しかし、積んでると思ったからこそ小破でも進撃させたんだ・・・それは私が言ったんだ」

「やかましい!旗艦になる誇りとは、適切に差配出来る艦だと信頼されている事の証なんだ!」

「長門はいつだって正しい差配をしてきた!私は露程も疑ってない!」

「陸奥も大鳳も飛龍も蒼龍も私の差配で沈んだ!私の!私の可愛い妹を!この手で殺したんだ!」

「長門、それ以上自分を傷つけるな。責任は私が取らないと、旗艦が旗艦として働けん」

「堂々巡りはうんざりだ!一体何回この話をしたと思ってる!」

「何度でも言う。私は責任を取るのが仕事なんだ。だから指示が出来るんだ」

「ならば旗艦は僚艦に指示をするのだから責任があるって事じゃないか!」

 

殴り合いのように延々と続く長門と提督の口論のあまりの迫力に、ル級は砲を下げてしまった。

それを見計らうと、日向がル級の隣に寄り沿い、言った。

「長門と提督は普段凄く仲が良いが、この事件の事だけは互いに自分が悪いと絶対に譲らない」

「・・・」

「陸奥も今まで苦しんできたように、悩み、苦しんできたんだ。提督も、長門も、私達も」

「・・・」

「陸奥は精一杯やった。間近で見ていた私が言うんだから間違いない」

「・・・」

「ミスは誰にでもあるんだ。ダメコンを積み間違えた提督、魚雷を見落とした長門、そして」

「・・・」

「最後の最後、操船を、陸奥は間違えただろう?」

「!!!」

「あの時は取り舵がセオリーだった筈だ。しかし、何故面舵に取った」

「ソッ・・・ソレ・・・ハ・・・」

「小さな小さなミスなんだ。誰も悪気も無かったし、無論轟沈させる気なんてなかったんだ」

「・・・」

「だから、今からでも良い。帰ってこい陸奥。皆待ってる」

「ヘ?」

「さっき蒼龍が言っただろ。提督は、深海棲艦を艦娘に戻せる」

「ホント・・ナノ?」

タ級がにっと笑うと、頷いた。

「間違イナイ。コノ前2体目ガ成功シタゾ」

「提督はな、あの日から1度も戦艦建造をしていない」

「・・・」

「私達は兵器だから作り直せと何度進言しても聞かないんだ」

「・・・」

「提督は色々言って誤魔化しているが、陸奥はお前一人だと思ってるのだと思う」

「・・・」

「あれから提督は苦労を重ねて、私達を沈めない戦い方を編み出した」

「・・・」

「私達を一緒に経験を重ねた唯一無二の娘達だ、誰一人二度と沈めないと言ってな」

「・・・」

「呆れたものだ。最初の頃は兵器をそこまで大事にしてどうすると加賀とよく話したものだ」

「・・・」

「だが、提督は作り上げてしまった。だから私達はあの時から減ってないんだ」

「エッ?」

「凄いだろう?もう4年ものあいだ、1人も減ってないんだぞ」

「・・・」

「戻ってこないか陸奥。我々も、提督も、そして長門も、待ってる」

「モ・・」

「?」

「モドリタイ・・ワヨ・・」

「なら帰ってこい。必要な事をしてから。部隊を率いてるなら、ちゃんと引き継げ」

「・・・」

「我々はずっと待ってる。陸奥を」

「・・・」

「そして一刻も早く、あの夫婦喧嘩を何とかしてくれ。妹だろ?」

ル級と日向は提督と長門を見た。

互いの襟首を掴んでぎゃんぎゃん喚きあっており、蒼龍とリ級が止めに入っている。

ル級はがくりと肩の力が抜けた。

「ナンナノヨ、アレ」

「もううんざりなんだ。夫婦喧嘩は犬も食わないと言うが、それだ」

「関ワリタクナイワネ」

「それこそ、責任を取ってくれ」

「嫌ヨ、轟沈シタ挙句ニ夫婦喧嘩ノ後始末ナンテ」

「運命だ」

「・・・帰ルベキカ悩ムワネ」

「後になるほど大変だぞ」

「決定ナノ?!」

ル級はやれやれと肩をすくめると、タ級に向き直り、

「騒ガセテ、スマナイ。今日ハ、帰ル」

「大丈夫カ?」

「チョット、考エタイ」

「解ッタ」

そしてカ級を振り返ると、

「突キ飛バシテ、スマナカッタ。大丈夫カ?」

「平気デス・・・アノ」

「ナンダ?」

「庇ッテ、クレタンデス、ヨネ?」

「・・・アア」

「アリガトウ、ゴザイマス。嬉シカッタデス」

「大事ナ部下ダ。当タリ前ダ」

「・・・ジャア、帰リマショウ。肩貸シマス」

「・・アア」

 

「全く陸奥の奴!黙って帰るとは何と無礼な奴だ!」

喧嘩の後でやり場のない怒りを溜め込んでいた長門は、陸奥が帰ってしまったと聞いて憤慨した。

「でも、戻ってくるかもしれないぞ。時間はかかるかもしれないが」

日向がそういうと、フンと鼻を鳴らし、

「さっさと帰ってこいというのだ。いつでも歓迎してやると言うのに。なあ提督よ」

「全くだ。陸奥に似合いそうな装備もとっくの昔に用意しているのに」

「それは初耳だぞ提督」

「あっ」

「まさか、いつか帰ってくると4年間も待っていたのか?」

「なっ、長門だっていつも自室の布団を2人分用意させるじゃないか!」

「あれは私が広々寝る為だ!」

「干しては仕舞うだけなのに?」

「うっ、うるさいうるさい!私は女だから女々しくて良いのだ!」

「あっ酷い!男が私だけというのを悪用してる!横暴だ!」

「何でも良いのだ!ほら!陸奥も居ないならさっさと帰るぞ!燃料の無駄だ!」

「あ、片付け手伝わないと」

「良いですよ提督、私達でやっておきますので」

「そ、そうか、騒がせてすまんな蒼龍、皆」

「はいはい、夫婦喧嘩は今後岩礁でやらないでくださいね!」

「HDDの無駄でーす」

「撮ったのか!」

「一応」

「・・・夕張の根性には恐れ入るよ」

提督が弱々しく笑い始めると、面々は兵装を仕舞い、つられて笑いだした。

 




はい。ついにル級と提督、再会致しました。
カ級をどう動かすか、どう役割付けるか悩んだのですが、り陸奥たか、いや、ル級がボスとして部下にどう振舞い、弱った時にどう動くか考えると、これぐらいかなと思うのですけどね。

ちなみに今日の時点で、ネタ整理の放課後講座を除いて通算104話になりました。
100話の時に大きい話を持って来ようと思ってたんですけどね。

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