艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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file60:治療ノ台

 

11月4日早朝 某海域

 

「珍シイナ、ドウシタンダ?」

整備隊幹部であるリ級を訪ねてきたのは、戦艦隊幹部のル級と部下のカ級だった。

「ル級ノ、相談ニ、乗ッテモライタイノデス」

良く見ると、カ級はル級を支えるように肩を貸している。

ル級は傷ついてるようには見えないが、やつれている感じがした。

タ級はリ級を見た。いつもならそろそろお気に入りの島に行く時間だが。

「動ケルナラ、場所ヲ変エタ方ガ、良サソウナ話ダケド」

「スマナイ。モウ、歩ク気力ガ無イ」

リ級はタ級の方に向くと、

「会話ガ聞コエナイ程度ニ払ッテ。アト、妨害ヲ」

「オ任セクダサイ」

動けないというのはただ事ではない。

仮に戦艦隊が機能不全を起こし、隊員が暴れ出したら大変な事になる。

 

「ソ、ソレハ、辛イナ」

リ級はカ級とル級から事情を聞いて、思わず同情した。

ル級は最近、少しでも眠るとすぐに悪夢にうなされ、一睡も出来なくなっていた。

眠くて堪らないが、悪夢の恐怖も尋常ではなかった。

どうにもならなくなり、相談に応じてくれるという噂を頼りにやってきたのである。

「トリアエズ、「彼女」ニ診テ貰ッタラドウダ?」

「体ハ傷ツイテナイゾ?」

「ソレデモ、休養ハ取レルカモ、シレナイ」

「ソウ・・ダナ」

「立テルカ?」

「アア」

 

「彼女」

深海棲艦の大本営ともいうべき拠点に存在する巨大な装置。

鎮守府の研究班と共同で制御方法を探っているが、今はまだ進展がない。

私が動ける間は私が対応すれば良いとリ級は考えていた。

最近は提督とタ級を弄ると元気がモリモリ湧いてくるので、まだまだ行けそうな気もする。

ル級をカ級と一緒に「彼女」の下にある台へ載せると、すぐに「彼女」から光が下りてきた。

最初、辛そうに顔を歪めていたル級は、次第に静かな寝息を立て始めた。

「酷クナリ始メタノハ、昨年ノ春頃ダッタ」

ル級を見つめながら、カ級がリ級に言った。

「最初ハ、昼寝スルト悪夢ヲ見ルト言ッテ、昼ハ絶対ニ起キテテ、夜早ク寝テイタノダ」

「シカシ、段々、明ケ方ニモ見ルトカ、宵ノ口モ、ダメニナッテキタ」

「今年ノ春カラ夏マデハ、一旦良クナッタンダ」

「デモ、秋ガ終ワッタ頃カラ、一気ニ悪化シタンダ」

リ級はカ級に聞いた。

「ドンナ夢ヲ、見ルト言ッテタ?」

「轟沈シタ戦イノ、一部始終ヲ何度モ見テ、無線デ呼ビカケラレル声ガ、頭カラ離レナイラシイ」

「元ノ鎮守府ハ、思イ出セナイノカ?」

「思イ出シタ。ソシテ、皆殺シニシタ」

「エッ!?」

「タマタマ別ノ用件デ、私ガ行ッタ鎮守府ガ、ソコダッタラシイ」

「・・・。」

「ル級ハ話ヲ聞イテ、スグニ全艦ヲ招集シ、鎮守府ヲ砲撃シタンダ」

「ジャア、昔ノ仲間ハ」

「全滅シタダロウ。アノ砲撃と火災ジャ、生キ残ルノハ無理ダ」

「・・・・。」

リ級はル級を見た。

確かに、あの大部隊を率いるル級なら鎮守府の1つや2つ消し飛ばせるだろう。

しかし、そのせいで完全に望みが絶たれたかもしれない。

また、それが今苦しんでいる正体かもしれない。

リ級はカ級を見た。

「大抵1~2時間必要ダケド、アナタハ、ドウスル?」

カ級はル級を見つめながら答えた。

「一緒ニ居ル。モシ、私ガ鎮守府ヲ見ツケタノガ原因ナラ、申シ訳ナイカラ」

「アナタノ責任ジャ、ナイワ」

「解ッテルガ、ソレデモ」

リ級は「彼女」を見た。暴れる様子はない。大丈夫だろう。

「ジャア、起キタラ帰ッテ良イカラ、オ願イシテ良イカ?」

「解ッタ。アリガトウ」

「沢山眠レルト、良イワネ」

「アア」

 

リ級は部下のタ級を呼んだ。

「ココニ、何カ起キタ場合ニ、私ヲ呼ベル子ヲ付ケテオイテ」

「承知シマシタ」

「ジャア私ハ、ソロソロ寝ルワ」

「スグ指示シテキマスカラ、待ッテテクダサイ」

「エエ」

 

そう。

リ級は昼間、島で眠っている。

それは島の景色が好きなのもあるが、島が昼間静かだからである。

リ級は夜中ずっと起きて「彼女」に語りかけたり、見張ったりしている。

「彼女」は夜中に不調になる事が多いので、寝てる時に叩き起こされるのは辛いから、昼夜を逆転したのだ。

しかし、いつも夜中とは限らないので、昼寝ても寝始めた直後に叩き起こされる事はある。

提督達と会う場合は、会う直前まで眠っていたり、その夜だけはタ級に任せて寝るのである。

こういう不便さもリ級以外のなり手が生まれない原因であった。

リ級はぼうっとなってきた。いつも寝る時間をとうに過ぎている。

「オ待タセシマシ・・・」

タ級はリ級に言いかけて止めた。リ級が座ったまま、すぅすぅと寝ていたからだ。

タ級はそっとリ級を抱えると、いつもの島に向かった。

ここはもうすぐ、うるさくなる。

 

「エッ!マダ寝テルノデスカ!?」

その日の夕方。

いつも通り起こしに来てくれたタ級から、ル級がまだ起きないと聞かされた。

付き添っているカ級もさすがに疲れたのか、装置の隣で座りこんでるという。

「ジャア、付キ添ッテ、アゲマショウ」

「ナ、何故デス?」

「ル級ガ寝テルナラ「彼女」ノ整備ハ出来マセンカラネ」

「ソウカ、ソウデスネ」

 

「リ、リ級・・・」

カ級が疲労困憊の表情でリ級を見た。

「アナタモ寝ナサイ。後ハ私ガ見テオクカラ」

リ級の言葉に安心したのか、カ級はそのまま崩れ落ちるように眠ってしまった。

「アラアラ、余程緊張シテタノネ」

平らな床にカ級を横たえると、リ級はル級を見た。

規則正しく呼吸している事から死んだわけではないというのは解る。

しかし、この療養台で12時間近く眠るという事態に、リ級は面食らっていた。

 

ル級が眠る「彼女」の下にある台は、療養台と呼んでいる。

正確に言えば、「彼女」が新たな深海棲艦を産み落とす場所でもあるので、療養だけではない。

ただ、多くは傷ついた深海棲艦を横たえる場所であり、瀕死の状態でも1時間あれば回復してしまう。

それなのに、12時間近く寝続けている。「彼女」も動き続けている。

ル級の顔色はだいぶ良くなっている。今朝は本当に限界だったのだろう。

昔の仲間に会いにも行かず、鎮守府を壊滅させるほどの深い恨み。

一体何があったのだろう。

 

「ウ・・・」

結局「彼女」が光を消し、ル級が目を覚ましたのは、間もなく日付が変わる頃だった。

「起キタカ?水ヲ飲ムト良イ」

「カ・・・カ級ハ?」

「ソコデ寝テル。アマリニモ長時間ダッタカラナ。許シテヤレ」

「長時間?」

「眠リニツイテカラ、間モナク20時間ダ」

「エ」

「カ級ハ、夕方マデ、ズット見守ッテイタンダガ、疲レ果テテ、寝テシマッタンダ」

「・・・・ソウ、カ」

「叱ッタラ、ダメダゾ」

「叱ラナイ。アト、随分楽ニナッタ。アリガトウ」

「様子ヲ見テ、マタ眠レナイナラ、早メニ来ルト良イ」

「・・良イノカ?」

「遠慮ハ要ラナイ。タダ、治療中ヤ、誕生中ハ、ダメダガナ」

「ソレハソウダ。解ッタ」

ル級はカ級を優しく揺すった。何度かの後、カ級はようやく目を覚まし、

「ア!オ目覚メデシタカ!」

「長ク待タセテ、スマナイ。サァ、帰ロウ」

「ドウデスカ?少シハ楽ニナリマシタカ?」

「ズット楽ニナッタ。カ級ノオカゲダ。アリガトウ」

「イエ、ソンナ」

「サァ、帰ロウ」

カ級はル級を見た。面倒見の良いボスだから、このまま治って欲しい。

 


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