艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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file54:駆逐隊ノ蠱惑

10月6日 鎮守府通信棟

 

「うーん」

提督と本日の秘書艦である比叡は、帰って来たこの声に首を傾げた。

何かまずい事でも言っただろうか?

昨日、大隅から補給隊の解散を聞いた提督は、中将にも報告しようと判断した。

その為、任務娘の定常業務が済むのを待って、大本営に連絡を取ったのである。

腐敗撲滅を願う中将は喜んでくれるだろうと思ったのだが、このような反応が帰って来たのである。

「中将、どうされましたか?」

「あぁ、いや、提督。補給隊とやらの解散は喜ばしいのだよ」

「はい」

「しかし、今朝また、大本営内でスパイが見つかったのだよ」

「今朝、ですか?」

「そうなのだ。直近3ヶ月の遠征結果や慰安旅行案内、重点攻撃海域等の情報を盗もうとしていた」

「相手は人間だったのですか?」

「うむ。深海棲艦反応は無かったし、力も普通だったからな」

「どんな人間だったのです?」

「掃除夫だよ」

「うーむ・・どこに居てもおかしくない人で、入れ替わりが激しい人ですね」

「そうなのだ。雇う時に調査はするが、今回の場合はずっと勤めてた人間が買収された」

「どういった手口ですか?」

「簡単に言えばカネだ。成功すると何度でも宝石が貰えるらしい」

「そりゃ豪勢ですね」

「そういう事だ。妙に立派な家を建てたという情報が入ったので網を張ったら見事に引っかかった」

「持ちなれない大金を持つと、家や車に注ぎ込みますからね」

「高級家具とか葉巻、金ぴかの装飾品なんかも、そうだな」

「それが今朝だったのですね」

「うむ。だから少し憂鬱でな。それに、補給隊以外にも腐敗誘導組織は居るという事だ」

「解りました。引き続き調査を進めていきます」

「頼んだよ」

 

スイッチを切ると、提督は比叡に話しかけた。

「重点攻撃海域はともかく、遠征結果が何で要るんだ?」

「うーん、良く解りませんけど・・・」

比叡は考えながら、

「遠征先で会いたくない、とか?」

「深海棲艦が遠征してると言うのかい?」

「じゃあ逆に、遠征先で待ち伏せる為、とか?」

「確かに資源輸送とかであれば、駆逐艦と軽巡だけで行かせる事も多いよな」

「獲得量を増やす為に第2第3スロットにドラム缶積む事も多いですし」

「そうでなくても編成数をケチったり、弱い装備にしたりしますよね」

「そうか。手薄と言えば手薄か。慰安旅行は何だろう?」

「誰も居ない日を知りたいとか、ですかね?」

「そんな全員で行くわけじゃあるまいし」

「ですよねえ」

「すぐには思いつかんなあ。一応、秘書艦の皆には伝えておいてくれ。」

「はいっ」

「うむ、良い返事だ。比叡と居ると元気が出るよ。あ、邪魔してすまなかったね」

任務娘は提督と比叡に微笑むと、ぺこりと頭を下げた。

時間は少し遡る。

 

 

2月4日夕方 某海域

 

「アー、コノ人モ、GAMEOVERニナッチャッタ」

駆逐隊幹部であるロ級は、戻ってきたハ級から受け取るべき物が置かれて無かったと聞いた。

中将の話に出たスパイ活動を依頼したのは他でもない、このロ級である。

とはいえ、チ級のように艦娘売買といった大胆な行動はとっておらず、情報収集のみだった。

ロ級はこれこれの情報、というような限定で依頼する訳ではない。

大本営内で目に付いた書類や張り紙、何でも写真に撮って来てと頼んでいるのである。

一方で、報酬も大小様々な種類の宝石を渡していた。

集まる情報の1つ1つは玉石混合だが、スパイ役は目に付いたら写真を撮るだけという気軽さがある。

ロ級は全体を眺めて大本営や鎮守府が何に興味を持っているのか雰囲気を察する事が出来る。

そして万一スパイが捕まっても、何の為にこの情報を必要としたのかロ級の意図が解りにくい。

雑な指令に見えて巧妙なのであった。

報酬として渡している宝石は幾つかのルートで手に入れていた。

一番多いのは沈没船である。

金属部を装備等に使う為収集しているのだが、宝石は不要なので放置していたのだ。

もう1つは海底鉱山である。こちらの方は山に向けて実弾演習をした後に鉄鉱石を探していたら見つかったのである。

これらを磨くのが好きな深海棲艦達に預け、綺麗になった物をストック。報酬に使ったのである。

深海棲艦にとって宝石は、全く利用価値の無い物だった。

それで人が言う事を聞き、情報が得られるなら全く問題ないし惜しくもない物だったのである。

今日は2年以上情報をくれていたコックとの取引の日だった。

パッタリ止んだと言うことは、摘発されたか、動けない程の重病か、死んだという事。GAMEOVERだ。

小さく溜息を吐くと、ロ級はファイルを取り出し、NO95と書かれたコックの行をマジックでグイと塗り潰した。

戦艦専属コックだったから航路情報とか面白い情報をくれたんだけど、仕方ないか。

じゃ、次の人に電話しようっと。

次はNO253・・掃除夫?

同じ職の人の方が似たような情報に触れられるから穴埋めにはコックが良いんだけど・・

でも、掃除夫なら面白い情報に出会えるかもね。まあいっか。候補は幾らでも居るし。

足りなければ増員すれば良い。募集最新番号は既に1000を超えてるし。

ロ級は電話を持った。

 

 

2月4日夜 某宿舎

 

「はい、小沢ですが」

「えっと、トレジャーハンター事業部の者ですけど、小沢さんですか?」

小沢は記憶の底から引きずり出すのに時間を要した。

「まだ、ハンティングに興味はあります?」

ハンティング。思い出した。写真を撮るだけでお宝がもらえると先輩が言ってたアレだ。

冗談半分で応募したけど何の連絡も無いからすっかり忘れていた!

「はいはい、思い出しました。ええ、お願いします!」

「解りました~。それではデジカメはお持ちですか?」

「はい!」

「あと、データを頂くのにメモリーカードを1ヶ月預かりますので、その点をご承知おきください」

「メモリーカードは返ってくるんですか?」

「はい。次の月、報酬とセットで前回のメモリーカードをお返しします~」

「なるほど」

「では勤務場所など、幾つか教えてくださいね~」

質問に答えながら小沢は思った。

声だけ聞いてるとなんか小学生と話してるみたいだ。スパイごっこって感じか。

「では、エントリー完了です。ゲーム内容を説明します。」

「はい」

「対象は大本営の中で大事そうな書類とか、目に付いた張り紙とか、何でも良いのです」

「重要っぽい物の方が良いですか?」

「そうですね。それと、月に最低10枚は撮ってください。」

「はい」

「撮った写真を私達が見て、これは良いと思った物からランキングを付けていきます」

「・・ランキング?」

「ランキングの最高位の人から順に宝石を配分していきます。下位になるほどショボくなります」

「ちなみに最下位は?」

「そうですねえ、石ころとかもありえます」

「おおう」

「続けます。写真を保存したメモリカードは先程決めた場所に、白い封筒に入れて置いてください」

「はい」

「日時は6日の朝、7時から8時までの間です。」

「はい」

「来月の6日に、今度は私達が茶色の封筒を置いておきます。それが報酬です。盗まれても関知しませんからね」

「茶封筒を取る時に、次の写真を白い封筒に詰めて、代わりに置いておけば良いんですね」

「そうです。それと、1度でも滞ったらゲームオーバーとなり、参加資格が剥奪されます。」

「何か違約金とかはあるんですか?」

「全くありません。ランキングが低くても報酬がしょぼいだけです」

「月会費とかは?」

「ありません。無料です」

「へぇ、そうなんですか」

「はい。だから気楽にチャレンジしてくださいね~」

「解りました。じゃ、失礼します」

ガチャリ。

適当に写真10枚って随分緩いなあ。報酬もたかが知れてるかもな。

 

 


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