以上
◇
連休も終了し、今日からアドシアード。武偵のオリンピックなるものが始まる。俺は基本的に足りなくなった人の、フォローに入る。いわゆる、何でも屋。ただ、武偵校の生徒数を考えると、それはあり得ないといって良い。つまりは。
「……………暇だ」
時々、その場を離れるから見ててくれと頼まれたりするが、それも数分で終わる。
「天川!人手が足りん。手伝え」
「あぁ」
荷物を運んでいたクラスメートに呼び止められ、手伝うことに。ていっても、荷台を使うから一往復で済んでしまい、また暇になった。
「でもやっぱ、取材陣も多いな」
ぶらぶらしつつ、回りを見ると、ちらほらカメラを持った人たちがいる。俺は見るのは好きだが、撮られるのは勘弁したい。そんな俺の思いは他に、目のあった女性のレポーターが取材しにきた。
「すみません。ちょっといいですか?」
「は、はい?」
「今、武偵からの視点で、今回のアドシアードの感想を聞いているのですが、貴方はどう思いますか?」
「え、えっと…………盛り上がっているのではないでしょうか。特に今回の閉会式は、すごいものになるかと」
これで俺が競技に参加しているのなら、上手いことも言えただろう。それに今回は誘いがあったので、参加できることはできたが、色々考えたいので、辞退した。故に、当たり障りのないこと。後はアリアがチアで出るらしい、閉会式のことだけ伝えた。
「そうですか。それは楽しみです。ご協力ありがとうございます」
そう言って彼女らは去っていった。
◇
やることもないまま時間は過ぎ、気が付けば5時を回ろうと言う頃。突然、携帯が鳴った。
「キンジから?」
あいつがメールではなく、電話とは珍しい。そう思いながら、通話ボタンを押す。
「もしもし。どうし『おい!白雪見なかったか!』ん?星伽さんか。いや、見てないが。…………どうした?」
ただ事ではない雰囲気を感じ、キンジに聞いてみる。
「あいつが……白雪が居なくなった!」
居なくなった。それを聞いて俺はすぐに、ジャンヌの事を思い出す。
「いつから?」
「分からん。俺もさっき武藤から聞いた。ケースD7だ。もしやと思ってメールを見たら………くそ!」
「落ち着けキンジ。それで?お前は今は、どこに?」
「わかんねーよ!」
キンジはかなり焦っている。自分のせいだと思い詰めているのだろうか。
「落ち着け!!!」
「ッ!?」
だから、思いっきり怒鳴ってやった。
「まだ何かある訳じゃない。冷静に探せ。俺も探すから」
「あ、あぁ」
通話を切ると、俺はそのまま冷静になり、明鏡止水を発動させる。
(落ち着け。痕跡は必ずどこかに………)
そうはいっても、このだだっ広い学園島を探すとなると、日が暮れるのは分かっている。
(何か、手掛かりは)
考えていると、また携帯が鳴った。今度は……
「レキ?」
ロボットレキの異名を持つ、狙撃科のエース。彼女がなぜ?
「悠さん?レキです。先程キンジさんにも連絡しましたから、手短に話します。第9排水溝辺りです」
「!?。了解」
最後にレキが御武運をと言ってきた。珍しいこともある。なにはともえれ、すぐにそちらに足を向かわせて走る。
排水溝にたどり着く。まだキンジは来ていない。
「いや、先にいったのか?」
武偵校の地下は多層構造で、地下二階からは水の下。俺はそこまで階段で行き、非常用エレベータを操作するが。
「動かない?細工されたか」
ここから下に降りるには、変圧室の隅にある非常ハシゴのみで、これが壊されると為す術がない。
「よかった。残ってる」
残ってるが、既に使われている。やはりキンジが先に行っているようだ。
「無茶をするなよ」
ハシゴを下りながら、キンジと星伽さんの事を案じる。
ようやくたどり着いた、地下七階の地下倉庫。だが、地下倉庫何てのは、名ばかりの火薬庫だ。ここでの、銃は厳禁だ。廊下に出て、進むが。非常灯の明かり以外は無く、暗い。
(キンジ。星伽さん。どこに………)
走り、最も火薬が集積されている、大倉庫と呼ばれる場所についたとき、非常灯の明かりが消え、完全な暗闇とかす。
「い、いや!……やめて!何するの!……うっ!」
そんな声が前方から聞こえて、全速で走るが、まだ姿が見えない。
「白雪!」
あの声はやはり、星伽さんの物だったらしい。
落ち込んでいるキンジをよそに、その向こうから空を切る音がする。
(まさか!?クソ!間に合えぇぇ!)
ナイフを取りだし、その音のする方向に全力で投げつける。
ブンッ!俺の投げつけた、ナイフは空を切り。
キンッと金属音を鳴らして、弾いた。
「なんとか、間に合ったな」
「流石悠ね。やるじゃない」
後ろを振り替えると、いつの間にかアリアもその場にいた。
「じゃあバトンタッチね」
その声と同時に、部屋の片隅で電気が灯った。
「そこにいるわね、
そう言いつつ、彼女はキンジを踏みつけて前に出る。
「アリア!?」
「ホームズ、か。それに…………貴方も」
今だ姿の見えぬ女………いや、ジャンヌの声がどこからともなく聞こえる。
星伽さんは火薬箱の隙間から見えている。そこから、折れとアリアにめがけて、銃剣が飛んでくる。
俺はもう一本のナイフを取りだし、切っ先を銃剣の腹に当てて弾く。アリアも簡単に弾いている。
「小手先で勝てないと言ったのは、お前だろう。さっさと出てこい!」
ガチャンと、ドアがしまる音がする。しばらく様子を見ていると。
「………逃げたな」
「ええ。それにしても、バカキンジでも役に立つのね」
そう言うと、床に刺さっていた銃剣を引き抜く。俺もさっき投げたナイフを回収する。
そのままアリアが、星伽さんの様子を見に行こうとすると、途中で急停止して、小太刀を取り出してなにかを切った。
「ピアノ線とは、古典的な」
俺も歩いていき、見つけたそれを切る。アリアは三本目の、多分キンジの首の高さにあるのを切った。
「気づかす走れば、頸動脈をスパン!か」
「ふん!こんなの無駄よ。あたしの目は誤魔化せないわ」
そう言いながら、俺とアリアは星伽さんの方へ向かう。
「あたしはキンジを何とかするから、あんたは白雪をおねがい」
「わかった」
彼女の口を塞いでいた、布をとってやると。
「キンちゃん!キンちゃんは!?」
「無事だ」
そう言うとほっとしたような顔をする。
俺は彼女を縛る鎖を見てみる。
(これは、面倒な)
鎖は、分厚く切るなんて出来るレベルではない。それがさらに、壁を伝う鋼鉄のパイプに繋がれている。ロック箇所も三ヶ所と面倒臭い事、この上ない。俺が解除キーを使い、解除を試みる。
「白雪!」
そうしてる間に、キンジとアリアが遣ってくる。
「キンちゃん……ごめんなさい。私、ここに来ないと、学園島を爆破して、キンちゃんも殺すって………」
キンジはそれを聞き、苦虫を噛み潰したような顔をする。
「いつからだ」
「昨日だよ。キンちゃんが、線香花火を買いにいってくれたとき。メールで脅迫されて、私、キンちゃんが傷つけられるのが怖くて……」
「いいから、泣くな」
そんな彼女たちから少しはなれて見つつ、考え事をしていた。
(ジャンヌの狙いは、星伽さん?それともアリアかキンジ?それとも、俺か)
「悠何してるの?」
話が終わったのか、アリアが話しかけてくる。相変わらず、星伽さんはまだ縛られたままだ。
「そう言えば、さっきの悠。なにか知っているような感じだったわね。何を知っているの?」
「……あいつが、剣の達人のこと。超能力。特に氷に特化していること。あとは」
続きを言おうとすると、ドドドっとくぐもった音がした。あたりを見回すと、床の排水溝から水が逆流している。
「ちっ!何処かの排水系を壊したのか?」
そうこうしてる内に、水位はどんどん上がる。
「……………アリアは俺と先に上がれ。キンジ!星伽さんは任せた」
「なっ!?悠勝手に!」
「これは、勝つための作戦じゃない。俺たちが全員生きて帰ってくるための作戦だ。そのためには俺とアリアで、先にヤツを捕まえて鍵を持ってくる。それにアリアは動けないからな」
「はぁ!?…………あんた!」
無理矢理アリアを説得させて、上に向かう。その時にキンジに俺は高周波ナイフを渡す。
「これじゃこのパイプや、鎖を切ることもできないだろうが、お守りだな」
「お前…………」
ぎゅっとそれを握りしめ、首をたてに降る。それを見て俺は、アリアの後を追った。
◇
アリアに追い付くと、彼女はらしくなく塞ぎ混んでいた。
「どうしたアリア」
「二人を、置いて来てよかったのかしら」
そんなことを心配しているのか。この小さな、武偵は。
「仲間を信じ、仲間を助けよ。俺たちは、さっさとヤツを捕まえなければならない。後悔してる暇はない」
「そうね………そうよ!」
しばらく進んで、エレベーターホールにたどり着いた。
「鉄板だな。塞がれてる。しかも多分、内から」
「つまり、この階のどこかにいるってことよ」
ここまで来るのに、扉をすべて調べておいたが、壊されており外には出ることが出来ない。そんなとき。
「白雪!」
たしかに聞こえた、キンジの声。しかもこの階から。
「やっぱり信じてよかっただろ?」
「ふ、ふん!ほら、いくわよ。あのバカキンジと合流しないと」
そんな風に照れ隠しをして、先を行くアリアに着いていく。
◇
キンジと合流は果たしたが、どうも星伽さんがはぐれてしまったらしい。あたりを探そう。そう言っていたとき。まるで、『計ったように』なんとか聞き取れる微かな咳の音がした。
「白雪だわ。あっちにいる」
「行こう。早くしないとヤツが来る。悠早く」
「あ、あぁ」
なにか違和感があるが、そんなことを考えている暇ではない。今は早く星伽さんを見つけないと。そんな走っているなか、アリアはキンジの何かに気づいた様子だった。
少しして、星伽さんを見つけることができた。かなり弱っているようだが、意識ははっきりしている。それでも俺は、何かに違和感を感じていた。
「……けほっ……けほっ……て、敵は?」
「この辺りにはいないようだが、身を潜めているかもしれない。気を付けないと」
アリアは星伽さんの背中をさすりながら、あたりを警戒している。
「キンちゃん……」
星伽さんは瞳に涙を浮かばせながら、甘えるようにキンジを見上げる。それを見てキンジが問い掛けた。
「唇、大丈夫か。さっきの」
「うん、大丈夫」
「血が出てただろう。見せてみろ」
「ううん。大丈夫だよ?ちょっと口のなか切っただけだから」
その瞬間。キンジが叫ぶ。
「二人とも逃げろ!」
それと同時に、キンジはその星伽さんに目掛けて、発砲した。俺も合わせるようにして、発砲したが手甲でも入っていたのか、腕で弾丸を弾く。
「二人とも!?」
あっけにとられるアリアの側面を、星伽さんが目にも止まらない速さで回り込み、背後に回りアリアを盾にした。アリアもなにもしないわけでなく、すぐさま反射的に銃を抜き、振り返ろうとしたが。
「うっ!」
星伽さんの左手で首を絞められて、右手には刀が握られアリアの首に突き付けられてる。
「しら、ゆき!何よ!どう、したのよ!」
白雪は銃を握られた右手に、息を吹きかけた。
それをされてのけぞり、銃を落としてしまった。落ちた銃の周囲が、氷に包まれる。
「アリア!違うんだ!」
キンジが叫ぶ。
「そいつは白雪じゃない!」
やはりそうか。あまりしたくしない俺からすれば、分からない。だが、キンジは先程の質問で本人ではないと確認した。
彼女…………ジャンヌはアリアの左手にも息をかけた。アリアは銃を手放し、その両手を胸の前に寄せる。その手は、霜焼けでもしたようになっていた。
「只の人間ごときが」
それは既に星伽さんの声ではなく、俺の知っているジャンヌの声。
「超能力者に抗おうとはな。愚かしいものよ」
「………お前!」
彼女の言葉に、少し怒りを覚えた。だが、露骨には出さない。感情的になると、それだけ明鏡止水の効果が落ちる。
(落ち着け。焦るな。勝機はある)
行動を起こすのなら、俺だけでは動けない。二人……いや、三人とタイミングを合わせないと。
「
「ほう、たかだか一世記半程度の歴史で名を誇るとは。私はお前よりも遥かに長い、600年にも及ぶ、光の歴史を誇るのだ」
ジャンヌはアリアを可笑しそうに見つめ、耳元に唇を寄せた。
「なるほど。お前は『双剣双銃』が、理子がいった通りだ」
これ以上は危険と判断した俺は、ジャンヌに気づかれ無いよう、右手にナイフ、左にデザートイーグルを持つ。
「ジャンヌ!!!」
大声で叫び、彼女の関心をこちらに向けた。
「ッ!!」
「なっ!?」
右手のナイフを、アリアとジャンヌの間に向かって投げ、そのナイフ柄の部分を銃で撃つ。最近練習して、ようやく物にした技。名を付けるなら『
それを受けて、無理矢理にアリアをジャンヌから引き剥がした。
「ありがとう。でも、あいつのことジャンヌって」
「そうだ、私は策の一族。聖女を装い、その正体は魔女。誇り、名、知略を子々孫々と伝えてきた。私はその30代目。30代目ジャンヌ・ダルク」
「悲しいな、ジャンヌ。お前の力は、使い方によっては綺麗なのにな」
彼女は星伽さんのままの、その顔を伏せる。
「あなたの言葉は、もう私には届かない。ただ、あの人の意向でな。貴方と、アリアを連れていく。出来なければ……………殺す。それも致し方ない」
顔を伏せている彼女は、まだ気がついていない。彼女の背後。彼女がいることに。
「……剣は、持ち主の意志であり方を変える」
「?なにを…………!?」
その瞬間、彼女の手にあった刀が鎖に巻かれ、引き寄せられ、あるべき持ち主の、星伽白雪のもとへ。
「そこ!」
刀が離れると同時に、俺はジャンヌに迫り捕まえようとする。がその前に何かを袴の裾から何かをとりだし、地面に落とす。
筒状のそれから、白い煙がみるみる広がる。
「発煙筒?」
彼女がいるであろう場所をもう一本のナイフで切り裂いたが、既にそこにはジャンヌはいない。
「…………逃がしたか」
俺がそうしてる内に、星伽さんもこちらに集合した。一応これで、人質の心配はなくなった。
「…………終わらせる。俺が」
「え?」
今の声が誰のなのか、アリアだった気もする。星伽さんだった気もする。もしかしたらキンジ。そんなこともわからないくらい、今の俺はただ『ジャンヌ・ダルクを捕まえる』ことに集中していた。
煙を突き抜けて、一気にジャンヌに肉薄する。
「なに!?」
「!!」
体を捻り、一回転し遠心力で、威力の増したナイフをジャンヌに叩き込む。だが、彼女はすでに甲冑に着替え、その手にはデュランダルが握られていた。
「……貴方も知っているはずだ。このデュランダルに切れないものは……ない!」
片手で振り抜いたナイフなど、彼女の一振りで弾かれた。
「今のあなたでも、私には勝てない。刀の持たない貴方など、翼をもがれた鳥も同然」
「く!?」
たしかにそうだ。俺は刀がなければ、少し優秀な武偵でしかない。
「だから………だからこそ」
言いながら彼女は物影に寄り、なにかを手に取りこちらに投げて寄越す。
「な!?これは……俺の刀?」
「貴方の部屋から拝借した。それを使い、私と本気で戦え!!」
ドクン、ドクンと心臓が脈をうつのがわかる。痛いくらいに。刀を持つだけなのに、それなのになぜだか。
「心が…………踊る」
鞘から引き抜き、ジャンヌに向かって一振り。
ギン!!と何度も自分と彼女の刃がぶつかり合う。
「ッ!!ようやく本気に」
「ただ絶ち斬る。それだけだ」
頭より先にからだが動く。いや、違う。次の相手の動きが、見た瞬間にわかる。だから、無駄に思考をする必要がない。これは。
「
使っている感覚なんてない。いつ発動したかもわからない。でも。
「悪くない気分だ」
いつも使うたびに、頭のなかに色々な情報が入ってきたが、今はそれがない。むしろ、清々しいくらいにスッキリしている。
「ジャンヌ・ダルク。俺が今から振るう剣は、一撃必倒。お前は見切れるか?」
刀を上段に構える。斬る前の動作が隙の多い技だが、威力は天川流剣術『緋剣』の中でも、随一。
「!?」
ジャンヌは俺からなにかを感じたのか、デュランダルを構え直す。
「撃ち斬れ。
見も心も刀身も。
俺は刀を振り抜く。その瞬間はまるで時がゆっくりと進むように、すべてがスローモーションに見えた。ジャンヌも刀を動かしているはずなのに、それがうかがえない。俺の腕だけが彼女のデュランダルに振り下ろされる。
「……………グハッ!」
全てが動き出す。ジャンヌは俺の一撃により、体が吹き飛び壁にぶち当たる。そして、その手に握られたデュランダルが。
「ま…………さか?そんな。私のデュランダルが」
折れていた。むしろ反対に、俺の刀には刃こぼれがひとつあるだけ。
「なぜ、あなたはその力がありながら!」
「俺は、俺の信念を貫くためにある。そのためなら、俺は何でもするさ」
「貴方は…………まさか」
そのあと、ジャンヌと話す暇もなくアリアたちが来て、ジャンヌに手錠をかけた。俺はそこを出るまでアリア達とすら話すことはなかった。
◇
アドシアードの閉会式。
俺はキンジがギターを引き、アリアと星伽さんがチヤリーダーをしているのを客席から。あれからジャンヌは尋問科で色々聞かれているらしい。が。
(あのときの俺は、なにかおかしかった。刀を振るうことを、楽しんでいた。俺は……いったい)
躊躇うことなどなかった。一歩間違えば、ジャンヌを殺すこともあったかもしれないのに。なのに、俺は簡単にも刀を振り下ろしていた。
俺はまだ終わっていない閉会式を最後まで見ることなく、その場をあとにした。
自分なりですか、やはり迷走していましたね。
でも、反省はしていない!
ごめんなさい。
なぜか、今回書きにくかった。
まぁあ、次の理子の話に力入れるので(むしろ自分的に山場)
それから、投稿した端末の調子が悪いので、なにかおかしなところがあるかもしれません。その時は感想でも、メッセージでもいいので飛ばしてください。
他にも他愛ない一言くれれば嬉しいです。
それでは、また次回