緋弾のアリア~理念の刃~   作:サカズキ

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過去の思いは、今とは違うこともある

二日前。深夜の空地島にて。

 

俺の前に対峙するは、綺麗な銀髪を後ろで結い。その華奢な身体には似つかわしくない鎧と、剣を携える少女。その顔は、月が雲に隠れて辺りが暗いため視認しにくいが彼女………ジャンヌ・ダルクであることは分かる。

 

「何しにきた?ジャンヌ」

 

「……………貴方には、関係無いことだ」

 

それはイー・U関連。あるいは、何か企みがあるのを、露呈しているようなものだ。

 

「俺に会いに来た……訳じゃないな?」

 

これは希望的観測だ。それならどれ程楽に彼女に構えられるか。

 

「そんなことではありません」

 

「………………魔剣(デュランダル)

 

呟くと、彼女から微かに動揺の空気が漂った。

 

「最近、学校内でも大きくなってる噂だ。その上狙ってるのが、あの、星伽白雪と来た」

 

「あなたと彼女は関連が?」

 

一瞬言葉を選んだが、彼女が得心する言葉で答える。

 

「……………………仲間だ」

 

「そうか……………なら、貴方は今、敵と言うことか」

 

そう言って、彼女は剣を構える。

 

「デュランダル。その剣に斬れぬ物無しか………」

 

自分も刀を構える。 久方ぶりの、彼女との勝負。しかしこれは、文字通りの真剣勝負。負ければ斬られる。

 

「行くぞ、天川悠!貴方の剣が、ぶれていないことを、願う!」

 

彼女が動いたと思うと、既に目の前に迫っていた。

 

 

(これは俺が教えた、縮地か?)

 

 

教えた当時より格段に、早い上に距離も長い。

 

「が、これではまだ足りないな?」

 

俺は一瞬で刀を振り、彼女の斬撃に合わせる。甲高い金属がぶつかる音がする。

 

「くっ。やはりこの程度では……」

 

彼女はそう言うが、剣劇のよさも上がり、一撃は重くなっている。鍛練は続けていたようだ。

 

(これは、俺も少し本気を出すか?)

 

正直に言って、この状態なら、超能力を持つ彼女には勝てない。

 

(……………明鏡止水)

 

「!?」

 

冷静になるようにすると、雰囲気が変わったのを察知して、ジャンヌは後に跳んで距離をとる。

 

「やっと、本気のあなたと戦える」

 

「挑んだからには、それ相応の覚悟で来い」

 

そこから言葉はなく、彼女は剣で答えた。

上下左右から来る剣閃を受ける。たまに弾いては、切りかかる。

 

「………………貴方は、やはりそうやって。まるで、あの時の様に!」

 

一気に迫り縦に大きく振り抜かれた、今までで一番の剣劇を何とか防ぐ。

 

「あの時とは?」

 

「貴方が、イー・Uに居たときのことです!そうやって、貴方はいつも私の剣を、赤子をあやすようにいなして。私からすれば………まるで戯れるように、剣を振るう」

 

そんなことはない。そう言いたいが、彼女の綺麗な瞳は怒りが満ちていた。

 

「貴方がその気なら、本気になるようにしてあげましょう」

 

そう言うと、どこからか冷気が漂う。刀を見ると、ゆっくりと凍りついていく。

 

「!?」

 

すぐに刀を引き、彼女から離れる。もう一度刀を見ると、確かに凍っていた。

 

「ここからは、戯れでは過ぎない!」

 

「っ!!」

 

彼女に触れれば凍る。だからと言って、なにもしないなら、彼女には勝てない。だと言えど、良い手段はなく、ただ悪戯に彼女の攻撃を防いでいる。

 

(仕方ない……………これは本当に使いたくないが)

 

刃に気を集中させる。その間も彼女の剣を防ぐ。

 

「どうした、天川悠!?そんなものですか?」

 

何度目かの撃ち合いの後。俺は貯めた気を刃に乗せ、そして。

 

「明鏡止水…………(きわみ)

 

そう呟いた瞬間。彼女の能力で刃に付いた氷が、砕けて、弾けとんだ。

 

「な!?」

 

それを見た彼女は、攻撃をやめて後に下がる。

 

()くぞ。聖女ジャンヌ・ダルクが末裔よ。我が刃にて、調伏させよう」

 

「っ!?貴様、一体………………!?」

 

言い終わる前に、俺は縮地を使い彼女に迫り、利き手を『切った』。ただ傷は浅く、彼女は剣を握れずに反対の腕でのみ支えている。

 

「な!?」

 

彼女はその腕を見て、驚きの声をあげる。しかし、俺はそんなことは気にせず、言葉を発する。

 

「退却せよ。ジャンヌ・ダルク。貴様の剣は、ここには届かない」

 

俺は自分の心臓の部分を指し示し、言った。彼女は、出血している自分の手を見て。

 

「わかった。ここは退こう。だが、後日必ずお目にかかるだろう。その時は…………」

 

そう言ったあと、彼女は闇に消える。月明かりも出てきた。ここには俺以外は、この前のハイジャック事件の時に不時着した飛行機のみ。

 

「…………やはりこれは、人切りの(わざ)…………か」

 

俺は月の光で反射して輝く自分の刀を見つめていた。

 

 

キンジがタンスを閉めたあと、星伽さんと少し話してから、部屋を出ていった。それからしばらくして、キンジがいないことに気がついたらしいアリアが、買い物ついでに部屋を出ていった。てなわけで遠山キンジの部屋に、部屋主じゃない俺と星伽さんだけ。

 

「………………」

 

「………………」

 

二人っきりで、無言で机を挟んで向かい合ってる。俺と彼女は、今まで誰にもいってないが、ちょっとした繋がりがある。それもあって少し気まずい。

 

「あ、えっと…………お茶淹れますね」

 

「あ、はい」

 

自然に頭を下げて、その上敬語になった。

淹れてくれたお茶を呑みながら、話題はないかと探していると、彼女の方から話題を切り出してきた。

 

「改めて話すのは、久し振りですね」

 

「そう、だな」

 

「おば様の訃報を、知らせに来たとき以来ですね」

 

「覚えていたのか。凄いな」

 

俺の母さんは、一応彼女の家。星伽の分家、と言ってもかなり遠いらしいが、それでも、その遺伝は受け継がれている。まぁ、俺じゃなくて鈴になんだけどな。

 

「いえ。そんな」

 

「事実そうだろ?会ったのなんて、座敷で話した数分くらいなのに」

 

「それは、その…………貴方はキンちゃんと同じ感じがして」

 

ふむ。なんにしても、彼女の人の繋がりはその程度で、あまり気にするほどではない。 彼女はふと顔を動かし、時計を見ると。

 

「あ、そろそろ晩ご飯の用意しないと」

 

「もうそんな時間か…………それじゃ俺はこれで」

 

そう言って自分の部屋に帰ろうとすると、星伽さん が呼び止めてきた。

 

「あ、次いでだし、一緒にどうですか?」

 

「え?あぁそうだな。お言葉に甘えよう」

 

その際に手伝うと言ったのだが、座っててくれと言われた。だがしかし、それでは悪いので、皿洗いと片付けは俺がすると言った。

用意しているときに、台所から殺意のこもった包丁を扱う彼女を見たのは、気のせいだと思いたい。

 

 

星伽さんが作ったのは、中華だ。この俺でもうまいと思うほどに、彼女の料理は絶品だった。

アリアはただのどんぶりご飯だけだったが。

食べ終わったあと、約束通りに食器を洗い終えると、何やら星伽さんが占いをしていたようだ。

 

「そうだ。悠もやってもらえ。こいつの占いはよく当たる」

 

「そうなのか?まぁ、面倒でなければ、お願いします」

 

「はい、それじゃ」

 

彼女は机の上に札を並べて、作業しているが何をしているのか、俺にはさっぱりだ。

少しして作業しているが終わったのか、動きが止める。

 

「で?結果は?」

 

俺よりも先に、キンジが聞いた。

 

「……えっと………その」

 

何やら不吉なことでも出たのか、歯切れの悪い彼女。

 

「どんなもので良いから聞かせてくれ」

 

俺がそう言うと、彼女は固く閉じた口を開けた。

 

「……えっとね……その、結果は…………わからないの」

 

「は?」

 

この間抜けな声は俺じゃなくて、キンジだ。いや、それにしても結果がわからないとは、どういうことだ。

 

「なんだよそれ」

 

「私もこんなことは初めてだから、どういうことかは…………」

 

何か、暗いことしか思い付かないが、ここは楽観的に捉えよう。

 

「それは、俺のこれからは未知数と言うことだ。良い意味でも、悪い意味でも。楽しそうじゃないか」

 

「おまえなぁ」

 

だが事実。起こってもないことを、とやかく言える事もない。なら、ちょっと大袈裟にでも構えていれば良い。

 

「まったくお前は」

 

キンジの溜め息が聞こえるが、あまり気にはしない。

 

「次あたし!あたしを占って」

 

今度はアリアが星伽さんに占ってもらおうとしたが、彼女は心底嫌そうな顔をした。それでも、キンジの言葉で占ったが、それのせいで彼女たちが口論となり。アリアはそのまま自室に引きこもった。

 

「はぁ~、やれやれ。………おっと、もうこんな時間か。そろそろ俺は部屋に戻るか」

 

「あぁ、そうか。またな悠」

 

「お疲れ様でした」

 

俺は残った二人に頭を下げて、キンジの部屋を出て自分の部屋に戻った。

 

 

翌日の夕方。俺はある場所に向かっている。あいつに………鈴に呼び出された。狙撃科(スナイプ)の地上棟の入口前まで来いと。

 

「それで?用は?」

 

入口から出てきた、背中にM700が入っているのか、でかいギターケースのようなものを背負った、鈴が出てきた。

 

「取り敢えず歩きましょう」

 

それからは、帰宅路を歩いて10分くらいたった。

相変わらず、鈴は口を閉ざしている。かくいう俺も、なにも話していない。帰るまでこれかと思ったとき、鈴がその口を開けた。

 

「5月5日。東京ウォルトランドである花火大会にいきませんか?」

 

「え?あぁ、あれか。特に予定もないし、行くか」

 

一応この手のイベント時には、警護を名目に見に行く武偵が多い。そんなことを言う俺も、暇なら行く予定だったのて、ちょうど良い。

 

「久しぶりだな。お前と出掛けるの」

 

「そうですね。花火大会も、あの頃以来です」

 

彼女の言葉に抑揚は感じられないが、多分思い出しては俺のことを………

 

「な、お前は!『ここで失礼します。それでは、5日に』……………」

 

そう言って、分かれ道を、俺の行く方向とは別に進む鈴。

彼女は、俺のことを、どう……………思っているのか。それは、あの頃から、いまだに解らない。

 

 

「この辺りは、人が少ないな」

 

鈴の申し出を受けて、花火大会に行くことになったのだが、集合場所に指定されたのは、一応は花火が見えるが、ウォルトランドよりは小さく見える場所。

鈴曰く『近すぎても、あまり良いものでもありません』らしい。

 

「相変わらず、時間には準じるのですね」

 

声に振り替えると、そこには黒の浴衣。紋様は、少し早いが朝顔を着た鈴がいた。いつもの黒のロングヘアーも後ろで結ってある。

 

「そう言えば鈴は、よく母さんに着付けてもらってたな」

 

「はい。時が経っても、覚えているものですね」

 

「あぁ。そうだな」

 

そう言ったあと。花火がうち上がった。火の玉が上がり、弾け、消える。その様子は素直に美しいと言える。

 

「…………儚いものです。花火も、人の命も」

 

「鈴?」

 

「花開き、輝くのは一瞬。あとは消えるだけ。そう思いませんか?」

 

首を少し横に向け、目線を後らに向ける。

 

「…………それは」

 

「そして、貴方はそれをまだ、引きずっている」

 

「ッ!?」

 

鈴からはじめて聞いたてあろう、母の話。

 

「鈴、何が言いたい?」

 

「いえ。貴方は相変わらず、変わらないのだと思ったのです。理子さんのお陰で、少しは変わったと思っていたのに」

 

そう言うと、花火も途中だと言うのに、踵を返してその場を離れる鈴。

 

「まて!なぜそこで理子が出てくる!?」

 

彼女を呼び止めて、言葉の真意を問うためにそう言うと、花火に照らされながら、その顔を振り替えした。それを俺はきれいだと思った。

 

「それを理解できないなら、貴方はまだ止まったままなのでしょうね」

 

今度こそ彼女は振り替えることなく、歩いていった。俺はそれを、追いかけることができなかった。




ジャンヌさんお久です!
しかし今回は敵!
ここからの展開が、作者自身も楽しみです。

誤字・脱字、間違いや矛盾。それやこの作品の疑問点などあれば下さい。
ネタバレにならず、出来うる限り、丁寧に対応します。

それでは、また次回

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