◇
二日前。深夜の空地島にて。
俺の前に対峙するは、綺麗な銀髪を後ろで結い。その華奢な身体には似つかわしくない鎧と、剣を携える少女。その顔は、月が雲に隠れて辺りが暗いため視認しにくいが彼女………ジャンヌ・ダルクであることは分かる。
「何しにきた?ジャンヌ」
「……………貴方には、関係無いことだ」
それはイー・U関連。あるいは、何か企みがあるのを、露呈しているようなものだ。
「俺に会いに来た……訳じゃないな?」
これは希望的観測だ。それならどれ程楽に彼女に構えられるか。
「そんなことではありません」
「………………
呟くと、彼女から微かに動揺の空気が漂った。
「最近、学校内でも大きくなってる噂だ。その上狙ってるのが、あの、星伽白雪と来た」
「あなたと彼女は関連が?」
一瞬言葉を選んだが、彼女が得心する言葉で答える。
「……………………仲間だ」
「そうか……………なら、貴方は今、敵と言うことか」
そう言って、彼女は剣を構える。
「デュランダル。その剣に斬れぬ物無しか………」
自分も刀を構える。 久方ぶりの、彼女との勝負。しかしこれは、文字通りの真剣勝負。負ければ斬られる。
「行くぞ、天川悠!貴方の剣が、ぶれていないことを、願う!」
彼女が動いたと思うと、既に目の前に迫っていた。
(これは俺が教えた、縮地か?)
教えた当時より格段に、早い上に距離も長い。
「が、これではまだ足りないな?」
俺は一瞬で刀を振り、彼女の斬撃に合わせる。甲高い金属がぶつかる音がする。
「くっ。やはりこの程度では……」
彼女はそう言うが、剣劇のよさも上がり、一撃は重くなっている。鍛練は続けていたようだ。
(これは、俺も少し本気を出すか?)
正直に言って、この状態なら、超能力を持つ彼女には勝てない。
(……………明鏡止水)
「!?」
冷静になるようにすると、雰囲気が変わったのを察知して、ジャンヌは後に跳んで距離をとる。
「やっと、本気のあなたと戦える」
「挑んだからには、それ相応の覚悟で来い」
そこから言葉はなく、彼女は剣で答えた。
上下左右から来る剣閃を受ける。たまに弾いては、切りかかる。
「………………貴方は、やはりそうやって。まるで、あの時の様に!」
一気に迫り縦に大きく振り抜かれた、今までで一番の剣劇を何とか防ぐ。
「あの時とは?」
「貴方が、イー・Uに居たときのことです!そうやって、貴方はいつも私の剣を、赤子をあやすようにいなして。私からすれば………まるで戯れるように、剣を振るう」
そんなことはない。そう言いたいが、彼女の綺麗な瞳は怒りが満ちていた。
「貴方がその気なら、本気になるようにしてあげましょう」
そう言うと、どこからか冷気が漂う。刀を見ると、ゆっくりと凍りついていく。
「!?」
すぐに刀を引き、彼女から離れる。もう一度刀を見ると、確かに凍っていた。
「ここからは、戯れでは過ぎない!」
「っ!!」
彼女に触れれば凍る。だからと言って、なにもしないなら、彼女には勝てない。だと言えど、良い手段はなく、ただ悪戯に彼女の攻撃を防いでいる。
(仕方ない……………これは本当に使いたくないが)
刃に気を集中させる。その間も彼女の剣を防ぐ。
「どうした、天川悠!?そんなものですか?」
何度目かの撃ち合いの後。俺は貯めた気を刃に乗せ、そして。
「明鏡止水…………
そう呟いた瞬間。彼女の能力で刃に付いた氷が、砕けて、弾けとんだ。
「な!?」
それを見た彼女は、攻撃をやめて後に下がる。
「
「っ!?貴様、一体………………!?」
言い終わる前に、俺は縮地を使い彼女に迫り、利き手を『切った』。ただ傷は浅く、彼女は剣を握れずに反対の腕でのみ支えている。
「な!?」
彼女はその腕を見て、驚きの声をあげる。しかし、俺はそんなことは気にせず、言葉を発する。
「退却せよ。ジャンヌ・ダルク。貴様の剣は、ここには届かない」
俺は自分の心臓の部分を指し示し、言った。彼女は、出血している自分の手を見て。
「わかった。ここは退こう。だが、後日必ずお目にかかるだろう。その時は…………」
そう言ったあと、彼女は闇に消える。月明かりも出てきた。ここには俺以外は、この前のハイジャック事件の時に不時着した飛行機のみ。
「…………やはりこれは、人切りの
俺は月の光で反射して輝く自分の刀を見つめていた。
◇
キンジがタンスを閉めたあと、星伽さんと少し話してから、部屋を出ていった。それからしばらくして、キンジがいないことに気がついたらしいアリアが、買い物ついでに部屋を出ていった。てなわけで遠山キンジの部屋に、部屋主じゃない俺と星伽さんだけ。
「………………」
「………………」
二人っきりで、無言で机を挟んで向かい合ってる。俺と彼女は、今まで誰にもいってないが、ちょっとした繋がりがある。それもあって少し気まずい。
「あ、えっと…………お茶淹れますね」
「あ、はい」
自然に頭を下げて、その上敬語になった。
淹れてくれたお茶を呑みながら、話題はないかと探していると、彼女の方から話題を切り出してきた。
「改めて話すのは、久し振りですね」
「そう、だな」
「おば様の訃報を、知らせに来たとき以来ですね」
「覚えていたのか。凄いな」
俺の母さんは、一応彼女の家。星伽の分家、と言ってもかなり遠いらしいが、それでも、その遺伝は受け継がれている。まぁ、俺じゃなくて鈴になんだけどな。
「いえ。そんな」
「事実そうだろ?会ったのなんて、座敷で話した数分くらいなのに」
「それは、その…………貴方はキンちゃんと同じ感じがして」
ふむ。なんにしても、彼女の人の繋がりはその程度で、あまり気にするほどではない。 彼女はふと顔を動かし、時計を見ると。
「あ、そろそろ晩ご飯の用意しないと」
「もうそんな時間か…………それじゃ俺はこれで」
そう言って自分の部屋に帰ろうとすると、星伽さん が呼び止めてきた。
「あ、次いでだし、一緒にどうですか?」
「え?あぁそうだな。お言葉に甘えよう」
その際に手伝うと言ったのだが、座っててくれと言われた。だがしかし、それでは悪いので、皿洗いと片付けは俺がすると言った。
用意しているときに、台所から殺意のこもった包丁を扱う彼女を見たのは、気のせいだと思いたい。
◇
星伽さんが作ったのは、中華だ。この俺でもうまいと思うほどに、彼女の料理は絶品だった。
アリアはただのどんぶりご飯だけだったが。
食べ終わったあと、約束通りに食器を洗い終えると、何やら星伽さんが占いをしていたようだ。
「そうだ。悠もやってもらえ。こいつの占いはよく当たる」
「そうなのか?まぁ、面倒でなければ、お願いします」
「はい、それじゃ」
彼女は机の上に札を並べて、作業しているが何をしているのか、俺にはさっぱりだ。
少しして作業しているが終わったのか、動きが止める。
「で?結果は?」
俺よりも先に、キンジが聞いた。
「……えっと………その」
何やら不吉なことでも出たのか、歯切れの悪い彼女。
「どんなもので良いから聞かせてくれ」
俺がそう言うと、彼女は固く閉じた口を開けた。
「……えっとね……その、結果は…………わからないの」
「は?」
この間抜けな声は俺じゃなくて、キンジだ。いや、それにしても結果がわからないとは、どういうことだ。
「なんだよそれ」
「私もこんなことは初めてだから、どういうことかは…………」
何か、暗いことしか思い付かないが、ここは楽観的に捉えよう。
「それは、俺のこれからは未知数と言うことだ。良い意味でも、悪い意味でも。楽しそうじゃないか」
「おまえなぁ」
だが事実。起こってもないことを、とやかく言える事もない。なら、ちょっと大袈裟にでも構えていれば良い。
「まったくお前は」
キンジの溜め息が聞こえるが、あまり気にはしない。
「次あたし!あたしを占って」
今度はアリアが星伽さんに占ってもらおうとしたが、彼女は心底嫌そうな顔をした。それでも、キンジの言葉で占ったが、それのせいで彼女たちが口論となり。アリアはそのまま自室に引きこもった。
「はぁ~、やれやれ。………おっと、もうこんな時間か。そろそろ俺は部屋に戻るか」
「あぁ、そうか。またな悠」
「お疲れ様でした」
俺は残った二人に頭を下げて、キンジの部屋を出て自分の部屋に戻った。
◇
翌日の夕方。俺はある場所に向かっている。あいつに………鈴に呼び出された。
「それで?用は?」
入口から出てきた、背中にM700が入っているのか、でかいギターケースのようなものを背負った、鈴が出てきた。
「取り敢えず歩きましょう」
それからは、帰宅路を歩いて10分くらいたった。
相変わらず、鈴は口を閉ざしている。かくいう俺も、なにも話していない。帰るまでこれかと思ったとき、鈴がその口を開けた。
「5月5日。東京ウォルトランドである花火大会にいきませんか?」
「え?あぁ、あれか。特に予定もないし、行くか」
一応この手のイベント時には、警護を名目に見に行く武偵が多い。そんなことを言う俺も、暇なら行く予定だったのて、ちょうど良い。
「久しぶりだな。お前と出掛けるの」
「そうですね。花火大会も、あの頃以来です」
彼女の言葉に抑揚は感じられないが、多分思い出しては俺のことを………
「な、お前は!『ここで失礼します。それでは、5日に』……………」
そう言って、分かれ道を、俺の行く方向とは別に進む鈴。
彼女は、俺のことを、どう……………思っているのか。それは、あの頃から、いまだに解らない。
◇
「この辺りは、人が少ないな」
鈴の申し出を受けて、花火大会に行くことになったのだが、集合場所に指定されたのは、一応は花火が見えるが、ウォルトランドよりは小さく見える場所。
鈴曰く『近すぎても、あまり良いものでもありません』らしい。
「相変わらず、時間には準じるのですね」
声に振り替えると、そこには黒の浴衣。紋様は、少し早いが朝顔を着た鈴がいた。いつもの黒のロングヘアーも後ろで結ってある。
「そう言えば鈴は、よく母さんに着付けてもらってたな」
「はい。時が経っても、覚えているものですね」
「あぁ。そうだな」
そう言ったあと。花火がうち上がった。火の玉が上がり、弾け、消える。その様子は素直に美しいと言える。
「…………儚いものです。花火も、人の命も」
「鈴?」
「花開き、輝くのは一瞬。あとは消えるだけ。そう思いませんか?」
首を少し横に向け、目線を後らに向ける。
「…………それは」
「そして、貴方はそれをまだ、引きずっている」
「ッ!?」
鈴からはじめて聞いたてあろう、母の話。
「鈴、何が言いたい?」
「いえ。貴方は相変わらず、変わらないのだと思ったのです。理子さんのお陰で、少しは変わったと思っていたのに」
そう言うと、花火も途中だと言うのに、踵を返してその場を離れる鈴。
「まて!なぜそこで理子が出てくる!?」
彼女を呼び止めて、言葉の真意を問うためにそう言うと、花火に照らされながら、その顔を振り替えした。それを俺はきれいだと思った。
「それを理解できないなら、貴方はまだ止まったままなのでしょうね」
今度こそ彼女は振り替えることなく、歩いていった。俺はそれを、追いかけることができなかった。
ジャンヌさんお久です!
しかし今回は敵!
ここからの展開が、作者自身も楽しみです。
誤字・脱字、間違いや矛盾。それやこの作品の疑問点などあれば下さい。
ネタバレにならず、出来うる限り、丁寧に対応します。
それでは、また次回