◇
「なんなんだ、この状況……」
物音を聞いてキンジの部屋に来てみると、アリアと星伽さんが、なぜにか戦闘中。部屋はボロボロ情態。
「アリア、天誅!」
「何とかしなさいとバカキンジ!!」
呼ばれたキンジは、俺の姿を確認するとそそくさと近寄ってきた。
「どうしたんだよこれ?」
「い、いやそれが」
キンジに言われた内容を、かいつまんで話すと。星伽さんに、アリアとの同棲しているのか?と言うメールに始まり計40件以上あった。その最後のメールが、今からいく。
「………で本当に来て、アリアと戦闘中と?」
俺とキンジは、女子二人の戦闘に巻き込まれないように、部屋の外へと移動した。
「あぁ。何で、白雪は怒ってるんだ?」
いや、さすがの理子に鈍感と言われた俺でも、あそこまで明らかだと、気付くぞ。普通は。
「全くあいつらは」
ため息を漏らすキンジだが、今回のは気が付かないお前も悪いだろうと思う。
◇
しばらくして部屋に戻ると、そこにかつてのキンジの部屋はなく、あるのは以前家具だったもの。
「地震と台風が一緒に来たみたいだな………」
「ひ、酷い」
キンジがこめかみを押さえて嘆いている。キンジ、俺もその気持ちは分からなくもない。
「キンジなんとかしなさい!この女が湧いたのは、あんたのせいでしょう!?」
アリアの怒声が、部屋に響く。
「えっーとだな。あのさ、白雪?」
「はいっ」
その瞬間、キンジの前に正座し直す星伽さん。
「いいか?俺とアリアは武偵同士。一時的なパートナーでしかないんだ」
「そうなの?」
「そうだぞ白雪。悠、俺のあだ名をいってみろ」
「ん?昼行灯か?」
「違う!もうひとつのほうだ!」
「あぁ、女嫌いね」
「そうだ。と言うわけで、お前の勘違いでしかないんだ。そもそも俺がこんなチビ『風穴』相手にすると思うか?」
今、アリアがさらりとなにか口にしたが、あえてスルーしよう。
「で、でもキンちゃん」
おや?いつもはキンジの言うことを聞く星伽さんが、珍しく食い下がる。
「な、なんだ?」
「それ」
彼女の指差すものを俺も見る。あぁ~成る程。そう言うことか。
そこには、数日前にキンジとアリアがゲームセンターに行ったときに、獲得したストラップがある。キンジのポケットからはみ出すものと、アリアのスカートのポケットから出るもの。さすがにこれを見ると。
「ペアルックしてるーー!」
「ぺあるっく?」
アリアはこの和製英語を知らないらしく、首をかしげている。
「ペアルックは、好きな人同士でするものだもん。私何度も夢見たのに!」
「違うわよ!こいつとは、1ピコグラムもそう言うのじゃないんだから!」
面倒臭いことになってるな。何なんだよ。この状況は。
◇
「………………はぁ」
あれから、星伽さんの発言で地雷を踏んだキンジとアリアだが、それについて二人が喧嘩している間に星枷さんは、ふらりと部屋をあとにした。
あれ以来、星伽さんはキンジとアリアだけでなく、何となく俺の事を避けているようだ。
「まぁ。本人の問題でもあるしな」
下手な手は出さないでおこう。
「で?何でお前が、ここにいるの鈴に杏子?」
中庭の昼食が弁当の時には、ベストポジションの場所。そこにはなぜか妹の鈴音とこの前、戦姉妹になった青川杏子がいた。
「私たちは、クラスが同じなのです。あとは、言わずもがな。兄さん繋がりです。なぜここにいるのかと言えば、兄さんが弁当の時はここに来るのを知っているからです」
「……………ストーカー?」
「酷いです!少なくともあたしは、天川先輩とご飯食べれたらいいなぁ~って思っただけです」
相変わらず、杏子は否定するのも何事も全力だな。
「ま、別に一緒でもいいけど?」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
ベンチに座り、弁当を広げ、いただきますをしてから箸をつける。これ日本人の常識。箸を進めていると、隣でパンを食べていた杏子が興味深そうに、弁当箱の中身を見てきた。
「………………どれか食うか?」
「え?い、いいんですか?」
「そんなに見られたら、あげないわけにはいかない。どれがいい?」
そう俺が言うと、弁当箱を除きこんで選び出す。
「じゃあ王道で卵焼きを」
「あ!まて。ほら、あーん」
指で摘まもうとしたのを止めて、箸でつかんで食べさせてやる。
「へ?え!えぇぇ!」
いきなり赤面しだした。
「兄さん。その箸ではさすがに、まずいのでは?」
そう言われて、考えると。
「あ!い、いや!悪い。別に他意はないんだ」
「い、いえ別に。その、嫌では……………無いです」
滅茶苦茶気まずくなった。箸に挟まれて、中に浮いたままの卵焼き。赤面してる杏子。固まったままの俺。冷静に、自分の弁当を食べる鈴。
「これを使ってください」
目の前に差し出されたのは、鈴の箸だ。
「私は食べ終わったので」
らしいので、杏子はそれを使って弁当箱から卵焼きをつまんで食べた。だが、その昼食は何とも言いがたい空気で、過ぎていった。
◇
その日の夜。キンジの部屋で、晩飯をつくって食べている。なぜキンジの部屋かって?それは、多目に作った方が、明日の弁当が…………いや、何でもない。
「…………………」
キンジの箸は動いているが、あまり進んではいない。あまりにも落ち込んでいるので、聞いてみる。
「ど、どうした?あんまり食べてないようだが?」
「ぇ?あ、あぁ。いや、そのだな………」
彼の目は隣にいて、自分とは正反対に箸がこれでもかと言うくらいに進んでいるアリア。
「流石悠ね。美味しいわ。………ん?何よバカキンジ」
「いや。悠あとで言う」
「そ、そうか?」
三人でもちょうどいいくらい(ほとんどアリアが食べてたような)食事を終えて、皿を洗い棚に直す。それが終わると、アリアが風呂にはいった。すると、それを見計らい、キンジが話しかけてきた。
「なぁ、悠。俺はどうすればいい?」
「とりあえず、話は聞こう」
話を聞いたら、キンジの特異な能力を任意に発動できるよう、アリアに調きょ……訓練されているらしい。しかも、峰打ちで頭を狙われて。
「それは、割れるな。当たったら」
「だろ?それに…………いや。ともかく!お前からもアリアに言ってくれ。お前なら」
「断る。世界の半分をくれても、断る」
「何で二回言った!?」
キンジの顔が面白いが、ここはあえて断る。
「考えても見ろ?それだけ、お前はあいつに期待されてるってことだろ?」
「あいつの期待なんていらん」
まったく。俺もキンジの実力を知っているし、なにかがトリガーなのは分かるが、本人がオンオフ出来ないなら、基礎のポテンシャルをあげるしかないのに。
「はぁぁ~」
こんなため息をつかれると、さすがに忍びないが。
「ふぅ。なら、俺も見れるときは見てやる。それで危なかったら、止めるから。それでいいか?」
「まぁ、お前も用事やらあるし、それでいいか。……………はぁぁぁ~」
話を終えると、ちょうどアリアが風呂から出てきたところで、俺はそろそろおいとますることにした。
◇
昨日はキンジにあんなことをいったが、俺にだってやらなきゃならんことがある。例えば…………
「脇が甘いぞ、杏子!」
「は、はい!」
戦姉妹の育成。彼女の粗削りな才能を開花させる必要がある。今は強襲科の専門棟の体育館を借りて訓練中だ。
ふっと出すぎた足を払ってやると、そのまま杏子は横に回転して倒れる。
「ふぎゃ!」
なんだよ?ふぎゃ!って。ちょっと女の子としてどうなんでしょうか?
とか言っていても、服の汚れを払いながら、すぐに起き上がる。そういう、不屈の精神は大いに評価できる。
「も、もう一本!」
「よし、来い!」
何時間かはこうやって、彼女の為に時間をとってやりたい。
「!!こっち!」
「!?」
フェイントをかけて、一瞬だけ彼女の腕がぶれ、視認しにくくなった。そのまま彼女は、俺の懐に入り、振るった腕を脇腹に叩き込もうとする。
「……………けど」
「なっ!?」
半歩うしろに足をずらし、彼女の攻撃を避ける。それだけでは追撃されるので、目の前の彼女の腕をつかんで、そのままの勢いで一本背負いをする。
「うわ!」
背中から杏子は床に倒れこんだ。
「いったぁぁ~」
「大丈夫か?」
受け身はとってあるだろうし、たいした怪我はないだろうが、万が一がある。声をかけながら、彼女に手をさしのべる。
「あ、ありがとうございまふ」
最後噛んだな。
「はぅ~」
杏子の事を俺は最初、男勝りのやつかと思っていた。けど、接してみると、案外小動物的でかわいいやつだ。たしか、アリアの戦姉妹もこんなやつだったか?
「さて、時間もいい頃だ。今日はこのくらいにしよう」
「はい。ありがとうございました!」
元気があって結構。相手にやる気があると、こっちのやる気も上がる。
ある程度クールダウンしたあと、手近なベンチに二人で座り込んだ。
「ほい。オレンジジャースでいいか?」
「ありがとうございます」
俺は最近、あることに気をとられてる。訓練が終わり、気が抜けたのかため息が出てしまった。
「どうしたんですか?」
「え?あぁ、いや。何でもない」
大した問題ではない。昨夜『彼女』 が、接触してきただけだ。
「ま、何かあれば俺が止めるだけか」
「何か言いました?」
「いや。何でもないよ」
俺の言葉をあまり信じてないようだが、その場はそれ以上聞いてこなかった杏子。
◇
翌日。なぜにか俺はキンジの部屋に呼び出されていた。今やってるのは、これまたなぜか一緒にいる星伽さんとごみやら片付けて、掃除中。
「いや、頼まれた以上はやるが」
それから一時間後には、あのボロボロの部屋からはあり得んくらいにきれいになった。
「神だ。この二人は家事の神だ」
「持ち上げても、何にもでないぞ?」
持ってきたタンスを窓際においたキンジが、自分の部屋を見て驚いていた。
「あ、キンジ。そのタンスの中も見ておきなさいよ」
「は?これは白雪の私物だろ?」
「運搬中に何か仕掛けられているかもしれないでしょう?」
アリアの言葉に、しぶしぶとキンジがタンスの中身を確認すると、三秒程固まって、すぐに閉め直した。
「お、おい中に何が?」
「何でもない!問題ない」
「そ、そうか………」
必死の剣幕でそう言ってきたので、俺は深く聞くことをしなかった。
ちょっと中途半端ですが、この辺りで。
途中の『彼女』は察しのいい人なら分かるでしょう。
誤字・脱字等の他あれば書いてください