ハイスクールD×D~堕ちた聖女の剣~   作:剣の舞姫

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聖女対決です。


第六十六話 「堕天聖女VS聖処女」

ハイスクールD×D

~堕ちた聖女の剣~

 

第六十六話

「堕天聖女VS聖処女」

 

 堕天聖女アーシェ。それは現在の人類史から数えて遥か古の時代、創世記と呼ばれる時代に誕生した一人の少女の名だ。

 当時、まだ天使だった大天使シェムハザが、自ら知識を与えた人間の少女と恋に落ち、それが原因となって堕天使となってアザゼルやコカビエルといった他の元天使達と共に天界を追放された後、その人間の少女と夫婦となった。

 そして、夫婦となってから少しして生まれた少女こそがアーシェと呼ばれ、後の堕天聖女と呼ばれる教会の資料には残されていない初代聖女なのだ。

 

「あっれー? なんか聖女ちゃん雰囲気変わった?」

『変わった、ですか……確かに、この身体は現在を生きる聖女アーシア・アルジェントのモノ、だけど今だけは、その魂は太古の聖女たる私、アーシェ・アルジェントですから』

 

 腰の鞘から細剣フォーリンを抜いたアーシェは、まるで流れるような動作で藍華の近くに居た海魔を斬り裂いた。それを皮切りにジャンヌとキャスターの周囲に召喚された海魔も警戒を始める。

 

『さて、アーチャーさん、アサシンさん、彼女……聖処女の転生体は私にお任せ下さいますか?』

「待て、貴様は……シェムハザの娘がアーシアの前世だというのは知っているが、その貴様が出てきたということは、マスターは……」

『ご安心を、私が出てきたのは一時的なもの。あの子は、あなたのマスターは眠っているだけですよ。あの子の心象世界が汚染され掛けたので、私が表に出たに過ぎません』

「アーシアの心象世界、か……」

 

 それが何を意味しているのかを理解したアーチャーは少しだけ苦い顔をして、だけど直ぐに切り替えたのかアサシンの方を向く。

 

「承知」

 

 アサシンもアーチャーが何を言いたいのか理解して、アーチャーの前、つまりアーシェの隣に立った。

 

「聖女殿、剣の腕に覚えでも?」

『ええ、これでも昔は天使と堕天使の戦争にも参加して剣を握った事があります。明けの明星様にも褒められた事がありますよ』

 

 明けの明星、元大天使長ルシフェルにして後の大魔王ルシファーだ。そんな大物にも剣の腕を認められる程の実力を持つとなれば、味方としては心強い。

 

「なれば、背中はアーチャーが守ってくれる故、共に参ろうぞ!」

『ええ、喜んでお付き合い致しますよ、お侍様』

 

 アーシェとアサシンが同時に走り出すと、アーチャーは投影した弓に番えた矢を放ち、銀閃が複数の海魔を穿つ。

 その隙にアサシンは物干し竿を振るい、襲い掛かる海魔を次々と斬り裂き、アーシェは海魔の後ろから聖剣を構え、振り下ろしてきたジャンヌの一撃をフォーリンで弾き返して左手の籠手を弓形態にすると、零距離で光の矢をジャンヌの腹部に直撃させた。

 

「いっつ~……っ」

『今の、痛いでは済まない一撃だったのですがね』

「いやぁ、だって伊達に英雄の子孫してないよ。それなりに鍛えてるからねぇ」

 

 それでもダメージはあったらしく、ジャンヌの腹部は服が弾けて皮膚も裂けたのか血を流している。

 

「それで? 聖女ちゃんは次はどんな手品を見せてくれるのかしら」

『そうですね、ではこれで』

 

 言うや否や、アーシアの背後に大量の光の槍が展開される。それはまるでアーチャーが得意とするソードバレルフルオープンを彷彿とさせる光景で、流石のジャンヌも冷や汗を流しながら聖剣の柄を確り握り締めた。

 

「ジル!」

「お任せを聖処女!」

 

 アサシンの猛攻に対して次々と海魔を召喚する事で対応していたキャスターが魔導書のページを捲り、クトゥルフ言語の呪文を唱えると、大量の海魔が二人の前に、まるで壁の様に召喚された。

 その次の瞬間だった。アーシアが放った光の槍と、アーチャーが射った矢が海魔の壁へと穿たれ、 壁が肉片へと変えられる。

 

「隙ありってね~」

 

 肉片となった壁の向こうからジャンヌが飛び出してきた。

 その手に持つのは祐斗が創造するのを得意としている光喰剣(ホーリーイレイザー)の聖剣バージョン、光吸剣(ホーリーイリマネイション)の能力で次々と放たれるアーシェの光の槍を吸収し、アーチャーの矢を弾きながらアーシェへ何度も斬り掛かって来る。

 

『良い剣ですが、こちらも中々の業物です。簡単には折れませんよ』

 

 アーシェの持つフォーリンは剣製の英霊であるアーチャーが丹精込めて打った魔剣だ。事、剣製においては恐らく英霊や神霊の中でも随一であるという自負を持つアーチャーの作品が、例え聖剣が相手であろうと、簡単に負ける訳がない。

 

「へぇ、受け止めちゃうんだ。初めて見る魔剣だけど、随分と良い剣だねぇ」

『ええ、世界最高の魔剣ですよ。そして、この身が修めた魔術は、非常に素晴らしい』

 

 ジャンヌの剣をフォーリンで受け止めながら、アーシェが左手をジャンヌの腹部に当てると、小さな衝撃を感じたジャンヌが一気に飛び退く。

 

「今の……」

『あら、気づきましたか……過剰治癒、過ぎたる薬は猛毒となるといった所ですよ』

 

 ジャンヌの腹部、露わになっている腹が魔術の影響により肌色が変色を始めていた。明らかに過剰な治癒を施された影響で細胞が壊死を始めているのだ。

 

「おお、おおおお!? ジャンヌの肌に、聖処女の肌に傷を!!? 許さん、許さんぞ小娘がぁあああ!!」

 

 また大量の海魔が召喚され、アーシェに襲い掛かるが、アサシンが刀を一閃する事で近くの海魔が斬り刻まれ、アーチャーの矢によって距離の離れた所にいる海魔が串刺しになる。

 いくらキャスターが大量の海魔を召喚出来るのだとしても、アーシェとアサシン、アーチャーを相手するには、力不足だ。例え、ジャンヌという強力なマスターが居ようと、優勢はこちらにあるのに変わりない。

 

「くっ……ちょっと不味いわ」

 

 腹部の腐敗が始まったのか、ジャンヌの表情に焦りが出た。衣服に血が滲み、足元にも滴り落ちているらしく、足元には微かに血溜まりが出来ている。

 

『では、ここらでトドメと行きましょうか……』

 

 そう言うと、アーシェはフォーリンを鞘に収めて太股のホルダーから黒鍵を6本取り出して指の間に挟むと、刀身を展開した。

 

『黒魔術の背徳と淫欲に取り付かれ、生前も死後も悪逆の限りを尽くすキャスターと、聖処女の魂を受け継ぎながらも、キャスターの悪行を肯定するマスター、罪深き二人へ、亡き主に代わり洗礼を与える』

 

 アーシェの……もっと正確に言うならアーシアの持つ魔術回路が活性化し、更にアーシェ・アルジェントというハーフ堕天使の魂に因る影響で若干の変質を起こした。

 それは、今まで治癒魔術に特化していたアーシアの魔術回路と、そして彼女の心象風景が、堕ちたとは言え、そしてハーフとは言え天使の魂から引き出される神の子の波動が新たな力を与えたのだ。

 

「な、何……?」

『私が殺す。私が生かす。私が傷つけ私が癒す。我が手を逃れうる者は一人もいない。我が目の届かぬ者は一人もいない』

 

 駆け出したアーシェの口から紡がれるのは聖なる詠唱。それは本来、アーチャーの世界における教会のエクソシストや代行者といった者が使用する洗礼魔術と呼ばれる魔術の詠唱だ。

 

『打ち砕かれよ。敗れた者、老いた者を私が招く。私に委ね、私に学び私に従え。休息を。唄を忘れず、祈りを忘れず、私を忘れず、私は軽く、あらゆる重みを忘れさせる』

「このぉ!!」

 

 何をするつもりなのか知らないジャンヌは聖剣を多数出現させてアーシェへ投擲するが、その全てがアーシェの黒鍵とアーチャーの矢に叩き落される。

 

『装うなかれ。許しには報復を、信頼には裏切りを、希望には絶望を、光あるものには闇を、生あるものには暗い死を』

「その耳障りな言霊を、やめなさい!! 神の犬如きがぁあああ!!」

 

 アーシェの詠唱を聞き、神への憎悪を剥き出しにしたキャスターも海魔を次々と召喚するが、その全てがアサシンによって葬られた。

 

『休息は私の手に。貴方の罪に油を注ぎ印を記そう。永遠の命は、死の中でこそ与えられる。―― ――許しはここに。受肉した私が誓う』

 

 次ぎの瞬間、アーシェが全ての黒鍵を投擲して三本ずつキャスターとジャンヌの周りに囲うように突き刺さった。

 

『――――“この魂に憐れみを(キリエ・エレイソン)”』

 

 最後の小節を唱えた瞬間、キャスターとジャンヌを囲っていた黒鍵から聖なる波動が放たれ、眩い光が二人を焼き尽くそうと襲い掛かる。

 

「ひ、ぎぃいいいいいい!?」

「ぐぎゃあああああ!? オノレ、オノレェエエエエ!! 神の、神の犬如きがぁああああああ!!!!」

 

 この洗礼魔術、生身の人間には然程効果が無いので、ジャンヌへのダメージは精々が激痛程度だろうが、サーヴァント……つまり霊体であるキャスターには抜群の効果を発揮する。

 キャスターは光に身を焼かれ、周囲の海魔も光によって蒸発してしまう。このまま行けばキャスターを倒せるかもしれない。

 

『アーチャーさん! アサシンさん!』

I am the bone of my sword.(我が骨子は、捻じれ狂う)……偽・螺旋剣(カラドボルグ)!!」

「秘剣……燕返し!!」

 

 アーチャーの宝具がジャンヌに襲い掛かり、アサシンの秘剣がキャスターを取り囲んだ。これで決まる、そう誰もが思ったその時だった。

 

「これ以上は困るな」

「■■■■■■■■■ーーーーーーーーっ!!!!!!」

 

 方天画戟と呼ばれる武器が偽・螺旋剣を叩き落し、聖なる波動を放つ槍がアサシンの剣を受け止めた。

 

「そ、曹操……バーサーカー……」

「ジャンヌ、キャスター、随分とボロボロじゃないか」

 

 突如現れたのは、会談の際に戦ったバーサーカーと、そのマスターと思しき青年だった。それも、ジャンヌが呼んだ青年の名は、あまりにも有名過ぎる。

 

「初めまして今代の聖女とアーチャー、アサシン……俺は曹操、バーサーカーのマスターであり、三国志で有名な曹操の子孫であり、そして……最強の神滅具(ロンギヌス)を宿した、か弱い人間さ」




次回、最悪のタイミングで最悪の存在が最悪の武器持って出てきました。

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