ハイスクールD×D~堕ちた聖女の剣~   作:剣の舞姫

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お待たせしました。祐斗覚醒の回。


第二十四話 「聖魔剣、過去を断ち切る刃」

ハイスクールD×D

~堕ちた聖女の剣~

 

第二十四話

「聖魔剣、過去を断ち切る刃」

 

 リアス達が相手していた分も合わせてケルベロスは全て倒した。

 だが、それと時を同じくしてバルパー・ガリレイの儀式は完了してしまったらしく、奪われたエクスカリバー五本が一本に統合されてしまう。

 バルパーは統合されたエクスカリバーをフリードに渡し、こちらを見てまるで子供が玩具を自慢するかのような表情を見せた。

 

「どうだね! 私の長年の研究の成果! まだエクスカリバーが二本足りないが、それでも五本を統合したこのエクスカリバーは現時点でも既に世界最強の聖剣だ!!」

「うっひょおお! サイコーだぜぃじーさん! このエクスカリバーちゃんがあればオレっちさいきょー!! 悪魔ちゃん達もまとめて首チョンパしてやんぜ!」

 

 不味い状況だ。ほぼ完成体に近いエクスカリバーを相手に悪魔であるリアス達が戦うのは危険だ。しかも使うのはフリードというはぐれエクソシスト、近接戦闘においてはリアス以上の実力を持っているのだから、まともに戦えばリアスでは死ぬ可能性だってある。

 当然だがイリナとゼノヴィアも勝てるかと問われれば首を横に振るしか無い。イリナはそもそも完全に体力が回復しているわけではないし、ゼノヴィアは破壊に特化した戦闘を得意としているから、五本のエクスカリバーの能力を使えるであろうフリードを相手にしても、勝ち目は無い。

 

「アーチャー……ケルベロスに続いて悪いんだけど、戦えるかしら?」

「……いや、どうやらあの狂人と戦うのは私ではないようだ」

「え……?」

 

 何を言っているのかと、アーチャーの方を振り返ると、彼は校門の方を向いている。

 リアス達も校門の方へ目を向けると、そこにはゆっくりとだがこちらに歩いてくる祐斗の姿があり、その瞳には今も尚、エクスカリバーへの憎しみを宿していた。

 

「アーチャーさん、フリードの相手は僕がします」

「……ふん、死んだ魚の目をしていた小僧が、少しは見られる顔になったようだ」

 

 まだ十分ではないが、ここは祐斗に任せるべきだと判断した。

 そもそもエクスカリバーとの戦いは祐斗がするべきであり、仮にアーチャーが倒してしまっては祐斗の為にはならないのだから。

 

「木場……」

「ごめんイッセー君、でも大丈夫だよ、僕はもう……負けないから……魔剣創造(ソード・バース)!!」

 

 祐斗の右手に光喰剣(ホーリー・イレイザー)が握られた。対するフリードも祐斗を見て笑みを深め、その手に握るエクスカリバーを構える。

 

「いいぜぇイケメンちゃんよぉ!! オレっちのエクスカリバーちゃんと、チミの魔剣ちゃん、どっちが強いか勝負しようじゃん!!」

「僕はもう、負けない!!」

 

 二人が同時に動いた。

 騎士(ナイト)の特性を生かして持ち前のスピードで動く祐斗と、天閃の聖剣(エクスカリバー・ラピッドリィ)の能力で速度が強化されたフリードの速度はほぼ同等。

 速度が同等ならば、残るは本人達の剣の技量と、そして剣の精度、この二つが勝敗を左右する。

 剣の技量はアーチャーから見れば恐らく互角、だが剣の精度は……。

 

「くっ……!」

「ヒャッハァ!! その程度のチンケな魔剣如きがオレッちのエクスカリバーちゃんに勝てると思ってんですかぁ!? 無駄無駄無駄ぁ!! 全然足りねぇんだよぉ!!!」

「くそっ! まだだぁ!!」

 

 もう一度、光喰剣(ホーリー・イレイザー)を創って立ち向かった祐斗だが、それでもまだ届かない。

 再び剣を折られ、肩を、足を、脇腹を、頬を斬られた祐斗は聖剣に斬られたダメージが蓄積してついに膝を着いてしまった。

 

「くぅっ……!」

「ふん、所詮はその程度か……一人だけ脱走した被験者が居たとは聞いていたが、その被験者もこの程度では所詮は失敗作、まぁだが……」

 

 膝を着いて荒い息を吐く祐斗を見下しながら、バルパーが祐斗に歩み寄った。

 その表情は愉悦に歪み、自身の研究の被験者が悪魔に落ちてまで復讐に来ても、それでもエクスカリバーを前に膝を屈する祐斗への侮蔑が見て取れる。

 

「君らには感謝する点もある。何せ君ら被験者のお陰で私の研究は完成したのだからな」

「かん、せい……?」

「そう、君達聖剣適正者の持つ因子は聖剣を扱えるまでの数値を示さなかった。そこで、一つの結論に至った」

 

 それは、一つ一つの数値が低いのであれば、纏めてしまえば足し算方式で目標の数値に到達出来るというものだった。

 つまり、被験者から因子だけを抜き取って、結晶化し、一つに纏めてしまえば、後はその結晶を聖剣適正の無い者、もしくはあっても数値の低い者に移植する事で人工的に聖剣使いを生み出せるということだ。

 

「ひどい……」

 

 その話を聞いて、あまりの非道さにアーシアが涙を流した。

 嘗て己が所属していた教会の闇の、その業の深さが、心優しい聖女に涙を流させる。

 

「これは君達から抜き取った因子を結晶化した物だ。最後の一つになってしまったがね!!」

 

 バルパーが懐から取り出したのは、青く輝く結晶だった。そして、それに見覚えのある者が一人、この場に居る。

 

「あれって! 私が聖剣を受領する前に受けた洗礼で取り込んだ結晶!?」

 

 イリナ、彼女は元々聖剣使いとしてはエクスカリバーを扱うに至らなかったのだが、あの結晶を体に取り込んだ事で擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)を扱えるようになったという経緯がある。

 

「偽善者どもが、私を異端として追放しておきながらも、私の研究成果だけは利用しやがって。どうせあのミカエルの事だ、被験者から因子だけを抜き取っても、殺してはいないだろうがな」

「ぐっ……なら、僕らも殺す必要は、無かったなずだ……っ! どうして……っ」

「お前らは極秘計画の実験材料に過ぎん、用済みになれば廃棄するしか無かろう」

 

 そんなくだらない理由で、祐斗は仲間を失った。主の為と信じて、ずっと苦しい実験も耐えてきたのに、ただ因子を抜き取ったら不要になった材料だから廃棄しただけと、ただそれだけの為に多くの仲間が殺された。

 

「……屑が」

 

 その外道な考えに心底嫌気が差したのか、アーチャーはアーシアの後ろで腕を組み、目を閉じたまま静かに呟いた。

 そんなアーチャーの声が聞こえたのか、聞こえていないのか、バルパーは持っていた結晶を立ち上がった祐斗の前に投げる。まるで、もう不要なゴミを捨てるかのように。

 

「欲しければくれてやる、最早さらに完成度の高いものを量産化出来る段階まで来ているのでな」

 

 ふらふらと、祐斗は結晶を拾い上げると、その結晶の材料となった嘗ての仲間達の事を思い返していた。

 毒ガスに晒され、今にも命を落とそうとしていた中で、祐斗を逃がそうと、祐斗だけでも生きてくれと、そう言いながら死んでいった仲間達の事を。

 

「皆……」

 

 まるで、嘗ての仲間の温もりが結晶から感じられるような気がして、自然と祐斗は涙を流していた。

 

 

「許せねぇ……ジジィテメェ!!」

 

 もう、我慢の限界を超えたのか、一誠が飛び出そうとした、その時だ。

 

「バルパー・ガリレイ……」

 

 涙を流し、再び膝を着いていた祐斗がゆっくりと、立ち上がる。その表情は俯いているので分からないが、声はあまりにも冷静で、怒りが頂点に達した事でかえって冷静になったのかもしれない。

 

「あなたの自分勝手な欲望の為に、どれだけの命を弄んだ……っ」

 

 すると、祐斗の周囲に青白い光が幾つも現れて、まるで祐斗を囲み、寄り添うかの如く集まりだす。

 

「あ、あれは……」

「ほう……木場祐斗、どうやら貴様は辿り着いたようだな、お前の……新しいステージに」

 

 祐斗の心の震えが、この戦場の様々な力の影響が、結晶に残った犠牲者たちの魂……その残留し念を呼び覚ました。

 祐斗の周りには青白い光が人の形になり、やがて多くの少年少女の姿へと変わっていく。

 

「僕は、ずっと……ずっと思っていたんだ。僕が、僕だけが生きていて良いのかって……」

 

 祐斗よりも夢を持った子が居た。祐斗よりも生きたかった子が居た。祐斗だけが、平和な暮らしを過ごして良いのかと、ずっと……ずっとそう考えてきた。

 そう、本当なら、他に生きるべき子が居たのではないか、そう思ったその時、突如歌が周囲に響き渡る。

 

「聖歌……これは、聖歌です!」

「ああ、間違いない……聖歌が聞こえる」

「ええ、でも何で……?」

 

 教会出身であるアーシア、ゼノヴィア、イリナは歌の正体に直ぐに気がついた。

 そう、聞こえてくる歌は教会の人間であれば誰でも知っている聖歌なのだが、不思議な事に悪魔である面々が聞いても普通では襲ってくる頭痛が全く無い。

 

「みんな……」

『大丈夫……』

『みんな集まれば……』

『受け入れて……』

『僕たちを……』

『怖くない、例え神が居なくても』

『神様が見てなくても』

『僕たちの心は、いつだって』

「……っ、一つ……」

 

 祐斗だけではない、この場に居るアーチャーとコカビエル、フリード、バルパー以外の誰もが涙を流していた。

 悲しいからではない、あまりにも尊い姿が、とても美しくて、眩しくて、儚くて……涙を流さずにはいられない。

 

「綺麗な光景だ……オレが目指したのは、本当はこんな光景だったのだろうか」

 

 光が止んだ。もう、祐斗の瞳の奥にはエクスカリバーへの憎しみの炎など欠片も見られず、ただ……真っ直ぐに倒すべき敵を、主であるリアス・グレモリーの騎士(ナイト)として倒さねばならない敵を見つめていた。

 

「同志達は、復讐を願ってなんかいなかったんだ。でも僕は、目の前の邪悪を打ち倒さねばならない、第二、第三の僕たちを……生み出さない為に!」

 

 祐斗の手に握られたのは一本の魔剣、何の効果も属性も付与されていない、ただの魔剣だ。

 バルパーの前に立ったフリードがエクスカリバーを構えているが、祐斗はそのただの魔剣を握り締め、そっと目を閉じる。

 

「愚か者めが、素直に廃棄されていれば良いものを」

 

 そんなバルパーの声など、最早祐斗の耳には届かない。ただ、今の祐斗の耳に届くのは、今の仲間達の声だけ。

 

「木場ぁ!! フリードの野郎と、エクスカリバーをぶっ叩けぇ!! あいつらの想いと魂を、無駄にすんなぁ!!!」

 

 一誠の声が、その言葉が、祐斗の耳に届く。大切な、今の仲間の……友の声が。

 

「やりなさい、祐斗。あなたはこの私、リアス・グレモリーの眷属……私の騎士(ナイト)は、エクスカリバー如きに負けはしないわ」

 

 リアスの声が、その激励が、祐斗の耳に届く、嘗て命を救ってくれた、大切な、敬愛すべき主の声が。

 

「祐斗君! 信じてますわよ!」

「ファイトです」

「木場さん!」

 

 朱乃が、小猫が、アーシアが、皆の声が聞こえる。共に戦い、そして守るべき人たちの声が。

 

「見せてみろ木場祐斗……君の新たな剣製を、君と仲間達が作り上げた聖なる魔の輝きを」

 

 アーチャーの声が聞こえる。剣製の師、厳しくて、褒められた事など数えるほどしか無いけど、それでも尊敬する男の声が。

 

「あ~あ、何感動シーン作っちゃってんですかぁ? も~聞くだけでお肌ガサついちゃう限界! とっとと君ら斬り刻んで、気分爽快になりましょうかねぇ!」

「……僕は剣になる」

 

 エクスカリバーを構えたフリードを静かに見据えた祐斗に、変化が起きた。

 濃密な魔力が祐斗の周囲に漂い、空間を歪ませているのが目に見えて分かるほど強烈なプレッシャーが放たれている。

 

「僕の魂と融合した同志達よ、一緒に超えよう……あの時果たせなかった想いを、願いを、今……!」

 

 祐斗の足元から魔の力と聖の力の奔流が噴出して祐斗が頭上へと突き出した魔剣へと集まりだした。

 

「部長を、仲間達を守る剣となる……魔剣創造(ソード・バース)!!」

 

 魔剣に集まった魔と聖の力が刀身に注ぎ込まれながら渦を巻き、発生した突風が吹き荒れ祐斗を中心に力の奔流が巻き起こる。

 やがて魔と聖の力は刀身へ全て吸い込まれ、魔剣はその姿を大きく変えた。黒と白が入り混じり、魔と聖の力を併せ持ったその新たな剣の名は。

 

魔剣創造(ソード・バース)禁手(バランスブレイカー)双覇の聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)……聖と魔を有する剣の力、受け止めると良い!」

 

 聖剣と魔剣、二つの力が融合した禁断と剣、聖魔剣。今ここに、木場祐斗の新たな力となって顕現する。




次回はフリード瞬殺してコカビーから神の死を告げられるお話。
そして、アーチャーVSコカビエルをお楽しみに。

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