美少女戦士セーラームーン☆太陽の戦士   作:Doc Kinoko

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【act.009】戦士のティアラ

クリスタルガーデンから、パレスへ立ち上がる広く長い水晶の階段。途中設けられた広い踊り場が、スモールレディたちのステージとなる。輝く陽の光に照らされながら、その頂上に佇むスモールレディとエリオス。クリスタルガーデンに集まった数え切れない民たちが、大きな歓声と共に、二人を迎える。今日のよき日に、王家の者が突然外へ姿を見せると聞き付け集まったにも関わらず、その民の数は、後に数万とも数えられるほどであった。

 

歓喜の声を上げる民たちを、ゆっくりとした笑顔でひとしきり見渡したスモールレディが、手の平をすっと挙げると、地響きのような歓声がぴたりと止んだ。小鳥の声だけが響く束の間の静寂の中、スモールレディとエリオスが、行く先に広がる階段をゆっくりと降りて行くと、眼下にある銀色のステージの中央から、優しい笑顔を浮かべたキング・エンディミオンとネオ・クィーン・セレニティが二人を迎えた。

 

キングとクィーンを中心として、左右それぞれには、太陽系4戦士と小惑星4戦士たちが控えており、そのシルエットは、鳥が羽ばたくような形を見せる。皆の笑顔に応えるように、スモールレディの笑顔が一層輝きを増した。

 

「お父様、お母様。スモールレディ、ただいま参りました。」

 

ネオ・クィーン・セレニティは両手を広げてスモールレディを迎え、何も言わずにそっと抱きしめた。

 

「さあスモールレディ、セレニティ。皆が待ってる。式を始めようか。」

 

キング・エンディミオンが、抱き合う二人の肩にそっと触れ、眼下に広がる民たちに笑顔を向ける。

 

「ええ、エンディミオン。エリオスも、ご苦労様でした。さあ、始めましょう。」

 

エリオスに優しい瞳で労いの言葉をかけた後、ネオ・クィーン・セレニティは背筋をぴんとさせ、背中に広がる民たちに向かって、朝日に輝くドレスの裾を、威厳と共にひるがえした。

 

女王はドレスの裾を右手でふんわりとつまみ、乾いた足音と共に、ゆっくりと3歩前へ出ると、左手に携えたエターナルティアルを、すっと天に掲げる。エターナルティアルから放たれる無数の銀色の光線が、式の始まりを告げたのだ。クリスタルガーデンへ流星群のように降り注ぐ光。それに照らされる民たちは皆、溜め息にも似た歓声をあげた。

 

天に掲げたエターナルティアルを再び地上へ降ろしたネオ・クィーン・セレニティは、かつん という乾いた杖の音と共に、民たちに向かって凜とした声をあげる。

 

「皆の者。このよき日にお集まり頂き、心から感謝致します。誠にご苦労であった。本日これから、我が娘、クリスタルトーキョー第一王女スモールレディ・セレニティと、その守護戦士セーラーカルテットたちの、新たなる戦士の門出を祝福し、見届ける拝命式を執り行う。まずは、セーラーカルテットたち、前へ!」

 

白いショートドレスに身を包む美しい4人の乙女。割れんばかりの拍手と歓声の中、ネオ・クィーン・セレニティの呼び掛けに返事をした4人は、ゆっくりと女王に歩み寄り、その身体を大地に預けるように、すっとひざまづいた。ネオ・クィーン・セレニティのエターナルティアルが、ひざまづく4人の頭上に、銀色の輝きを降らせながら、ゆっくりと横切る。

 

ネオ・クィーン・セレニティの銀色の輝きを全身に浴びた4人の乙女は、それぞれの胸に掛けられた自身のクリスタルの輝きを、銀色の輝きに乗せて、広大なクリスタルガーデンへ一気に解き放つ。目も開けていられないほどの眩しい光に、民たちはざわめきたち、光の向こうに目覚める新たな戦士の誕生に胸を躍らせた。

 

一瞬の静寂の後、4人から弾け飛んだ光が、ガラス片のようにクリスタルガーデンへ降り注ぐ。凄まじい光に、視界を遮られた民たちの瞳にゆっくりと映り込んだのは、美しい乙女から、偉大な戦士の姿へと変身を遂げたセーラーカルテットたちの姿であった。

 

「さぁ、セーラーカルテットたち、顔を上げなさい。そして、私にその顔をよく見せて。」

 

ネオ・クィーン・セレニティの言葉に、すっと顔を上げた戦士たちの瞳は、まっすぐに女王へと向けられている。透き通る瞳に、凜とした強さを宿しながら。

 

ネオ・クィーン・セレニティは、その身の半分ほどまで腰を降ろし、ひざまづく4人の戦士たちを、一人ずつ、優しく抱きしめた。そしてまた、すっと立ち上がり、ドレスの裾を直すと、大きく息をして、力強く戦士たちの名を読み上げた。

 

 

「豊穣の神 セレスを守護に持つ 『生命の戦士=セーラー・セレス』

 

海神トリトンの娘、全知の神 パラスを守護に持つ 『導きの戦士=セーラー・パラス』

 

炎の神 ベスタを守護に持つ 『永遠の戦士=セーラー・ベスタ』

 

乙女の神 ジュノーを守護に持つ 『平和の戦士=セーラー・ジュノー』

 

本日をもって、あなたたち4人の乙女に、以上の戦士の名を与えます!」

 

女王の言葉を聞くが早いか、4人の戦士たちの誓いにも聞こえる凜とした返事が、クリスタルガーデンへ響き渡る。一際大きく響く拍手と歓声の中、ざわめきを掻き消すように、ネオ・クィーン・セレニティが次の言葉を紡いだ。

 

「続いて、戴冠の儀。太陽系4戦士たちよ。彼女たちの『戦士のティアラ』をここへ。」

 

新たなる戦士の誕生を、すぐ側で見守っていた太陽系4戦士たち。彼女たちの手にそっと支えられている、金色に輝くサークレット。『戦士のティアラ』と呼ばれるそのサークレットは、選ばれた戦士のみが、その額に飾ることを許される戦士の証。その中央には、きらめく宝石を1つ飾る。

 

クィーンの1番手前の戦士、ヴィーナスが持つ、戦士セレスのサークレットの中央には、『クンツァイト』と呼ばれる石を飾る。

 

その向こう、マーキュリーの持つ、戦士パラスのサークレットには、『ゾイサイト』と言う名の石。

 

マーズの持つ、戦士ベスタのサークレットには『ジェダイト』

 

ジュピターの持つ、戦士ジュノーのサークレットには『ネフライト』と言う石が、それぞれ飾られている。

 

それらの石は、遥か創世の時代、地球が『ゴールデン・キングダム』と呼ばれていた頃、地球を守護していた4人の屈強な騎士たちの名前から、強さの象徴として、そう名付けられている。太陽系4戦士たちはそれぞれが持つサークレットを、ヴィーナスはセレスに、マーキュリーはパラスに、マーズはベスタに、ジュピターはジュノーへと戴冠した。

 

戴冠の儀を一通り見守ったネオ・クィーン・セレニティは、大きくひとつ息をすると、セーラーカルテットたちを優しく労うように声をかける。

 

「これにてあなたたちの拝命式は終了致しました。さあ、立ち上がって、皆にその姿をお見せして差し上げなさい。」

 

額に戦士のティアラを輝かせる新たな4人の戦士たちは、女王の言葉に、その場からすっと立ち上ると、2歩3歩と力強く前へ進み出て、眼下に広がる民たちに向けて、精一杯手を振った。

 

「次はいよいよ、スモールレディの番ですね。」

 

セーラーカルテットたちの晴れ姿を、きらきらした瞳で見守っていたスモールレディに、神官エリオスが後ろからそっと耳打ちした。

 

「ええ。見守っててね。エリオス。」

 

エリオスの激励の言葉に笑顔で答えたスモールレディは、唇を固く結ぶと、まっすぐに前を見つめた。

 

「続いて、王女スモールレディ・セレニティ、前へっ!」

 

ネオ・クィーン・セレニティの透き通る声が、クリスタルガーデンへ響き渡った。


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