美少女戦士セーラームーン☆太陽の戦士   作:Doc Kinoko

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【act.008】新たなる一歩

クリスタル・トーキョーに訪れる、いつもと変わらない銀色の夜明け。白く大きな、ふんわりとしたベッドの上で目を覚ましたスモールレディ。美しく上品な天蓋に散りばめられたいくつもの輝石からこぼれる光が、朝の木漏れ日と共に、仰向けの瞳に差し込む。

 

力を使い切ったのか、昨日あれから、倒れるように眠りについたスモールレディは、朝目覚め、ゆっくりとベッドから身体を起こして一番に、胸に掛けられたクリスタルの輝きを確かめた。いつもと変わらない朝の目覚めに、昨日の出来事が夢のように霞んでいたからだ。

 

「私…今日から本当にセーラー・テラになるんだわ…なんか、信じられないね。」

 

囁いて、生まれ変わった自身のテラ・クリスタルを指でそっと弾いた。思い出し笑いのように緩む可愛らしい口元。喜びの瞳に、少しの寂しさが同居するのは、過去の自分に決別した証なのか。

 

「バイバイ。セーラーちびムーン。」

 

呟いて床に脚を降ろし、ベッドからすっと立ち上がると、朝の光の中に大きく伸びをした。

 

スモールレディはまず、今日これから行われる拝命式に備え、部屋の端にある別室でゆっくりと沐浴し、身体を清めた。沐浴を終え、戻ったスモールレディの部屋には、城の者が用意したであろう朝食が置かれていた。腰丈ほどの上品な銀色のワゴンに、飾られるように盛られた色とりどりのフルーツ。焼きたてのパンと、白く甘いたっぷりのクリーム。ほどよい熱さに煎れられた紅茶の香りが、朝日の差し込む部屋にふんわりと漂う。

 

透き通るような肌に、オーロラを思わせる薄いバスローブ一枚を羽織っただけのスモールレディは、食事もそこそこにして、早々と身支度を整える。白く輝くロングドレスに身を包み、きらめく輝石に縁取らた鏡台に腰掛けると、長い髪を頭の上に2つに丸く束ね、やわらかな唇に、淡いピンクのルージュをそっと乗せた。

 

ふんわりとした髪に、銀色に輝くティアラを乗せると、一通りのドレスアップを済ませたのか、鏡に映る自分の顔にしっかりと目を合わせ、ぱちぱち と大きく瞬きをした。

 

 

ふと一息ついたスモールレディの耳に、透き通る鐘の音が響く。

 

「…大変っ!始まりの合図だわっ!急いで行かなくちゃっ!」

 

言うが早いか、慌てて部屋を飛び出したスモールレディ。部屋から伸びる長い廊下を足早にして、始めの角を左へ曲がった先が、王の間へ続く扉。勢いよくその扉を開け放ったスモールレディ。

 

「ごめんなさいお母様っ!スモールレディ、ただ今参りまし…た…」

 

叫んだ自分の声が、がらんとした静寂の王の間へ響き渡り、スモールレディは目を丸くした。

 

「…え?…お母様…?みんな…いない…の…?」

 

「お待ちしていましたよ。スモールレディ。」

 

辺りを見回したスモールレディが、その声の主を見つけるが早いか、優しい瞳の青年が、やわらかな笑みと共にスモールレディに声をかけた。

 

「エリオス!?…どうしてここに?お母様たちは?」

 

聖地エリュシオンから離れることを許されるはずのない神官エリオスが、ここにいることに戸惑ったスモールレディであったが、それよりもこれから始まる式に遅れることに焦っていた。

 

「みなさんは外のクリスタル・ガーデンへ向かわれました。なんでも、『こんなにいいお天気の日に、城の中にいるのはもったいないわ』と、クィーンがおっしゃって、ついさきほど外へ…。 『どうせスモールレディは遅刻してくるだろうから、あの子はあなたに任せるわ』…と。ちょっと恐かったですけど…。」

 

そう言ってエリオスは思わずついた溜め息を、苦笑で消した。

 

「お母様ったら…。相変わらずね。関係ないエリオスに叫んでる顔が目に浮かぶわ。ごめんなさいね、エリオス。ふふっ。」

 

大きく息をしたスモールレディは、心の底から溢れる笑顔をエリオスに見せた。

 

「さあ、参りましょうスモールレディ。私がエスコートいたしますよ。」

 

銀色に染まる朝日が差し込む王の間、白く輝くドレスのプリンセスにひざまづき手を差し延べる銀色の髪の青年。

ドレスの裾を片手でふんわりとつまみ、差し延べられた手をそっと握るプリンセス。

銀色の光の中にきらきら輝く二人の姿はまるで、太古の昔に女神が置き忘れたガラスのオルゴール細工のようであった。

 

---

 

「ところでエリオス、どうしてパレスへ?聖地を離れることは許されないでしょう?」

 

王の間を後にし、パレスの外へ続く長い廊下を二人並んで歩きながら、スモールレディは少し心配そうな顔でエリオスの顔を覗き込んだ。

 

「キングとクィーンに、今日だけ特別に許可を頂いていたんですよ。」

 

聖地エリュシオンで地上に祈りを捧げる神官エリオスは、キングたちの許可なしに聖地を離れることは許されない。エリオスは、いつか必ずやって来るスモールレディの記念すべきこの日のために、時空の扉の番人ダイアナを通じて、密かにキングたちの許可を得ていたのだと言う。

 

「エリオスったら、昨日はそんなこと一言も言わなかったじゃない?」

 

スモールレディは少しふくれた顔で、エリオスに視線を尖らせた。

 

「それは、スモールレディの力がいつ目覚めるのか、私にもクィーンにもわからなかったからですよ。それに、『エリオスがいきなり地上に来て、びっくりしてるスモールレディの顔が見たいから、このことは絶対に内緒よ』って…クィーンから固く口止めを…」

 

エリオスは、身振り手振りを混ぜがら、人差し指を唇に当てて、ネオ・クィーン・セレニティの真似をするように語った。

 

「ふふっ。お母様らしいわ。でもお母様は、私のびっくりしてる顔は見られなかったわね。もっとも、エリオスに口止めしていたことなんて忘れていたかも知れないけれどね。」

 

無邪気に笑い合う二人が歩く廊下の先に見えるのは、クリスタルガーデンへと続くパレスの出口。

 

クリスタルパレスを囲む広大な庭園『クリスタルガーデン』。

 

清らかな水と緑。一面に喜び咲く花たち。巨大なクリスタルパレスから反射する銀色の陽の光を全身に浴びる姿は、遥か太古の昔に滅んだ月の王国『シルバー・ミレニアム』の生き写しのようだ。

 

「さあ、スモールレディ。まもなくクリスタルガーデンです。みなさんがお待ちですよ。」

 

エリオスの凜とした声が廊下を響き渡り、スモールレディの背筋をぴん とさせた。

 

「ええ。エリオス。」

 

改めてエリオスの手をとり深呼吸したスモールレディは、皆が待つクリスタルガーデンへ、ゆっくりと新たなる一歩を踏み出した。


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