美少女戦士セーラームーン☆太陽の戦士   作:Doc Kinoko

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【act.007】闇の鼓動

遥か宇宙の彼方、銀河の中心=いて座ゼロスター。星々が生まれ、星々が始まりに還る混沌の海…

 

『ギャラクシーコルドロン』

 

無数の星くずが、滝のようにどこまでも続く宇宙の深淵に飲み込まれ、そこから弾け飛ぶ水しぶきのような光の粒たちは、新たなる星となって、自身の居場所を求め旅立つ。

 

金色にも銀色にも見える星の海を、ゆっくりと泳ぐ影がひとつ。漆黒の身体を光に揺らす乙女の姿は、群れを見失った1頭のイルカのように、何かを探しながら輝く海を渡る。

 

漆黒の乙女が彷徨うギャラクシーコルドロンの海の深淵には、星たちの始まりと終わりを見守る番人『コスモス・シード』の守護星霊『ガーディアン・コスモス』がいるという。

 

透き通る小さな身体に、ガラス細工のようなドレスを身に纏う。いくつもの終わりと、いくつもの始まりを映してきた瞳には、すべてを捨て去る覚悟と、すべてを受け入れる覚悟を宿している。

 

ガーディアン・コスモスは、ギャラクシーコルドロンを泳ぐ影=漆黒の乙女にゆっくりと近づき、ためらうことなく声をかけた。

 

「あなた…なんて強い闇の輝きなの…?このコルドロンの海で、その姿をとどめていられるなんて。」

 

ギャラクシーコルドロンは、始まりと終わりの海。本来それに近づく者はすべて、始まりと終わりの姿にまで還されるのだ。混沌の海の中でその姿をとどめていられる漆黒の乙女に驚きつつも、ガーディアン・コスモスの声は、すべてを受け入れる宇宙のような広さを感じる。

 

「…あなた…誰…?」

 

声をかけられたことに驚いたのか、それとも、誰とも言葉を交わしたことがないのか、漆黒の乙女は瞳を大きく瞬かせ、片言の言葉を、消えそうな声で搾り出した。

 

「私はガーディアン・コスモス。このギャラクシーコルドロンの中で、星たちの始まりと終わりを見届ける番人よ。あなたがここへ来たということは、その命を始まりの海へ捨てて、新たな星の歴史を始めたいの?それとも、その姿のままここを立ち去るのかしら?」

 

ギャラクシーコルドロンを訪れる無数の星たちの始まりと終わりを、いくつも見送ってきたガーディアン・コスモス。悲しみと喜びが同居する瞳の中に漆黒の乙女を映し、彼女の答えを待った。

 

「…母さんを…探しているの…」

 

それが彼女の答えなのか、それとも独り言なのか、その視線が、ガーディアン・コスモスに向けられているのか、それとも別の誰かに向けられているのか。喜びも悲しみも感じることのできない冷たい声を残し、漆黒の乙女は、ガーディアン・コスモスの前を通り過ぎた。

 

「お待ちなさい。その先は始まりの海。生まれたばかりの名もない星たちが集う場所。行ってもなんにもないわ。」

 

広がるギャラクシーコルドロンの光の海へ向かう漆黒の乙女を、静かに呼び止めるガーディアン・コスモス。

 

「…いいえ…母さんはきっとここにいるわ…私を呼んでいるもの…」

 

漆黒の乙女の応えは、か弱い声であったが、不思議なほどの自信に満ちていた。

 

「あなた、名前はなんて言うの?あなたのお母様が、本当にこの先にいるの?」

 

ガーディアン・コスモスの声が聞こえているのか、聞いていないのか、何も語ることなく静かに動く漆黒の瞳は、輝きの海の向こうに、ずっと何かを探している。

 

さらさらと落ちる光の音すら聞こえそうなほどの長い静寂。

 

「…私はガイア…カオスの子」

 

漆黒の乙女は呟いた。

 

『カオス』

 

今から1000年前、セーラームーンと幻の銀水晶のチカラで、そのスターシードをギャラクシーコルドロンの海へと還された宇宙最大の闇の支配者。

 

漆黒の乙女は、自らを「カオスの子=ガイア」と名乗った。しかしガーディアン・コスモスはその事実にすらためらうことなく、さらに語りかける。

 

「残念だけど、あの時カオスのスターシードはコルドロンの深い海の底へ溶けて、見つけられないほど小さなスターシードになったわ。あれから1000年経ったけれど、そのスターシードはまだ、私でも見つけられないほど小さい。ここにはすべてがあるけれど、ここにはすべてがないわ。あなたはまだ、ここへ来るべきではないのよ。さぁ、もう立ち去るのがいいわ。」

 

その忠告を耳にする気配のない漆黒の乙女=ガイアは、自身の胸に掛けられた漆黒の石を強く握り締め、静かに瞳を閉じる。

 

次の瞬間、石がその身にひとすじの影を落とすと、そこから放たれる巨大な闇の輝きがコルドロンの海を灰色に染め、そこに輝くすべての星くずたちが立ち止まった。

 

「なんて強い闇の輝きなの…。コルドロンの中で、こんなにも強いチカラを開放できるなんて…」

 

圧倒的な闇の輝きに圧され、身動きのできないガーディアン・コスモスの瞳に飛び込んで来たのは、ギャラクシーコルドロンの海の底から沸き上がる巨大な闇の輝き。ガイアの呼びかけに応えるように、その輝きを共鳴させる。その巨大な力、闇の輝き、ガーディアン・コスモスには覚えがあった。

 

「カオスのスターシード…。カオスシード?目覚めたというの…?彼女の力で…?」

 

ギャラクシーコルドロンの底からさらに強く響く闇の鼓動。いくすじも放たれる黒い輝きは、海の底から天を掴もうと、必死にもがき苦しむ無数の腕のようだ。

 

漆黒の乙女=ガイアは、ギャラクシーコルドロンの底から放たれる無数の闇の渦を、大きく深呼吸するようにその身に取り込んだ。

 

「やっと会えた…。…これからは…ずっと一緒よ…。痛みも悲しみもない世界へ共に行きましょう、母さん。どうか、力を貸して…」

 

ガーディアン・コスモスは、今まさに生まれ変わった新たな漆黒の輝きを瞳に映し、その誕生を見守った。

 

「星が生まれ続ける限り、その光に導かれ何度も巡り合う。また…戦いが始まるのね。」

 

呟いたガーディアン・コスモスの言葉を掻き消すように、カオスをその身に取り込んだガイアは、光の速さでギャラクシーコルドロンを飛び出した。


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