美少女戦士セーラームーン☆太陽の戦士   作:Doc Kinoko

6 / 43
【act.006】戦いの先にあるもの

「テラ・クリスタル」

 

生まれ変わったスモールレディのピンクムーンクリスタルを、キングエンディミオンは「テラ・クリスタル」と呼んだ。

 

パレスに広がる巨大な光の渦を、しなやかな身体の1点にゆっくりと飲み込んだスモールレディ。全ての光を飲み込んだ一瞬の静寂の後、オーバーフローした光が流星群のように弾けた。

 

「…スモールレディ…?」

 

輝きに目を細めたキングとクィーンが目にした者は、朝もやのような光の中で静かに瞳を閉じ、今まさに目覚めようとするセーラー戦士の姿であった。

 

若き日のクィーン=『エターナルセーラームーン』を思わせる純白の後ろ襟は、朝日に揺れるレースのカーテンのように長く、天高く駆け上がる美しい脚を包むスカートは、銀色の風と戯れるペガサスの翼のようだ。

 

髪の先まで光を取り込んだ戦士の桃色の髪は、輝きにその色をさらに薄くし、絹糸のような光沢を放つ。

静かに閉じられた瞳がゆっくりと開き、長いまつげから、木漏れ日のような光がきらきらと床に零れ落ちる。

 

「…お父様、お母様。私…今とても心が穏やかです…」

 

天を仰ぐ瞳は、遥か銀河を映す。

 

「目覚めたのか…セーラー・テラ」

 

輝きに圧され地に伏していたキング・エンディミオンは、ゆっくりと身体を起こし、戦士へと歩み寄る。

新たな戦士の誕生を静かに見守っていたネオ・クィーン・セレニティも、天高く掲げたエターナルティアルを降ろし、囁くように口を開いた。

 

「母なる大地、地球を守護に持つ戦士=セーラー・テラ。長い眠りから、やっと目覚めたのね。こんなに嬉しい日はないわ。おめでとう、スモールレディ。」

 

歩み寄ったネオ・クィーン・セレニティは、スモールレディをそっと抱きしめた。

 

「お父様、お母様…。ありがとう。」

 

訪れた短い静寂を遮るのは、偉大なる父。

 

「さあ、スモールレディ、喜びを存分に分かち合いたいところだが、明日は大切な式が待っている。変身を解いて、今日のところはもう休むといいだろう。」

 

差し延べられた父の手をとったスモールレディは、その身体を休めるべく、王の間の端、自室に続く扉へと向かう。両親に見送られ、ぱたん という乾いた音と共に、スモールレディは扉の向こうへ消えた。

 

王の間に、またしばしの静寂が訪れる。

 

「これで、よかったんだよ、セレニティ…」

 

キング・エンディミオンの言葉が、心なしか重く、パレスの床にこぼれ落ちた。

 

「エンディミオン、あの子に戦いは似合わないかもしれない。でも…」

 

言いかけたセレニティの唇を、エンディミオンが人差し指でそっと塞ぐ。

 

「『戦いは終わらない』…だろ? そんなに悲しい顔をするんじゃない。『いつだって、戦いの終わりには、希望と未来がある』。あの時、コルドロンの海に溶けた俺に、そう叫び続けてくれたのは君じゃないか、セレニティ。」

 

1000年前の悲しい記憶。

 

星が生まれ続ける限り、決して終わることのない戦い。

星が生まれ続ける限り、何度も巡り合う運命の輪。

 

史上最大の敵「カオス」を目の前にして、セレニティは銀河の運命をかけた最後の選択を迫られたのだ。

 

始まりの海とすべての星たちを消して、戦いを終わらせるのか。

すべての星たちを救い、戦いの終わりにある希望と未来を信じるのか。

 

戦いに喜びなどない。いつだって、戦いを終わらせるために戦ってきた。

 

それでも…

 

『戦いが終わらなくてもいい、愛するみんなと生きて行きたい。そこにはきっと、希望と未来があるのだから。』

 

それが彼女の選択であった。

 

その瞬間、セレニティの強い意志と幻の銀水晶が、セーラーギャラクシアの手によってギャラクシーコルドロンの海に溶けたすべてのスターシードを再生させたのだ。

 

『いつだって愛するみんなと生きて行きたい。』

 

ただそれだけだった。

 

「…ありがとうエンディミオン。そうね。信じましょう、私達の大切な娘を。新しい未来を。」

 

新たな星が生まれるたびに沸き上がる大きな喜び。新たな星が生まれるたびに沸き上がる少しの不安。星たちが生まれ続ける限り続く戦い。

光のない闇は存在せず、闇のない光も存在しないこと。

新たな光が、新たな闇を生むこと。

 

セレニティは痛いほどわかっている。それでも、信じていたい。戦いの果てにある、希望と未来を。

 

再びそう決心し、少し固く結んだセレニティの唇に、エンディミオンが優しく口付けた。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。