美少女戦士セーラームーン☆太陽の戦士 作:Doc Kinoko
「テラ・クリスタル」
生まれ変わったスモールレディのピンクムーンクリスタルを、キングエンディミオンは「テラ・クリスタル」と呼んだ。
パレスに広がる巨大な光の渦を、しなやかな身体の1点にゆっくりと飲み込んだスモールレディ。全ての光を飲み込んだ一瞬の静寂の後、オーバーフローした光が流星群のように弾けた。
「…スモールレディ…?」
輝きに目を細めたキングとクィーンが目にした者は、朝もやのような光の中で静かに瞳を閉じ、今まさに目覚めようとするセーラー戦士の姿であった。
若き日のクィーン=『エターナルセーラームーン』を思わせる純白の後ろ襟は、朝日に揺れるレースのカーテンのように長く、天高く駆け上がる美しい脚を包むスカートは、銀色の風と戯れるペガサスの翼のようだ。
髪の先まで光を取り込んだ戦士の桃色の髪は、輝きにその色をさらに薄くし、絹糸のような光沢を放つ。
静かに閉じられた瞳がゆっくりと開き、長いまつげから、木漏れ日のような光がきらきらと床に零れ落ちる。
「…お父様、お母様。私…今とても心が穏やかです…」
天を仰ぐ瞳は、遥か銀河を映す。
「目覚めたのか…セーラー・テラ」
輝きに圧され地に伏していたキング・エンディミオンは、ゆっくりと身体を起こし、戦士へと歩み寄る。
新たな戦士の誕生を静かに見守っていたネオ・クィーン・セレニティも、天高く掲げたエターナルティアルを降ろし、囁くように口を開いた。
「母なる大地、地球を守護に持つ戦士=セーラー・テラ。長い眠りから、やっと目覚めたのね。こんなに嬉しい日はないわ。おめでとう、スモールレディ。」
歩み寄ったネオ・クィーン・セレニティは、スモールレディをそっと抱きしめた。
「お父様、お母様…。ありがとう。」
訪れた短い静寂を遮るのは、偉大なる父。
「さあ、スモールレディ、喜びを存分に分かち合いたいところだが、明日は大切な式が待っている。変身を解いて、今日のところはもう休むといいだろう。」
差し延べられた父の手をとったスモールレディは、その身体を休めるべく、王の間の端、自室に続く扉へと向かう。両親に見送られ、ぱたん という乾いた音と共に、スモールレディは扉の向こうへ消えた。
王の間に、またしばしの静寂が訪れる。
「これで、よかったんだよ、セレニティ…」
キング・エンディミオンの言葉が、心なしか重く、パレスの床にこぼれ落ちた。
「エンディミオン、あの子に戦いは似合わないかもしれない。でも…」
言いかけたセレニティの唇を、エンディミオンが人差し指でそっと塞ぐ。
「『戦いは終わらない』…だろ? そんなに悲しい顔をするんじゃない。『いつだって、戦いの終わりには、希望と未来がある』。あの時、コルドロンの海に溶けた俺に、そう叫び続けてくれたのは君じゃないか、セレニティ。」
1000年前の悲しい記憶。
星が生まれ続ける限り、決して終わることのない戦い。
星が生まれ続ける限り、何度も巡り合う運命の輪。
史上最大の敵「カオス」を目の前にして、セレニティは銀河の運命をかけた最後の選択を迫られたのだ。
始まりの海とすべての星たちを消して、戦いを終わらせるのか。
すべての星たちを救い、戦いの終わりにある希望と未来を信じるのか。
戦いに喜びなどない。いつだって、戦いを終わらせるために戦ってきた。
それでも…
『戦いが終わらなくてもいい、愛するみんなと生きて行きたい。そこにはきっと、希望と未来があるのだから。』
それが彼女の選択であった。
その瞬間、セレニティの強い意志と幻の銀水晶が、セーラーギャラクシアの手によってギャラクシーコルドロンの海に溶けたすべてのスターシードを再生させたのだ。
『いつだって愛するみんなと生きて行きたい。』
ただそれだけだった。
「…ありがとうエンディミオン。そうね。信じましょう、私達の大切な娘を。新しい未来を。」
新たな星が生まれるたびに沸き上がる大きな喜び。新たな星が生まれるたびに沸き上がる少しの不安。星たちが生まれ続ける限り続く戦い。
光のない闇は存在せず、闇のない光も存在しないこと。
新たな光が、新たな闇を生むこと。
セレニティは痛いほどわかっている。それでも、信じていたい。戦いの果てにある、希望と未来を。
再びそう決心し、少し固く結んだセレニティの唇に、エンディミオンが優しく口付けた。