美少女戦士セーラームーン☆太陽の戦士 作:Doc Kinoko
「セーラー・テラ…? …っ…ちょっと待ってお父様っ…だって私には…」
『セーラーちびムーン』
スモールレディの戦士としての名前。
「それに…テラの名を与えられるなんて…」
テラ・マーテル ~母なる大地~
「私とエンディミオンの血を分けるあなたこそ、この母なる大地テラ、地球の守護を受ける新しいセーラー戦士なのよ。」
戸惑うスモールレディに語りかける母の口調が強さを増した。
「でも…お母様。あれから私…」
そう言ってスモールレディは、次の言葉に躊躇した。
「…変身できなかったのだろう?」
戸惑うスモールレディの肩を、キングがそっと抱く。
「お父様っ…?…知っていらしたのっ?」
スモールレディは驚き、父の顔を、ぱっ と見上げた。
「…ああ。知っていたとも。」
優しく語りかけたキング・エンディミオンは、スモールレディへ向けた瞳を、ネオ・クィーン・セレニティへ移し、ゆっくりと微笑んだ。
「…お母様も…?」
二人は気付いていたのだ、スモールレディが戦士へ変身できなかったことを。そして、その理由さえも。
変身できない自らの不甲斐なさに、黙って下を向くスモールレディ。長い沈黙に、ネオ・クィーン・セレニティがゆっくりと口を開いた。
「あなたはもう、ちびムーンではないわ。クリスタルがそんなにも輝いているのに変身できないのは、あなたが気付いていないだけ、本当のチカラに。」
私の…チカラ…?
「テラ・クリスタル」
キングが囁く。
その言葉に スモールレディは、ぱっ と目を見開いた。
「…だから?だからなの?…ピンクムーンクリスタルでは…なかったの…?」
呟いたスモールレディの視界の端に、突然銀色の光が差し込む。それは、母が天に掲げるエターナルティアル。
「さぁ、私がチカラを貸すわ、変身するのよ、スモールレディ!」
母から容赦なく放たれる銀色の光を浴び、スモールレディはその輝きに息すらできない。
「大丈夫だよ、私がついてる」
その肩を後ろから優しく支える父。
「お母様っ…お父様っ…」
銀水晶から放たれる凄まじい光に照らさるスモールレディ。身体が熱い。溢れ出るチカラ。今ならわかる。スペルアウトはひとつ。
…テラ・クリスタル・パワー…
「メイクアップっ!!」
スペルアウトと共に、スモールレディの身体から、強烈な金と銀の光が放たれ、彼女を支えていたキング・エンディミオンは、あまりの衝撃に後方へ弾き飛ばされ、壁に身体を打ち付けた。
「…くっ…。これが、テラ・クリスタルパワー…」
身体を打ち付けた衝撃に、向こうに見える娘の姿が歪む。王の間を包む金と銀の光はクリスタルパレス全体を覆い、銀河の果てを突き抜け、やがてゆっくりとスモールレディの身体へ取り込まれた。
この凄まじい光に気づかない者などいないはずもなく、太陽系に生きる全ての戦士たちが、新たな戦士の誕生を予感した。
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「スモールレディ…。とうとう目覚めたのですね…。エリュシオンに生きる生命たちが、こんなにも喜んでいますよ。」
その光は、聖地エリュシオンへも届き、神官エリオスは心を躍らせ、語りかけるように呟いた。
聖地を駆ける銀色の風が、一面に喜び咲く花たちを空へ巻き上げ、エリオスは自身の白い羽根を天高く舞い踊らせる。
… … …
そして、溢れる歓喜の声を優しく遮るように、聖地の空に清らかな歌声が響き渡った。
光の粒のような竪琴の音色に乗せられた美しい歌声は、雲間を突き抜けるいくすじもの光のように、まっすぐ響き渡る。あまりに美しいその歌声に、舞い踊る風や花びらたちが立ち止まる。まるで時間が止まっているかのようであった。
「…歌っているのか…?…彼女が…?」
その歌声に身動きひとつできず、エリオスは遥か向こうの空に浮かぶ太陽の神殿を見つめた。瞬きすることも忘れて、歌声が運ぶ薄黄金色の輝きを瞳に映すエリオス。
聖地エリュシオンがその輝きに包まれる光景は、まるで朝日を待ちわびる新たな夜明けのようであった。
「間違いない…彼女も気付いている…新たな光に…。こんなにも喜び満ち溢れる歌声を聞くのは、何千年ぶりだろうか…。新しい宇宙の夜明けのようだね、ラー。」
『太陽の巫女=ラー』
エリオスは太陽の神殿に向かって、巫女の名を呼んだ。