美少女戦士セーラームーン☆太陽の戦士 作:Doc Kinoko
あなたは…誰…?
私は…あなた…
あなた…泣いてるの…?
あなた…笑ってるの…?
…いいえ…
…私は泣かない…
…私は笑わない…
…どうして…私はあなた…あなたは私なのに…
私は泣かないのに…私は笑わないのに
そう…私はあなた…
あなたは私…
…やっとひとつになれたのね…
…おかえりなさい…わたし…
… … …
『光の巫女=ラー』が歌う『最期の歌』
漆黒の闇に染まる空に響き渡る美しい歌声が、カオスの闇を貫き、いくつもの光のすじとなって地上に舞い降りる。
『グぉぉ…冷たい光…なんの感情も持たぬ光…
…わたしを引き裂こうというのかっ…! そうは…させぬ…グ…ガ…グ…ゴ…ゴ… …』
禍々しいカオスの声が、断末魔の叫び声へと変わる。
ラーの光の力が、カオスの闇を引き裂くのか、耳を塞ぎたくなるほどの悍ましい悲鳴が、ゆっくりと『最期の歌』の中に掻き消える。
「お母様っ!なんとかしてっ!このままじゃ…みんな光の中に溶けちゃうのよっ!ねぇっ!変身してよっ!みんなを助けてよっ!…セーラームーンッ!!」
泣き叫び、母へ掴みかかるセーラー・テラ。
ネオ・クィーン・セレニティは、頬にいくつもの涙をこぼし、震える声を必死に搾り出した。
「ごめんなさい…。スモールレディ…。私…変身できなかったの… 何度叫んでも…変身できなかったの…私にはもう…止められないのっ…」
泣き崩れるネオ・クィーン・セレニティを、しっかりと抱きしめるキング・エンディミオン。彼の瞳にも涙が溢れ、身体はぶるぶると震えている。
「…嘘でしょ…?お母様っ!ねぇっ!嘘でしょっ!?いやぁぁぁぁっ!」
漆黒の空を突き抜けるいくつもの光が、闇に包まれていた地上を照らす。
泣き叫ぶ彼女たちの眼下に広がったのは、無残に引き裂かれた大地、そこに倒れる数万の民たちの姿。
血だらけで倒れる者。五体を引き裂かれた者。そのカタチすら留めぬモノ。
闇の中ならば、見なくても済んだはずの悍ましい光景が、次々と瞳に映る。
それこそが…
光がその果てに見せる…『悲しみ』と『痛み』であるのか…
いやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!
「もういやっ!こんなの見たくないっ!照らさないでっ!やめてっ!ラーッ!!」
深い『悲しみ』と『痛み』に反比例する美しい歌声は、もはや『美しい』とさえ感じることなく、地上へ冷たい光を振り注ぐ。
『感情を持たぬ冷たい光』
カオスの言葉の意味。
彼女たちが理解するには、遅すぎたのだ。
ラーの冷たい光がゆっくりと世界を包む。
見上げる空に、闇のカオスに溶かされた仲間たちの輝きが、再び姿を見せたかと思うと、ゆっくりと光の中に溶ける。
「っ…みんなのスターシードが…光の中に溶けちゃう…いやぁぁぁっ…!」
『最期の歌』
すべてが…光のカオスの中に…消える。
その時…
… … …
「…暖かい…光…?」
ネオ・クィーン・セレニティが呟き見上げた東の空。
光のカオスが放つ、冷たい光の中に感じる、『暖かい光』
「…光が…光を貫く…?あれは…?」
…太陽…
光のカオスが歌う『最期の歌』を貫く、暖かい光=『太陽』
「エンディミオン見て!…太陽…!太陽が見えるっ!」
ネオ・クィーン・セレニティが見つめる東の空に昇る太陽の光が、光のカオスに包まれた空から瞳に差し込む。
光が、光を貫く神秘の光景。
… … …
訪れる静寂。
「『最期の歌』が…途切れた…?」
キング・エンディミオンが呟き、そして途切れた『最期の歌』。
直後、東の空を昇る太陽からゆっくりと響く、暖かい声。
『ネオ・クィーン・セレニティ…キング・エンディミオン…スモールレディ…
ありがとう… 私を守ってくれて…ラーと会わせてくれて…
そう…ガイアを残したこと…ここで私とガイアが出会ったこと…それが神々の誤算…
でも…だからこそ…救ってあげられる…』
「…ガイアの声と…ラーの声…?太陽から聞こえるっ…?!」
『太古の昔…神々によって引き離された…二人の私…
…光と闇のカオスの中で…
…再び…ひとつになるわ…』
暖かい声と共に、東の空へ昇る太陽。すべての光を引き裂く、暖かい光。
「…カオスが…太陽に引き裂かれる…っ!?
ラー?…いえ…ガイア…?
違う…どちらでもない…この力…
まさかっ…?!」
セーラー戦士…?!
光と闇のカオスの向こう、東の空に浮かぶ『太陽』から聞こえる、ラーにも、ガイアにも似た、美しい声。
今まさに消滅する光のカオスと闇のカオスが、その姿を、ゆっくり…ゆっくりと結ぶ。
… … …
輝く風に揺れる、金色の闘衣。長く美しい金色の髪が揺れるたびに、木漏れ日のような無数の光の粒が大地に降り注ぐ。
しなやかな手に携える、まばゆいばかりに輝く黄金の剣。
太陽を背に、穏やかに佇む一人の戦士。
…太陽の戦士…
「ラー…それにガイア…。君達は、二人で一人のセーラー戦士だったのか…?その姿、太陽の女神…『アテナ』…?」
…セーラー・アテナ…
その姿に息を呑むキング・エンディミオンが呟いた瞬間、セーラー・アテナの持つ黄金の剣が、光と闇のカオスを真っ二つに切り裂く。
ソード・オブ・プロミネンスッ!!
美しく高らかなスペルアウトと共に振り下ろされた黄金に輝く剣。
光と闇のカオスがバラバラに引き裂かれ、その隙間から差し込む太陽の光が、一気に地上へ降り注ぐ。
「スモールレディ…見て…っ!青空が広がるっ…。あれはっ…?!みんなのスターシードッ!!」
雲ひとつなく澄み渡る青空に、カオスに飲み込まれた星たちが輝く。
いくつもの星の輝きを瞳に映したネオ・クィーン・セレニティに、太陽の戦士が語りかける。
「さあ…この者たちを救うのはあなたよ。ネオ・クィーン・セレニティ…
いえ… セーラームーンッ!!」