美少女戦士セーラームーン☆太陽の戦士   作:Doc Kinoko

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【act.041】太陽の戦士

あなたは…誰…?

私は…あなた…

あなた…泣いてるの…?

あなた…笑ってるの…?

…いいえ…

…私は泣かない…

…私は笑わない…

…どうして…私はあなた…あなたは私なのに…

私は泣かないのに…私は笑わないのに

そう…私はあなた…

あなたは私…

…やっとひとつになれたのね…

…おかえりなさい…わたし…

 

… … …

 

『光の巫女=ラー』が歌う『最期の歌』

 

漆黒の闇に染まる空に響き渡る美しい歌声が、カオスの闇を貫き、いくつもの光のすじとなって地上に舞い降りる。

 

『グぉぉ…冷たい光…なんの感情も持たぬ光…

…わたしを引き裂こうというのかっ…! そうは…させぬ…グ…ガ…グ…ゴ…ゴ… …』

 

禍々しいカオスの声が、断末魔の叫び声へと変わる。

ラーの光の力が、カオスの闇を引き裂くのか、耳を塞ぎたくなるほどの悍ましい悲鳴が、ゆっくりと『最期の歌』の中に掻き消える。

 

「お母様っ!なんとかしてっ!このままじゃ…みんな光の中に溶けちゃうのよっ!ねぇっ!変身してよっ!みんなを助けてよっ!…セーラームーンッ!!」

 

泣き叫び、母へ掴みかかるセーラー・テラ。

ネオ・クィーン・セレニティは、頬にいくつもの涙をこぼし、震える声を必死に搾り出した。

 

「ごめんなさい…。スモールレディ…。私…変身できなかったの… 何度叫んでも…変身できなかったの…私にはもう…止められないのっ…」

 

泣き崩れるネオ・クィーン・セレニティを、しっかりと抱きしめるキング・エンディミオン。彼の瞳にも涙が溢れ、身体はぶるぶると震えている。

 

「…嘘でしょ…?お母様っ!ねぇっ!嘘でしょっ!?いやぁぁぁぁっ!」

 

漆黒の空を突き抜けるいくつもの光が、闇に包まれていた地上を照らす。

泣き叫ぶ彼女たちの眼下に広がったのは、無残に引き裂かれた大地、そこに倒れる数万の民たちの姿。

血だらけで倒れる者。五体を引き裂かれた者。そのカタチすら留めぬモノ。

 

闇の中ならば、見なくても済んだはずの悍ましい光景が、次々と瞳に映る。

 

それこそが…

 

光がその果てに見せる…『悲しみ』と『痛み』であるのか…

 

 

 

 

いやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!

 

 

 

 

「もういやっ!こんなの見たくないっ!照らさないでっ!やめてっ!ラーッ!!」

 

深い『悲しみ』と『痛み』に反比例する美しい歌声は、もはや『美しい』とさえ感じることなく、地上へ冷たい光を振り注ぐ。

 

 

『感情を持たぬ冷たい光』

 

 

カオスの言葉の意味。

彼女たちが理解するには、遅すぎたのだ。

 

ラーの冷たい光がゆっくりと世界を包む。

 

見上げる空に、闇のカオスに溶かされた仲間たちの輝きが、再び姿を見せたかと思うと、ゆっくりと光の中に溶ける。

 

「っ…みんなのスターシードが…光の中に溶けちゃう…いやぁぁぁっ…!」

 

 

『最期の歌』

 

 

すべてが…光のカオスの中に…消える。

 

 

その時…

 

… … …

 

「…暖かい…光…?」

 

ネオ・クィーン・セレニティが呟き見上げた東の空。

光のカオスが放つ、冷たい光の中に感じる、『暖かい光』

 

「…光が…光を貫く…?あれは…?」

 

 

…太陽…

 

 

光のカオスが歌う『最期の歌』を貫く、暖かい光=『太陽』

 

「エンディミオン見て!…太陽…!太陽が見えるっ!」

 

ネオ・クィーン・セレニティが見つめる東の空に昇る太陽の光が、光のカオスに包まれた空から瞳に差し込む。

 

光が、光を貫く神秘の光景。

 

… … …

 

訪れる静寂。

 

「『最期の歌』が…途切れた…?」

 

キング・エンディミオンが呟き、そして途切れた『最期の歌』。

 

直後、東の空を昇る太陽からゆっくりと響く、暖かい声。

 

 

『ネオ・クィーン・セレニティ…キング・エンディミオン…スモールレディ…

 

ありがとう… 私を守ってくれて…ラーと会わせてくれて…

 

そう…ガイアを残したこと…ここで私とガイアが出会ったこと…それが神々の誤算…

 

でも…だからこそ…救ってあげられる…』

 

 

「…ガイアの声と…ラーの声…?太陽から聞こえるっ…?!」

 

 

『太古の昔…神々によって引き離された…二人の私…

…光と闇のカオスの中で…

…再び…ひとつになるわ…』

 

暖かい声と共に、東の空へ昇る太陽。すべての光を引き裂く、暖かい光。

 

「…カオスが…太陽に引き裂かれる…っ!?

ラー?…いえ…ガイア…?

違う…どちらでもない…この力…

まさかっ…?!」

 

 

セーラー戦士…?!

 

 

光と闇のカオスの向こう、東の空に浮かぶ『太陽』から聞こえる、ラーにも、ガイアにも似た、美しい声。

 

今まさに消滅する光のカオスと闇のカオスが、その姿を、ゆっくり…ゆっくりと結ぶ。

 

… … …

 

輝く風に揺れる、金色の闘衣。長く美しい金色の髪が揺れるたびに、木漏れ日のような無数の光の粒が大地に降り注ぐ。

 

しなやかな手に携える、まばゆいばかりに輝く黄金の剣。

 

太陽を背に、穏やかに佇む一人の戦士。

 

…太陽の戦士…

 

「ラー…それにガイア…。君達は、二人で一人のセーラー戦士だったのか…?その姿、太陽の女神…『アテナ』…?」

 

 

…セーラー・アテナ…

 

 

その姿に息を呑むキング・エンディミオンが呟いた瞬間、セーラー・アテナの持つ黄金の剣が、光と闇のカオスを真っ二つに切り裂く。

 

 

ソード・オブ・プロミネンスッ!!

 

 

美しく高らかなスペルアウトと共に振り下ろされた黄金に輝く剣。

 

光と闇のカオスがバラバラに引き裂かれ、その隙間から差し込む太陽の光が、一気に地上へ降り注ぐ。

 

「スモールレディ…見て…っ!青空が広がるっ…。あれはっ…?!みんなのスターシードッ!!」

 

雲ひとつなく澄み渡る青空に、カオスに飲み込まれた星たちが輝く。

 

いくつもの星の輝きを瞳に映したネオ・クィーン・セレニティに、太陽の戦士が語りかける。

 

「さあ…この者たちを救うのはあなたよ。ネオ・クィーン・セレニティ…

いえ… セーラームーンッ!!」


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