美少女戦士セーラームーン☆太陽の戦士 作:Doc Kinoko
『…その忌ま忌ましい光… 城ごと飲み込んでくれるわっ…! 』
カオスから再び放たれた巨大な闇の輝きが光の歌を貫き、クリスタルパレスの前で佇み歌うラーを捉え、凄まじい速さで襲いかかる。
「ダメッ!逃げてっ…!ラーッ!」
セーラー・テラたちの絶叫する声が聞こえていないのか、ラーは穏やかな微笑みを湛えたまま、迫り来るカオスの闇に向かって、鮮やかな手捌きと共に金色の竪琴をひとつ掻き鳴らす。
その瞬間、彼女の身体が金色の光の中に透き通ったかと思うと、驚くことにカオスの闇が彼女の身体をすり抜け、クリスタルパレスに直撃した。
「…闇が…すり抜けた?…っ…!!クリスタルパレスがっ!?」
ラーの姿に驚愕するセーラー・テラたちの瞳に映った次の光景は、彼女の後ろにそびえるクリスタルパレスが、カオスの闇に包まれる姿であった。銀色のクリスタルパレスが、瞬く間に漆黒の闇に覆われ、大地にそびえる巨大な炭の塊となる。
エリオスの翼に抱かれ、クリスタルトーキョーの空を舞うセーラー・テラたちは、ただ呆然とその光景を見つめることしかできなかった。
「私たちの城が…なんてこと…っ!?あれは…ダイアナッ!?…ガイアッ!!」
今まさに、カオスの闇に飲み込まれようとする巨大なクリスタルパレスの中に揺れるふたつの影を瞳に映したネオ・クィーン・セレニティの叫び声。クリスタルパレスの最深部、時空の扉の番人ダイアナと、パレスに倒れたままのガイア。
「…そんなっ…ダイアナッ!ガイアッ!いやぁぁぁぁっ!!」
泣き叫び、両手に宿した凄まじい輝きをクリスタルパレスに向かって解き放つセーラー・テラを、カオスの闇の波動が、彼女が跨がるペガサスごと容赦なく弾き飛ばす。
「きゃぁぁぁっ!!」
その衝撃に、いくつもの奈落の闇が口を開ける大地へと、真っ逆さまに墜落するセーラー・テラと一角天馬=エリオス。苦痛に顔を歪めるペガサスの後ろ脚が必死に闇を蹴り上げ、セーラー・テラを抱く身体を引きずりながら、なんとか再び空を駆け上がる。
再びカオスの声が響く。
『やはりあの竪琴の音色…太古の神々の置き土産…この程度では消せぬと申すか…
しかしなんと…城の中にまだスターシードが残っていたか。これは珍しい…獣にしては、なんと強い輝き…ククク… 』
「ダイアナッ!」
『…ほう…ガイア…こんな所にいたとは。愚かな人間の器など捨てていれば、そなたの望む世界もたやすく手に入ったであろうに。
なにゆえ…その器にすがりついたのか。愚かな器に、輝きを持たぬスターシード。そなたは…ゴミ同然。
…せめてもの情け…我が闇のもとへ還るがよい… 』
「いやぁぁぁぁっ…!ダイアナッ!ガイアッ!」
セーラー・テラたちの叫び声も虚しく、漆黒のクリスタルパレスは、ダイアナとガイアを中に残したまま、ゆっくりとカオスの闇に飲み込まれた。
… … …
一角天馬=エリオスの翼に抱かれ、漆黒の空を舞うセーラー・テラ。
エリオスの祈りの力で、その身を漆黒の空へと預けるキング・エンディミオンとネオ・クィーン・セレニティ。
悲しみと絶望に奮える彼女のたちの瞳に映る、ひとすじの光。
穏やかな微笑みを浮かべ、金色の光の中に、その身体が透き通る『光の巫女=ラー』
彼女の美しい歌声だけが、カオスの闇に染まる漆黒の空に、無邪気なほど響き渡る。
光の粒のような竪琴の音色が、ひとつ…ふたつ鳴り響くと、ゆっくりとその音色が止んだ。
そして訪れる、恐ろしいほどの静寂。
「ラーの歌が…。終わった…?」
誰もがそう思った時、ラーの唇が再び動いた。それは、歌声ではなかった。
「セーラー・テラ、ネオ・クィーン・セレニティ、キング・エンディミオン。私はこれから… 『さいごの歌』を歌います…」
…『最後』の歌…?
「その歌が終わった時、カオスを含め、すべての闇は消滅し、この世界が光に包まれます。
…闇に閉ざされた世界に、光を取り戻す… それが私の使命。」
『すべての闇は消滅し、この世界が光に包まれます』
ラーの言葉の意味。
キング・エンディミオンが叫んだ。
「…最期…?『最期』の歌とは…そう言う意味なのかっ!?」
キング・エンディミオンに、ラーは穏やかに微笑む。
「光のない闇はなく…闇のない光はない。光の中で輝く光はなく…闇の中で輝く闇はない。これが私の使命。
キング・エンディミオン?泣いているの…?悲しいのね。ごめんなさい。私には、こんな時ですら、微笑んでいることしかできない。でも大丈夫。私の歌が終わった瞬間…
この世界から『悲しみ』も『痛み』もすべて消えるわ…」
…この世界から『悲しみ』も『痛み』もすべて消えるわ…
「…っ!?」
彼女の言葉の意味をやっと理解したセーラー・テラとネオ・クィーン・セレニティ。
「…それじゃあ…なんにも変わらないってこと…?ガイアがやろうとしたことと…なんにも変わらないってことっ!? みんなは…っ?私たちのスターシードはどうなるのっ?!」
セーラー・テラの瞳に、大粒の涙が溢れ、ネオ・クィーン・セレニティは、力なくその場にうずくまった。
「そう…。ガイア、いえ、もう一人の私が『闇のカオス』なら…
私は…『光のカオス』
太古の神々が残した最後の切り札…それが私…
たとえ星が消えたとしても、またどこかで生まれるかもしれない。だってここは…無限の可能性を秘めている宇宙だもの。
では…私はゆくわ…さよなら…」
さよなら
呟いたラーの身体から凄まじい光が放たれたかと思うと、遥か上空、カオスの闇の中心へと、その身体を一瞬にして掻き消した。
「待ってっ…!ラーッ!いやぁぁぁぁっ!!」
セーラー・テラの悲鳴と共に、その身体をカオスの闇の中に消した『光の巫女=ラー』
見上げる漆黒の空に、ひとすじの光が輝くと、美しい歌声が響き渡る。
「最期の歌… もう…止められないのかっ…!くそっ…!」
キング・エンディミオンの瞳が絶望の闇に曇る…。