美少女戦士セーラームーン☆太陽の戦士 作:Doc Kinoko
銀色に輝くドレスの裾を、クリスタルの床にふんわりと降ろし、静かに玉座に腰掛けるネオ・クィーン・セレニティの姿は、紛れも無く月の女神であった。
ひとときの静寂の後、ネオ・クィーン・セレニティは、愛しい娘に優しく声をかける。
「お帰りなさいスモールレディ。さあ、もっと近くにいらっしゃい。」
スモールレディは笑顔で駆け寄ると、無邪気に腰を降ろし、大好きな母が紡ぐ次の言葉を楽しみにした。
「明日は待ちに待ったセーラーカルテットたちの拝命式。とっても楽しみね、スモールレディ。」
優しい母の笑顔に、スモールレディはきらきらした瞳で頷き応える。
「そうね。お母様。セレスたちもこれでやっと、正式な戦士の称号を与えられるのね。私、本当に楽しみにしているの。」
喜び溢れる娘の顔を見ながら、ネオ・クィーン・セレニティは大きく息をして、ゆっくりと語りかける。
「ええ…本当に。これは、全部あなたのチカラのおかげなのよ、スモールレディ。」
思いがけない母の言葉に瞬きをした娘の髪を、女王は右手で撫でながら、左手に持つ細長い杖を天に掲げ、その先を見つめた。
「エターナルティアル…」
母が掲げた杖に向かって、スモールレディがその名を囁く。
身の丈ほどある杖の先には、ガラス細工の地球儀を思わせる球を飾り、さらにその頂上には、まばゆい輝きを放つ銀色のクリスタルが飾られている。
『幻の銀水晶』
銀河に散らばる数々のセーラークリスタル=スターシードの中でも、伝説にして最強。その輝きは、遥か宇宙の深淵の闇をも照らす。永遠の再生能力を秘めるそのスターシードは、銀河に生きる全ての星たちの憧れ。その輝きを纏うことを許された銀色の女王、ネオ・クィーン・セレニティ。
「このエターナルティアルはね、本来ここにあるべきものではないわ。」
母の唐突な告白に驚いたスモールレディは、その言葉の真意がわからず戸惑った。しかし、母が次に語る言葉が、とても大切な話であろうことだけは確信できた。
「20世紀でのセーラーギャラクシアとの闘いへあなたが旅立ってしばらくしてから、30世紀の私の銀水晶が突然輝きを増したの。」
銀水晶を見つめながら語る母の瞳は、いつもと少し違うように見える。
「そして、銀水晶の激しい輝きと共に、私のムーンロッドが、このエターナルティアルに変化したのよ。」
そこまで言って、銀水晶から視線を落としたネオ・クィーン・セレニティは、優しい眼差しでスモールレディを見つめた。
母の話に戸惑うスモールレディ。しかしその瞳には偉大な母の姿を一層強く焼き付けていた。
「私にはすぐにわかったわ、20世紀であなたのチカラが大きく弾けたこと。あなたのチカラが、過去の私と、未来の歴史を大きく変えたこと。本来ならば、生まれるはずのないエターナルティアル。そして、こんなに早く目覚めるはずのなかったセレスたちのチカラ。マーキュリーたちのチカラだってそうよ。」
信じられなかった。スモールレディは瞳を見開き、母が紡ぐ言葉の数々に息を飲んだ。
「全部、あなたのチカラのおかげね…」
そう言ってネオ・クィーン・セレニティが、スモールレディの胸のクリスタルにそっと触れた瞬間、ピンクムーンクリスタルから桃色に輝く光の柱が放たれ、クリスタルパレスの天井を突き抜けた。
「っ…?!お母様っ…!なにこれっ?…私の光…?」
「そうよ、これがあなたのチカラ。私の銀水晶とこんなにも強く呼び合っているわ。あなたにはわかるでしょう、スモールレディ?この光が、どれほど強いチカラなのか」
自らの強大なチカラに驚愕したスモールレディは、自身から放たれる光の柱を、息もせず呆然と見上げることしかできなかった。
桃色に輝く光の柱は、パレスの天井を突き抜け軽々と天空を昇り、遠い銀河を超え、遥か宇宙の果てまでをも貫いた。
「そんな…。だってお母様…この光…まるで…」
スモールレディは気付いたのだろうか。自身のピンクムーンクリスタルから放たれる巨大な光のチカラが、母の持つ幻の銀水晶のチカラに匹敵することを。そして、そのチカラすら凌駕するかもしれないことを。
「次のクィーンはあなたよ、スモールレディ。その光が、銀河を照らす新たな希望になるの。明日の拝命式には、セーラーカルテットたちと共に、あなたにも新たな戦士の名を与えます。」
… … …
その言葉を聞いた瞬間、スモールレディから放たれる光の柱が大きく歪み、粉々のガラス片のように散った。
訪れる短く長い静寂。
「私の…新しい…戦士の名前…?」
激しく動揺し、瞬きを繰り返すスモールレディは、そう答えるのが精一杯であった。
「セーラー・テラ」
スモールレディの後ろから突然響いた、低く心地よい声。
「…お父様っ…?」
その声に振り返って、父と呼んだスモールレディ。淡いラベンダーブルーのマントに身を包み、白く輝くタキシードを纏った紳士。その瞳は遥か地平線を映す大地の優しさに溢れ、高貴な物腰からは、とてつもない強さを感じる。
彼こそが、ネオ・クィーン・セレニティの夫。スモールレディの父にして、偉大なる地球の王『キング・エンディミオン』
「セーラー・テラ」
父はスモールレディを確かにそう呼んだ。