美少女戦士セーラームーン☆太陽の戦士   作:Doc Kinoko

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【act.004】戦士の名前

銀色に輝くドレスの裾を、クリスタルの床にふんわりと降ろし、静かに玉座に腰掛けるネオ・クィーン・セレニティの姿は、紛れも無く月の女神であった。

ひとときの静寂の後、ネオ・クィーン・セレニティは、愛しい娘に優しく声をかける。

 

「お帰りなさいスモールレディ。さあ、もっと近くにいらっしゃい。」

 

スモールレディは笑顔で駆け寄ると、無邪気に腰を降ろし、大好きな母が紡ぐ次の言葉を楽しみにした。

 

「明日は待ちに待ったセーラーカルテットたちの拝命式。とっても楽しみね、スモールレディ。」

 

優しい母の笑顔に、スモールレディはきらきらした瞳で頷き応える。

 

「そうね。お母様。セレスたちもこれでやっと、正式な戦士の称号を与えられるのね。私、本当に楽しみにしているの。」

 

喜び溢れる娘の顔を見ながら、ネオ・クィーン・セレニティは大きく息をして、ゆっくりと語りかける。

 

「ええ…本当に。これは、全部あなたのチカラのおかげなのよ、スモールレディ。」

 

思いがけない母の言葉に瞬きをした娘の髪を、女王は右手で撫でながら、左手に持つ細長い杖を天に掲げ、その先を見つめた。

 

「エターナルティアル…」

 

母が掲げた杖に向かって、スモールレディがその名を囁く。

 

身の丈ほどある杖の先には、ガラス細工の地球儀を思わせる球を飾り、さらにその頂上には、まばゆい輝きを放つ銀色のクリスタルが飾られている。

 

『幻の銀水晶』

 

銀河に散らばる数々のセーラークリスタル=スターシードの中でも、伝説にして最強。その輝きは、遥か宇宙の深淵の闇をも照らす。永遠の再生能力を秘めるそのスターシードは、銀河に生きる全ての星たちの憧れ。その輝きを纏うことを許された銀色の女王、ネオ・クィーン・セレニティ。

 

「このエターナルティアルはね、本来ここにあるべきものではないわ。」

 

母の唐突な告白に驚いたスモールレディは、その言葉の真意がわからず戸惑った。しかし、母が次に語る言葉が、とても大切な話であろうことだけは確信できた。

 

「20世紀でのセーラーギャラクシアとの闘いへあなたが旅立ってしばらくしてから、30世紀の私の銀水晶が突然輝きを増したの。」

 

銀水晶を見つめながら語る母の瞳は、いつもと少し違うように見える。

 

「そして、銀水晶の激しい輝きと共に、私のムーンロッドが、このエターナルティアルに変化したのよ。」

 

そこまで言って、銀水晶から視線を落としたネオ・クィーン・セレニティは、優しい眼差しでスモールレディを見つめた。

 

母の話に戸惑うスモールレディ。しかしその瞳には偉大な母の姿を一層強く焼き付けていた。

 

「私にはすぐにわかったわ、20世紀であなたのチカラが大きく弾けたこと。あなたのチカラが、過去の私と、未来の歴史を大きく変えたこと。本来ならば、生まれるはずのないエターナルティアル。そして、こんなに早く目覚めるはずのなかったセレスたちのチカラ。マーキュリーたちのチカラだってそうよ。」

 

信じられなかった。スモールレディは瞳を見開き、母が紡ぐ言葉の数々に息を飲んだ。

 

「全部、あなたのチカラのおかげね…」

 

そう言ってネオ・クィーン・セレニティが、スモールレディの胸のクリスタルにそっと触れた瞬間、ピンクムーンクリスタルから桃色に輝く光の柱が放たれ、クリスタルパレスの天井を突き抜けた。

 

「っ…?!お母様っ…!なにこれっ?…私の光…?」

 

「そうよ、これがあなたのチカラ。私の銀水晶とこんなにも強く呼び合っているわ。あなたにはわかるでしょう、スモールレディ?この光が、どれほど強いチカラなのか」

 

自らの強大なチカラに驚愕したスモールレディは、自身から放たれる光の柱を、息もせず呆然と見上げることしかできなかった。

桃色に輝く光の柱は、パレスの天井を突き抜け軽々と天空を昇り、遠い銀河を超え、遥か宇宙の果てまでをも貫いた。

 

「そんな…。だってお母様…この光…まるで…」

 

スモールレディは気付いたのだろうか。自身のピンクムーンクリスタルから放たれる巨大な光のチカラが、母の持つ幻の銀水晶のチカラに匹敵することを。そして、そのチカラすら凌駕するかもしれないことを。

 

「次のクィーンはあなたよ、スモールレディ。その光が、銀河を照らす新たな希望になるの。明日の拝命式には、セーラーカルテットたちと共に、あなたにも新たな戦士の名を与えます。」

 

… … …

 

その言葉を聞いた瞬間、スモールレディから放たれる光の柱が大きく歪み、粉々のガラス片のように散った。

 

訪れる短く長い静寂。

 

「私の…新しい…戦士の名前…?」

 

激しく動揺し、瞬きを繰り返すスモールレディは、そう答えるのが精一杯であった。

 

「セーラー・テラ」

 

スモールレディの後ろから突然響いた、低く心地よい声。

 

「…お父様っ…?」

 

その声に振り返って、父と呼んだスモールレディ。淡いラベンダーブルーのマントに身を包み、白く輝くタキシードを纏った紳士。その瞳は遥か地平線を映す大地の優しさに溢れ、高貴な物腰からは、とてつもない強さを感じる。

 

彼こそが、ネオ・クィーン・セレニティの夫。スモールレディの父にして、偉大なる地球の王『キング・エンディミオン』

 

「セーラー・テラ」

 

父はスモールレディを確かにそう呼んだ。


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