美少女戦士セーラームーン☆太陽の戦士 作:Doc Kinoko
『…あなたまさか…スターシードを取り込む度に…その身に傷を増やすの? それこそ…いつかあなたは滅びることになるわ… 』
セーラーサターンの最後の言葉が、ガイアの胸の中で何度もリフレインする。今や全身に纏った無数の傷。波のように打ち寄せる激しい痛みに耐えるガイア。
「…くっ…。そうよ。この痛みこそ、銀河の痛み。光溢れる場所に渦巻く悲しみ…。私が、すべてを受け止める。もう誰も、悲しくなんかさせない。まだよ。まだ終わってない…。せめて、私の故郷…太陽系の悲しみだけでも…。
それまでどうか持ちこたえて頂戴…私の身体よっ…!」
全身を襲う激痛を振り払い、太陽系の中心を目指して再び前進するガイア。
「…不思議…。私の血…。こんなにも黒かった?そうね。『血は赤い』。それすらも、光が見せる幻だったと言うこと…?母さん。」
外部太陽系惑星の輝きを失った闇の中、ガイアから流れる血の色が、漆黒に染まる。
「次は木星…火星…。そう。水星も…金星も…?地球にあるのね…。地球…なんて眩しいのかしら…。4つの惑星の輝きを失いながらも、その輝きは、いっそう強い。一体あそこは…どれほどの光が溢れていると言うの?
見ているだけで、こんなにも悲しい。こんなにも涙が溢れそうになるなんて…。光など…もう見たくもないのに…。なぜ光はそんなにも、無邪気な顔して笑っていられるの?
光に照らされるたびに、こんなにも心が痛いのに…。」
遥か向こうに輝く、ガイアの故郷=地球。自分を捨てた故郷。光溢れる惑星。
銀河の『痛み』と『悲しみ』を消すためにここにいる、と言うガイア。
光が見せる『幸せ』と『喜び』と言う名の幻を消す、と言うガイア。
星を飲み込む度に、己の身体に傷を増やし、地球へと向かう。
ガイアは、地球に溢れるすべての光を飲み込むと言うのか。
ガイアが望む、光のない世界。
光の中で輝く光はない。
闇の中で輝く闇はない。
すべての光を失った太陽系は、光でも闇でもなく、混沌=カオスとなるだろう。傷だらけの身体を引きずりながら、ガイアは地球へと向かう。
瞳に映る、遥か故郷の輝きがどんどん大きくなる。
「やっとたどり着いた…。私の故郷。ここが…地球…。」
そう言ってガイアは、光溢れる、太陽系第3惑星『地球』へと降り立った。
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太陽系第3惑星『地球』
その星の中心。『クリスタル・トーキョー』の『クリスタルパレス』の長い廊下を走り抜ける、黒いエナメルに輝く戦士。質素に束ねた後ろ髪が、流星のように揺れる。
セーラー・スター・ファイターは、まもなく地球へ到着するプリンセス・火球を迎え、共にガイアを倒し、ガイアに飲み込まれたセーラー・スター・メイカーを救出するべく、クリスタルパレスの外へと向かう。
パレスの出口を抜けると、広大な『クリスタルガーデン』。
辺りにはもう夜の帳が降り、クリスタルガーデンの四方に配置された太陽系4戦士たちの、4色の光の柱が、クリスタルパレスに巨大なシールドを展開している。
クリスタルトーキョーに生きるすべての民たちがシェルターに避難した今、そこには一切の音などなく、不気味なほどの静寂が横たわっている。
その光景はまるで、静かな闇に浮かぶ、ロウソクの明かりのようであった。
巨大な光の壁を目の前にしたセーラー・スター・ファイターが、ぼんやりと呟く。
「…これが…あの子たちのシールド…。なんて強い輝きかしら。私達も、負けていられないわね。」
思わずこぼれた笑みは、凜とした輝きに満ちていた。
セーラー・スター・ファイターは、目の前に広がる巨大な光の壁にそっと触れ、大きく深呼吸する。
「ヒーラー…。メイカー…。プリンセス…。絶対に…みんなで帰りましょうっ!
セーラー・スター・ファイター
今…戦いの… ステージ・オンッ!」
高らかに叫び、パレスを包む巨大なシールドを光の速さで飛び出した黒いエナメルの輝き。
クリスタルトーキョーの空を駆ける一筋の流星の輝きに、いち早く気付いたのは、パレスの出口から一番近くの南端、ミューズ・オブ・マーズ。
「あれはっ!?セーラー・スター・ファイターッ!何をしてるのっ!?出てはダメッ!」
マーズの叫び声だけが、クリスタルガーデンに響く。
「…セーラー・スター・ファイター。あんた、なかなかやるじゃないか。絶対に…また会おう!」
その輝きに気付いたミューズ・オブ・ジュピターは、空へ駆け上がる一筋の流星を、勇ましい笑顔で見送った。
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「こちらファイター!プリンセスッ!ヒーラーッ!聞こえるっ?!クリスタルパレスの外へ出たわっ!
もし、ガイアが地球へ来るのなら、あなたたちより先に着くハズよっ!私が奴を迎え撃つ!絶対にメイカーを救ってみせるわっ!戦って、勝って、絶対にみんなで帰りましょう!」
夜の闇に包まれるクリスタルトーキョーの上空。セーラー・スター・ファイターは、握り締めた通信機に向かって叫ぶと、ヒーラーがそれに答える。
『こちらヒーラーッ!わかったわ!でも気をつけて、ファイター!私たちも、大急ぎでそっちに向かってる!それまで無茶してはだめよ!』
通信機から響くヒーラーの声に強く頷き、セーラー・スター・ファイターは顔を上げた。
「ガイアッ!いるなら返事をしなさいっ!あなたが地球に向かっていることは、わかってるのよっ!!」
通信機を切った静寂の空に、セーラー・スター・ファイターの叫び声が響く。右、左、頭上、そして足元。四方を見渡すセーラー・スター・ファイターは、握り締める拳に、無数の輝きを宿している。
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ファイターの眼下に広がるクリスタルパレス。
巨大な光の壁の向こうにうっすらと見える王の間の窓からその姿を見守るネオ・クィーン・セレニティの瞳に、ファイターの背後に揺れる一筋の影が映りこんだ。
「…っ!? ファイターッ!後ろっ!!」
ファイターの背中に迫る危険を警告したネオ・クィーン・セレニティの叫び声など届くはずもなく、ファイターの背後に忍び寄る影は、音もなく彼女に襲いかかる。