美少女戦士セーラームーン☆太陽の戦士 作:Doc Kinoko
ネオ・クィーン・セレニティとキング・エンディミオンを守護する太陽系4戦士=ミューズ・オブ・マーキュリー、マーズ、ジュピター、ヴィーナスの4人は、クリスタルパレスを囲む広大な庭園『クリスタルガーデン』へと降り立つ。
迫り来るガイアの闇の脅威から、地球を守護するべく、これからクリスタルパレスに巨大なシールドを張るのだ。
美しいクリスタルトーキョーの空が、いつもより暗く見えるのは、気のせいではないであろう。今まさに西の空に沈み切ろうとする太陽が、空をわずかに茜色に染めるものの、その色は迫り来る闇に押し潰されるように、ゆっくりと輝きを失ってゆく。太陽系のいくつもの星の輝きを失ったクリスタルトーキョーの空に、重く低い闇が横たわろうとしていた。
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「こちらマーキュリー。セーラーカルテットたちによる、一般市民のシェルターへの避難誘導が完了したそうよ。彼女たちがパレスに戻るのは2分後。その後チカラを解放するわ。」
クリスタルガーデンの西端を守護するのは、ミューズ・オブ・マーキュリー。その腕に装着する通信機に向かって声を上げた。
「こちらマーズ。クリスタルガーデン南端に待機。いつでも大丈夫よ。」
「こちら北端ヴィーナス。ジュピター、準備はいい?ジュピター?」
…
「こちら東端ジュピター!たった今到着したわ!いつでも大丈夫だよ!」
こうしてクリスタルガーデンの四方に配置された太陽系4戦士たち。
「時間よ!シールド展開!」
…マーキュリー・クリスタル・パワーッ!
広大なクリスタルガーデンの西端、水色に輝く光の柱が天を貫く。それが始まりの合図。
次々に響く女神たちの高らかなスペルアウトと共に、空に立ち上がる光の柱。
南端のマーズ・クリスタル・パワー。
北端のヴィーナス・クリスタル・パワー。
東端のジュピター・クリスタル・パワー。
色鮮やかな4色の光が、ゆっくりとクリスタルパレスを包む。
…
「見て、エンディミオン。たった今シールドが張られたわ。」
クリスタルパレスの玉座の後ろ。銀色の縁取りの大きなクリスタルの窓から、4色の輝きを瞳に映したネオ・クィーン・セレニティ。
クィーンに寄り添い、共に外を見つめるキング・エンディミオン。
スモールレディとセーラーカルテットたちは、それぞれ思い思いの場所に腰を降ろし、唇は心なしか、固く結ばれている。
そして、王の間の片隅。居場所を失った戦士、セーラー・スター・ファイターは、冷たい壁にもたれ、ただ息をしながら、右手に星型の通信機を遊ばせる。
重苦しく、長い静寂が王の間を包む。
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『…イター?…ファイターッ!聞こえるっ?! 』
王の間の静寂を突然破った声に、誰もが目を見開き、セーラー・スター・ファイターを見つめた。
「ヒーラーッ!?ヒーラーなのねっ!?今どこにいるのっ!?プリンセスは無事なのっ!?」
突然鳴り出した通信機に向かって、声を荒げるセーラー・スター・ファイター。
先ほどまでのチカラない姿勢ではなく、背すじを伸ばし、通信機を両手でしっかりと支え、必死に叫んでいる。
『プリンセスは無事よっ!一緒にいる。私達は先ほど太陽系に入ったわ!あなたこそ、今どこにいるのっ?!』
ファイターの通信機を通して、王の間に響くセーラー・スター・ヒーラーの声。その場にいる誰もが、息を呑んで彼女たちの会話に耳を傾ける。
「私は地球にいるわ!セーラームーンたちと一緒… …」
ファイターのその声を、駆け寄ったネオ・クィーン・セレニティの声が遮る。
「プリンセス・火球ッ!聞こえるっ?!私よっ!ネオ・クィーン・セレニティ…いえ、セーラームーンよっ!ガイアは間違いなくこちらに向かってる!ファイターは、私達が必ず守るから、あなたたちはすぐに太陽系を離れてっ!危険よっ!」
ファイターの隣にしゃがみ込んで、通信機に向かって叫ぶネオ・クィーン・セレニティ。
一瞬の沈黙の後、星型の通信機から、懐かしく美しい声が響いた。
…
「…セーラームーン。本当に久しぶりね。私よ、プリンセス・火球よ。ありがとう。ファイターを守ってくれて。大丈夫。私達も戦う。すぐそちらに向かうわ!メイカーを救わなければ…。
それに、聞いて!ガイアは…地球人よっ!」
…ガイアは地球人…
プリンセス・火球の語る事実に、王の間がざわめいた。
「本当よセーラームーン!私達は、ギャラクシーコルドロンの番人、ガーディアン・コスモスに会ってきたのよ!ガイアは地球人。人間よっ!でも、太陽系だけじゃない、銀河中のスターシードを奪うことが奴の目的!これは太陽系だけの戦いじゃないの!すぐにそちらへ向かうわっ!
ファイター、聞こえるでしょ?よく無事でいてくれました。後で必ず会いましょうッ!」
「待って!プリンセス・火球!来てはダメッ…」
叫んだネオ・クィーン・セレニティの唇を、セーラー・スター・ファイターの指先が すっ と塞ぐ。
「ファイター…?」
クィーンが驚き見つめるセーラー・スター・ファイターの瞳に、鋭い戦士の輝きが甦る。
「行くわ。セーラームーン。これ、いつかプルートに返しておいて。」
ネオ・クィーン・セレニティの手をそっと握り、彼女の手に預けた『時空の鍵』
見つめ合うネオ・クィーン・セレニティの瞳に、ゆっくりひとつ、大きな瞬きをして続ける。
「これが私の使命なの。プリンセスと共にガイアを倒し、メイカーを救う。ありがとう、セーラームーン。またね。」
そう言って、すっ と立ち上がり、黒いエナメルに輝く闘衣をひるがえすと、セーラー・スター・ファイターは、クリスタルパレスの王の間を後にした。
「ファイターダメッ!外へ出ては危険よっ…!」
ファイターを制止しようと駆け寄るネオ・クィーン・セレニティの腕を、強く掴んだのは、キング・エンディミオン。
「セレニティ!無駄だ…。」
ネオ・クィーン・セレニティを見つめ、ゆっくりと首を横に振ったキング・エンディミオン。
「…エンディミオン…。そう…。わかってるわ。わかってるけど…。私だって、マーキュリーたちになら、こんなこと言わない。私…すごく辛いわ…。同じセーラー戦士なのに…。黙って見守るしかできないなんて。」
ネオ・クィーン・セレニティは、結んだ唇を震わせながら、黒いエナメルに輝く後ろ姿を、静かに見送った。
そして、戦士の輝きを取り戻したセーラー・スター・ファイターは、守るべき君主の元へと、勇ましい足取りで、クリスタルパレスを後にする。