美少女戦士セーラームーン☆太陽の戦士   作:Doc Kinoko

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【act.030】痛みの記憶

ギャラクシーコルドロンを後にした、プリンセス・火球とセーラー・スター・ヒーラーは、先に太陽系へ向かったセーラー・スター・ファイターと合流するべく、広い銀河を飛び続けていた。

 

「プリンセス。この小惑星群を抜ければ、間もなく太陽系へ入ります。ファイターが太陽系に無事に到着しているのなら、じき通信機も届くはず。後もう少し、頑張りましょう。」

 

プリンセス・火球を気遣い、彼女の手を握り、そう語りかけたのはセーラー・スター・ヒーラー。いくつもの小惑星の群れをくぐり抜け、飛び交う隕石を砕き前進する2つの輝き。遥か向こうに広がる太陽系を瞳に捉え、その異変に先に気付いたのはプリンセス・火球。

 

「ヒーラー待って!」

 

プリンセス・火球の声に、驚き立ち止まるセーラー・スター・ヒーラー。

 

「どうかしましたか?プリンセス。」

 

プリンセス・火球の瞳が曇る。

 

「…おかしいわ…。ここまで来れば…冥王星が見えるハズなのに…。」

 

ガイアが飲み込んだプルートたちのスターシード。消えた外部太陽系の惑星たち。地球へ向かったセーラー・スター・ファイターを追って、ガイアが太陽系に侵入していることなど知るはずもないプリンセス・火球の言葉に、セーラー・スター・ヒーラーが独り言のように答える。

 

「確かに。…道を間違えたのかしら…?」

 

「いいえ。そんなハズはないわヒーラー。微かだけれど、遥か向こうにセーラームーンの銀水晶の輝きを感じるもの。間違いなく、ここは太陽系よ。」

 

いくつもの惑星の輝きが消えた太陽系は、不気味な闇に包まれ、遥か向こうに見える微かな地球の輝きは、闇に佇む孤独な迷い子のように見える。

 

「まるで…冥王星が…消えた…? …っ?!プリンセスまさかっ?!」

 

ヒーラーの言葉に、目を見開きハッとしたプリンセス・火球。お互いの瞳に強く頷く彼女たちに、これ以上の会話は必要ない。

 

「急ぎましょう!ヒーラーッ!」

 

 

 

---

 

「何をしてるんだい?セーラー・スター・ファイター?」

 

クリスタルパレスの、広く長い廊下の片隅、瞳を絶望に曇らせ、床に座り込むセーラー・スター・ファイターに声をかけたのは、緑色の闘衣に身を包む大柄なセーラー戦士。

 

太陽系のセーラー戦士が王の間の方から歩いて来たと言うことは、今後の作戦が決まったのか。

 

「あぁ、セーラージュピター…じゃなかった…ええと…ミューズ・オブ…」

 

「ふふっ。いいよ、『セーラージュピター』で。」

 

栗色の美しい髪を、頭の上でひとつに束ね、その髪にオークの葉を飾るミューズ・オブ・ジュピター。強く優しい女神の微笑みが、悲しみに曇るセーラー・スター・ファイターに、少しの笑顔を甦らせた。

 

「これ、通信機なの。ここへ来てからずっと、ヒーラーに呼びかけているのだけど、やっぱり届かなくて…。ヒーラーは無事かしら…。」

 

そう言って彼女がジュピターに見せたのは、キラキラ輝く星型の宝石箱のような機械。

 

「そう。とってもキレイね、それ。…プルートが消えて、ウラヌス、ネプチューン、そしてさっきサターンもやられた。…間違いなく、ガイアは地球を目指してる。ヒーラーがガイアとバッタリ、だなんて、絶対にありえない。きっと彼女は無事さ。信じて待つんだ。ね。」

 

そう言って、両手でファイターの肩をぽん と叩いたジュピターは、ゆっくりと微笑んだ。

 

「ありがとう、セーラージュピター。あなたたちは、これからどうするの?」

 

肩に置かれたジュピターの手を握り、瞬きと共にため息をついたファイターの言葉に、ジュピターが答える。

 

「今から15分後に、マーズたちと4人で、クリスタルパレスの外から、ここへシールドを張る。セーラーカルテットたちは一般市民をシェルターまで避難させ、以降クィーンとキングの側で待機。じゃ、私は行くよ。」

 

凜とした瞳の輝きと共に、すっ と身体を起こし、緑色の闘衣をひるがえしたジュピター。

 

「待って。私も手伝うわ!」

 

ファイターは、パレスの外へ向かって歩き出したジュピターを呼び止めた。

 

瞳に一抹の影を落とすセーラー・スター・ファイターに見つめられたジュピターは、大きく息をすると、ゆっくりと口を開く。

 

「…あんたには、あんたの使命があるだろ?自分の護るべき大切な人を信じて待つんだ。私だったらそうするね。大丈夫だよ、私たちは負けない。

そうだ、クィーンのそばにいてもらえないかな?王の間にいるはずだからさ。こんなところに独りでいるのはよくない。どんどん悪いことを考えちゃうからね。じゃあ、行ってくるよ。またね、ファイター。」

 

ジュピターはそう言って、クリスタルパレスの外へと、その場を後にした。

 

セーラー・スター・ファイターは、ジュピターのその言葉に、ただ瞬きを繰り返すことでしか答えることができなかった。その言葉が、ジュピターなりの気遣いであろうことが手に取るようにわかったからだ。

外星系の戦士であり、いわば部外者である自分。ここに居場所などないのだ。黙って大人しくしているべきであることはわかっている。最大限の気遣いを込めたジュピターの言葉すら、セーラー・スター・ファイターの心に影を落とす。

 

不安に曇る瞳を何度も瞬かせ、ジュピターを見送ったセーラー・スター・ファイターは、力なくその場から立ち上がると、重い静寂の中に独り佇み、クリスタルパレスの壁にもたれかかった。

 

「また…生き残ってしまった…」

 

セーラー・スター・ファイターが、ぼそりと呟く。

 

1000年前と同じ。銀河に散らばる全てのスターシードが、セーラーギャラクシアに奪われた『セーラーウォーズ』

 

あの時彼女は、数え切れないほどの犠牲、数え切れないほどの悲しみを越えて生き残った、キンモクスターの数少ないセーラー戦士であった。

 

孤独と絶望の淵に立たされ、迫り来るセーラーギャラクシアの恐怖に、ただ逃げ続けることしかできなかった。

 

母星を捨て、星に生きる民たちを見捨てた後悔と悲しみに、心をバラバラに壊されながら奪われた彼女のスターシード。また、あの時の痛みが甦る。

 

「…どうしてっ?なぜまた戦いが起こるのっ?!…っ…」

 

独り虚しく泣き叫ぶ彼女の拳が、クリスタルパレスの壁を叩いた。


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