美少女戦士セーラームーン☆太陽の戦士   作:Doc Kinoko

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【act.029】訪れる滅びの瞬間

ガイアの左肩を深くえぐる、セーラーサターンのサイレンス・グレイヴ。痛みに顔を歪め、悲鳴をあげるガイアの声だけが、太陽系に響く。

 

… … …

 

「…美しいわ。 滅びゆく刹那の、その悶え…」

 

セーラーサターンが、初めてしっかりと口を開き呟いた。ガイアの肩から、滝のように流れる大量の血液。激痛に歪むガイアの顔。言葉にならない彼女の悲鳴を、『美しい』と呟いたセーラーサターン。

 

「…くっ…なんて強い力なのっ…。なぜ?なぜ光の者は戦いを望むの…セーラーサターン…?!」

 

ガイアはセーラーサターンに問い掛けた。

 

… … …

 

しばしの沈黙の後、セーラーサターンが、再び重い口を開いた。

 

「…目覚めた以上… 私はこの鎌を振り下ろす。これは…戦いではない…消去…。あなたが何者であろうと…私には関係ない。滅びるのは肉体。あなたのスターシードは消えない。滅びを恐れないで。

また… 生まれて来ればいいわ…。」

 

滅びの戦士=セーラーサターンの別名、それは、始まりのために、全てを終わらせる『誕生の戦士』

いつだって、『終わり』と共に、新しい『始まり』があるのだ。

 

「…いやよ… 生まれ変わるのは、もうたくさん。…また…一人ぼっちになるのは…もう嫌っ!」

 

ガイアが初めて感情をあらわにした。『痛み』と『悲しみ』の世界に何度も生命を産み落とされ、何度も傷ついてきた。故郷に捨てられ、カオスに拾われるまで、ずっと一人ぼっちだったのだ。

 

「…いやぁぁっ!助けてっ!…助けて母さんっ!!」

 

悲鳴をあげるガイアは、自身の肩に食い込むセーラーサターンのサイレンス・グレイヴを振り払おうと、必死になってそれを掴んだ。

 

「無駄よ。間もなくあなたの身体は、滅びる。でもそれは、始まりの姿に還るだけ…。」

 

… … …っ?!

 

セーラーサターンは、今まさにスターシードへ還ろうと絶叫するガイアの中に、いくつもの星の輝きが眠っていることに気づき、手を止めた。

 

「あなた… スターシードを…いくつ持っているの?4つ…いえ…違う…7つ…?!」

 

スターシードを7つ持つ者など、銀河に存在するはずがない。滅びの戦士の心が初めて揺れた。

 

「…助けて… 母さんっ…!」

 

ガイアが叫んだ瞬間、彼女の胸から漆黒に輝くスターシードがひとつ飛び出すと、セーラーサターンに襲い掛かる。

 

「…っ?!」

 

飛び出したスターシードの放つ不気味な漆黒の輝きが、あっという間にセーラーサターンの身体を包み、思わずガイアの肩から離したサイレンス・グレイヴが、虚しく空を切る。

 

「そうよ…セーラーサターン。私はスターシードを7つ持っている。キンモク星系の名もなき星のスターシード。セーラー・スター・メイカー、セーラープルート、ウラヌス、ネプチューン。そして…私自身のスターシード。

今あなたに飛び掛かった最後のスターシードは…母さんのスターシード…カオスシードよ。母さんはいつだって、私に力をくれる。私を…一人ぼっちにはさせないと。」

 

セーラーサターンは、自身に襲い掛かかる闇の輝きを必死に振り払おうと、サイレンス・グレイヴを激しく振りかざす。

 

「そんなバカなっ!だからっ?!だから私が目覚めたと言うのっ!?プルート!ウラヌス!ネプチューン!返事をして頂戴っ!!」

 

襲い掛かるカオスシードの闇の輝きを、セーラーサターンは知っている。1000年前、彼女のスターシードを奪った闇の輝き。忘れる筈はない。

 

そして、ガイアの身体の中に感じた、プルートたちのスターシードの輝き。永い眠りから自分が目覚めた理由に、やっと気付いたセーラーサターンに、血だらけのガイアが歩み寄る。

 

「あなたの痛みは…全てこの肩に受け止めたわ。さあ…私と共に行きましょう…セーラーサターン…。」

 

サターンは気付いていた、ガイアの身体に痛々しく刻まれる無数の傷の存在に。

 

奪われたプルートたちのスターシード。『痛みを受け止める』と言ったガイアの言葉が、彼女の頭の中で、1本の線になって繋がる。

 

「あなたまさか…スターシードを取り込む度に…その身に傷を増やすの?それこそ…いつかあなたは滅びることになるわ…。

… いいでしょう。もう私が手を下す必要はない。あなたと共に、あなたが滅びる最後の瞬間を、見届けることにしましょう…。」

 

そう言ったサターンの顔は、『諦め』ではなかった。遅かれ早かれ訪れる、ガイアの滅びの時に気付いたからだ。

 

全ての光、全てのスターシードを飲み込んだ時、この世界がどうなるのか。ガイアの身体がどうなるのか。全ての光が消えた時、彼女から流れる血は何色に染まるのだろうか。

 

セーラーサターンにはそんなことを考える必要などなく、いつか訪れるガイアの滅びの瞬間を待ち侘びて、闇の中に、ゆっくりと身体を溶かされた。

 


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