美少女戦士セーラームーン☆太陽の戦士 作:Doc Kinoko
ガイアによって、自身のスターシードを飲み込まれたセーラーウラヌスとセーラーネプチューン。
彼女たちの消滅によって輝きを失ったはずの3つのタリスマンが、自ら再び輝きを放つと、土星へ向かって、姿をかき消した。
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「タリスマンが消えたあの方角は…土星?」
遥か向こうに浮かぶ土星を瞳に映したガイアが呟いた次の瞬間、太陽系に地鳴りのような鼓動が響く。
…どくん…
土星から、低く恐ろしい鼓動がひとつ、そしてふたつと鳴り響く。
「まさか…3つのタリスマンが、彼女を目覚めさせたと言うの?そう、私に、滅びろと言うのね。」
ガイアは気づいていた。先ほど飲み込んだセーラーウラヌスたちのスターシードが、教えてくれたと言うのか。
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太陽系第6惑星 『土星』
太陽系の中でも一際巨大なその星の中心にあるのは、『タイタンキャッスル』
しかし、その玉座に腰掛けるのは、神でも、戦士でもない。タイタンキャッスルの玉座には、誰も腰掛けることはない。ただ静かに、永遠とも思える時間の中で、その輝きだけを湛えてきた 『沈黙の星』。
しかし、宿主を失った3つのタリスマンが、輝きと共に土星へたどり着いた瞬間、それに導かれた 『沈黙の星』が、最期の番人を玉座に招く。
それは、滅びの時。滅びの戦士の、目覚めの時。
『沈黙の星=土星』を守護にもつ
『滅びの戦士=セーラーサターン』
滅びの瞬間に目覚める太陽系最後のセーラー戦士。
肩丈ほどの漆黒の髪は、丁寧に切り揃えられ、冷たく研ぎ澄まされた黒い瞳。固く結ばれた唇が、言葉を紡ぐことはない。その手に持つ二又の鎌は『沈黙の鎌=サイレンス・グレイヴ』 と呼ばれる。
彼女がその鎌を静かに振り下ろした瞬間、命ある者もない者も、一瞬にして滅びを迎えるのだ。
セーラーサターンの目覚める時、太陽系が怯え震える。土星から響く恐ろしい鼓動は、『滅びの戦士』の目覚めに怯える、太陽系の悲鳴なのだ。
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「皆の者、よく聞いて。たった今…セーラーサターンが目覚めました。」
クリスタルパレスの王の間に響くネオ・クィーン・セレニティの声が、そこいるすべてのセーラー戦士たちをどよめかせた。
「お母様!それは本当なの?サターンが目覚めたと言うことは、星が滅びると言うことでしょう?!」
戦士たちのざわめきを掻き消したのは、スモールレディの声。先ほどのネオ・クィーン・セレニティの招集に、エリュシオンから急いでパレスへと戻ってきたのだ。
「ええ。ウラヌスとネプチューンが消え、間違いなくセーラーサターンが目覚めたわ。
確かに、サターンは滅びの戦士よ。でも、それだけではないわ、ウラヌスたちと同じように、侵入者からこの地球を守る最後の砦。
彼女の力を知っているでしょう、スモールレディ?滅びるのは、ガイアよ。サターンが、きっと敵を倒してくれるわ。そうしたら、ウラヌスたちのスターシードも、きっと解放される。サターンを信じて、待ちましょう。」
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「来るわ…。」
土星から鳴り響く鼓動。太陽系の闇に佇むガイアは、ただじっとその星を見つめ、『滅びの戦士』の目覚めを予感し、呟いた。
遥か遠くの土星から、ガイアへ向かって凄まじい速さで直進してくる輝きが、だんだんと大きくなる。
黒い髪と、紫色の闘衣をなびかせ、右手には背丈以上もある大きな鎌を携える『滅びの戦士』。
ガイアの数メートル手前で、音もなく ぴたり と立ち止まる。
冷たい瞳。動かない唇。
「あなたが… セーラーサターンね。私に、滅びろと言うのかしら…」
ガイアがその言葉を言い終えるのを待たずして、セーラーサターンの持つサイレンス・グレイヴが、音もなくガイアに振り下ろされた。
「…っ…?!」
セーラーサターンの一瞬の攻撃を紙一重でかわしたガイアが、太陽系の宇宙にひらりと舞う。
その一瞬の間合いを、さらに素早く詰め寄ったセーラーサターンは、再びガイアの頭上にサイレンス・グレイヴを振り下ろす。
何度も何度もその身に振り下ろされる高速無音のサイレンス・グレイヴを、紙一重でかわすガイア。
一瞬の出来事であった。
セーラーサターンの持つサイレンス・グレイヴが、輝きをひとつ放つと、彼女の沈黙に閉ざされたはずの唇がわずかに動いた。
「… … …」
「…今なんと言っ…っ!?」
セーラーサターンから紡がれた聞き取れないほどの小さな声に、ガイアが声を荒げた次の瞬間、彼女の目の前に巨大な光の壁が出現し、ガイアを数百メートル後方まで一気に弾き飛ばす。
『不動障壁=サイレンス・ウォール』と呼ばれる沈黙の壁。
弾きばされ、身を崩したガイアの懐に一瞬にして飛び込んだセーラーサターンのサイレンス・グレイヴが、再びガイアに襲い掛かかる。
… … …
肉を引き裂く鈍い音が、太陽系に響いた。
ガイアの左肩に容赦なく食い込む沈黙の鎌。
「…く…はっ…」
あまりの激痛に顔を歪めるガイア。その姿に、眉ひとつ動かさない滅びの戦士は、その手にさらに力を込めた。ガイアの悲鳴だけが、太陽系に虚しく響きわたる。