美少女戦士セーラームーン☆太陽の戦士   作:Doc Kinoko

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【act.025】混沌たる世界

 

天王星と海王星の中間地点からウラヌスとネプチューンの力で展開された、タリスマンによる外部太陽系シールド。巨大な光の壁を目の前にした漆黒の乙女、カオスの子=ガイアは、ゆく手を阻まれた。

 

 

「ネプチューン、見ろ!奴が…新たな敵だろうか?」

 

太陽系に広がる巨大な光の壁の向こうに佇むガイアの存在にいち早く気付いたのは、セーラーウラヌス。

 

「そのようね、ウラヌス。あんなにかわいらしい女の子が…プルートのスターシードを消したと言うのかしら?信じられないわ。どうするウラヌス?近づいてみる?」

 

セーラーネプチューンは向こうに佇むガイアを見つめ、声だけをセーラーウラヌスへと向けた。

 

「いや…。その必要はない…。奴は…こちらへ向かって来るっ…!」

 

拳を握り締めたセーラーウラヌスが、臨戦体勢をとり、それに応えるセーラーネプチューンも、素早く体勢を整える。

ゆっくりと2人に近づくガイア。瞳に感情はなく、戦意はおろか、喜びも悲しみも感じることはできない。

 

「ケガをしたくなければそれ以上近づくな!お前は何者だっ!」

 

ウラヌスの叫び声に、光の壁を目の前にしたガイアが足を止めた。

瞬きもせず、太陽系に展開された光の壁を見つめるガイアが、口を開く気配はない。

 

しばしの静寂が訪れ、ガイアを見つめるセーラーウラヌスたちの緊張が、限界に達そうとした瞬間、ガイアの指先が光の壁に触れた。

 

…ばちんっ…!

 

渇いた破裂音と共に、無数の光の棘が、ガイアの指先に襲い掛かる。

 

「…痛い…」

 

ガイアが口を開いた。「痛い」と呟いたガイアに、緊張の糸が解けたのか、セーラーウラヌスが再び叫ぶ。

 

「お前は何者なんだ!?この星系に何の用があるんだ!?セーラープルートを消したのは、お前なのか!?答えろっ!!」

 

その声に、視線をセーラーウラヌスへ向けたガイア。

冷たい瞳。抑揚のない声。なんの感情も感じることのできないガイアに見つめられたウラヌスの額に、一筋の汗が滲む。

 

「私はガイア、カオスの子。捨てられた地球人。私は、銀河に溢れるすべての光を受け止めるためにここへ来た。光溢れる場所にある、すべての『痛み』と『悲しみ』を消すためにここへ来たの。

なぜ光の者たちは、私を傷つけるの?なぜ闇を恐れるの?

あなたが『痛み』を感じるのは、『喜び』を知っているから。

あなたが『悲しみ』を感じるのは、『幸せ』を知っているから。

『喜び』も『幸せ』も、光が見せるただの幻。その果てにあるのは、『痛み』と『悲しみ』だけだと…。どうして気付かないの?

なぜ光は幻を振りかざし、私の邪魔をするの?」

 

ガイアが語る言葉の意味。セーラーウラヌスには、その言葉の真意を感じることができるのか。少し緩む口元から笑みをこぼし、ウラヌスが口を開く。

 

「それは随分と興味深い話だな、ガイア。だからプルートを消したのか?銀河に輝くすべての光を消し、『幸せ』と『喜び』を消し去った時、『痛み』も『悲しみ』も消えると言うのか?おもしろいこを言うんだな、君は。まるで、正義の味方じゃないか。では聞こう、仮に君が銀河に輝く全ての光を消したとして…その時君はどうなるんだ?」

 

あの屈強なるセーラープルートを消したガイア。自分たちの身だって危ういかもしれない。しかし、セーラーウラヌスは、知りたかったのかもしれない、光が消え去った後の世界を。

 

「私は光をこの身に受け止めて、共に生きるの。ひとつになるの。セーラープルートは今、私の中にいるわ。あなたの名前だって、セーラープルートが教えてくれたもの。ね、セーラーウラヌス。

そうね、私が銀河に輝く全ての光を受け入れた時、私の使命は終わる。

光も闇もない世界。新たな宇宙の歴史が始まるのよ。そこはきっと、戦いなど起こらない平和な世界。」

 

光も闇もない世界。喜びも悲しみもない世界。混沌たる世界。

 

「…混沌(カオス)…。それが君の求める世界なのか?バカな、全ての光を受け入れた君が、君でいられる保証など、どこにもないんだぞ?

全ての光が消えた闇の世界、闇の中で存在できる闇はない、混沌たる世界だと言うのか。そんな世界に、君はどう生きると言うんだ。それとも君自身が、新たな世界になるとでも言うのか?」

 

ガイアの求める混沌たる世界=カオス。幾度となく繰り返される光と闇の戦いが、終わりを迎える平和な世界。

 

「私が求めるものは、『喜び』も『悲しみ』も、『痛み』も『幸せ』もない世界。私の命や存在など、その世界の中では必要のないモノよ…」

 

ガイアのその言葉に、セーラーウラヌスが、握り締める拳に輝きを宿し呟く。

 

「ならば、一人で勝手に行けばいいだろう、その世界へ。手伝ってやってもいいんだぞ?」

 

ウラヌスの言葉に応えるように、ガイアがまた1歩、光の壁に近づいた。

 

「そう。私を殺そうと言うの?

そうね、私は何度も自分で自分を殺した。でも、何度死んでも、また生まれ変わってしまう。

当然よ。この銀河に生きる全ての生命は、スターシードを持っているもの。スターシードは、何人にも犯されることのない永遠の魂。

でも、何度生まれ変わっても、何度生きても、この世界は『痛み』と『悲しみ』に溢れていた。

だから今度こそ、私がこの世界の全てを終わらせる。

銀河に溢れるすべての光を受け入れた後、始まりの海、ギャラクシーコルドロンを消す。それが私の目的よ。だから、私と共に行きましょう。」

 

そう言って伸ばしたガイアの手が、再び光の壁に弾かれた。

 

「無駄だガイア。その光の壁は、絶対に壊すことはできない。

君の求める世界は十分に理解できる。戦いのない世界、それはとても素晴らしいことだ。

しかし、君の求める世界と、僕たちの求める世界は、違う!プルートのスターシードを解放し、すぐにここから立ち去れ!」

 

叫んだセーラーウラヌス。ガイアの口元からわずかに笑みがこぼれた気がした。

 

「…言ったでしょう?私は、この銀河に輝く全ての光を受け止める。私の求める世界には、あなたの光が必要なの、セーラーウラヌス。この光の壁を解いて頂戴。そして、私と共に行きましょう。」

 

ガイアの言葉に、苦笑と共に、大きくため息をついたウラヌスが応える。

 

「悪いが、君は僕の趣味じゃない。たとえこの世界が、『痛み』と『悲しみ』しかない世界であろうと関係ない。僕には彼女と共に生きるこの世界だけが全てだ。彼女のいない世界に、一切興味などない。」

 

そう言って、側に佇むセーラーネプチューンの手をとったウラヌス。

しっかりと見つめ合う瞳。その顔に笑顔を浮かべたかと思うと、ウラヌスとネプチューンはお互いの瞳に強く頷き、ガイアに向き直り叫んだ。

 

「さあっ!ここから立ち去れっ!!ガイアッ!」

 

ウラヌス・クリスタル・パワーッ!!

 

ネプチューン・クリスタル・パワーッ!!

 

咆哮のような二人のスペルアウトが、外部太陽系シールドをさらに巨大にさせ、目の前のガイアを後方へ弾き飛ばした。

 

 

 

 


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