美少女戦士セーラームーン☆太陽の戦士   作:Doc Kinoko

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【act.023】迷いの女王

「冥王星が…。プルートのスターシードが…消えた…?」

 

クリスタルパレスの王の間に、ネオ・クィーン・セレニティの声が響く。クィーンだけではない、太陽系に生きる全てのセーラー戦士たちが、冥王星と、セーラープルートの消滅を感じていた。

 

「セレニティ!気付いたか!?プルートのスターシードがっ…」

 

叫び声と共に、王の間の扉を勢いよく開け放ち入って来たのは、キング・エンディミオン。激しく息を切らし、額にはびっしりと汗を光らせている。

 

「ええ、エンディミオン。冥王星で、何かが起こった。さきほど、プルートのスターシードの輝きと、冥王星が消滅したわ。それに、時空の扉のダイアナから報告を受けたわ。間もなくここに、セーラー・スター・ファイターが来る。間違いない、敵の侵入よ。」

 

ネオ・クィーン・セレニティは、腰掛ける玉座から立ち上がり、その手にあるエターナルティアルを強く握り締め、息を切らすキング・エンディミオンに駆け寄った。

 

なんの前触れもなく起こったセーラープルートの消滅。一体何が起こったのか、キングとクィーンは、言葉を交わすことすら忘れ、ただ寄り添い、同じ思いを巡らせていた。

 

しばしの沈黙を破るように、王の間へ声が響く。

 

「キング・エンディミオン!ネオ・クィーン・セレニティ!セーラー・スター・ファイターをお連れしました!」

 

王の間の扉に佇むセーラーカルテットたちの後ろ、彼女たちより頭半分ほど高い背丈のセーラー戦士。黒いエナメルの闘衣が、クリスタルパレスに、見慣れぬ輝きを落とす。

 

「セーラー・スター・ファイター!よく無事で!プルートのスターシードが消えたのっ!一体何が起こっているのっ?!」

 

ネオ・クィーン・セレニティは駆け寄り、セーラー・スター・ファイターの肩をしっかりと掴んで、必死に問い掛けた。不安に曇る瞳、噛み締める唇。1000年ぶりに再会した2人であったが、その顔に、笑顔はない。

 

「セーラームーン!敵よっ!新たな敵が現れたの!メイカーのスターシードも、奴に飲み込まれた。セーラープルートもおそらく…。彼女は私に時空の鍵を渡して…奴とっ…!私には、ここへ来ることしかできなかった…。ごめんなさいっ!」

 

そう言って、セーラー・スター・ファイターはその場に泣き崩れた。悔しそうに、何度もパレスの床を叩き、彼女の悲しみの嗚咽だけが響く。

 

「…セーラー・スター・ファイター。あなたのせいではないわ。幸い、プルートのガーネットロッドは今、無傷で海王星に到着していると、先ほどネプチューンから報告を受けました。

これから彼女に、タリスマンによる外部太陽系シールドの展開を要請します。ここにいれば安全よ。少し休みなさい。そうしたらまた、話を聞かせて頂戴。」

 

ネオ・クィーン・セレニティは床に伏せるセーラー・スター・ファイターを抱きしめ、うなだれる彼女の肩を起こし、優しく語りかけた。

セーラー・スター・ファイターはネオ・クィーン・セレニティの腕の中で、震える唇を必死に動かし口を開く。

 

「ありがとう。セーラームーン。敵の名前は、カオスの子=ガイア。長い黒髪に、黒いドレス。恐ろしい闇の輝きで、星を飲み込む女よ。気をつけて、セーラームーン!」

 

「わかったわ。セーラー・スター・ファイター。ありがとう。さあ、セーラーカルテットたち。彼女を客室へご案内して休ませてあげて頂戴。」

 

そうしてセーラー・スター・ファイターは、セーラーカルテットたちに支えられ、王の間を後にし、客室へと通された。

 

クリスタルパレスの王の間。ネオ・クィーン・セレニティとキング・エンディミオンの二人が、重い静寂の中に佇む。

 

「…エンディミオン。また、戦いが始まってしまった。私は、どうすればいいのかしら…。私にはもう、戦うチカラも、勇気もないかもしれない…。」

 

ネオ・クィーン・セレニティは独り言のように呟いた。

今まで、幾度となく激しい戦いを乗り越えて来たはずなのに、彼女の胸には、いつも不安がよぎる。

いつだって、彼女の最後の決断が、皆を救ってきた。でも、その決断をする度に揺れる彼女の心。

 

今度もまた、皆を救えるとは限らない。自分の決断が、間違いを犯すかもしれない。

 

なぜ私なの? どうして?

 

こんなにも弱い私。それなのになぜ? なぜ私なの?

 

がたがたと震え、涙するネオ・クィーン・セレニティをそっと抱きしめたキング・エンディミオンが、彼女を諭すように語りかける。

 

「大丈夫だ、セレニティ。皆、君のことを信じている。愛している。君の決めることが、たとえ間違っていたとしても。後悔などしない。本当に正しいことなど、誰にもわかるはずないんだ。

なぜ、自分のことを『弱い』と思うか、わかるかい? それは、君がいつも誰かに守られている証。支えられている証。愛されている証なんだ。その気持ちは、とても大切なモノなんだよ。

心の闇に惑わされてはだめだ。心の中に、いつも光を灯すんだ。

大丈夫だ、セレニティ。俺たちが全力で君を守り、支え、愛する。だから君は迷わず、その杖を振り下ろせばいい。皆、君のことを信じているよ。」

 

そう言ってキング・エンディミオンは、ネオ・クィーン・セレニティの頬に優しく口づけた。

 

「ありがとう。エンディミオン。あなたの言葉が、いつも私にチカラをくれる。あなたがいるから、迷わずに戦って行ける。愛してるわ、エンディミオン。」

 

口づけたエンディミオンの頬にそっと触れたネオ・クィーン・セレニティが少し笑顔を取り戻すと、キングエンディミオンはさらに続けた。

 

「さあ、セレニティ、急いでウラヌスとネプチューンに外部太陽系シールドの展開を要請するんだ。たとえ敵がどんなに強力なチカラを持っていても、彼女たちのシールドを突破するのは容易ではないはず。そして、すぐに皆を集めよう。プルートのスターシードを取り戻すんだ!」

 

---

 

太陽系へ侵入したガイア。

 

闇に飲み込まれたセーラープルートのスターシード。

 

新たな戦いを目前にしたネオ・クィーン・セレニティは、その背を ぴんと伸ばし、クリスタルパレスの全てのセーラー戦士を呼び寄せた。


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