美少女戦士セーラームーン☆太陽の戦士   作:Doc Kinoko

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【act.022】消えゆく光

『なぜ、あなたが私の侵入を見逃したのか…。教えてあげるわ。』

 

 

太陽系の始まりの地、冥王星で、カオスの子=ガイアと対峙した、変革の戦士セーラープルート。

セーラープルートがガイアの太陽系への侵入を見逃した理由が明かされた。

 

「地球人…?あなたは、地球人だと言うの?」

 

ガイアがセーラープルートに語った事実。その答えは、彼女にとって、あまりにも衝撃的だった。

しかし、ガイアが太陽系の者であるならば、その侵入に、ガーネットロッドが反応しなかったことも、容易に説明がつくのだ。

 

そしてガイアはさらに語る。

 

「まさか、私の故郷に帰る日が来るなんて…。母さんが付けてくれた私の名前、ガイア=地球のある場所。

『幸せ』と『喜び』という名の幻の果てに、たくさんの悲しみがある場所。あなたもそう思うでしょう?セーラープルート。」

 

ゆっくりと抑揚なく語るガイアの声にセーラープルートが答える。ガーネットロッドを握る手は、僅かに震えている。

 

「ならば…あなたに『おかえりなさい』と言うわ。でも、私にはあなたの言ってることがわからない。あなたの目的は何?飲み込んだスターシード…。あなたは何をしようと言うの?」

 

セーラープルートがガイアの侵入を見逃したのは、ガイアが地球人であったからだ。地球人の侵入に、ガーネットロッドが反応しないのは当然のこと。しかし、なぜガイアがスターシードを飲み込むのか、『共に生きる』と言うのか。

 

ガイアの目的は何か。

 

問い掛けるセーラープルートに、ガイアは躊躇うことなくその答えを告げる。

 

「私は… 銀河の悲しみと痛みを消す者。光溢れる場所に生まれる、悲しみと痛みを消し去るために、私はここにいるの。私は、戦いなど望まない。戦いの果てにあるのは、痛みと悲しみだけ。光と闇がある限り、決して終わることのない戦い。私が全ての光を受け止める。全ての痛みと悲しみを受け止める。

その時、宇宙がひとつになるの。戦いのない、安らかな時代が訪れるのよ。」

 

ガイアの胸に掛けられた、漆黒のクリスタル。指先から滲む血。言葉を紡ぐ唇から流れる血。宇宙の闇が、その血を黒く映す。

 

セーラープルートが答えた。

 

「私たちも、無益な戦いは望みません。しかし、私たちが望むのは、『幸せ』と『喜び』。『悲しくない』と『幸せ』は同じ意味ではないわ。まったく別の物よ。あなたに黙って飲み込まれることが『安らか』だと言うのなら、私はそれを拒否します。『幸せ』も『喜び』も、幻なんかじゃない。戦いの果てにこそ掴む、私たちの『現実(リアル)』

ここはあなたの故郷かもしれない。けれど、ここに輝く光を飲み込むと言うのなら、私はあなたを許しません。

最後に聞くわ、飲み込んだスターシードを解放するつもりは、あるの?」

 

セーラープルートが聞きたい答え、それはひとつ。飲み込んだセーラー・スター・メイカーのスターシードを解放するつもりはあるのか。

 

セーラープルートの問い掛けにガイアはゆっくりとした口調で答えた。その口元は、少し緩んでいるようにも見える。

 

「解放するつもりは…ないわ。」

 

ガイアがその言葉を口にするが早いか、おびただしい亡者の群れが、再びガイアを取り囲む。

 

亡者の群れは、セーラープルートの呼びかけに応えるように、ガイアの周りをぐるぐると凄まじい速さで走り回る。

 

「ガイア!今度はさっきのようにはいかないわ!さあ、冥界の亡者たちよ! その身体を嵐にして、奴を切り裂きなさい!」

 

 

クロノス・タイフーン!

 

 

セーラープルートの高らかなスペルアウトが、走り回る無数の亡者の群れを激しい竜巻に変え、ガイアを一気に切り裂く。冥王星の大地を深くえぐる、冥界から召喚した巨大な竜巻。その竜巻に近付くものは、息も出来ずに飲み込まれ、身体に流れる血液すらバラバラに引き裂かれるであろう。

 

亡者の断末魔のような轟音をあげ、一向に静まる気配ない巨大な竜巻。

 

しかし、それを見つめるセーラープルートは感じていた、竜巻の向こうにある闇の脅威は、まったく衰えることがないことを。

 

「ガイア… お前は…何者なの…っ!?」

 

セーラープルートが唇をぎゅっと噛み締め呟いた瞬間、激しい竜巻が声を上げることをやめた。舞い上がった岩が地面に激しく叩き付けられ、霧のような砂塵が冥王星の空に舞う。砂煙の向こうに揺れる、髪1本乱すことのないガイア。それをただ呆然と見つめることしかできないセーラープルート。

 

「セーラープルート。もうやめなさい。あなたのチカラは強いわ。でも、そのチカラが誰かを傷つける。あなたが望む『幸せ』や『喜び』は、誰かを傷つけた果てにある幻。さあ、私と共に行きましょう。『痛み』も『悲しみ』もない世界へ…」

 

ガイアが すっと 手を挙げた瞬間、無数に延びる闇の影がセーラープルートに襲いかかる。

 

ざわざわと伸びる長い髪のような無数の黒い影を、セーラープルートはその身を天高く躍らせ、輝きを宿したガーネットロッドを必死の形相で振り下ろし、いくつもいくつも砕く。

 

「私たちが戦うのは、愛する者を守るためっ!戦いの果てに、大切な者と築く『幸せ』と『喜び』溢れる未来を信じているからよっ!!」

 

セーラープルートは叫びながら、迫り来る影を必死に振り払う。右、左、そして頭上。深碧の長い髪を振り乱し、背後に迫る闇すら、しなやかに身体を躍らせ、鮮やかに打ち砕く。

 

その姿を、「美しい」とすら感じるのは、彼女が戦士であるからであろうか。戦いの果てに、大切な者を守り抜き、幸せな未来を築く喜び。セーラープルートの姿を瞳に焼き付けるガイアが呟く。

 

「…セーラー・スター・メイカーも、あなたと同じことを言っていたわ…。そして、生命を燃やそうとした。やめなさい、セーラープルート。 戦いなど無意味。悲しみが増えるだけよ!」

 

声を荒げたガイアは、細い両手に宿した一層強い闇の輝きを天に掲げ、セーラープルート目掛けて一気に振り下ろす。

 

「…っ?!…なんてこと…。」

 

目の前に迫り来る大津波のような闇。さきほどとは桁違いの巨大な闇を前にしたセーラープルートは、ただ呟き、息をすることすら忘れた。

 

ガイアから放たれた巨大な闇が、あっと言う間にセーラープルートの身体を包み込む。

 

「…っ!私も…飲み込まれると言うのっ!?」

 

セーラープルートの足元から、彼女の身体をざわざわと喰らうガイアの闇の輝き。一瞬の出来事であった。

 

闇に喰われる恐怖に、顔を歪めるセーラープルート。ガイアがゆっくりと近づき、まだ僅かに光の中に残るセーラープルートの手をとり囁いた。

 

「大丈夫よ、セーラープルート…。怖くないわ。あなたはこれから、私と共に生きるの。ほら、わかるでしょう?私の胸の奥に、みんな生きてること…。あなたも感じるでしょう?」

 

そう言って、セーラープルートの手の平を、黒いドレスに包まれた胸に押し当てる。

 

「…くっ…!たとえ…私があなたに飲み込まれたとしても…私たちは…絶対にあきらめない…!これ以上先には…絶対に行かせないわっ!!」

 

身体のほとんどを闇に喰われ、片手をガイアに捕まれながらも、セーラープルートは必死に叫び、もう一方の手に握り締めたガーネットロッドに、残る全てのチカラを込める。

 

「…これ以上…ガイアの侵入を許してはダメっ!さぁっ…行きなさいっ!…私のガーネットロッド!」

 

セーラープルートが叫びロッドが輝くと、ガーネットロッドは太陽系の中心を目指して一瞬にして掻き消えた。

 

そして、セーラープルートの身体が、ガイアの放つ闇に飲み込まれると、冥王星の輝きがゆっくりと闇に包まれ、その姿は宇宙の闇の中に消えた。

 

「セーラープルート…。これからは、ずっと一緒よ。怖くないわ。ほら、セーラー・スター・メイカーも、一緒にいるでしょう?」

 

消えた冥王星。輝きを失った闇の中に佇むガイアは、自らの胸から流れる血を見つめ呟いた。


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