美少女戦士セーラームーン☆太陽の戦士 作:Doc Kinoko
「セーラースターヒーラー、見て。あれがギャラクシーコルドロンよ…」
プリンセス・火球が囁いた。
セーラー・スター・メイカーを闇の中に消し去った、カオスの子=漆黒の乙女ガイア。
新たに現れた敵=ガイアの謎を解き明かすべく、遥か銀河の彼方、ギャラクシーコルドロンへ向かった、セーラー・スター・ヒーラーと、プリンセス・火球の目の前に、ギャラクシーコルドロンがその姿を見せた。
宇宙の闇の中に、音もなく飲み込まれる光の洪水。闇の底から弾け飛ぶ光の水しぶき。それを目にした二人は、光と闇が織り成す神秘的な光景を、しばし見守っていた。
「プリンセス、行きましょう。中にいるガーディアン・コスモスを探して、ガイアのことを聞かなくちゃ。」
セーラー・スター・ヒーラーは、プリンセス・火球の手をとり、目の前に広がる光の海に、ゆっくりと近づいた。
「待ってヒーラー。これ以上近付いてはダメ。あの光の洪水に触れたら、私達のスターシードが溶かされてしまうわ。」
ギャラクシーコルドロン、それは、星が生まれ、星が始まりへ還る混沌の海。
よほど強い輝きを持つ者でない限り、その海の中で姿をとどめることなど出来ず、近付く者のスターシードを、無条件に始まりの姿にまで戻してしまうのだ。
「私がここから、ガーディアン・コスモスを呼びます。ヒーラー、少し下がっていなさい。」
そう言って、セーラー・スター・ヒーラーの前に出たプリンセス・火球。
プリンセス・火球が、細く美しい手を宇宙に掲げ印を結ぶと、色鮮やかな茜色の陣を宇宙に描く。
「私は、キンモクスターの丹桂王国第一王女プリンセス・火球。
ギャラクシーコルドロンの番人、ガーディアン・コスモスよ。
私の声が聞こえるなら姿を見せて!」
そのチカラでガーディアン・コスモスに呼びかけるプリンセス・火球。
隣で見守っていたセーラー・スター・ヒーラーが、コルドロンの光の水面に揺れる一粒の輝きを瞳に映した。
「プリンセス!あれは?!」
セーラー・スター・ヒーラーの指差す方向から、コルドロンの光の洪水に逆らってこちらへ向かってくる光がひとつ。 その光が、二人の目の前にゆっくりと近付き、きらりと輝くと、可愛らしい少女が現れた。
小さく透き通る身体に、ガラス細工のようなドレス。ギャラクシーコルドロンの番人、ガーディアン・コスモスだ。
「私を呼んだ輝きは、あなたね?プリンセス・火球」
ガーディアン・コスモスの出現に、息を呑んで立ちすくんでいた二人。彼女の声は不思議なほど心に響く。
「そうよ、ガーディアン・コスモス。私がプリンセス・火球。さきほどあなたを呼びました。
実は、私の大切な仲間のスターシードが、ガイアと言う謎の乙女に奪われたのです。
スターシードの輝きを奪うほどの力を持つ彼女に、私はギャラクシーコルドロンの関わりを感じました。ガイアについて、あなたが知っていることがあれば教えて欲しいのです。」
プリンセス・火球は、これまでの経緯を詳しく説明し、ガーディアン・コスモスの答えを待った。
その背中に、コルドロンの輝きを映すガーディアン・コスモスは、プリンセス・火球の瞳をじっと見つめ、ゆっくりと口を開いた。
「ガイアは、ここギャラクシーコルドロンに眠るカオスのスターシードを無理矢理に目覚めさせ、その身に取り込んだ後、銀河の彼方を目指して飛び去りました。あなたの仲間のスターシードが奪われたのは、恐らく彼女の内にあるカオスシードの力。…思ったとおり。…新たな戦いが始まっていたのね…。」
宇宙のすべてを受け入れる彼女にしてみれば、この程度の事実に、感情を揺らすことなどないのであろうか。喜びも悲しみも感じることのできないガーディアン・コスモスの声はさらに続けた。
「ここギャラクシーコルドロンには、永い時間を旅した、たくさんの星の亡き骸が集まるわ。ガイアについて、彼等の記憶に尋ねてみましょう。…少し、お待ちなさい。」
そう言ってガーディアン・コスモスが瞳を閉じると、しばしの静寂を迎えることとなった。その様子を、ただ黙って見守ることしかできないプリンセス・火球とセーラー・スター・ヒーラー。
ガーディアン・コスモスなら、必ず何らかの答えを与えてくれるだろう。しかしそれが、自分たちにとって希望となるのか、それとも絶望となるのか。静寂に反比例する胸の鼓動を、二人は抑えずにいられないのだ。
静かに瞳を閉じ、時々相槌を打つガーディアン・コスモス。眉ひとつ動かさない彼女が知る事実とは何か。
ガイアに消された星。
ガイアに消されたセーラー・スター・メイカー。
ガイアの闇から必死に逃れ、太陽系へ飛んだセーラー・スター・ファイターの安否。
不気味なほどの沈黙に、様々な想いを巡らせるプリンセス・火球。希望と絶望の狭間を行ったり来たりするには、十分過ぎる時間であった。
長い、長い沈黙の後、ガーディアン・コスモスがゆっくりと瞳を開く。
その瞬間を待ち侘びたプリンセス・火球とセーラー・スター・ヒーラーは、瞳を大きく見開き、思わず息を呑んだ。
「…カオスの子、ガイア。それは、孤独な闇の迷い人…」
…それだけ?
口を開こうと息を吸ったヒーラーの唇を、プリンセス・火球の指先が塞いだ。ガーディアン・コスモスが再びゆっくりと語る。
「生まれた故郷を追われ、宇宙の闇をさ迷っていたところを、カオスに拾われた孤独な乙女…。ガイアと言う名は、その時カオスに名付けられた。…彼女の故郷の名前をとって。」
故郷…?
プリンセス・火球は、思わず呟いた。ガイアには、故郷があったのだ。そして、誰もが薄々気づいていた、彼女の名前。
…ガイア…それは…
「彼女の故郷…。それは太陽系…第三惑星…」
地球。
「ガイアは…地球人よ…」
ガーディアン・コスモスはそう呟いた。