美少女戦士セーラームーン☆太陽の戦士 作:Doc Kinoko
淡いラベンダー色の、聖地エリュシオンの空を翔けるエリオスとスモールレディ。歌い踊る鳥たちと戯れるその姿は、白いペガサスに跨がる美しいの女神のようだ。
広く澄み渡る聖地エリュシオンの空の遥か向こう。かすみがかった雲の先に浮かぶ白い神殿のような建物を瞳に映したスモールレディが、エリオスに語りかける。
「ねぇエリオス。いつも気になっていたのだけど、あそこに見える建物はなあに?」
遥か向こうに霞む建物は、まるでギリシャの神殿を思わせるような力強い直線を描き、雲の上に浮かぶその姿に輝きはないが、スモールレディには不思議な力を感じることができた。
「あれは『太陽の神殿』その名の通り、太陽の神を奉る神殿ですよ」
そう言って、スモールレディを抱き空を羽ばたくエリオスは、地上に向かうべく、さらに高度を上げた。
「太陽の神殿…?」
聖地の風に瞬きをして、スモールレディは遥か向こうの太陽の神殿を見つめた。
なにかしら…?不思議なチカラを感じる。知らない。強いチカラ。でも、とても優しいような…微笑んでいるような…。
「さぁスモールレディ。まもなく地上ですよ。」
白い雲の絨毯から空へ伸びているのは、七色に輝く階段。
「ありがとうエリオス。ここでいいわ。」
エリオスの翼に抱かれたスモールレディは、その翼に軽くキスをして、雲の上に足を降ろした。
「ねえエリオス、あの神殿にも、あなたのような神官がいるの?」
風に乱れた髪を手で整え、向こうに見える太陽の神殿に、スモールレディは、もう一度目を凝らした。
「ええもちろん。ただ、神官ではなく巫女。永遠とも言われる時間をあの中で過ごし、たった一人で祈りを捧げる乙女。私も過去に1度しか会ったことがありません。」
そう言ってエリオスは、雲に足を降すと、背中の翼を輝きと共に空へと消し、ゆっくりと語る。
「1000年前、太陽が黒点に覆われたクインメタリアとの闘い。あの時1度だけ、彼女は神殿の外へ出て、私のいる祈りの塔へ地上の危機を知らせに来たのです。」
『太陽の巫女』=金色の長い髪と、金色の瞳。薄黄金色に輝く法衣を纏い、その手には竪琴を持つ。彼女の美しい祈りの歌は地上に光を与えるという。
「そう。きっと綺麗な人でしょうね。そしてとても強くて優しい人。私のピンクムーンクリスタルが輝くのも、こうしてエリオスの顔が見られるのも、彼女の祈りのおかげなのね。」
優しく笑い語るスモールレディの言葉が、エリオスの顔を少し赤くした。
「さあスモールレディ、あまり長居をなさると、キングとクィーンがご心配なさいますよ。お早く地上にお戻り下さい。」
二人が足を下ろす雲の絨毯から、さらに高く空へ立ち上がる七色の階段、その先にある扉。
『時空の扉』と言う名の神秘的なその扉の先は、地上の中心、『クリスタルパレス』の最深部へ続いている。
「うん。ありがとうエリオス。また来るね。」
エリオスに手を振ったスモールレディは、光に包まれ扉の向こうに消えた。
たった今、スモールレディが通った『時空の扉』は、無限の時間と、無限の空間を跳躍する。 時空の扉はその機能ゆえに、永遠とも言われる時間を、冥王星を守護に持つセーラー戦士によって固く護られてきた。
しかし、数年前のブラックムーン一族との激しい闘いの際、そのセーラー戦士は禁忌を犯しながらもその使命を全うし、遠い母星「冥王星」へと帰還した。 そのセーラー戦士は今、太陽系の遥か彼方より、地球を見守り続けているという。
「お帰りなさい。スモールレディ。」
クリスタルパレスの最深部へ到着したスモールレディの足元から聞こえる可愛らしい声。
「ただいま。ダイアナ。」
スモールレディは笑顔で答え、声の主を優しく抱き上げる。
ラベンダーグレーの美しい毛並みを持つ高貴なる神獣=『ダイアナ』。
猫の姿を借りるその神獣は、月の女神の守護を受け、高き知能と、強い力を持ち、現在の時空の扉の番人を任されている。
「またエリオスに会ってきたのでしょう?私も一度でいいからエリュシオンへ行ってみたいな。」
幼い頃からスモールレディの側で暮らしてきたダイアナ。彼女にとって、スモールレディは護るべき君主であるが、唯一心を許せる友人でもあった。
「もう。だから言ったじゃない。扉の番人なんて断るべきだ、って。ふふっ。」
皮肉をこめて笑うスモールレディにとっても、ダイアナは心を許せる大切な友達。彼女と話す時は、懐かしい少女の頃に戻れる。
「ねえ、そう言えばスモールレディ。さっきクィーンの遣いで、セーラーカルテットたちがここへ来たわ。スモールレディが戻ったら、王の間へ来るように伝えて、って…」
太陽系小惑星戦士『セーラーカルテット』。セーラーセレス、セーラージュノー、セーラーパラス、セーラーベスタ。彼女たちは、スモールレディを護る4人のセーラー戦士。
目覚めて間もない小さな戦士たちであったが、スモールレディと同様、20世紀でのギャラクシアとの激しい闘いののち、その身体を急速に成長させた。
「そうね。明日はセレスたちの正式な拝命式だものね。ありがとうダイアナ。また後でね。」
ダイアナを降ろし、軽くキスをしたスモールレディは、パレスの上階へ続く長い階段を足早に駆け登った。