美少女戦士セーラームーン☆太陽の戦士   作:Doc Kinoko

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【act.018】孤独の祈り子

太陽の巫女=ラー

 

『彼女には、実体がないのです』

 

スモールレディは、エリオスの言葉の意味がわからなかった。

 

「それって…どういうこと?」

 

彼女がエリオスに問いかけるのは当然のことである。

 

短い沈黙の後、エリオスはゆっくりと語り出した。

 

「それは、彼女の存在が、光そのものだからです。…スモールレディ、なぜ光は輝くのか、わかりますか?なぜ私達人間が、この身体を存在させることができるのか、知っていますか?

それは…『闇』があるからですよ。」

 

闇があるから、光が輝く。

 

光と闇が結ぶ先に、自分たちの姿があり、その姿を存在させている。

 

スモールレディが、彼の言葉を理解するのは簡単だった。しかし、聖地エリュシオンの神官エリオスが『闇』と言う言葉を口にしたことに、スモールレディは顔を少し曇らせた。そしてエリオスは続ける。

 

「私達人間は、誰しも『光の自分』と『闇の自分』を持っています。この私だってそうです。『幸せ』を感じる自分。『悲しみ』を感じる自分。自分の中に『光と闇』があるからこそ、私達はこの生命を輝かせることができるのです。

太陽の巫女=ラー。彼女だって、もともとは普通の人間でした。

しかし、『地上に光を与える』使命を負った彼女は、その使命ゆえに、自分自身の中にある『闇の自分』を捨て去りました。

そして、自らの肉体を捨て、光の存在となることで、地上に光を与えることができるのです。」

 

遥か向こうの太陽の神殿を遠い目で見つめるエリオスの瞳が、悲しみで曇る。

スモールレディは、エリオスの悲しみで曇る瞳の意味を、彼が次に語る言葉で知ることとなる。

 

「太陽の巫女=ラーは地上に光を与え、光の存在となるために、自分の中にある『闇の自分』と、その肉体を捨てました、遥か太古の神々の力を借りて。これは、神々が決めたことなのです。おそらくエンディミオン様や、セレニティ様もご存知ないでしょう。

彼女は言わば、地上に光を与えるために選ばれた…」

 

エリオスは次の言葉を詰まらせ、唇を ぎゅっと噛み締めた。彼の次の言葉…。スモールレディには、想像ができた。しかしそれは、悲しい事実であることを予感していた。

 

…生贄…

 

「まさか…生贄だと言うのっ?地上に光を与えるために、そのために、彼女の肉体は滅んだと言うの?」

 

スモールレディは、エリオスの語る事実に、悲しみの瞳で喰らいついた。

この事実に、彼女が悲しむことをわかっていたエリオスは、スモールレディの言葉に答えることができなかった。

 

「でも…『彼女の姿を一度だけ見たことがある』って、エリオスそう言ってたじゃない…。私、よくわからない…。」

 

スモールレディは困惑していた。太陽の巫女に会ったことがある、その歌声は美しいと、昨日エリオスは確かにそう言っていたのに…。

 

『姿を見たことがある』事実と、『肉体を持たない』事実の狭間で、スモールレディの心の中に描いていた太陽の巫女の姿が、崩れては現れ、崩れては現れていた。

 

「ごめんなさい。スモールレディ、あなたを困らせるつもりはありませんでした。確かに私は、彼女の姿を知っています。彼女がその姿を現す時…それは…

この世界が闇に染まる時…。」

 

1000年前のエリオスの記憶。

 

クインメタリアの手によって、太陽が黒点に覆われ、太陽系の星たちの光が消えたあの日。聖地エリュシオンの空さえも闇に染まったあの日。確かにエリオスはラーの姿を目にしている。地上の危機を知らせに、神殿から降りてきたラーと話をしているのだ。

 

「彼女が姿を現す時、それは、太陽系すべての光が消えた時なのです。光そのものである彼女の存在は、闇の中でしか、その姿を映せないのです。私は、危機を知らせに来たラーの姿を目にし、少し話をしたその後の記憶はありません。おそらく、私はラーの姿を目にした後、クインメタリアの闇に飲み込まれたのだと思います。」

 

エリオスが次々に語る、悲しい事実。スモールレディは、細い肩を僅かに震わせ、行き場のない感情を叫んだ。

 

「そんなの…そんなのってないわ!…どうしてっ…?闇の中でしか、その手を握れないってことでしょうっ?!たとえ、闇に閉ざされた世界にその身体を映したとしても、彼女はひとりぼっちってことよっ?!

ねえ、エリオス!なんとかしてあげられないのっ?!だって…そんなの…悲し過ぎるわ…。」

 

スモールレディは、涙で頬を濡らし、その場にうずくまった。エリオスは、そんなスモールレディにかける言葉を必死に探す。

 

キングもクィーンも知らない、エリュシオンの神官だけに伝えられてきた事実。なぜスモールレディに打ち明けてしまったのだろう。彼女を悲しませることはわかっていたのに…。

 

エリオスは涙でうずくまるスモールレディを優しく抱きしめた。それしかできなかったのだ。

 

「…スモールレディ。ごめんなさい。あなたを悲しませるつもりはなかった…。どうか許してください。これは、聖地エリュシオンに生きる者だけに伝えられてきた事実。

それにこれは、神々がお決めになったこと…。神官である私には、どうすることもできないのです。どうか許してください、スモールレディ。」

 

エリオスの腕に抱かれるスモールレディ。優しい彼女は、その事実に決して納得などできないであろう。黙ったまま、静かに息をするだけであった。

 

「スモールレディ。さきほどの美しい歌声を聴いたでしょう?あんなにも美しい彼女の歌声を聴いたのは、何千年ぶりかわかりません。彼女は今、喜んでいるのですよ。それだけは、わかってあげて下さい。」

 

 

「ううん、エリオス…。私こそごめんなさい。あなたもきっと、辛いはずなのに…。いきなりのことだったから、ちょっとびっくりしちゃった…。…もう平気よ。」

 

呟いたスモールレディは、ゆっくりと立ち上がり、ドレスの裾を直した。

 

「でも私、納得したわけじゃないわ。たとえそれが、神様が決めたことでも…。ね、エリオス。」

 

そう言って、少し笑顔を取り戻し、エリオスを見つめた。

 

闇を捨てた 光の巫女=ラー

 

その姿を闇の中だけに映す孤独な祈り子。

 

スモールレディは、エリオスに笑いかけた後、悲しみの瞳で、太陽の神殿を見つめた。

 

 

 

 

 


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