美少女戦士セーラームーン☆太陽の戦士   作:Doc Kinoko

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【act.016】冥界の番人

「プリンセス・火球…?どうかしましたか?」

 

セーラー・スター・ヒーラーは、その腕で支えるプリンセス・火球の肩が震えていることに気づき声をかけた。

 

ガイアと対峙した直後に城へ戻ったセーラー・スター・ヒーラーは、メイカーの指示どおり、自身が護るべき君主、プリンセス・火球を連れ、あてもなく銀河を飛び続けていた。星を消し去る、闇の脅威から逃れるために…。

 

セーラー・スター・ヒーラーに肩を抱かれるプリンセス・火球。焦点の合わない目は大きく見開かれ、身体はがたがたと震えている。

 

「ヒーラー…落ち着いて聞いて…。たった今…セーラー・スター・メイカーのスターシードの輝きが… 消えたわ…」

 

唇をぶるぶると震わせ、涙を必死に堪えるのか、プリンセス・火球は、今にも潰れてしまいそうな喉から、必死に声を搾り出した。

 

「…嘘でしょ… ?メイカーがやられたって言うの…?プリンセスッ!気をしっかり持って!」

 

プリンセス・火球を強く抱きしめ、必死に叫ぶセーラー・スター・ヒーラーの姿は、その事実に震える自分自身にも叫んでいるかのようだ。泣き崩れるプリンセス・火球の肩をしっかりと抱き、唇を噛み締めるセーラー・スター・ヒーラーはさらに大声をあげた。

 

「大丈夫よっ!プリンセス!あいつは、『星を消してなんかいない』って言ってた。『私の中で一緒に暮らす』って!だから、メイカーもきっと生きてるわっ!あいつを倒せば、全部元通りになるのよ!戦いましょう、プリンセスッ!戦って、勝って、メイカーをっ…」

 

自分自身の言葉に、確証なんてこれっぽっちもない。ヒーラーはそう思っていたのであろうか。目の前で泣き崩れるプリンセス・火球を必死に励まそうと叫ぶヒーラーの瞳にも、大粒の涙が溢れていたからだ。

 

広い銀河の片隅に、2人の悲しみの嗚咽だけが響く、永遠のように長い沈黙。

 

長い長い沈黙の後、セーラー・スター・ヒーラーの胸にじっともたれていたプリンセス・火球の身体が、ゆらりと動いた。

 

「… … もう大丈夫よ… ヒーラー。一人で飛べるわ。行きましょう…。私達で…メイカーを助け出すの…」

 

君主の言葉は、これほどまでに戦士に力を与えるのだろうか。プリンセス・火球の言葉を聞いたヒーラーの瞳から涙が消え、みるみるうちに鋭い輝きを宿す戦士の瞳へと生まれ変わった。セーラー・スター・ヒーラーは、握りしめた拳で瞳を拭うと、勇ましい笑みを浮かべ、凜とした声で叫んだ。

 

「プリンセス…。ええっ!絶対にメイカーを助け出しましょうっ!」

 

こうしてプリンセス・火球とセーラー・スター・ヒーラーは、戦士の眼差しと共に、身体を奮い立たせた。

 

「いい?ヒーラー。さっき城から飛び立った時、太陽系へ向かうファイターを確認したわ。ファイターはきっと、あの子たちに知らせに行ったのだと思う。だから私は、別の場所へ向かおうと思うの。」

 

高貴かつ冷静な物腰で、セーラー・スター・ヒーラーに語りかけるプリンセス・火球に、先の取り乱した姿は、もうない。新たな戦いを覚悟したというのか。瞳には、戦いの果てにある希望と未来をしっかりと映していた。まるで、伝説の戦士、セーラームーンのように。

 

「別の場所へ?プリンセス。どこへ向かおうと言うのですか?」

 

…ギャラクシー・コルドロン…

 

「セーラー・スター・ヒーラー。私は、ギャラクシーコルドロンへ向かおうと思うの。スターシードの輝きを奪うガイアの力…。コルドロンの番人、『ガーディアン・コスモス』なら、何か知っているんじゃないかしら?一緒に行ってくれるわね?」

 

もちろん。プリンセス・火球の言葉を断る理由など一切ない。

 

「もちろんです、プリンセス!このセーラー・スター・ヒーラー、宇宙の果てまでお供いたします!」

 

勇ましい笑顔と共にプリンセス・火球の手を取ったセーラー・スター・ヒーラーは、銀河の果て、ギャラクシーコルドロンを目指し飛び立った。

 

---

 

「メイカーは無事かしら…。ヒーラーとプリンセスは、うまく逃げられたかしら。…っ…ここからじゃ、通信機が届かないわ!」

 

ガイアの漆黒の闇の影から逃れ、持てる力の全てを放ち太陽系へと向かって飛び続けるのは、セーラー・スター・ファイター。広い銀河をたった一人で飛び続ける彼女は、しきりに後ろを振り向いては、迫りくる闇の影に怯えていた。

 

「…くっ!まだなのっ!?まだ着かないのっ!?」

 

いくつもの小惑星の群れを、鮮やかな身のこなしでくぐり抜け、無数に飛び交う隕石を拳で次々と砕き前進する彼女の姿は、夜空を駆け抜ける稲妻のようだ。

 

全速力で宇宙を走り抜けるセーラー・スター・ファイター。彼女が見つめる遥か先、その瞳にうっすらと輝く小さな惑星を捉えた。

 

「…見えたっ!冥王星だわっ!」

 

 

太陽系 第9惑星 『冥王星』

 

太陽系の一番端に位置する小さな惑星。

 

30世紀になった今、太陽の輝きをわずかに映すだけの小さなその星の存在を知る者は少ない。

 

その星には、冥界へ続く扉があると言われ、命ある者がその星へ近付くと、瞬く間に魂を冥界へ連れていかれると言う。不気味な噂の堪えないその星は、今や太陽系の仲間であることすら忘れ去られた孤独な星。

 

その星の中心『カロン・キャッスル』には、強く美しい冥界の番人が玉座に腰掛けるという。

 

太陽系を脅かそうとする侵入者は、太陽系の始まりのこの星で、屈強なる冥界の番人の裁きを受けるのだ。深碧色の長い髪。褐色の肌と、鋭い瞳の向こうには、地獄の門すら捉える、強く美しい女性。

 

彼女の持つ、魔具(タリスマン)=『ガーネットロッド』

 

その頂上に飾る神秘の球は、『ガーネットオーブ』と呼ばれ、血のように真紅な輝きを放つ。

 

ガーネットロッドを手にする彼女の力で召喚されるのは、時空を超えて出現する恐ろしい亡者の群れ。そのおぞましい悲鳴を耳にしたものは、一瞬のうちに冥界へと連れ去られると言う。

 

『冥界の星=冥王星』を守護にもつ

 

『変革の戦士=セーラー・プルート』

 

太陽系のセーラー戦士である彼女は、地球から遠く離れたこの星で、遥か向こうのクリスタルトーキョーを静かに見守り続けている。

 

 

「…っ!?太陽系へ侵入者っ!?違う…これは…来るはずのない外星系のセーラー戦士っ!?なにがあったと言うのっ!?」

 

たった今太陽系に侵入した強い力を察知したセーラープルートは、自身の魔具「ガーネットロッド」を強く握りしめ、カロンキャッスルを飛び出した。

 

 

 


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