美少女戦士セーラームーン☆太陽の戦士   作:Doc Kinoko

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【act.015】戦士の喜び

「いやぁぁっ!メイカーッ!返事をしてっ!」

 

目の前で一瞬にして包まれたメイカーの闇を払おうと、必死に叫びながら腕を振り降ろしたファイターの輝く拳にも、ガイアの放つ影が襲い掛かる。

 

「…っ! いやっ…!」

 

身にかかる闇の恐怖に絶叫したセーラー・スター・ファイターの瞳に、高らかな声と共に、凄まじいほどの光が差し込む。

 

スター・ジェントル・ユーテラスッ!!

 

次の瞬間、メイカーの身体を包んでいた闇が砕け散り、ファイターに襲い掛かる影と、辺り一帯に動めく無数の闇のチカラが消滅した。

 

「メイカーッ!無事だったのねっ!…よかった…。」

 

ファイターは瞳に涙を浮かべ、声を震わせた。

 

「ええ、なんとか…。でも、間違いない…星を飲み込むカオスの力よ。遠距離だったから、この程度で済んだのかもしれない。…っ!?」

 

叫んで素早く体勢を立て直したセーラー・スター・メイカーは、輝く拳を振り降ろし、再び叫んだ。

 

スター・ジェントル・ユーテラスッ!!

 

セーラー・スター・メイカーから放たれる無数の光の球が、次々と迫る闇を打ち消す。

 

「ファイターよく聞いてっ!プリンセスは今、ヒーラーが連れて安全な場所へ逃げているはずよ!私が時間を稼ぐから、あなたは、あの子たちに知らせに行きなさいっ!早くっ!この女は危険よっ!」

 

叫びながら、何度も拳を振り降ろし、迫りくる闇を打ち砕くセーラー・スター・メイカー。

 

「メイカー。わかったわ!また後で会いましょう!…絶対よっ!」

 

セーラー・スター・メイカーの気迫に圧されたファイターは、そう叫ぶと遥か銀河の彼方を目指し、全速力で飛び立った。

 

「…もちろんよ。ファイター…」

 

セーラー・スター・ファイターを見送った彼女は、うっすらと笑顔であった。迫りくる闇のチカラをその輝きで何度も砕き、ゆっくりと近づく漆黒の影を目の前にしたセーラー・スター・メイカーは、戦士の喜びに、その身体を奮わせ叫ぶ。

 

「さあ…。いらっしゃいガイア。この、セーラー・スター・メイカー…今、戦いのステージ・オンッ!」

 

 

銀河の彼方へ飛び立ったセーラー・スター・ファイターは、遠くに見えるセーラー・スター・メイカーの輝きを瞳に映し、唇を噛み締めて呟いた。

 

「あの子たちに…早く伝えなくちゃ!絶対に…。また会いましょう。メイカー…!」

 

 

スター・ジェントル・ユーテラスッ!!

 

メイカーの叫び声だけが響く静寂の宇宙。凄まじい光のチカラでさえも、片手でさらりと受け止めるガイアが口を開いた。

 

「あなた…ひとりぼっちになったのね?かわいそうに…」

 

「ガイア。あなたはよっぽど思い込みが激しいのかしら?あなたに同情されるなんてね。笑わせないでっ!ここから先は、死んでも行かせるもんですか。愛する者を、戦いの果てに守り抜くことこそが、戦士の喜び。戦うことに、痛みも悲しみも感じたことなんて…ないわっ!!」

 

メイカー・スター・パワーッ!!

 

さきほどまでの輝きを、さらに大きく上回るセーラー・スター・メイカーの光のチカラが絶叫と共に放たれる。鬼気迫るメイカーの顔と、凄まじい光の闘気に、ガイアは漆黒の瞳を悲しみに曇らせた。

 

「なんて強い光…。あなた…生命を燃やしていると言うの?やめなさい。あなたが死んだら、また銀河に悲しみがひとつ増えるのよ…?」

 

メイカーの生命を燃やした凄まじい光を、両手で受け止めるガイア。長い黒髪が宇宙の風に巻き上がり、悲しみに曇らせた漆黒の瞳を大きく見開く。ガイアの額にうっすらと汗が滲むのは、メイカーのチカラがあまりに強大であるからだろう。

 

「セーラー・スター・メイカー…もう…やめなさい。あなた傷ついてる。痛いと叫んでいるわ。戦いなど無意味。もう恐がらないで、大丈夫よ。あなたも、あなたの愛する者たちも、きっと私が救ってあげる。さあ、私と共に行きましょう。痛みも…悲しみもない世界へっ!」

 

ガイアが初めて、そのか細い声を荒げたかと思うと、闇の輝きを宿した掌で、迫りくる光の洪水を一瞬にして握り潰した。

 

訪れる静寂。

 

「…そんな…私の光が…」

 

自身の生命を燃やした光を掻き消され、呆然と立ち尽くすセーラー・スター・メイカーに、全身に闇の輝きを纏ったガイアが、ゆっくりと近付く。

 

「セーラー・スター・メイカー。もう大丈夫よ。私が、あなたを包んであげるから…」

 

ガイアはセーラー・スター・メイカーをそっと抱きしめた。

 

「…い…いやっ…」

 

必死にもがき抵抗するセーラー・スター・メイカーの拳に、ざわざわと、無数のミミズのような闇が絡み付く。その闇が彼女の腕を包み、ゆっくりと胸を覆い、脚を喰らうと、彼女の首筋でぴたりと止まった。身体が闇に喰われる恐怖に声も出ず、ただ瞳を見開き、息を荒げることしかできないセーラー・スター・メイカーに、ガイアが囁く。

 

「そんなに悲しい顔をしないで、セーラー・スター・メイカー。大丈夫よ。さあ、共に行きましょう。」

 

ガイアは穏やかに囁くと、セーラー・スター・メイカーの頬に手を当てる。恐怖に引き攣る彼女の唇にそっと口づけると、セーラー・スター・メイカーの身体は、ゆっくりと闇の中に溶けた。

 

再び訪れる長い静寂。

 

闇の中に消えたセーラー・スター・メイカー。それを見送るように、宇宙の闇にじっと佇むガイア。彼女の唇に、ひとすじの血が流れた。

 

「そう。痛かったでしょう?悲しかったでしょう?でも、もう大丈夫よ。共に行きましょう、セーラー・スター・メイカー。」

 

囁いた唇から流れる血。それを手で拭う。

 

「それで…?セーラー・スター・ヒーラーの場所も、キンモクスターも…わからないのね。では、セーラー・スター・ファイターは…?そう…太陽系…」

 

瞳を悲しみで曇らせたガイアは、再び銀河の彼方を目指して飛び去った。

 


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