美少女戦士セーラームーン☆太陽の戦士 作:Doc Kinoko
「…母さん。これからはずっと一緒… 。二人一緒なら…痛くない…悲しくないわ… 。どうか私に力を貸して。」
無限の闇と、無数の星が瞬く宇宙。ギャラクシーコルドロンで、その身にカオスを取り込んだ漆黒の乙女=ガイア。黒く艶やかな髪をなびかせながら、果てしない銀河を飛び回る。
その胸に静かに揺らす、漆黒のクリスタル。あれからずっと、そのクリスタルを見つめては、「母」と呼びかけ、独り言のように何かを語りかける。
「恐いの?母さん…。そうね…宇宙はこんなにも悲しみで溢れているもの。大丈夫…私が救ってあげる。みんな私が救ってあげるから。…少し疲れたわ。 あそこで休みましょう、母さん…」
そう言ってガイアが指差したのは、名もなき小さな星。いくつものクレーターと、あちこちに転がる大きな岩。周りの星々の輝きをわずかに映すだけのその星に、生命が輝く気配はない。
その星をくるりと1周したガイアが降り立ったのは、身体を休めるのにちょうどいいクレーターであった。ふんわりと舞い降り、ごつごつとした地面に腰を降ろし、しばし身体を休める。
そして、その星に横たわり目を閉じると、大地の声を聞くように地面にそっと耳をあて、風の音すら聞こえない宇宙の静寂の中、ガイアが囁く。
「あなたも…痛いの…?」
まるで、星と会話するように。そして語りかける。
「…そう…あなたも光に見捨てられたのね。こんなにもボロボロになって… かわいそうに…。」
輝く力を失った星を、癒すように。
「あなたが悲しいのは…幸せを知っているから。あなたが痛みを感じるのは…喜びを知っているから。幸せも、喜びも…光が見せるただの幻よ。その果てに 悲しみと痛みを残すだけ…」
すると、静寂の星に風が吹いた。地響きのような唸り声をあげる曇った風。ガイアの呼びかけに、応えるのか。
「大丈夫よ…もう悲しまないで。あなたはひとりぼっちじゃないわ…その痛み…全部私が受け止めてあげる。私が…あなたを救ってあげるから…」
囁いたガイアの胸に掛けられた、漆黒のクリスタルが闇の輝きを放つ。
「光より生まれ 光に捨てられた 闇に還らざる 孤独な迷い人よ
その瞳が 悲しみを映すなら
その声が 痛みを叫ぶなら
今、その光の足枷を砕き
永遠の安らぎを約束しましょう」
そして漆黒の闇の輝きを宿した指先で彼女が地面に触れると、その星は瞬く間に黒い影に包まれた。周りの星々の輝きすら映すことのない星の姿は、宇宙に浮かぶ巨大な炭の塊のようであった。
「最後に教えて… 。あなたに悲しみを残した光は…どこに…?」
今まさに闇の中へ消えようとする星に、ガイアは「最後」と言って尋ねた。
「…そう。ありがとう。さあ…もう悲しくないでしょう?…痛くないでしょう?ゆっくり休みなさい…」
そう言って指先で とん と地面を叩くと、その星は、音もなく宇宙の闇に溶けた。
目の前で闇の中に溶けた星、地面に触れた時に傷つけたのか、ガイアは指先に滲んだ赤い血をぺろりと舐めると、遥か向こうに見える一際輝く星に目をやった。
「…そう。あの星ね…。」
ガイアは、再び銀河に広がる闇の向こうへと飛び立った。
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広い銀河の片隅、一際強い茜色の輝きで周囲の星々を輝かせる惑星。
『キンモク星系』の『キンモクスター』
茜色の光に照らされる空は、永遠の秋の夕暮れを思わせ、一面に咲き乱れる金色の花々は、その星の悠久なる栄華を映す。甘く優しい香と、そこに生きる無数の生命の輝きに包まれる美しい星。
『プリンセス・火球』と言う名の、美しい女王が統治するその星の中心。
『丹桂王国』の『桂花城』
プリンセス・火球が玉座に腰掛ける美しい城は、金色に輝く無数の金木犀の木々に囲まれ、城を訪れる者を、上品な香りで優しく迎え入れる。
長く美しい黒髪を幾重にも編み上げ、紅白色に輝く袴に身を包む茜色の女王=プリンセス・火球。金色に輝く香炉を愛でる瞳。その香炉から漂う香りと戯れる彼女の瞳が曇った。
「今…キンモク星系の星がひとつ…死んだ…?…いえ…消えた…?」
プリンセス・火球は瞳を見開き、うっすらと額に汗を浮かべ、香炉を持つ手はわずかに震えている。
「どうかしましたか?プリンセス?」
プリンセス・火球の普通でない様子を側で見守っていた戦士が、心配そうに声をかける。
「セーラー・スター・ファイター。たった今、キンモク星系の星がひとつ死んだ…?いえ…消えたわ。」
プリンセス・火球が『セーラー・スター・ファイター』と呼んだ戦士。
黒いエナメルに輝く闘衣を纏うセーラー戦士。
鋭く研ぎ澄まされた瞳、ベリーショートの黒髪、長い襟足を質素に束ね、茜色の光に揺らす残り髪が、流星のように踊る。
『丹桂王国』の女王『プリンセス・火球』を守護する屈強なるセーラー戦士である。
「星が消えた?…まさか…本当ですかプリンセス?…どうして…?」
突然のプリンセス・火球の言葉に驚きを隠せないセーラー・スター・ファイターは、拳をぎゅっと握り締め、プリンセス・火球に詰め寄った。
「ねえ、セーラー・スター・ファイター。ヒーラーとメイカーと共に、調査へ向かってくれないかしら?確かにあの星の命は、もう長くなかった…。けれど、星が死んだのなら、そのスターシードはギャラクシーコルドロンへ向かって飛び立つはずなの。なのに… スターシードが飛び立った気配がないわ。あの星は、まだどこかで生きているのか…。それとも…何者かがスターシードを消したのか…奪ったのか…。とにかく、あなた方『セーラー・スター・ライツ』に、あの星の調査を要請します。」