美少女戦士セーラームーン☆太陽の戦士   作:Doc Kinoko

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【act.010】天馬を呼ぶ声

「続いて、王女スモールレディ・セレニティ、前へっ!」

 

女王の声に、スモールレディはゆっくりと歩み出た。歩み寄る愛娘を両手で軽く抱き寄せたネオ・クィーン・セレニティは、彼女の耳元にそっと囁く。

 

「さぁスモールレディ、みんなにかっこいいところ、みせなくちゃね。」

 

母らしいその言葉に、緊張の糸を切らしたスモールレディは、ふふっ と顔を緩ませ、穏やかな笑顔を見せる。

 

はい。お母様。

 

娘の凜とした瞳が、言葉を交わさずとも母へ伝えたようだ。

大きく息をして、スモールレディに呼吸を合わせたネオ・クィーン・セレニティは、娘を抱き寄せた腕をそっと解き背筋を伸ばすと、そこからゆっくりと2歩下がる。そして、エターナルティアルを天に向かって高らかに踊らせると、その軌跡が、青く澄み渡る空に銀色の陣を描いた。

 

…シルバー・ムーン・クリスタル・パワー…

 

「さあスモールレディ、私の銀水晶の輝きに乗せて、あなたのクリスタルの輝きを解き放つのよ!」

 

頭上から降り注ぐ銀色の光の粒を、両手でそっとすくって、頭、腕、脚、そして全身へと纏うスモールレディの姿は、光と戯れ、舞を踊る女神。二人のその光景を目にした者は、あまりの美しさに心を奪われ、息もせずただ呆然とその姿を見上げるのであった。

 

「…テラ・クリスタル・パワー…メイクアップ!!」

 

スモールレディの透き通るスペルアウトと共に、想像を絶するほどの光が、彼女の身体から放たれる。その光を全身に浴びたクリスタルパレスは、広大なクリスタルガーデンを超えて、遥か地平線までそれを反射させる。

 

『地球の夜明け』

 

巨大なパレスの輝きが、地表を覆う姿は、宇宙に浮かぶダイアモンドリングのようであった。スモールレディが、地表に広がる膨大な光の群れを、しなやかな身体の中心へ飲み込むように集束させ、勢いよく両手を天に開くと、大滝が逆流するかのような光の噴水を空へ巻き上げる。天空へ放たれ弾け飛んだ光は、クリスタルガーデンへ桜の花びらのような光の粒を無数に舞い降ろし、長い冬の眠りから喜び目覚めたような大地は、その身体を僅かに震わせた。

 

訪れた短く長い静寂。先ほどの光の爆発が嘘のように、静かにその輝きを湛えるクリスタルパレス。

 

そして、パレスの輝きを背に佇む偉大な戦士の姿を瞳に映した数万の民。ある者は、両手の拳を高らかに挙げて歓喜の声を叫び。ある者は抱き合って喜び。そしてある者は、その戦士の姿に涙した。

 

ネオ・クィーン・セレニティは、娘の新たなる門出に瞳を濡らしながらも、高らかに声をあげる。

 

「母なる大地 地球を守護に持つ 『無限の戦士=セーラー・テラ』

本日をもってあなたに、以上の戦士の名を与えます!」

 

決して途切れることのない地鳴りのような歓声の中、ネオ・クィーン・セレニティは、セーラー・テラへ歩み寄ると、彼女の身体を優しく抱きしめ、その頬にそっと口付けた。そして、抱きしめた腕を解き、くるりと向きなおすと、ネオ・クィーン・セレニティは次の言葉を紡いだ。

 

「続いて、戴冠の儀。キング・エンディミオン。セーラー・テラの『戦士のティアラ』をここへ。」

 

その言葉に、すっと前へ歩み出たキング・エンディミオンが、朝焼け色の美しいマントからそっと取り出したのは、セーラー・テラの『戦士のティアラ』。そのサークレットを天高く掲げ、太陽の光の中に映すキングエンディミオン。

 

サークレットの中央に飾られるのは、『アダマンタイト』と言う名の石。

遥か太古の昔、多くの神々が愛したとされる、至高の輝石『アダマンタイト』。地上で最も強く、美しいとされる『ダイアモンド』の名は、この神々の輝石『アダマンタイト』に由来していると言う。

 

キングエンディミオンは、セーラー・テラにゆっくりと歩み寄り、彼女の額に『戦士のティアラ』を戴冠する。そして、軽い抱擁と頬に口付けをし、マントを ばさり とひるがえすと、後ろへと下がった。ネオ・クィーン・セレニティは、その光景をひとしきり見届けたあと、ゆっくりと口を開く。

 

「以上で、あなたの拝命式は終了いたしました。さぁ、最後の仕上げね、スモールレディ。」

 

スモールレディに囁いたネオ・クィーン・セレニティは、背中に広がる数万の民に向きなおり、高らかに声を上げる。

 

「以上をもって、新たなる戦士セーラー・テラ、およびセーラー・カルテットたちの拝命式を終了する。皆の者、長きにわたり、誠にご苦労であった。さあ、共に喜びを分かち合いましょう。神官エリオス!祝福の祈りを!!」

 

女王の言葉を待ちかねたように、階段の頂上、パレスの入口でその法衣を銀色の風になびかせる聖地エリュシオンの神官エリオス。

 

「はいっ!仰せのままに!!」

 

エリオスは、声高らかにそこから駆け出すと、空へ飛び上がるがごとく、勢いよく身体を宙に投げ出した。

空から舞い降りる祈りの神官を両手で受け止めるように、ネオ・クィーン・セレニティのエターナルティアルが輝くと、その輝きの中でエリオスは、銀色に輝く美しいペガサスへと姿を変え、大きくひとつ羽ばたくと、力強く天空へと駆け登った。

 

無数の羽根を、光のシャワーのように降らせながら、ゆっくりとクリスタルガーデンを旋回するエリオス。誰もが皆、輝くペガサスの姿に心を奪われた。

 

「エリオス…。きれい…。」

 

その姿を見上げ、愛おしい瞳でため息を漏らすスモールレディの心の内を見透かすように、ネオ・クィーン・セレニティがそっと耳打ちする。

 

「ふふっ。そんなに見つめてたら、エリオスが火傷しちゃうわよ。」

 

「お母様っ?!」

 

驚き赤くなったスモールレディの顔に、満面の笑みを浮かべたネオ・クィーン・セレニティ。母娘二人並んで、空を翔けるエリオスを見上げ、ネオ・クィーン・セレニティは独り言のように続けた。

 

「エリオスがね、この日には、どうしてもあなたのそばで祈りたい、って。きっと、あなたが喜ぶだろうから、って…。私、エリオスに初めて聖地を離れる許可を出したわ。本当によかったと思ってる。だって、エリオスを見つめるあなたが、こんなにも幸せな顔をしてるんだもの。だからね、スモールレディ…」

 

母の次の言葉にスモールレディは、心から溢れる満面の笑顔で応えた。

 

「さあ、エリオスを呼んであげて、スモールレディ。」

 

スモールレディは唇にそっと触れた人差し指に、ひとかけらの輝きを宿し、輝く指先を天高く掲げ叫んだ。

 

「トゥインクル・エール!!」

 


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