美少女戦士セーラームーン☆太陽の戦士 作:Doc Kinoko
漆黒の闇と無数の星々の輝きに彩られた宇宙。光のない闇はなく、闇のない光はない。無限の静寂。そして、静寂の宇宙を駆ける黒い影がひとつ。
広大な宇宙をさまようその姿は、群れを離れ、空を渡る1羽の鳥のように、無限の海を渡る。
長く美しい黒髪。スラリと伸びた、白く透き通るような手足。 黒く輝くビードロのような布に覆われた小さな胸。 胸に掛けられた、漆黒に染まる石をそっとにぎりしめる乙女。 深い漆黒の瞳に、輝く海を映した時、胸の石を握り締める手に一層の力をこめた。
「あれが、ギャラクシーコルドロン。やっと辿り着いたわ…。ねぇ、母さん。」
遥か宇宙の彼方、銀河の中心『いて座・ゼロスター』には、星々が生まれ、星々が始まりに還る混沌の海『ギャラクシーコルドロン』 が広がる。それは星々の母であり、星々の終着駅。混沌の海から旅立つ小さな星たちの群れは、やがて大きな光となって、銀河を照らす希望となるのだ。
漆黒の石を胸に抱く黒髪の乙女は、溢れる無数の輝きを掻き分けるように、ゆっくりとギャラクシーコルドロンの海へ消えた。
… … …
時は30世紀。太陽系第三惑星地球。銀色の光に守られた、青く美しい惑星。 遥か太古の昔『ゴールデンキングダム』とも呼ばれていたその星の中心は今、『クリスタルトーキョー』と呼ばれている。
そして、クリスタルトーキョーを統べる者。銀色の光に、1000年の命を約束された、強く慈悲深い地球の王『キング・エンディミオン』
強く美しい女王『ネオ・クィーン・セレニティ』
2人が統治するクリスタルトーキョーの遥か北端、白く美しい水晶で創られた『クリスタルパレス』
その地下深くには、美しい聖地があると言う。
心優しき神官が、何千年もの悠久の時間を超えて、地上に祈りを捧げる聖地=『エリュシオン』
神官の祈りの力で生まれた聖地の空は、淡いラベンダー色に照らされ、白く輝く雲の上には、いくつもの祈りの祭壇が浮かぶ。
無限の春と、無限の光、無数の花が一面に咲き、風と鳥が歌う。広がる草原、歌いながら駆け抜ける銀色の風。
そして、聖地エリュシオンの中心、クリスタルパレス同様、白く美しい水晶で創られた、神秘なる『祈りの塔』
そこに祈りを捧げる桃色の髪の乙女が一人。 桃色の長い髪を頭の上で2つに丸く束ね、淡い風に踊る残り髪がとても美しい。 白いドレスの裾を大地に深く降ろし、静かに瞳を閉じている。
「スモールレディ。またいらしていたのですね?」
少し低く優しい声に呼ばれ、ゆっくりと目を開き振り返る桃色の髪の乙女。 その名を呼ばれた乙女の胸の前で結ばれた手から、桃色に輝く光がこぼれ落ちた。
「あら。エリオス。」
乙女はその声に答えた。
『エリオス』
優しく輝く銀色の法衣。銀色の髪、青い瞳の青年。頭に生える薄黄金色の1本の角は、クリスタルのような高貴な輝きを放つ。
「あなたが20世紀の世界から戻られてもう3年。本当に美しい乙女に成長しましたね、スモールレディ」
聖地エリュシオンで地上に祈りを捧げる使命を負った神官エリオスは、そう言って桃色の髪の乙女=『スモールレディ』を愛おしく見つめ、古(いにしえ)の記憶を辿る。
20世紀。銀河の運命をかけた史上最大の闘い『セーラーウォーズ』
混沌の支配者=カオスをその身に取り込んだ『セーラーギャラクシア』との闘い。 あの時、銀河に生きるすべての者のスターシードが、セーラーギャラクシアによって奪われた。
数え切れないほどの犠牲と、想像を絶する激しい闘いの末、セーラームーンと幻の銀水晶の力によって、カオスをギャラクシーコルドロンの海へと還し、セーラーギャラクシアに奪われたすべてのスターシードは解放され、銀河は再び平和を取り戻したのだ。
ここ30世紀の世界から、『セーラーカルテット』たちと共に過去の世界へ救援に向かったスモールレディは、幼い瞳に銀河の果ての激しい闘いを映してきたのだ。
「ふふ…エリオスったら。でもね、私も本当にびっくりしているの。あの闘いから帰ってきてから、私のピンクムーンクリスタルが、ある日突然輝きを増したわ。 そして、それに共鳴するように、私の身体が急速に成長したの。」
笑顔に幼なさの残る乙女は、胸の前で結んだ手をそっとほどいた。
エリオスが視線を落としたスモールレディの長い指の隙間から、きらきらと桃色の光がこぼれ落ちると、美しく輝く石が姿を見せた。
「ピンクムーンクリスタル…」
溜め息のように呟いたエリオスの瞳に、その輝きが優しく映る。
「でもね、ダメなの…。あれから何度やっても、変身できないの。こんなにも強く輝いてるのに…」
20世紀から戻ったスモールレディは、自身のピンクムーンクリスタルの輝きと共に急速な成長を遂げたものの、戦士としてのチカラを失ってしまっていた。
『変身できない』その事実が、あれからずっと、スモールレディの瞳に影を落としていたのだ。
「スモールレディ…きっと、まだその時ではないのですよ」
エリオスは優しく諭し、スモールレディの瞳を見つめた。
「何も変わっていませんよ。ピンクムーンクリスタルも、あなたの瞳も。その輝きは一層強い…。そして、この聖地エリュシオンと私を、いつも救ってくださる…」
今も鮮明に残る1000年前のエリオスの記憶。『新月の闇の女王=ネヘレニア』
「あの時、新月の闇の呪いから、この聖地エリュシオンと、捕われの私を救って下さいました。そしてその輝きは必ず、銀河を統べる次の輝きとなるのです。あなたのクリスタルは、いつも私にチカラをくれる。あの時のように…」
そう言って、スモールレディの手の平にあるピンクムーンクリスタルにそっと触れたエリオスの背中に、白く輝く翼が生まれると、エリュシオンの風が、桃色の輝きと共にその羽根を空へと巻き上げた。
「ほらっ!あなたのクリスタルが、無力な私にこんなにも強いチカラを与えるのですよ! さあ戻りましょうスモールレディ。地上までお送り致しますよ。」
スモールレディは差し延べられた手をそっと握ると、エリオスの翼に抱かれエリュシオンの空へと舞い上がった。