僕達の目的地、無人世界カルナージは
そして今回お世話になるのは、数年前からこの世界に住んでいる二人の親子……
「みんないらっしゃ~い♪」
そう笑顔で僕らを迎えてくれる『ルーテシア・アルピーノ』とその母親『メガーヌ・アルピーノ』さん。
「こんにちはー」
「お世話になりまーすっ」
「みんなで来てくれて嬉しいわー。食事もいっぱい用意したから、ゆっくりしていってね」
「ありがとうございます!」
のほほんとした雰囲気で会話をする年長者組。うーん……あの中には入れそうにないね。
「あら?」
すると、僕とメガーヌさんの目があった。
「あ、お久しぶりですメガーヌさん」
「ユーノ君じゃない! 行方不明になったって聞いて心配してたのよ?」
「あはは…ご心配をおかけしました」
「聞いた話だと、娘ができたんですって?」
「えぇまぁ……あそこにいるのが、僕の娘達です」
そう言って僕は少し離れたところでルーテシアに自己紹介をしている三人娘を指差した。
「あらあら、話には聞いてたけど本当にあの三人にそっくりね♪」
そりゃあその三人が基になってますから……
「でも本当に無事でなによりだわ。娘さんたちと一緒にゆっくりしていってね♪」
「はい、お世話になります」
僕は改めてメガーヌさんに頭を下げた。
その後…元六課メンバーで、現在は自然保護隊で働いている『エリオ・モンディアル』と『キャロ・ル・ルシエ』が合流し、僕らはこれからの行動を話し合っていた。
「さて、お昼前に大人のみんなはトレーニングでしょ。子供たちはどこに遊びに行く?」
「やっぱり、まずは川遊びかなと。お嬢も来るだろ?」
「うん!」
「アインハルトもこっち来いな」
「はい」
「あ、僕も行くよ。僕はトレーニングは必要ないし、うちの娘達はレヴィ以外みんな泳げないから」
そう…三人娘の中で、運動神経抜群のレヴィを除いて、あとの二人はまったく泳げないんだよね。一応浮き輪とかも持って来てあるけど、出発前に泳ぎを教えて欲しいって頼まれちゃったし。
「じゃ、着替えてアスレチック前に集合しよう!」
『はいっ!』
「こっちも水着に着替えて、ロッジ裏に集合!」
『はーいっ!』
◆◇◆◇◆◇◆◇
その後、川にやってきた僕達。
「うりゃりゃりゃりゃーー!!」
「うわぁ! レヴィすごーい!!」
「はやーい!!」
「ハッハッハー!! まだまだぁ!!」
レヴィはヴィヴィオ達と一緒に元気一杯に泳いで遊んでいる。そして僕はと言うと……
「おと…お父様! 絶対に手を放さないでください!」
少し離れたところでシュテルに泳ぎを教えてます。普段冷静なシュテルがプルプルと震えながら僕の手を握っている。
「はいはいわかったから、まずは水に顔をつけるところから始めようか」
「は…はい……」
シュテルは頷きながら水に顔をつけるけど、すぐにバシャバシャと暴れたあと顔を上げてしまった。
「ぷはっ……苦しいです」
「そりゃ深呼吸もなしに潜ったら苦しいに決まってるよ。次は息を大きく吸い込んでから潜ってごらん?それから潜ったあとも決して慌てずに、落ち着いてね。苦しくなったら顔を上げるんだよ」
「はい……」
シュテルはもう一度頷き、大きく息を吸い込んだあと水中に潜る。今度はさっきのように暴れることなく、水中からはシュテルの気泡だけが浮き出ている。そして息が続かなくなったのか、シュテルは顔を上げる。
「ハァ…ハァ…できました」
「うん、よく出来ました。じゃあ今度はそれを踏まえて、バタ足の練習だね」
「はい!」
泳ぎが上達していくのが嬉しいのか、さっきより表情が明るくなるシュテル。それにしても……
「ディアーチェ、君はいいのかい?」
「んむ?」
僕は先ほどから浮き輪の上に座ってプカプカと浮いているディアーチェに声をかける。
「愚問だな父上よ。王たる我に泳ぎなど必要あるまい。こうして優雅に構えてこそ、王たる姿というものだ」
そう言って浮き輪の上でふんぞり返る自称・王様である僕の娘。あぁ…つまりめんどくさいからやりたくないんだね。
そんなディアーチェに呆れていると、シュテルがゆっくりとディアーチェに近づき……そして……
バッシャーーーン!!
「ぶはっ!!?」
ディアーチェを浮き輪ごとひっくり返した。
「ガボガボ……!!!」
当然、泳げないディアーチェは水面でバシャバシャと暴れている。そして何とか浮き輪にしがみ付く。
「い…いきなり何をするかーー!!?」
浮き輪にしがみ付きながらシュテルに怒鳴るディアーチェ。
「すみません。少し王座陥落というものをやってみたくなりまして……」
「どーいう理由だそれは!!? あとやるにしても無言でやるでないわ!! 異様に怖かったぞ!!!」
確かに、無言無表情で近づかれて無言無表情で攻撃されたら…なんか怖いよね。
それに対してシュテルは……
「……てへ」
「それで誤魔化せると思ったら大間違いだぞキサマーーー!!!」
シュテル……いつの間にそんな可愛い技を覚えたんだい?
「ええい! これでも喰らうがよいわ!!」
「わぷっ……やりましたね? おかえしです」
「ぬおっ! よかろう!! こうなれば全面戦争だ!!!」
「望むところです」
こうして、シュテルとディアーチェによる
それからしばらく二人の戦いを見学していると……
ドッパァァァァアアン!!!!
「うわっ!?」
突然向こうから何かがハジケる凄まじい音が響いてきた。それを聞いて、シュテルとディアーチェも戦いの手を止める。その直後、僕らの頭にまるでシャワーのような水が降り注いだ。
「な…なにごと?」
心配になった僕は二人を連れて、音のした方へと行ってみる。するとそこには、何やら拳を振り切ったアインハルトの姿があった。
「あ、おとーさん!」
「レヴィ、ヴィヴィオ、今のはなに? すごい音がしたけど」
「水斬りですよ」
「みずきり?あの小石を水面に跳ねさせる遊びですか?」
「違うよシュテル、その水切りじゃなくて……あ、今からノーヴェがやるので見ててください」
ヴィヴィオにそう言われて、僕達は川に浸かっているノーヴェに視線を移す。
「アインハルト、お前のはちょいと初速が速すぎるんだな。初めはゆるっと脱力して、途中はゆっくり…インパクトに向けて鋭く加速。これを素早くパワー入れてやると──」
ノーヴェがアインハルトに説明しながら水中で足を振り上げた次の瞬間……
シュパァァア!!
文字通り、ノーヴェの周りの川の水が地面が見えるほど綺麗に斬れた。
「──こうなる」
『おおーー!』
その光景に子供組は感嘆の声を上げながら握手する。もちろん僕も。
「すごい! カッコイイーー!! ボクもやるーー!!」
それを見てすっかり興奮したレヴィは川の中へと駆け出していく。
「やるって、レヴィできるの?」
「わかんない!!」
僕の質問に素直に答えるレヴィ。わかんないけどやってみる…か。何ともレヴィらしいね。
「えーっと…確か構えは脱力してから…途中はゆっくりで……ええーい! 難しい事はよくわかんないけど! とりあえず……とりゃぁあああああ!!!」
先ほどのノーヴェの見様見真似で思いっきり足を振り上げるレヴィ。すると……
シュッパァァァアアン!!!
水が川辺の方にまで綺麗に切断された。
(゜□゜)(゜□゜)(゜□゜)
「わーい! できたできたー!!」
あまりの出来事に僕を含めた全員がポカンとしており、レヴィ本人は水斬りが出来たことを純粋に喜んでいた。
「な…なぁユーノさん」
「なに? ノーヴェ……」
「アンタの娘…すげーな」
「うん……僕自身もビックリしてるよ」
レヴィに運動の才能があるのは知ってたけど、まさか格闘の才能まであるなんて……
「ま…負けません!」
「私も!」
「むむっ、ボクと勝負だね! 負けないぞーー!!」
そんなレヴィに対抗意識を燃やしたのか、アインハルトとヴィヴィオも負けじと水斬りを始め、それを見たレヴィも再び水斬りを始めた。
「えっと…それじゃあ僕は向こうでシュテルとディアーチェに泳ぎを教えてくるから、レヴィの事を頼むよノーヴェ」
「あ…うん」
とりあえずあの三人に水をさすのもアレなので、僕はレヴィをノーヴェに任せて、僕は二人を連れて泳ぎのレッスンを再開した。
それから川遊びが終わる時間まで、向こうから聞こえる水斬りの音が絶えることはなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「さーお昼ですよー! みんな集合ーー♪」
『はーーい!!』
川遊びから帰って来て、着替え終わってからロッジに戻ると、一足先に戻っていたトレーニング組がお昼ご飯であるバーベキューの準備を始めていた。
「あ、メガーヌさん。手伝いますよ?」
「いーのいーの。ユーノ君は子供たちと一緒にゆっくりしてて♪」
僕も手伝おうとしたけど、メガーヌさんにやんわりと断られてしまった。仕方ない、他のみんなの様子でも見とくか。
「おかえりー」
「みんな遊んできた?」
「もーバッチリ!」
「身体冷やさないようにあったかいものいっぱい用意したからねー」
「「ありがとうございます!」」
そう言うメガーヌさんにリオとコロナが元気よく返事をする中……
「ヴィヴィオ、アインハルト、大丈夫ですか?」
「いえ…あの」
「だ、だいじょうぶ…」
シュテルの問い掛けにプルプルと体を痙攣させながら答えるヴィヴィオとアインハルト。
「二人共、レヴィと一緒にずっと水斬りをやってたんですよ」
「あらー」
「それにしても……」
メガーヌさんと会話をしていたノーヴェがふと視線を移す。そこにいたのは……
「ごっはん♪ごっはん♪」
ヴィヴィオとアインハルトと一緒にずっと水斬りをやっていたにも関わらず、二人と違ってピンピンしているレヴィの姿があった。
「なんでレヴィの奴はあんなに元気なんだ?」
「体力バカだからです」
ノーヴェの疑問に、シュテルが静かに答えていた。
そうこうしている間に、お昼ご飯の準備が整い、僕らは全員テーブルについた。
「じゃあ、今日の良き日に感謝を込めて」
『いただきます!!』
合唱と号令をしたあと、さっそく昼食を食べ始める僕達。
それからしばらく、みんなで楽しく食事をしていると……
「モグモグ…おとーさん! これすっごくおいしいよ!!」
「わかったからレヴィ、いつも言ってるけど落ち着いて食べようね? あとシュテル、ニンジンを残さない」
「………はい」
相変わらず乱暴に食べるレヴィとニンジンを残そうとするシュテルに注意しながら食事をする僕。因みに今回、特に嫌いな食べ物もないディアーチェは……
「ふむ……ルーテシアよ、このソースはお前のオリジナルか?」
「そうだよ。私の自慢のソース!」
「よければ作り方を教えて欲しいのだが……」
「いいわよ♪その代わり他言無用だよ?」
「ふっ…心得ておる」
どうやらディアーチェの料理人魂に火がついたらしく、ルーテシアにソースの作り方を教わっていた。
「「……………」」
「なのはさん、フェイトさん?どうしたんですか?」
「いやその…レヴィを見てたら、ちょっと恥ずかしい気分になっちゃって……」
「私もシュテルを見てたら……」
「ああー」
すると、なのはとフェイトとスバルからそんな会話が聞こえてくる。
確かになのはやフェイトとしては、幼い頃の自分に似ている子が色々と世話を焼かされているのを見ると、複雑な心境なんだろうなぁ。
「それにしてもユーノ君!すごく父親っぽいよ!!」
「いや、父親だよ……一応」
そんな会話をしながら、楽しい昼食の時間は過ぎていった。
つづく